リハビリヤンデレ集   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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ウルフカット「っす」口調クール後輩女子×チャラ男風ヘタレ男子のカップリングは好きかい?


私だけのスターチス(NL) 第一話

「ずっとさ。心の中でずっと思ってることがあったんだよ」

 

マンションの一室。ごみが散乱する小ぢんまりとしたリビングの、ポツンと置かれたクッションに体育座りをして、ローテーブルに乗せられた小さな人形に話しかける。

 

「もっと、もっともっと頑張れば変われたんじゃないかって」

 

寂しく一人、蹲っている。

 

「俺はもっとできるやつなんじゃないかって。小さい頃からそうだった」

「俺の頭の片隅には、ずっと選択しなかった道がまるで泥みたいにへばりついてた」

「小学生から妙に現実を見る癖があった。みんなと外で遊んでるとき、窓の中の勉強している女の子を見て、俺はこんなことしてていいのかって思った」

「中学生、部活に入らずずっと勉強してた。でも、放課後の夕日に照らされながら部活に励む人を見て、もっと違う選択があったんじゃないかって」

「高校生、遊んで遊んで…三年生になってようやく気付いて、勉強して、中学の時周りより勉強していたから、勉強の貯金みたいなのがあって、そのおかげでそこそこの大学に行けて」

 

鮮明に浮かぶ光景が。瞼の裏に映った選択しなかった俺が。それでよかったのかって問いかけるんだ。その選ばなかった俺は、今の俺よりもずっと輝いていて、隣の芝生は青く見えるとかそんなもんじゃないけどそんな感じの……羨望と嫉妬だけが渦巻いた。

 

今からでも変わればいいって思ったし、実際行動もした。それもまぁ失敗したしな。

 

「結局、大学に入ってもずっと迷い続けて、とうとうここまで来ちまった」

「俺はもっと頑張ったらここよりもいい大学に行けて、もっといい生活ができ…」

「いや、もっと間違いがない選択ができたんじゃないかって」

「小さい頃に成功したのがよくなかったと思う」

「俺は自分の学力が足りないことに気づいていたし、特段勉強が嫌いなわけでもなかった。だから、勉強すればいい点数が取れて、周りから羨ましがられて…」

「そんな、小学生の成功体験をずっと引きずって、俺は頑張ったらできる子なんだって思い続けて…」

 

「結局、このザマだ」

 

「10で神童、15で才子、20過ぎれば只の人。そのまんまだった」

 

人形が倒れた。ボロボロの、ちっさい頃から身に着けていた、熊型の人形、ただのキーホルダー。校外学習の時に買っただけのただのお土産。そんなものをずっと、抱えている。

 

「俺は間違ってたか。なんて俺だってわからない。たぶん、ほかの道を選んだとしても俺は変わらずこうしていたんだと思う。きっと、選ばなかった道を考え始めたことが間違いだったんだ。……そう、思うしかないだろ。結局はさ」

 

 

「面倒くさいですねぇ」

 

 

ふっと顔を上げる。独り言に添えられた言葉に気づいて周りを見回して…玄関から部屋へと上がる後輩の姿があった。

 

「先輩はずっと考えて悩んで選択を最後まで迷って…選んだ結果にさえ間違えたと思う。難儀な性格をした先輩ですよ。ほら、可愛い後輩がごはん、買ってきましたよ」

 

手にはビニールが二つ。そこそこ重そうな中には食料品やらが入っていた。それを手際よく冷蔵庫に詰め込みながら、後輩はつづけた。

 

「今日のご飯は冷しゃぶにしましょう。ちょっと暑くなってきましたし、豚肉が安かったんですよ」

「あ、あぁ…」

 

食料を詰め込んだ後輩は、次に部屋に散らばるゴミを片付けに入った。ふと、思い出したように言う。

 

「先輩は、大学もう行かないんですか?」

 

「はぁ…あぁ、俺は馬鹿になりきれなかった。天才でもなかったのに。俺は俺がわからないこともあって間違えることもあると理解していたし、かといって、間違いだと感じる選択にアクセルを踏み切るような覚悟も無知さもなかった」

「もう…何も成せないだろうから。行く意味なんてな」

「そうですか…、ま、先輩の自由なんで私が口出すことでもないか。ほら!お風呂行きましょ。ちょっと降られてきちゃったんですよ…急な雨で…先輩も入りましょうよ。サービスしますよ?あーあー…髪こんなぼさぼさに…毎日シャワーだけでも浴びないと…」

 

無気力で体が動かず、風呂も飯もおざなりになっている俺が、今日まで生き続けられているのは後輩のおかげだ。こうして世話をしてくれる。それに甘えている自分がいる。それがただただ恥ずかしくて、恥だけが心に降り積もっていく。

 

「…もう疲れたんだ」

「やる気がもうないんだ。生きていく気力も、かといって死ぬ勇気もない。お前に頼ってばっかなのも…申し訳ない。放っておいてくれ」

 

「はいはい、ご心配なさらず。私がずーっとお世話していきますから、先輩を放置して勝手に死ぬなんてありえないので」

 

「ははっ、なんだよそれ」

「そのまんまの意味ですよ。先輩。ずっと、お世話しますよ。私がずーっと…ね?」

 

耳元で囁かれる蠱惑的な声に何故だか背筋に悪寒が走って、そんな俺に構わず後輩は俺の手を引っ張った。

 

「ほら、入りましょう。一緒に入ってあげますから」

 

声をかけられて引っ張られて立ち上がる。ぼさぼさの髪から何とか見えた後輩の目は、どこか、作り物めいて見えた。

 

~~~~~

 

大学デビューをしよう。

 

俺はずっと考えていたことを実行しようと決めた。高校三年生の最後、これから新しい生活がスタートするこの節目に俺は覚悟を決めた。

 

小中高とずっと選択を間違えたと思う。小学生の時は遊んでばかりだったし、かといって中学は部活に入らず後悔した。高校は遊んでばかりでやっと勉強したのは高校三年の春からだった。

 

それでも中学の頃勉強していたから、なんとかその勉強のおかげで、始めるのは遅かったけれども1年間と勉強してそこそこの大学に行ける程度には頑張ることができた。

 

もっと勉強早めにしていればって後悔はあったけど、それでもそこそこな大学が俺らしいなって思って、まぁせっかく大学に入ったんだから楽しまなくちゃって。変わっていかなくちゃって。

 

でもまぁ…正直な話、そう簡単に行けば苦労はしない…が下手でもなかった。微妙な結果というしかないだろう。これは

 

 

 

「疲れた…」

 

思わずつぶやく。大学二年生、疲労困憊でへとへとだった。大学デビューしようと必死に頑張った。髪も染めて、コミュニケーション能力を磨いて、身だしなみにも気を付けて、積極的に周りと関わっていって、空気に合わせて、話しに合わせて、それを一年。

わかったことは、俺に陽キャは向いてないということだった。正直、溶け込もうとしなかったら馴染めなかっただろう。人の顔色ばっか窺って、頼み事も断らないようにして人の好さを演じて…気づいたら便利屋みたいになっていた。

 

出席カードの提出を頼まれたり、飲みの幹事をやらされたり、タイプじゃなかったけど入った飲みサーの合宿の手続なんかも俺がやって。それに加えて勉強もまぁ…それなりにやって。彼女は出来たけど、最近はあんまり連絡もしなくなって、別れるんじゃないかって。不安で。マメに記念日とか祝ってたし、出来る限り一緒にいるようにしてたんだけど…まぁ色々仕事任されてたからだろう。時間が取れなかった…なんて、ただの言い訳だ。

 

これが充実なんだって。これが人生を謳歌してるんだって。そんなふうに思っても、どこか気疲れが背中にのしかかっていて、ただ居場所のなさというか居心地の悪さが、心の隅を蝕んでいる。

 

今日もそうだった。新歓の準備とか人数把握とぁ居酒屋の予約とか…色々動き回ってようやく終わった。

 

後はもう帰るだけ…。間違いはたぶんない。漏れもないはず…。あとは当日キャンセルが出たら謝ってキャンセル料払って…そんな感じにやってくしかない。

 

新歓、成功させなきゃいけない。良い先輩をしなくちゃいけない。ビニールも雑巾も用意しているし、なるべく一年生にお酒を回さないようにしなくちゃいけない。まぁ飲みサーだからどうやったって引っかかるかもしれないんだけど…それでもしょっ引かれるのだけは避けたい。一応店側には所定席には酒と言ってソフドリを回してもらうよう頼んだ。お酒を頼もうとする一年はやんわり咎めて…あぁでもそれじゃあ飲みサーの意味がないか。そこはもう…何とかするしかない。どっちかっていうと食べてお話するだけをメインにしていこう。

 

…ふと、思考を巡らせている俺がなんだか酷く馬鹿らしく思えてきた。飲みサーに入るヤツなんか最初から酒目当てなんだし気にしたってどうにもならないじゃないか。それに。なんで俺こんなことやってるんだろう。俺の想像していた大学生活ってこんなもんだっけか。頭の中で描いていた憧れには近い。彼女だっていて、友人もいて、遊んでるし勉強もそれなり…に出来て進級できている。どう見たって充実してるはずなんだ。見てみろ。自分の姿を。金髪で、チャラい恰好をしたどう見たって遊んでる奴だろ。リア充なはずだ。リア充だろ。

 

わかんない。俺はどうしたかったんだろう。大学デビューってこれであってんのかよ。

 

思考がどんどん淀んでいくのを振り払って、俺は新歓の事だけを考えた。

 

新歓を成功させる。まずはそれだろ。リアルが充実してんならそれでいいはずだ。

 

俺は、気合を入れた。

 

~~~~~

 

シャーーーーーー

 

浴室。男女二人。俺は風呂の椅子に座って、後ろに後輩が居る。二人共裸で、俺は大人しく背中を向けて髪を洗われる。

 

「ほら、先輩。目瞑ってないとシャンプー目に入っちゃいますよ~。泡いっちゃいますよ~」

 

浴室に響く後輩の声がする。昼間っから男女二人で風呂入ってるなんて、リア充なんじゃないだろうか。なんて、大学二年生の新歓の時を思い出す。俺はリア充なのか、大学デビュー出来たのかと現実とのギャップに悩んでた時、正直、あの時の俺はリア充じゃないと思う。自分の時間を犠牲にしてまで周りに合わせたりして、純粋に楽しむことなんかできなかった。もっと馬鹿になればよかったのに。周りの事を考えずに楽しむことだけを考えればよかったのに。そんなことできなかったから、俺は向いていなかったんだと思う。

 

「ん」

 

髪の中を後輩の指が這っていく。妙に上手くてされるがままになっている。浴室に鼻歌を響かせる後輩は少しして…

 

シャカシャカシャコシャコ…シャコ、シャカシャカッ…

 

「うーわ、全然っすよ。全然泡立ち悪いっすよ先輩。二度洗いが必要ですね~これ。一度目は大雑把な汚れだけ取っちゃって行きましょう」

 

そうしてシャワーを付けて泡を洗い流してはもう一度洗っていく。

 

「お痒い所はございませんか~お客様」

「楽しそうだな」

「へ?えぇまぁ!先輩の髪を洗えるなんて嬉しい事ですからね!」

「そんな嬉しいのか?俺の世話なんて…つまんない「そんなことないですよ」

「そんなことないですよ。先輩。私にとってこれほど嬉しいことはないんです。先輩が私を頼ってくれるのが嬉しいんです」

 

髪を洗われてるから目を瞑っていて、後輩がどんな顔をしているかわからない。でも、なんだか底なし沼に沈んでいくような、ドロドロに溶かされて消化される生き物の胃の中のような、言い知れぬ恐怖を感じた。

 

「ほら、先輩。髪洗い終わりましたし、身体も洗っちゃいましょう。私がぜーんぶ洗ってあげますから。動かないでくださいね」

「あぁ…」

「ふふっ、最初の抵抗はどこへやら…聞き分けのいい先輩は好きですよ~♪ほら~うりうり~胸を押し付けちゃいますよ~」

「やめてくれ。彼女が居る」

「っ…もう会ってないんですよね?それに、後輩と一緒にお風呂入ってるなんて知られたら幻滅されちゃいますって。だから、ほら、そんな人より私を選びましょ。別れて私にしましょう。ね?」

 

背中に縋りつくように胸を押し付けて、耳元で囁く言葉。それはどこか、必死の懇願にも、聞き分けのない子供に言い聞かすようにも聞こえた。甘くて、優しくて、沈んでしまいそうで…。でも俺にはまだ…つってもほとんど会っていない…彼女が居る。だから

 

「……ごめん」

 

「っっ……そうですか。まだ…足りませんか。わかりました。ちゃちゃっと体洗っちゃいますので湯船でゆっくり寛いでください。私も体洗っちゃうので」

 

「……わかった」

 

体を離した後輩は、俺の体をてきぱきと洗っていく。前は自分で洗った。それから、シャワーで洗い流すと、俺を湯船に押し込み、自分の体を洗い始めた。

 

ウルフカットの黒髪、最初会ったときからそうだったな。耳にはちらりとピアスの穴が見えて、怖いからって言って俺が空けたやつだ。何度も止めたのに。大学デビューですよ、なんて言って、俺が傷をつけた。

 

長い睫毛と切れ長の目。化粧はあんまりしなくて、自前らしい。女子男子問わず人気があって、あんまり人と話さないらしい…が俺とはよく話す。

 

凹凸のはっきりとしたプロモーション。胸張って、最近Eになりました!とか言ってたなとふと思い出して…慌てて目を別の場所に移そうとして…やり場を無くして下を向く。

 

綺麗でシミ一つない肌に泡がまぶされていくその姿は煽情的で見てはいけない秘密の園を覗いたような、そんないけない気持ちになる。

 

大して俺はどうだ。痛んだ髪。金髪に染めてたから若干色抜けしていないぼさぼさの髪。チャラい風貌は死んだ目一つで無残なことになっている。俺と後輩が話していると、嫉妬とかやっかみとかいろいろある。男女問わず。男子は嫉妬が大部分を占めて、女子はふさわしくないという感じで。それで、俺は今までの交友関係とか飲みサーの立場もなくなっていって、居場所を無くした。後輩は俺を想って、距離を遠ざけようとしたけど、お前が気にすることじゃないって、俺は虚勢張って嘯いて…寧ろ俺から会いに行くようにして…それが彼女を傷つけていることに気付かなくて、ただ後輩の不安そうな顔をなんとかしないといい先輩じゃないって…そう思って。

 

ふと、目の前に綺麗な足が湯船に差し入れられる。見れば、後輩が湯船に入ろうとしていた。俺の浴室は一人分しか入れなくて、必然的に触れ合う距離となる。俺は体育座りをしてスペースを開けた。

 

「あ、どうもどうも……ふ~、気持ちい~」

 

後輩が息を吐きながら、湯舟に沈んでいく。昔や今でもか。都合のいい光や湯気なんて現実にないから体が全て見えてしまう。俺は申し訳ないのと、恥ずかしいので、目を瞑って、湯舟が気持ちよくて目を瞑るふりをした。

 

「ふふっ…つつ―…」

「やめろ」

「あ、すいませーん」

 

チェシャ猫みたいな悪戯な笑みで俺の膝をなぞっていた指を離す。後輩はこういうところがあって油断ならない。気が抜けない。

 

「先輩、せんぱーい。私こんなにお世話してますよ~。いっぱい尽くしてますよ~」

「ご褒美くださいよ。ごほーび。それくらい許されますよ~」

 

目を開けて…言葉を失った。

 

後輩が俺の膝に胸を押し付けて、目の前まで顔を近づけていた。じぃーっと瞬きをせず見つめられて思考が停止する。

 

「先輩、お願いです。先輩のご褒美、ください」

「あんな女なんか捨てて、私にしましょう。お願いです。私を選んでください」

 

そっと手を取られる。右手は後輩の胸へと誘導されて

 

「全部、先輩が好きにして良いんです。先輩のものになります。先輩が良いんです」

 

「先輩、私、先輩のことが」

 

「す「もう上がろう」

 

ザバッと湯船から上がる。頭がゆだってどうにかなりそうだった。最後の言葉を言わせてしまったら、俺はもう戻れなくなる気がしたから。だから後輩を傷つけることだとしても、その先を言わないようにした。踏ん切りがつかなくなる。

 

振り返る。湯船に浸かって、こちらを見上げる後輩の目は、

 

「そうですね。上がりましょうか。のぼせちゃってすいません」

 

顔の赤みとは真反対の冷たい無感情な、硝子玉の目をしていた。




タイトルに困ったら、色、花、石に頼る癖やめたい。
2024-06-11 お話の矛盾が生じていたので修正
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