ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く   作:柴猫

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最近野良のミシガンをよく見かけるんですが、皆さん解像度が高いのばかりで戦々恐々としています(訳:補給ありがとうございます)
あと誤字報告もありがとうございます。勢いで突っ込んでるので見苦しいとこあると思いますが、見かけましたら報告お願いいたします(__)。

追記:本文の一部を変更。特殊タグって中々……


アビドス編:野良猫の世話の仕方

 『敵の退却を確認!並びに、カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認』

 

 粗末なつくりのボロ屋から逃げ出すヘルメット団の残党。ちょうどアリの巣をつついた時を思い出すような逃げっぷりだ。

 

 「これでしばらくはおとなしくなるはず」

 「よーし、作戦終了。みんな、先生、お疲れー」

 「シャーレの階段走り込みにも劣る連中だったな。次は家のシロアリ対策をやっておけ!」

 

 呻きながら床に倒れているのは、この拠点を陣取っていた一応の幹部連中。赤い格好をした団のリーダーらしき少女が、割れたゴーグル越しに精一杯睨みつける。

 

 「ちくしょう……アビドスなんか、に、なんで、大人がいるんだよ……」

 「残念だったわね!あんたたちのバカ騒ぎもここまでよ!」

 

 セリカの口上に、だがヘルメット団のリーダーは更に眼光を鋭く、したかと思うと気を失った。

 

 「……」

 「先生?」

 「ああ。もう一度言うが家に帰るまでが遠足だ、気を抜くなよ」

 

 

 

 

 火急の事案だったカタカタヘルメット団が片付き、一安心して息をついていたところ。アビドスの面々も一息ついていた。

 

 「……まさか先生があんなに動けるなんてビックリした」

 「最後のヘルメット団の方なんて、軽く10メートルは投げてましたよね?」

 「あんなちっこいガキ榴弾に比べれば木くずみたいなもんだ。お前も足腰を鍛えればあれくらいは投げられるようになるぞ、ノノミ」

 「たぶん、それは先生だけだと思います……」

 

 ミニガンを持ってあれだけ長く走れるノノミは逸材だろう。レッドガンが健在なら勧誘しているところだったな。

 

 「でも、これでやっと、重要な問題に集中できる」

 「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!

 ありがとう、先生!この恩は――」

 「何を勝手に終わらせようとしているんだセリカ?」

 

 地獄耳とは俺のことを指している、なんてからかわれた経験もあったか。セリカが零した失言を聞かないフリなど俺はしない。

 

 「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

 「か、かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

 「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」

 「ホシノ先輩の言うとおりだよ、セリカ。先生は信頼していいと思う」

 「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」

 

 光景だけ切り取ればごねる後輩を宥める先輩の姿だが、借金返済という言葉がその青春に影を差して来る。

 

 「確かに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよー?それとも何か他にいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」

 「う、うう……

 でっ、でも、さっき来たばかりの大人でしょ!今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!?この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……

 私は認めない!!」

 

 そう啖呵を切ると、セリカは教室の扉を勢いよく開けて出ていく。それをノノミが様子を見に追いかけ、教室に戻ったのは4人だけになった。

 

 「遠足の後であれだけ走れるとはな」

 「うーん、ごめんね先生。うちのセリカちゃんが元気いっぱいすぎて」

 「お前らの学校の事情も何となく察しはついている。大方荒廃した土地の復興関係だろう」

 「……わーお。先生って体だけじゃなくて頭も回るんだねー」

 「ここの廃れ具合を見れば素人でも分かる。いかにも大変そうな問題など、上は率先してはやらんものだ」

 

 いつも通りの眠たげな視線の奥で目を光らせながら、ホシノとアヤネは学校の事情を話した。

 

 学校の抱えている借金はおよそ9億5千万、カタはアビドスの学校そのものであり、返済できないイコール廃校ということだ。当然いくら学生の権限が強いキヴォトスであってもそんな莫大な額は払えず、ほとんどの学生がこの街を去った。そうなればいよいよ借金返済なんて現実は遠い夢になっていく。……ホシノの言うように、古巣でもキヴォトスでもよくある負のスパイラルだ。

 元々は数十年前に起きた大規模な砂嵐に対する資金繰りだったそうだが、かつて学校を守るための借金が今では学校の生徒を苦しめているという皮肉な状況に陥っていると。

 

 「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」

 「……まあ、そういうつまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけー」

 「俺には借金関連に関わるな、と?」

 「いやいや、話を聞いてくれただけでもありがたいから、って。」

 「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

 

 誰もかれも、大人に助けを求めようとはしない。ある意味で究極の自助努力、企業や支配者にとって最も都合のいい形。

 先生として、生徒がそれでいいというなら無理に引き留める必要はないのだろう。こいつらならば、今俺が戻ってもいつものこと、で済ませられるんだろうが。

 

 「お前たちに少し社会の講義をしてやろう。ヘルメット団ってのはキヴォトス中にうじゃうじゃいる黒光りするGだ。そんな奴らに一発入れただけで借金に全力投球できると思うか?脇が甘すぎるぞ!

 アヤネ、貴様が丁寧に書いた手紙に『ヘルメット団のみを撃退しろ』という文言はなかったな。つまり俺がお前たちのところに泊っていっても何ら問題はないということだ」

 「そ、それって……」

 

 確かに金は重要だ。社会で生きていくのならほぼ全ての活動にまとわりついてくる。だが、全能なわけでもない。

 勢いよく机をたたき、目の前の三人、特に橙と青の瞳にぶち込む勢いで発する。

 

 「この砂まみれのアビドス高等学校から、しつこい借金汚れを拭き取ってやろう!人数分モップの準備は出来ているから安心するといい!」

 「「……!」」

 「……へぇ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」

 「まさか「シャーレ」が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 「安心するのは早いぞアヤネ。お前が俺をここに呼びつけたのだから、俺よりサボっているのは許さんからな!」

 「は、はいっ!よろしくお願いします?」

 「割と体育会系……アヤネ、今日からロードバイク始めようか。この先体力が有効な気がする」

 「何言ってるんですかシロコ先輩!?」

 

 金に縛られることほど無駄なことはない。昔は理想論だったが、今のこいつらにこそ必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ」

 

 あの大人がアビドスの借金返済に関わると言い出して翌日、バイト先の柴関ラーメンでその大人とバッタリ出くわしてしまった。しかも皆も引き連れて。ホシノ先輩が連れてきたらしいけど、昨日の今日ではっきり言ったのにどうして。あんまり気分を下げさせないでほしいと恨めしげに睨みつけたけど、いつも通りの溶けた笑顔を見てると、怒る気力も無くなっちゃった。

 

 「みんなで来るなんて……騒がしいったらありゃしない」

 

 先生の方も大将と仲良さげに話してて、立ち聞きした話だとD.Uにいるっていう大将の師匠さん関係らしい。柴大将に師匠がいるっていうのも驚きだけど、なんでそんな繋がりがあるのだろう。これも大人の力か。

 

 「人が働いているっていうのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって。あんな大人の何がいいんだか」

 

 キヴォトスでだって中々いない巨漢に、最初はほんの少しだけ怖かった。こんな乱暴そうな人が連邦生徒会の「シャーレ」?と。

 でも数だけは多いヘルメット団を圧倒するような奮戦ぶりは、確かに頼もしかった。それはきっと、小さい体で盾を構えて前線を張っているホシノ先輩みたいに。キヴォトスの外の人は銃弾一発で死んじゃうっていうのに、どうしてああも前線に出ていけるんだろう。

 戦うだけじゃなくて頭もいい。アジトに潜入した時も前線にいながら的確な指示を出して徹底的に殲滅していった。……心強いと言われれば、そうかもしれない。

 けれど。

 

 「……私たちだけで、十分。大人の助けは、いらない」

 

 全て吐き出すように独り言ち、胸の奥に溜まるモヤモヤを無視して歩き出す。明日は学校のある日だ、疲れを見せないように早く寝ないと。

 

 人がいなくなった物寂しい区画を歩きながら帰路を急いでいると。

 

 「黒見セリカ……だな?」

 

 現れたのは、昨日痛めつけたはずのカタカタヘルメット団だった。虫の居所が悪いのを吐き出そうと攻撃したが、

 

 「くっ……ううっ!?」

 

 背後からの攻撃に、対空砲の火力支援をもろに受け、吹き飛ばされた。朦朧とする意識の中、にじり寄ってくるヘルメット団の足音だけがやけに間延びする。

 

 (こんな、あっけな、く……)

 

 せめての反撃を取ろうと転がった銃に手を伸ばそうとしても、腕はほんのわずかにしか動かず、反撃の気力すらも薄らいでいく。

 

 (そんなの……嫌……)

 

 何故だか脳裏に浮かんだのはアビドスの皆。

 そして、あの大きな背中だった。

 

 

 

 

 

 ドガァァン!!

 

 「ぇ……」

 「う、うわぁぁぁ!!」「何だ!?」

 

 突然目の前に突っ込んできた軽トラックが、ヘルメット団と私を分断する様に電柱に追突した。老朽化した電柱が倒れると同時に、運転席から影が出て来る。

 

 

 「自分の体調管理も出来んとは、貴様それでも会計か?」

 「せ、先生……?」

 

 どうして、なんで。聞きたいことが浮かべど口は動かず、連邦生徒会のコートを脱ぎ捨て、防弾チョッキに巨大拳銃とアサルトライフルを構えた先生は、ヘルメット団の前に立ちふさがる。

 

 「お、お前はあの時の……!」

 「戦線離脱した怪我人は物陰で亀になっていろ。

 貴様らは教訓を得る必要がある、日記をつけておけ!」

 

 先生はアサルトライフルを構えて掃射、立ち尽くしていたヘルメット団三人を撃ちぬく。ついで拳銃で陣形を整えようとしていたヘルメット団に発砲。馬鹿げた爆音と共に五つのヘルメットが粉砕され、ARと拳銃のリロードに入る。

 

 「撃て撃て!所詮一人だ、数の利はこっちにある!」

 

 そこでヘルメット団も体制を立て直し、トラックに向けて斉射。ガンガンとトラックに弾丸が容赦なく降りかかる中、先生は冷静にリロードを続ける。

 

 「先生!わたし、も……」

 「指示が聞こえなかったのか!今のお前の役目は日記をつけることだ!」

 「でも……!」

 「無駄口を叩く元気があるならとっとと帰れ!」

 

 体を起こそうとする元気が空気を叩く声に怯み、沸々と舌の根に籠っていく。

 

 「何よ……どうして私を助けるのよ……昨日も、昼間も、あんなこと言った後なのに」

 「俺のことを案じてもいるのか。そんな心根だからこんなちゃちな夜討ちにボコされるのを分かっているのか!」

 「っ!?い、いい加減に……」

 「お前みたいに嚙みついてくる奴を、俺は何人もぶん殴ってきた!貴様が怒る矛先は俺か、それともこんな状況にしてきたアビドスの先輩か?もしくはお前らの足元を見るだけの高利貸しか!?」

 

 ミシガン先生の大声が、次第に弾丸よりも大きくなっていく。気づけば銃弾の嵐が止み、拳銃のリロードも終わっていた。

 

 「日記を読み返せ!お前が必死こいてアルバイトで金を稼いでいる理由は、何のためだ!」

 

 

 

 何のため?

 アルバイトをするのは、お金を稼ぐため。

 お金を稼ぐのは借金を返すためで、借金を返すのは……

 

 『セリカちゃん!』

 

 そうだ。単純なことだ。

 みんなと一緒に笑いたい、一緒に青春を過ごしたい。そのための場所を守りたい。

 厳しいと思ったのは一度や二度じゃない。こんな学校なんてって思ったのも数えきれないくらい。

 

 それでも

 

 「今だ!全員突撃しろ!」

 

 みんなと一緒に青春をしたいから。

 

 「来い!貴様ら全員相手をしてやる!」

 

 そこにこの先生がいても、いいかな。

 

 

 

 ダンッ!

 

 「な、なんで……うご、け」

 

 一番乗りで突っ込んできたヘルメット団に、私は銃口を向けていた。

 

 「やってやるわよ……このくらい、草むしりのバイトに比べたら休憩みたいなものよ!!」

 

 自分でも不思議に思うくらい足が動く。手も動く。頭もスッキリしたし、胸の奥のわだかまりも消えた気がする。

 先生の隣に立ち、獲物を手に取りヘルメット団と相対する。

 

 「気合だけはいっちょ前みたいだなセリカ!」

 「先生こそ、年なんだから休憩したらどう?スポーツドリンクなら、私のカバンに入ってるわよ」

 「抜かせ!俺がラジオ体操ごときで休憩する根性なしに見えるか!?」

 

 走り出す先生に並走し、シロコ先輩みたいに敵陣に突っ込んでいく。

 

 「いくぞ根性なし共!愉快な深夜バイトの始まりだ!」

 

 

 

 

 

 

  「ふぅ……ふぅ……ど、どんなもんよ」

 

 逃げていくヘルメット団を確認した私は、その場にへたり込みながら捨て台詞を吐いてやった。……多分相手には聞こえてないと思うけど。

 

 「いやー、まさかセリカちゃんと先生だけでヘルメット団を撃退しちゃうなんてね~。うん、アビドスの未来は明るい!」

 

 いつものおどけた調子で騒ぐホシノ先輩。いつもなら一言ツッコミを入れてるけど、今は、ちょっと余裕がない。そもそもいつ来てくれたんだっけ?

 

 「大遅刻だぞホシノ!貴様が時間厳守なら俺がこうして出張ることも無かったというのにな!」

 「うへ~、こんな時間にそれはちょっと酷じゃない?先生こそ、どうしてセリカちゃんのピンチが分かったのさ?」

 

 コートを着直したミシガン先生は、なんてことないように口を開く。

 

 「経験則だ」

 「え?」「……どういうこと?」

 「お前のような輩はたいてい一人で突っ走った挙句壁にぶつかる。ごまんと見てきたもんでな。

 そんな子猫をあのハイエナどもが見逃すはずはないだろう。簡単な算数の問題だ」

 

 座り込んだ私に手が伸ばされる。大きくて、傷だらけで、お世辞にも綺麗とは言えないけど。

 

 「……ありがと、先生」

 「何か言ったか?もう俺も若くはないんでな。大声で言ってくれると助かるが?」

 「~~~っ!助けてくれてありがとう!」

 

 手を掴み、ヤケになって大声を出すと、先生は力強く握り返した。

 

 「よくやったセリカ!バイトは終わりだ!」

 

 その時の先生と先輩の笑い顔は、忘れられない。そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……こちら、()()()()()()()()()

 

 「20人ほど雇いたいと。かなり嵩張るが報酬は出せるのか」

 

 「アビドス高校の制圧?」

 

 「……」

 

 「いや、こちらも同じ依頼を受けていてな」

 

 「競争……?こちらにその気はないのだが……」

 

 「……」

 

 「では、協働はどうだ」

 

 「少数精鋭に加えて物量による制圧、悪い作戦ではないと思うが」

 

 「……」

 

 「分かった。傭兵たちの指揮はこちらが受け持とう」

 

 

 

 「仕事の時間といこう、便利屋68」




原作沿いのタグ消さないとかもしれん……
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