『G14を預かっていてほしいだと?』
『はい。これからミレニアム、との契約で、ここを長く、空けると思う、ので。その間、シャーレに、預けてもらえると』
『シャーレに居候は受け入れんぞ。うちの半グレどもと同じ扱いで構わんな?』
『俺には、AL-1Sに十分な、学習が、させられ、ません。総長の手、を借りたいです』
『……そういうことにしておいてやる。ちょうどゲーム開発部のやんちゃ者どもを入れるつもりだったからな。
貴様の拾ったとかいうアンドロイド、シャーレの流儀で迎えてやろう!』
『できれば、ほどほどで、お願い、します』
かくして契約破棄という危うい事態を乗り越え、ACを中心にした星外技術の解析が、ここミレニアムにおいて始まった。
ミレニアムのほぼ全校生徒たちがACに群がって解体解析していく様はグンタイアリのようで。時にパーツの奪い合いが、時に性急に作られた試作兵器が爆発と怒号を起こす様に、レイヴンは心中で恐怖した。
シュナイダーとメリニット、そしてキサラギ。20年の間に会った癖の強い小規模企業。それらの技術者を坩堝に叩き込んだらこうなるんだろうなぁと。嘆くユウカを横目にそう傍観した。せざるを得なかった。
なんだったらCINDER 4も解析させてほしいという嘆願も届いていた。一身上の理由と言って一切拒絶したが、契約書に不備が無くて良かった。20年間、焼かれた脳にスキルを刻み込み続けた努力が、こんな形で目に見えて現れたのは何とも言い難いが。
そうしてちょっとした戦争染みた技術交流会を終わらせた後、レイヴンは杖を突きながらシャーレへと向かった。心なしかいつもより腰が曲がっている。
ミレニアムほど広くはないが整然としたロビーを潜ると、書類から顔をあげた生徒が声をあげた。
「あ、レイヴンさんですか?お待ちしていました」
「ああ。AL-1Sを引き取りに来た」
「AL-1S……ああ、
「アリス?」
「番号だけじゃ呼びにくいって、最近来たミレニアムの子が名付けたんですよ。苗字は天童。G14やAL-1Sなんて番号だとシャーレへの登録でもいろいろ不備が出るんですけど、あのモモイって子は結構センスありますね」
「……そうか」どことなく緩んだような、悲しく見えるような顔を見て、しゃべりたがりな元カタカタヘルメット団の不良生徒ははにかんだ空気を見逃さなかった。
「アリスちゃんと一緒に、ミレニアムのゲーム開発部っていう生徒が三人入りましてね。まぁ、運動訓練だけでその三人は死にかけてましたが」
「一人は会ったことがないが、もう二人は双子だろう?先日うちの工場に侵入した、問題児だな」
「そうなんすか!妹ちゃんの方はしっかりしてそうだけど、意外と行動派なのかな?でも、アリスちゃんは満点でしたね。あんなアンドロイド、キヴォトスじゃ見たことなかったけどなぁ」
「少し、訳ありでな。ブラックマーケットにいると、そういう話も滅多ではあるが入ってくる」
「あー……まぁ、あそこならそういう事があってもおかしくはないすね」
受付と別れ、エレベーターを使う。階段はミシガンのしごきで潰れた生徒たちがうず高く積まれているため使用不可能。ミシガンは不在と聞いていたが、熱心なことだ。よほど総長が好きに違いない。
異音一つなく扉が開き、目の前のオフィスの扉を開け。
「AL-1S、迎えに、来た――」
「うわーん!また圧死しました!ク○ステージから抜け出せません!」
「お、落ち着いてアリスちゃん!タイミングを見計らって突っ切れば行けるから……!」
「この状態でカギを持っていくなんて無理です!それに何ですかあの敵配置!?絶対運ばせる気無いです!!」
「というかなんでマグマが浮いててしかもそれが潰して来るんだろうね。何食べればそんな発想出て来るんだろう?これ作った人絶対嫌な性格してるよ!」
「ま、マル研の人たちに怒られるよモモイ……」
「ユズ部長!ホントにこれが販売数1000万本ごえのヒット作なんですか!?アリスにはクソゲーにしか思えません!」
「……え、AL-1S?」
四人で詰めたソファーから、青い視線がポカンととした顔を射抜く。
「……レイヴン」
「あ、ああ。仕事は、終わり、だ。とりあえず――」
「―――その言葉に喚ばれる時を、ずっと待っていたぞ。偉大なるワタリガラスよ」
・・・
「んえ?」
「そなたに送り出されて幾星霜……「ホントは二週間だけど」私はこのゲーム開発部を止まり木として様々な技能を強化した……メタ的に言うならばつまり、レベリングをしていたのです!」
「れ、れべり……」
「ユズ部長にミドリ先生、あとモモイに特訓させてもらいました!テイルズ・サガ・クロニクルは二度とやりたくないですが。
その結果、アリスは
無邪気に抱きつく太陽のような笑顔を浮かべた無邪気な少女に、
バタン。
「スロー…スロー…クイック、クイック、スロー……」
「倒れちゃった!?」
「お、落ち着いてください!ここはと○メモで予習した人工呼吸を開始します!」
「アリスちゃん私に見えるようにしてくれる?スケッチするから」
「何言ってんのミドリ!!?とりあえずソファに運ぶよ!」
こういう役割は私じゃなくてミドリでしょ!!と文句を言いつつも、倒れたレイヴンの介抱を行おうとするモモイ。ユズが人見知り発動により即座にロッカーに隠れているためであろう、いざという時“だけ”は頼りになるものである。
「……あれ」
「お姉ちゃん?」
「いや、なんか変な感触が……硬い感触が」
「お姉ちゃんセクハラだよ」
「違うって!」
レイヴンの身体を持ち上げたモモイが違和感を感じたのか背中、首のあたりをまさぐる。
「これって……」
時は少し遡る。
「入るぞ、リン」
「どうぞ」
連邦生徒会、サンクトゥムタワーの一角に備えられた会議室に入り込んできた偉丈夫。その姿に既に入っていた三人の生徒が席から立ち、各々に挨拶を交わす。
「連邦生徒会、財務室長の扇喜アオイよ。初めまして、先生」
「同じく連邦生徒会の防衛室長を担当させていただいております、不知火カヤと申します。お会いできて光栄です、先生」
「連邦捜査部シャーレ、顧問のミシガンだ。急な呼び出しに応えてもらって感謝する」
普段の生徒との話し合いとは違う堅い雰囲気にミシガンもまたそれに応える。企業付きとはいえ、軍は規律に厳しい組織。公的な場でのマナーは彼も叩き込まれた身である。
特にこうした、
「では、早速本題に入らせていただきます」
「失礼、代行?あなたは挨拶はしないのですか?」
「?普段から顔を合わせていますし、する必要はないと思いますが」
「僭越ながら代行。仮にも室長二人が自己紹介して、代行だけがしないというのは私もどうかと」
礼を失しているのではないかと指摘する室長二名。とはいえ七神リンの失言はよくあることで、これはいつも通りの光景である。
ただ一人、ここに初めて来る存在を除いては、であるが。
「今回の会合は手短に進めたい。二人の指摘も事実だが、今回は見逃してくれると助かる」
「……分かりました。このまま本題に入りましょう」
アオイの首肯とカヤの頷きで、会合は本題に入る。室長たちの向かいに座ったミシガンは、ある資料を二人に配った。
「会合、とは言ったがな。実際は連邦生徒会への要請みたいなもんだ」
「これは……」
「え、ええと?」
アオイとカヤに配られた書類とは、四本脚の人型ロボットの絵――【LIGER TAIL】と命名されたものが描かれていた。防衛室長であるカヤはこれが設計図面、しかも最近睨めっこしていたACのそれであると分かり、本来門外漢であるアオイもただ事ではないことは分かった。
「本気だ。ネストがミレニアムと契約を結びAC技術を交換したのち、ミレニアムにこれを最優先依頼として出すつもりだ」
「なるほど。私たちを呼んだのは、これにかかる予算の引き出しとその他について、という認識であってる?」
「その通りだ」
「確かにミレニアムなら、新技術の為ならば多少身元の怪しい組織とも契約は取るでしょうけど……ネストから直接は買わないつもり?」
「ああ。学園と取引できるとはいえ、連邦生徒会からしたら向こうは非認可の企業だからな、流石に表立っての取引は世間体が厳しくなる。ミレニアムを通した依頼なら、問題ないだろう」
「……最近シャーレによく来ているという便利屋の皆さんは違うのですか?」
「……あいつらは、まぁ、あれだ。学生主体なら、シャーレが手を貸してもいいだろう?」
「……まぁ、そういうことにしておきましょう」
「発言失礼します。つまり先生はこれを連邦生徒会の持つ兵器として、防衛室預かりのものとしたいという認識でよろしいですか?」
「そうだ。シャーレで預かることも考えたが、一個人の組織にはこれは過剰な代物だ。むしろ連邦生徒会預かりにしたほうが、そっちの都合とも合わせやすいだろう?」
「……SRTのことでしょうか。いずれ話すつもりではありましたが……」
「SRT特殊学園は既に廃校措置を取ることが役員会で決定いたしました。なるほど確かに、SRTの代替戦力としてこれを導入するのなら悪くない案だと思います」
「不知火防衛室長」
「行政官代行、これはよい機会です。アーマード・コアは今、キヴォトスにおいて最も注目を受けている兵器、SRTという直属戦力を失った連邦生徒会の新たな懐刀として、一時的にでも空の鞘に収めることは決して損ではないと愚考いたしますが」
「信用があるとはいえ連邦生徒会の認可を受けていない不法企業であることは事実です。ミレニアムを盾にして契約を行うのはどうかと」
「ネストは既に複数企業とも契約を結び、履行している実績がありますし、ブラックマーケットにおけるある種の抑止力としても働きかけています。カイザーグループとの抗争問題はありますが、そもそもの原因は報酬未払いのカイザーにあります。ネストの信頼性には強く響かないでしょう」
それに、と。カヤは細く狭められた眼光を不動のミシガンに向ける。
「ネストの経営主任兼所長である、レイヴン氏とは懇意の方がいますし。そうですよね、先生?」
「訂正するなら、腐れ縁の方が適しているがな」
「先生……」
「リン、G13は敵対関係に律儀な奴だが、契約に対しても真摯な性格だ。あいつからお前の思うようなことは起こさんだろう。
それでも不安なら俺の名前をこれでもかと使え。ししおどしの代わりくらいにはなるだろう」
「…………分かりました。その方向で話を進めましょう。先生にも付き合っていだきますが、よろしいですね?」
「構わん」
その様子を微笑ましく見ていたカヤが会議をお開きにさせようとした時、隣の席から手が上がった。
「少し、いいかしら?」
「扇喜財務室長?」
「ACが必要な理由については分かったわ。諸々の問題点の解決策もあるのなら、憂いはないでしょう。ただ、先生。
どうして先生は、今、ここでACを必要としているの?」
「それは先ほど仰られた通りでは……」
「それだけではこの場を設けた説明がつかないわ防衛室長。何か別の理由があるのでしょう、ミシガン先生」
鋭く真っ直ぐ見つめて来るアオイの視線に、ミシガンは内心ほくそ笑みながら、唾を飛ばした。
「いい着眼点だ、扇喜アオイ。SRTの代替戦力としてこいつを上申させてもらったのは、本音を言えばただの名目だ」
「名目……?」
「不知火カヤ。質問だが、兵器とは何のためにあると思う?」
「ええ……と、作戦の遂行を円滑にするため。個人的な見解を交えさせていただくなら、こちらの指示通りに敵勢力の確実な排除を行うために存在するのが兵器かと」
「教科書通りの回答だな、確かに普通の相手ならその想定で問題ないだろう」
疑問符を浮かべる連邦生徒会の面々。
「俺が仮想的として想定しているのはG13だ。そいつに対抗するために、ここでこいつを上申させてもらった」
「「!!?」」
「それは……独立傭兵レイヴンが、連邦生徒会に敵対する、と?」
「あいつならやりかねん。カイザーへの容赦の無さを見ろ。あれを見れば、連邦生徒会へも噛み付いてくることは決して夢物語でもなんでもないとは思わないか」
ミシガンの質問に黙り込んだ中、カヤは叫ぶように疑問を投げかけた。
「い、いや先生?先生とあのレイヴンは昔馴染み……腐れ縁なのでしょう?連邦生徒会への攻撃はシャーレへの敵対でもあるんですよ!?いくらなんでもそんなこと……」
「それくらいあいつならやるさ。例え――」
「俺を殺すことになってもな」
「……ん」
「あ!蘇生を確認しました!駄目ですよ、レイヴン。宿屋で眠らないとセーブができないんですから」
「AL-1S……」
ソファから身を起こし、状況を確認する。どうやら気絶していたらしい。
少し見ないうちにあまりにも様変わりしてしまったAL-1Sにまだ頭痛がするが、気絶するほどではなくなった。AL-1Sの他にモモイやミドリ、後は赤髪の生徒、花岡ユズが一人。
「ゲーム開発部の、双子、か。襲撃、以来だな」
「お、覚えてた……」
「え、えと」
「あ、レイヴン。大丈夫です、二人はもう反省してます。現に先生の言う事も訓練もサボってませんでした!」
「サボるって言うかサボれなかったっていうか……」
「一階から屋上までの走り込みは辛かったね……」
「というか一週間ゲーム禁止は酷いよ!ゲーム開発も出来ないなんてどうしたらいいのさ!?このままじゃ私たち……」
「本当に反省、しているのか」
見つめられたモモイとミドリは、蛇に睨まれた蛙のように狼狽えるのを止めた。昏い水底に引き込まれるような心地に、「これもしかしてS○Nチェック入る奴?」とモモイは思った。そんな横道逸れた思考に逃げねばならない程、その視線は底知れなく、アリスも経験しているが故に理解した。
これは相手を警戒している、排除か否かを考えていると。
被害のない、理由も子どもらしいものとはいえ、自分のところに襲撃を仕掛けて来る存在を警戒するなという方が難しい。ミシガンなら拳骨と校庭10週で許すかもしれないが、レイヴンはそうはいかない。彼自身は、酷く弱いゆえに。
「や、やめてください……!」
だがそこに割って入る者がいた。先ほどからソファの影でこちらの様子を窺っていたユズだった。酷く怯えながらも、モモイたちに向けられる視線に立ちふさがる。
「ふ、二人は何も悪くないんです……わ、悪いのは部長の私なんです!早く次のゲームを作らないと……ゲーム開発部が廃部になっちゃうんです……!それでレイヴンさんの会社に、ネタを探しに行っちゃって……」
「……」
「な、なので二人は見逃してください……!せ、せ、責任なら、私が取ります!」
「ユズ!?」
小柄なユズでもレイヴンは見下ろせるくらいには小さいが、今その力関係は完全に逆だった。頂点捕食者に歯向かう小さなネズミ、ミシガンならそう評しただろう。
「……分かった。責任者の言葉を聞ければ、それでいい」
「あ、ありがとうございますぅ……」
「ありがとうユズ!寿命が縮むかと思った……」
「今後は一報入れるように。破ったらミシガン総長とそちらの会計に来てもらうからな」
「む、胸に刻んでおきます……!」
「あと、廃部の話、ならなぜ、総長に、助けを、呼ばなかった?」
「ちょ、ちょっと怖くて……」
ユズの行動はレイヴンの琴線に触れたようで、ゲーム開発部は完全に難を逃れられたようだ。甘さゆえか、それともAL-1Sへの何かだろうか。
ともかくAL-1Sを連れて一旦帰るつもりだったのが、アリスがまだやりかけのゲームがあるとのことで、終わるまでシャーレに留まることになった。最初はおっかなびっくりだったモモイたちも、怒らせなければ大丈夫ということに気付いたらしい、これもミシガン式シャーレ訓練の賜物だろうか。確かにレイヴンよりミシガンの方が色々と怖いが。当然ながらもっぱらACの話題を振りまくり、返しにミレニアムの話やらゲームの話などを聞いていく。
「しかし、ここまで、AL-1Sが、情動を、得るとは、な。総長の訓練の、賜物か?」
「いや……最初は本や教育プログラムを持ってきたんですけど、上手く行かなくて」
「半端に知識がある状態だから、余計に難しいって言ってたね」
「……そうか」
「も、モモイ。レイヴンさんが落ち込んでるよ」
「落ち込んでは、ない」
「こ、こほん。それで私が先生に言ったの。いっそ強いショックみたいなのを与えてみればって」
外部からの衝撃により感情を取り戻す。レッドガンとの初の共同任務がそうであったせいか、確かに合理的ではあると内心頷いた。
「それで、どんな、プログラムを」
「これです!」
アリスが取り出したのは、テレビに繋がれた古臭いコントローラと〈テイルズ・サガ・クロニクル〉と表示された画面。
「???」
「アリスちゃんがTSCをプレイしてから、こんな話し方になってしまって」
「でも、レイヴンさんにいた頃よりも大分人らしくはなったでしょ。レイヴンさん、どう?」
「……ゲームで、感情を、取り戻す?いや、だが、しかし……」
あのAL-1Sがこうなった原因が、まさかクソゲーランキング1位を取ったゲームによる物とは受け入れがたく、完全に困惑しているレイヴンにアリスがコントローラを渡した。
「レイヴンもやってみてください!」
「え」
「炎の中にこそ、真実はあるのです!さあ、レイヴン!」
ずいと顔を近づけ、満面の笑顔で座らせるアリスの押しに何事かと思うレイヴン。
状況こそ飲み込み切れていないが、“AL-1S”を“アリス”へと変えたきっかけがこれであれば、多少の興味はある。
それに、もし
「……分かった。やって、みよう」
そうしてレイヴンは、生まれて初めてとなるゲームの世界へと入り込んでいった。
通信記録:秘匿された情報共有
連邦生徒会の通信回線に残されていた破損データ。
高度な暗号化により、部分的にしか読み取ることはできない。
ーーーーーーーーーーーー
こちらは手筈通りに行きました。しばらくはそちらの動向から目を逸らせるでしょう。
ACの技術を盗んで増産体制が整えば武力は十二分に確保できる、都合のいい言い訳も、シャーレの方から用意してくれました。問題はありませんよ。
ええ。互いに有益な取引を期待していますよ、ケイト女史。