全五話で終わればいいなぁ。他も書きたい。あと新しい作品を性懲りもなく書いてるからそっちも見て…。ヤンデレッてよりかはヤバイ女とクズの話だけど。
歯車が狂ったのはその次の日からだった。
朝が来て…体を起こそうとした。ズキンズキンと痛む頭に飲み過ぎたことを思い出そうとして…あぁ気持ち悪い。昨日はあの後なにがあったのか。ここがどこだかとか、昨日はどうしたのかとか、寝起きの頭じゃ処理しきれなくて、痛む頭に振り回されながら視界を回して…一気に血の気が引いた。
そこは、マンションの一室だった。俺が住んでるよりも遥かに良い場所で、俗に言うなら金持ちが住んでいそうな…高級マンションといった様相だ。自分が転がっているベッドはクイーンサイズで、掛け布団なんかふわふわで重さなんかないようなものだった。ずっと寝ていたくなる。だがそうも言ってられなかった。
なぜって2限からとはいえ普通に授業はあったし、此処が仮にホテルか何かだとして、荷物を取りに行かねばいけなかったからだ。窓から見える日差しは朝と言えるかどうか微妙なところで、ふつふつと嫌な予感が背筋を駆け巡る。
なによりこのお腹に掛かる重量についても気になった。布団は軽い。重さをまるで感じない…だとしたら布団の重さと勘違いしていたのは一体何なのか。
布団をめくり、絶句した。
綺麗な女性だった。一糸まとわぬ姿で俺のお腹に頭を載せていた。蒼と黒が入り混じる髪を俺に投げ出し、体温を感じるように頬を押し付けている。抱え込むように腕を俺の足回してホールドしており抜け出すことができない状態となっている。ただ、少し涎がお腹…臍に垂れていくのが、綺麗さの中に人間らしい可愛らしさを感じさせる姿で…冷たい液体が入ってくることによるぞくぞく感だけがあった。
あぁ、ああ…俺も、俺も裸だ。二人の男女、裸でベッドで朝を迎えた。片や彼女持ちで、片や学校に名の知れた美女…どうしようもないほどの…スキャンダルだ。
後悔に苛まれる。また、間違えた。選択を。
俺はまた間違いを犯したのだ。
あの時の誘い、断ればよかった。あぁ、だんだんと、だんだんと思い出せてきた。
痛む頭がより鮮明に記憶を描き出す。思わず口を押えて…吐けもしないのに喉がえづいた。
昨日、あの後、俺は立川さんに連れられて、どこかのバーでお酒を勧められて、立川さんが聞き上手でずっと俺が抱えていた悩みとかそういうの、全部、全部吐き出して、その代わりを注ぎ込むみたいにお酒を飲んで、酔ってふらふらになって…
あぁそうだ。俺、持ち帰られたんだっけ。
記憶はそこで途切れていた。
普通逆だろとか、そんなのあり得るのかよって、こんなの夢なんだろって思う。
思うけど…
脱力するように手を放して…その手はふっと彼女に伸びた。お腹の上の、彼女の顔に掛かった髪を持ち上げて、薄ぼんやりと思った。
本当に間違いなんだろうか。
昨日の俺は止まらなかった。愚痴も悩みも全部吐き出した。思い出せた。ずっと、ずっと抱えてきたものを、たかだか昨日会っただけの、少し縁ができただけの後輩に全部吐き出して。
痛む頭に反して気持ちはずいぶんと楽になった。ずっと孤立していたようなモンだから、話を共有できたってことが、抱え込んでいたモンがもう自分だけのものじゃなくなったのが、とても、とても、嬉しかった。
ありがたかった。
間違いなんて、思ってもいいんだろうか。俺は
そう漠然と、髪を撫でて、ぱちくり、目を開けた立川さんと目が合った。
「………おはよっす」
「………あぁ、おはよう」
気まずい空気が流れた。
~~~~~
起きた立川さんは自分の状況を理解できず、お腹の上で数秒、止まってからまた寝そうになって…瞼が落ちきる寸前でまた覚醒した。大きく目を見開き、左に右に長い睫毛の中で瞳が揺れる。そっと体を起こして、掛け布団の中に身を隠すと、ベッドの反対に顔を出した。床に落ちた服を見て言葉をこぼす。
「あー…しちゃった…んすよね。昨日…その…すっごい恥ずかしいな……あー…服…脱ぎ散らして皺が…」
「…あー…ここって立川さんの」
「え、あそうっす。ウチっす。ウチ…自宅っすね。」
「そうか…すごい豪華というか…高級そうというか…」
「あー…モデルやってて、そのお金でってやつっす…防犯しっかりしてて駅近いんで…」
「…モデルやってる…ってのは昨日言ってたか」
「…っす。高校生の時からって…覚えてるんっすね」
「あぁ…」
お互い何を言っても気まずくて当たり障りのない言葉で終わる。俺のお腹からそっと離れた立川さんはベッドの反対にいってこちらに背中を向けた状態で、俺もなんだか顔を合わせづらくて背中を向けて…結果、背中合わせの状態で話をする。
「き、昨日のことってどれくらい覚えて…」
「家に着くまでは覚えてるよ。はっきりと」
「あ、あぁ~……そうなんっすねぇ…ほとんど全部……全部なんすねぇ…」
「…ちなみに立川さんは…」
「…その先の家で介抱したところまでっすねぇ。パイセンが家に着いて吐いていたのは覚えてんすけど…そっからなんでか宅飲みが始まって…そこで記憶は飛んでます」
「……そうか」
長い沈黙が流れた。俺…吐いたのかよ…。確かに俺は昨日、そんなに強くないはずの酒をどんどん飲んでいた。記憶があいまいになるわけだ。これ以上、どうしていいかわからなかい。彼女に迷惑をかけて、その上、手を出したのだ。相手がモデルということもプレッシャ―が掛かった。…それがどれだけの重さなのか想像もつかなかった。見えない重圧が、彼女のファンの圧力に押し潰されそうになっている。バレてもいないのに。心が耐えきれるものではなかった。
「その…パイセン、ごめんなさい!」
「えっ」
「や…パイセンに彼女さんが居るって聞いてたのに私パイセンにガンガン酒飲ませて…こんな家に連れ込むなんてことして…ごめん、なさい…本当に…ひどいことを…」
「あ、違う、違う!俺も悪い!…愚痴も悩みも全部吐き出して…浴びるように酒飲んだのは俺だから…!俺が手を出したんだろ!?その…済まない」
「え、や…あー…」
謝りたいのは此方の方だった。あんだけ酔っていて放置するのも忍びなくて、彼女は俺を家に連れてったんだろう。そんな彼女に介抱されて、その上宅飲みをして手を出した…そうした筋書きだろうか。最低だな…俺。
間違いじゃないと漠然と思っていた気持ちは雲散霧消した。こんなの最低な間違いだ。一人の人生を台無しにしたといっていい。訴えられでもしたら俺は終わりだ。彼女のことを心配するよりも、自分の心配が勝ってしまっている。間違いを重ね続けていることが、俺の視野を狭くした。にべもない言葉を吐く。
「その…パイセン…」
「…なんだ。俺ができることならなんだってする。償いでも、なんでも」
「あー…じゃあその…」
「せ、責任取って…くださぁい…なんて…はは」
「…わかった。」
「あ、え、や…あちが、じょ、冗談!冗談っすよ!…すみません、今言うことじゃないっすよね。シャレになってないっすもんね…」
正直…肝が冷えた。心臓が縮み上がり、責任の重さに吐きそうになったが、すぐさま続いた言葉に少しだけ安堵した。安堵した自分が…嫌いになった。彼女が居るのに手を出して、責任取ってという上段に安どする自分が酷く情けなく、醜く感じた。立川さんの言葉は続く。それは少し懇願するようなものだった。
「で、でも…責任取るのは間違いじゃないというか…その、約束してください」
「…何についてだ?」
「今回のことはお互い行き違いがあっただけっす。だからその…先輩と後輩の関係はこれからもしていきたいというか…今日のことがバレないようにしたいというか…」
「せっかく…助けてくれたのにこんなので関係が終わっちゃうの…やだなぁって…そんなのパイセンには関係ないっすよね」
「…分かった。それで立川さんがいいなら…そうする」
「あ…へへ…じゃあ後輩って呼んでください。立川さんだと他人行儀っぽくて嫌なので…」
「わかった…後輩…でいいのか?」
「っ、えぇ…えぇっと…そう、そうっす。一蓮托生っすよ。私はバレたらモデルの仕事に影響出ますし、パイセンも…彼女さんに悪いっすよね。お互いバレたくないっすから…」
「二人だけの秘密っす。」
此方を向いて、上目遣いで言う立川さん…後輩の姿が、なんだかまるで狙ったように感じて。そんなの言いがかりだってわかってるはずなのに。俺の求めている言葉をくれる後輩が魔性のように見えて。なぜかハメられたような気がした俺は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
二人だけの秘密にすればいい。でも、後輩は思っている以上に人目を引くことに、俺が思う以上に心色を向けられやすいということの重さに、俺は考えが回らなかった。
地獄が、始まった。
~~~~~
狭い部屋、小ぢんまりとした掃除もあんまりされてないような、パイセンの生活が染み付いた部屋。二人の、二人だけの城、私達だけの国。そう言えば随分と家に帰ってないっすねぇ…。たまに物とか持って行ったりするくらいで使わなくなったんすよねぇ…解約しようかな。ここに住んでしまうのもいいっすねぇ。パイセン、押しに弱いんで住む場所がないと言えば頷いてくれるっす。…そんなんだから私に付け込まれるんすよねぇ…。
もそもそと冷しゃぶを食べるパイセンを見て、狂おしい程の愛情がこみあげる。なんだか小動物みたいっすねぇ。可愛い。可愛いっすよ。頭を撫でたくなります。ただ生きるための燃料補給みたいにご飯を食べる姿がちょーっともにょもにょしますが、私がそうしたんで何も言えないっすね。
あの時の…絶望している表情が脳裏をよぎって口角が上がるのを何とか押さえる。パイセンにいっぱいお酒を飲ませたあの日、ちょーっと飲ませすぎたかなぁって思ったらすごい青いを通り越して土気色の顔してるんすから慌てて家に連れ帰りましたよ。それで、トイレでゲーゲー吐くパイセンの背中を撫でて、落ち着くまでずっと側に居て、その後私から宅飲みに誘ったんすよねぇ…。あわよくば手を出してくれないかなぁ…そう思ってのことだったっす。べろんべろんに酔ってたんで忘れてるだろうなぁって、一夜の過ち、お酒の泥に消える泡沫の情事…になればよかったんすけど。
その後、宅飲みしようってなったのに、吐いていくらか酔いがさめたパイセンが帰ろうとしたんす。迷惑はかけられない~って。それに私はもういっぱい迷惑かけてるんで今更気にしないでください。それとも私と一緒にいたことをバラされたくないんすか?って脅したんす。
だって、だってだってずるいじゃないっすか。最後の最後まで、ずっと彼女が居るから~って。彼女さんに悪い~って。何すかソレ。ずっと誘ってるのが馬鹿みたいじゃないっすか。胸だって見せても、目そらされるし、自信なくすっすよ。モデルやってるのに自分の身体が見てられないものだって言われてるみたいっすよ。有象無象に視線を向けられることは慣れてるはずなのに、パイセンの恥ずかしそうに逸らされる視線にはなんだかこっちも赤面して。お酒で自制心が弱くなってるはずなのに、下心を必死に隠そうとしてるのが、すごい愛おしくて。ずるいなぁ、いいなぁって、彼女さんへの嫉妬や羨望がどんどん強くなって。そこはガン見しとくべきだったんす。そうすれば、他と同じ有象無象と見れたのに。襲っておくべきだったんすよ。そうすれば、ただの一夜の過ちで、周りと同じケダモノだって割り切れたんすから。それに、彼女さんの事なんか話しに出さなくてもいいじゃないっすか。話に出さなければ、私は人の物を取ろうなんて感情が鎌首をもたげなかったのに。
据え膳食わぬは男の恥…パイセンは最後まで据え膳に手を付けなかったので…据え膳の方から口に足を運んでやりました。強引に飲ませてぐいぐい迫って、押し負けたパイセンをベッドに連れ込んで、そのまま…ふふっ、お酒の力に負けたっす。揶揄うくらい、助けてくれたお礼をするだけ、そんだけだったのに、パイセンがあまりにも可愛くて、彼女さんへの嫉妬が強くなって………
なら、私がもらってもいいかなぁって
パイセンはすごい優しくて、まるでこっちがはしたない感じで、…実際私の方がアレでしたけど…私の我儘いっぱい聞いてくれて、私を満たしてくれて、情事が終わって力尽きたパイセンとの姿を写真に撮って、そこで冷静になって、最悪な事してるなぁって、他人事みたいに思って…すごい自己嫌悪になって…
それからどうするか、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて考えて、考えて、考えて考えて、考えて、考えて、考えて考えて、考えて、考えて、考えて考えて、考えて、考えて、考えて考えて、考えて………
結局、パイセンの罪悪感に付け込もうと考えて…今は、今だけはこの下腹部に感じる温かさだけを味わっていたいなぁって眠りについて。
その日から、私は人一人の人生を台無しにしたんすよ。私はパイセンの姿に耐えきれなくて、パイセンは周りに耐えきれなくて…二人で泥沼に沈んでいったんす。
あ、ご飯食べ終わったんすね。……じゃあ、パイセンしましょっか。
やっぱりねぇ。こういう…なんというか、欲に振り回される女性ってのはすごい良いんだよ。相手が優しければ優しいほど映える。それで狂っていく様ってのはねぇ…花みたいに美しいんすよね。ちなみにスターチスの花言葉って「永久不変」「悪戯心」らしいっすね。