ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く   作:柴猫

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大変お待たせしてしました。
実習やって夜渡ってまたプロット修正していたらこんなに間が空いてしまいました、申し訳ありません。
あと年度一杯まではリアルが忙しくなると思うので、ご了承ください。

それでは、どうぞ


ミレニアム編:過去は振り返るな

 レイヴンズ・ネストから供与されたAC技術を、ミレニアムの総力を持ってリバースエンジニアリングが成功したと内外に報道されてから一日と経たず、エンジニア部への依頼が入った。

 学園の総力を持って解析・吸収した技術を以て、予定通りキヴォトス初のAC開発要請が連邦生徒会より出された。既にセミナーに話は通っていたそれは受諾され、元AC乗りであるシャーレの先生が開発に協力する、今日はその記念すべき一日目だ。

 

 その渦中にあるエンジニア部の部室には――

 

 

 

 

 

 「ここだ!ここに高価なパーツがあるって聞いたぞ!」

 「うおおおお!今夜は鉄火丼大盛だーー!!」

 

 高価なパーツの匂いを目当てに飛んできた不良たち。

 

 

 

 「どけっ!その脚部パーツは私たちが研究するんだ!AC再現強化アーマーをキヴォトス全土にぃ!!」

 「扱いづらいパーツだって話だけど、最新型が負けるわけねえでしょうが!いっくぞぉぉぉぉっ!!」

 

 ゴテゴテのパワードスーツを身に着けたミレニアムパワードスーツ愛好会。

 そして

 

 

 

 「ここは美食の道の通過点に過ぎません。行きますわよ、皆さん!」

 「鉄火丼ですか、私としてはマグロ一尾をそのまま頂きたいですが☆」

 「え、マグロ!?どこどこ?どこにあるの!?」

 「さっき20貫食べたでしょ!というかあっちが捕まらないからってミレニアムまで来たけどいいの!?素直にブラックマーケットまで行けば良かったんじゃないの!?」

 「甘いですわジュンコさん。あの子は杖をついていて足が悪い。逃げ道を塞いでこちらから押し掛けてしまえば、彼は()()を受けざるを得ませんわ!」

 

 なぜか他校(ゲヘナ)の美食研究会まで参戦している混沌の状況に、

 

 

 

 「な、なんでまたこうなるのよぉぉ!!?」

 

 今週に入って26回目のユウカの叫び(生塩ノア記録)がミシガンの鼓膜を揺らした。

 

 

 「それにしてもこれは……どういうことでしょうか」

 「確かに見慣れない顔がいるな。ロボットに興味がありそうな奴らではないが……」

 「それよりもエンジニア部はどこ!?まさか爆発に巻き込まれて……」

 「いや、ここにいるさ」

 

 パワードスーツのミレニアム生徒が押し飛ばしたガレキの隙間から這い出てきた紫髪の生徒。それに続いて犬耳と眼鏡の二人も這い出てくる。

 

 「な、なんとか無事に撤退できました……!」

 「無事ではないけどね、作りかけの試作品、まだ無事かな……」

 「ん?ああ、貴方がミシガン先生だね。噂は聞いているよ。こんなお迎えになって申し訳ないけど、ちょっと手伝ってくれるかな」

 「俺に初見で頼みごとをするとは随分と図太い奴だ、いいだろう。だがもちろん貴様らにも働いてもらおうか。インテリでも自分らの尻拭いくらいは出来るんだろうな?」

 「い、いや先ほどから応戦しっぱなしで乳酸が基準値オーバーを起こしておりまして……」

 「貴様らが早く終わらせてくれれば俺直々にAC開発に協力してやってもいいが?」

 「コトリ、早く前線に戻って」「援護はするからね」

 「部長!?ヒビキ!?」

 

 防弾チョッキと戦闘服を着こみ、量産型のライフルといつもの拳銃(パイファーツェリスカ)を持って戦場へと入る……がふと、()()()()()()()()()()()を見つけた。

 

 「なんでこんなことに……!このあとあの子たちを迎えに行かないといけないのに!ノア、ちょっと手伝って!」

 「分かりました。ふふ、手短に終わらせましょうか」

 「私とヒビキは援護に入ろう。もう天井はないから好きなだけ撃っていいよ」

 「了解部長。せっかくだから新しく作った砲弾を使うね」

 

 肩を鳴らしながら前方の状況を確認、アーキバスの量産フレームに似たパワードスーツのミレニアム生徒が不良集団に突っ込み爆発、そこを狙ってイズミとジュンコが突っ込んでいく。

 

 「また新しいの作って……予算は下ろさないわよ」

 「これを聞いても同じことが言える?この新型は着弾の瞬間に爆薬を撒布、破壊力と引き換えに面制圧力を強化。追加オプションを付ければFMCW方式合成開口レーダーで指定高度からの爆撃も可能な一品」

 「ま、まぁ性能は認めるけど……」

 「ちなみに平時にはWi-Fiの中継器としても活躍するよ」

 「それいる!?」

 「「「いる!」」」

 「(ああ、いつもの流れですね)」

 

 アカリがグレネードランチャーでまとまっていたところを爆破、ハルナの追撃は後方に控えていた不良スナイパー連中が阻止。砂煙の中から吹き飛ばされたイズミとジュンコを、シールドを展開したパワードスーツが追撃する。ふむ、このあたりがベストか。

 

 「そんな余計な機能を付けてるからいつも予算が予算がって喚くんじゃない!もっとコストパフォーマンスを考えなさい!」

 「甘いねユウカ。狭い部室での実験より、実際のユーザーから多くのデータを取った方がより効率的だと思わないかい?」

 「それモモイの時にも聞きました!デバックをユーザーに任せると大コケしますよ!?」

 「中々具体的だね……しかしゲームとは違うさ。試作品であっても致命的な欠陥などない。ほら、極めて効率的じゃないかい?」

 「じゃあウタハ先輩はエイミの格好も効率的だって言うんですか!?」

 「……そうだねぇ……うん、ファッションは個人の自由でもあるからね。そうそう」

 「口で説明するより見てもらった方が早い。というわけで早速試射を……あれ」

 「どうしましたヒビキ?」

 「いやここに置いておいた弾頭が無くて……」

 

 

 

 

 「ミーさんのホームランダービーの始まりだぁ!!!」

 「アバ――――ッッッ!??」

 

 『せ、先生ぇぇっ!!?』

 

 

 

 一直線に放たれた剛速球がパワードスーツの背中に直撃爆発四散!巻き込みに遭った不良とスーツ愛好会もゴートゥーヘブン!!(気絶)

 

 「い、今の爆発は何!?」

 「あれは、先生……どうしてこちらに!?」

 「そのセリフそっくりそのまま返してやる、受け取れぇぇ!!」

 

 縄めいた上腕二頭筋から放たれるフルスイングの榴弾がハルナへと迫る!だが、この程度で慌てては美食研究会の部長は名乗れない。迫りくる剛速球に対し、フグを捌くように滑らかで、且つ冷静沈着に照準を合わせる。

 

 「前回のようには行きませんわ、()()()に美食の手を差し伸べる為にも……破らせて頂きます!」

 

 スコヴィル値一千万、そう語る黒舘ハルナ渾身の一撃が榴弾を貫く!かに思われた。

 

 「!?」

 

 銃火が止んだハルナの視界には、こちらへと回転する榴弾。まるで今現れたかのような、およそ不可思議な現象。

 

 (消える、魔球!?そんなことが――)

 

 だが既に手遅れ。美食研究会部長は爆炎に包まれサヨナラストライク!ミシガンへと届こうとした弾丸は不可思議な弾道で逸れていき壁へとめり込んだ。

 首を獲った以上、残るは手足だけ……とはいかない。

 

 「わわわわ、ハルナがやられちゃったよ!」

 

 そう焦りつつも障害物への移動を欠かさない獅子堂イズミ。ハルナの爆炎に紛れて他両名も見えないところまで隠れてしまった!美研……というかゲヘナの部活全般は共通して、長がいなくなろうと瓦解しない。長がいなくなろうと平気で自分たちの活動を続けがちな自立心溢れる校風なのだ。えらい!

 

 「何をぼさっとしている貴様ら!頭と口より手を動かせ手を!」

 「へぁ!?は、はい!」

 

 無論ミシガンもそれは経験済み、ゆえに停止しているコトリたちに檄を飛ばして残った生徒たちを蹴散らしていく。

 

 「One out!」

 「ミギャ!」

 

 障害物の隙間を穿った迫撃砲の弾頭(フォークボール)がイズミを襲う!

 

 「two out!!」

 「あ、それはちょっとまずいで」

 

 いつの間に接近していたアカリがスローボールによる上からの爆風に当てられ離脱!美食研究会、いやもはや抵抗可能な暴徒は、ジュンコ一人。

 

 「ちょ、待って先生!」

 「続きは貴様らを寝かせてからだ。夢の中で言い訳でも考えておけ!」

 

 再び放たれる榴弾。チェンジアップかスライダーか、味方が全員やられたジュンコにそれを判断する余裕は無く。

 

 「な、なんとかなれーー!!」

 

 もう一丁のアサルトライフルまで使った、迎撃とも言えない乱射。その弾丸の嵐の前に、榴弾は空高く飛び上がる。

 

 やった、ジュンコはそう確信した。他のミレニアムの生徒たちは暴徒の対応にかかりきりだし、ヒナ程ではない先生の銃撃なら耐えられる。そう見たジュンコはエンジニア部部室から撤退を図った。

 くるくると回る榴弾が、尾翼の働きによって弾頭から真っ直ぐ落ちていく。地上からさして距離は無く、信管は正常に作動。分裂した子弾頭が暴徒たちに覆いかぶさり、

 

 そして

 

 『ナンデェェ――――ッッ!!?』

 

 戦闘不能者も何もかも巻き込んで、広範囲が爆破。エンジニア部の備品も派手に巻き込んで、ミレニアム恒例の騒ぎはここに終わった。

 

 「少し火力が強すぎたか?」

 「部室が、設備が……AC以外の今期の予算が……」

 「ほれぼれする火力だね。やっぱり榴弾はこうでなくちゃ」「ヒビキ!?」

 「大きすぎる……修、正を……ぐふ」

 「ユウカちゃん!メディカルセンター、至急エンジニア部部室まで集合してください」

 

 

 ……会計担当の傷跡は深かったようだが。

 

 

 

 

 

――――

 

 「すみません、まさか風紀委員長自ら引き取りに来てくださるとは……」

 「かしこまらないで。最近美食研究会の動きが怪しくて追ってたから。……先生が前線で戦ったって聞いたけど、大丈夫だったの?」

 「『この程度の騒ぎはガキの頃から慣れっこだ』と。榴弾は野球ボールではないのですが……」

 「手榴弾野球?懐かしいわね、不発弾を投げ合って誰が先に逃げるかよくチキンレースしてたわ」

 「そういえば貴方もゲヘナでしたね」

 

 手当される暴徒たちが青ざめた顔で見ているのは、ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナ。一部の不良は遭遇経験ありなのか、怯えて距離を取っている。

 ヒナの相手をするのは書記のノア。呼び出したミシガンは外で救急医学部の治療を受ける美食研究会と何やら話していたようだ。ユウカ(もう復活した、会計担当はタフである)とウタハは破損した備品と修理費のチェック、ヒビキは爆発範囲の確認に勤しんでいる。

 

 「―――ゲヘナの風紀委員会として、今回の騒ぎを起こしてしまったことを謝罪します。本当にごめんなさい」

 「……はい。セミナーとして、ゲヘナ風紀委員会風紀委員長からの謝罪を正式に受け取りました。顔をあげて下さい」

 「……ありがとう。それじゃあ、彼女らの身柄は風紀委員が引き取るわ」

 

 部室から出ると既に騒ぎを聞きつけたミレニアムの生徒たちが野次馬となっていた。目当てはどうやら噂に聞く空崎ヒナご本人だ。ざわざわと群衆がどよめきだすのをノアが制するが、当の本人は眉一つ動かさない。

 セナの待つ救急車の前にはミシガンしかいなかった。どうやら美食研究会の面々は既に中にぶち込まれたようだ。

 

 「お疲れ様です、ヒナ委員長」

 「そっちもねセナ。四人はどう?」

 「軽傷ですらないですね。軽い火傷程度、唾つけとけば治る程です」

 

 小声で残念です、ミレニアムなら良質な死体が出て来ると思ったのに、と聞こえたのは無視しよう。こんなところで要らない外交問題とインコに負けたタヌキ共の横やりは欲しくない。

 なおそこら中に仕掛けられた盗聴器から発言を聞かれ、ミレニアムの一部活でごたごたが起きたのはここでは省く。

 

 「先生?」

 「ヒナにノアか。ご苦労だったな」

 

 それだけ言ってミシガンは口を閉ざした。視線の先は救急車の後部、今頃美食研究会が(ミシガンの拳骨によって)力なく眠っているだろう。

 

 「……ハルナたちに何か言われたの?」

 「いや、まあ。あるといえばあるんだが。どうにもな」

 

 おかしい。どうにも歯切れが悪い。

 ミシガンは竹を割ったような豪放磊落な性格だ。ヒナもそれは十分分かっているだけに変だった。今日初めてミシガンと会ったノアも、ユウカから聞いた話と随分違うと首を傾げていた。

 だがすぐに、迷っていてもしょうがあるまい!といって二人に向き直った。

 

 「ハルナが襲撃の理由を話したんだがな。G13に手術を受けさせることが目的らしい」

 「手術?」

 「G13、あの先生が懇意にされている独立傭兵の方ですよね。それと何の関係……手術の内容は?」

 「多分、味覚関係の手術じゃないかしら。美食研究会がミレニアムの研究成果を目当てに動くわけがない」

 「ああ。味覚治療が出来る奴を拉致して無理やり手術をさせるつもりだったそうだ」

 

 内心ドン引きするノアだったが、ゲヘナの連中は目的のために手段を選ばない。今回のそれもまた同じというだけ。だが付き合いの長いヒナはそこに違和感を覚えた。

 

 「もしかしてゲヘナでレイヴン氏を攫ったのも」

 「ああ。食堂であいつに味覚が無いことを知ったらしい。『どうしてあの子には好きに食べていいと言うのに、味覚は無いからいいと美食から逃げようとするのか』ってな」

 「……間違いなくハルナの地雷を踏みぬいたわね」

 

 黒舘ハルナというテロリストの人物像を、ノアはそっと手帖に書き込んだ。叶うならば二度とミレニアムには来てほしくないが……

 

 「それより、味覚障害ですか?確かに彼はあまり健康そうには見えませんでしたが」

 「実際動く死体といったところですね。検査をしておくべきだったでしょうか」

 「仮にレイヴン氏が手術をしなかった場合、また美食研究会は来ますよね」

 「ハルナは一度決めたことを曲げるような性格じゃない、必ず来るわ。とにかく、美食研究会がここにまた来ないようにしないと。先生はどう?」

 

 ヒナの問いかけに、ミシガンは重く息を吐いた。どうにもならないことを、何とかごまかしたんだなと、そこにいた三人は感じ取った。「……感情だけか」の小声が、妙に耳にこびりついた。

 

 「味覚障害だけじゃないだろう。脳そのものに障害が起きている。あの様子じゃあ、まともに眠れているかも分からん」

 「?なぜそこまで分かるのですか?」

 「同じ奴の面倒を見ていたからさ。

 

 第4世代強化人間特有の症状には、覚えがある」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 「え!じゃあレイヴンさんってサイボーグなの!?」

 「あ、頭の中に機械って……だ、大丈夫なんですか」

 「それってアリスちゃんも同じなんじゃ」

 「?アリスは頭の中に機械はありません。全身です」

 「いや確かにそうだけど!」

 

 テイルズ・サガ・クロニクルのプレイ中、あまりにもノーリアクションのレイヴンに対してモモイが「アリスちゃんは凄かったのに、なんでレイヴンさんは無反応でいられるの!?ロボット!?」と言ったら、自分の頭には機械が埋められていると零したのだ。

 

 「サイボーグ、とは、初めて、言われた。骨董品とは、よく言われた、が」

 「骨董品!?」

 

 驚くモモイ達に、レイヴンは何てことないように話し始める。

 

 「俺は、第4世代型の、強化人間。旧世代型の、初期の、強化人間だ」

 「サイボーグ技術が旧世代型……」

 「えとその……強化人間って、何を強化しているんですか?」

 「情報の、伝達速度。ACの、コアブロックと接続、して、よりACの、操作を最適化、するための、手術だ」

 「え、それじゃあやっぱり先生もサイボーグなの!?」

 「いや、総長は違う。生身の、真人間だ。訓練を、続ければ、生身でも十分、ACは動かせる」

 「……じゃあなんで強化する必要があるんですか?」

 「人手不足、だ」

 

 レイヴンはターン関係なしに最後の切り札(自爆)を放ち続けるきんぐぷにぷにの攻撃から逃れながら、淡々と自分たち(強化人間)の誕生を話す。

 

 「ACの操縦には、相応の時間が、かかる。強化人間は、手術すれば、すぐに乗れる。だから、必要になった」

 「あ、あの、レイヴンさんが杖をついているのって、もしかしてそれの」

 「副作用、だな。ただ、生活に支障は、ない。問題、ない」

 「い、いいのかな……」

 

 きんぐぷにぷにの自爆をダンジョン柱にぶつけて倒し、崩れていくダンジョンから逃げる突然のレースゲームに眉一つ動かさず対応するレイヴン。

 

 「レイヴンは、それでいいんですか?」「アリス?」

 「アリスもロボットです。レイヴンはサイボーグです。だから私たちは普通の人間ではない、のですよね」

 「そう、だな」

 「でもレイヴンは体が悪いです。アリスはちゃんと足も動くのに、レイヴンは杖を使わないといけません。生きづらくないのですか?」

 「アリスちゃん……」

 

 崩れるダンジョンから逃げ切ったレイヴンの目は、少しだけいつもより開いていた。

 コントローラを置いたレイヴンは座り心地が悪そうに向き直りながら、アリスを正面から見た。

 

 「まあ、そうだな。AL-1S、確かに、俺とお前は、違う。高性能な、お前と、脳を焼かれた俺と、いろいろ違う、のは当たり前、だ」

 「脳を……」

 「焼かれた?」

 「とにかく、俺とお前は、違う。そのうえで、言うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺は、幸せものだ」

 

 今度はゲーム開発部が、目を開く番だった。幽霊のような生気のない表情が、これまでとは違う柔らかい笑顔を浮かべたのだ。脳を焼かれているとは思えない、無邪気な子どものように。

 

 「だから、AL-1S、お前も、幸せに、なれる。必ず」

 「本当ですか……?」

 「ああ。俺が、保証する。だから、AL-1S、

 

 

 生きてるなら、笑え」

 

 その微笑みは、彼女の瞳にきっと焼き付いたろう。

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 日が傾き始めた頃、シャーレへと帰ってくる影が一つ。

 

 「あ、アニキだ!」「親父だろ親父!」「じいちゃーん!おかえりー!」

 

 「先生と呼べと言っただろうが!どうやら昼間の訓練終わりでもまだ元気が有り余っているようだな!」

 「ちょ、訓練は真面目にやってました!」

 「あと勉強も!社会以外は

 

 シャーレにいつもの喧騒が戻る。ここにいる生徒たちは皆半グレだったり、学籍を失って途方に暮れていた所を、少女たちの健全育成(ミシガンの拳骨)の名義によって連れてこられた生徒たちだ。旨い飯に温かい寝床と、社会復帰するための教育プログラムをミシガン直々に叩き込まれていながらも、こうも寄り付かれるのは彼女たちのタフさゆえだろうか。少なくともミシガンはそう思っている。

 前職でも呆れるほど見た光景に懐かしさと日常を感じていると、寄り付く列を割って一人の少女が前まで歩いて来た。

 

 「えと、そうちょ……いや、先生!お願いしたいことがあります!」

 

 本当にG14か?と目を疑うようにしっかりお願いするG14もとい天童アリスに驚き、周りを見てみると人の壁に隠れるようにしてあのゲーム開発部の双子が隠れていた。よく目を凝らすと特殊部隊ばりに隠密している赤髪のちっこい奴もいた。あれが恐らくゲーム開発部の部長の花岡ユズだろうか。周りの連中もどこか見守るような視線を向けているあたり、既に知っているのだろう。

 

 「ほう、仕事終わりの俺に直々に持ってくるとは、相当に重要な案件と見ていいんだな?」

 「はい!絶対重要なものです!」

 「よろしい、なら言ってみろ!」

 

 背筋を正し、真っ直ぐに俺を見たアリスの眼にはしっかりとした意思が――イグアスを思い出させる強い芯が見て取れた。

 

 「先生!G14、アリスをゲーム開発部に入れてください!」

 「……その理由は?」

 「……アリスは今日、色々なことを学びました。ただ誘導に従わずに自分で考えて行動すること、難しい言葉に囚われずにとにかく進むこと、こまめにセーブを行うことや初見のエリアでは最大限警戒すること」

 

 こいつらG14に何を教えたんだと二人を睨むと、人ごみの中へ隠れようと頭を引っ込める才羽姉妹。「TSCって哲学ゲームなのか?」「違うよ!王道を往くレトロゲームだよ!」「一応、だけど」という声が聞こえたが、あのゲームを遊んだとなると、まぁユウカの言を聞く限り相当な苦労をしたのだろうな。

 

 「――そしてその苦しい状況に耐えてクリアした時の喜び。アリスはゲームの世界がどんなに素晴らしいものか、魅了されたんだと感じています。だからアリスは、モモイたちと一緒にゲームを作りたいです!」

 「ではG13の所は離れてミレニアムに入るということだな」

 「いえ!レイヴンとは離れません!」

 

 妙にはっきり答えたG14、いやアリスは続ける。

 

 「私の目標は、いつか凄いゲームを作って、レイヴンに遊んでもらうことです。そうしてレイヴンにまた笑ってもらいます!今日よりもっと楽しくして、笑顔にさせてみせます!それがきっと、アリスが幸せになれる方法だと思うんです」

 「……それはG13から言われたことか?」

 「幸せになれるとは言われました。でも、この幸せになる方法はアリスだけで考えました!」

 

 胸を張って言うアリスの眼は、以前までのAIらしさが完全に抜けていた。

 もうお前より先に人間らしくなってしまったな、G13。

 

 「いいだろう。貴様の最重要案件、この俺が預かってやる。まずは入学志望書を作るところからだ!ついてこい!」

 「!はいっ!」

 「ついでにゲーム開発部ども!貴様らも来い、廃部までに残された猶予は無いぞ!」

 「やば気付かれて……ってあーー!!そうじゃん!待って先生!」

 

 人ごみをかき分けた三人が、アリスの元へと向かう。

 

 

 

 アリスの顔は、さっきと同じ笑顔だった。

 




通信記録:レイヴンズ・ネストの秘密会合
 何者かによって抜き出されたレイヴンの行動情報
 監視カメラの情報をハッキングしたようだが、トラッキングされた痕跡がある
―――
 ・レイヴンが何者かと話している様子が見受けられる。相手の映像は不自然に途切れている
 ・「AL-1S」「監視体制の共有」「名も無き神々の王女の情報の取引」といった単語が交わされていたようだ
 ・去り際の相手に「俺と取引するなら、まずミシガン総長に頼め」とレイヴンが発言
 ・「知られるリスクは増やしたくないの、その方が合理的でしょう」と相手が返事
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