稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第8話 ラジオ、くる

「ラジオ?」

『えぇ。知ってるでしょ? project:radio』

『パーソナリティが交代制の、うちの事務所でやっているラジオだな』

 

 三人で集まってボイス台本の校正をしている時、月宮さんから出た話題。『project:radio』。うちの事務所でやっている、週ごとにパーソナリティが交代していくラジオ番組だ。本当のラジオのようにスタジオへ行って、リアルタイムでお届けする。ラジオとはいっても局でやるわけではなく、WeTubeで配信という形でやるだけだ。

 

「project:radioがどうかしたんですか?」

『次、私たちの番になるみたいよ。マネージャーさんから連絡こなかった?』

『あぁ、無視していた』

「あぁ、コミュニケーション取らなさ過ぎて存在を忘れていました」

『なるほど、どうやら私がしっかりしないといけないみたいね』

《そろそろちゃんとコミュニケーション取らない?》

 

 いや、だって。月宮さんとかアザミさんとか、ライバー相手だとミッドナイト・サイコナイトが乗り移るからまだ話してられるが、マネージャーさん相手だと『佐藤たけし』になってしまう。言っちゃなんだが、佐藤たけしは社会不適合者だ。マネージャーさん相手に大失言して、クビにされる未来が見える。

それに、時々帝斗がメールをチェックしてくれるからなんとかなってる。実質帝斗がマネージャーみたいなものだ。ちなみに、そのことについて透華から「甘えすぎっスよ。西園寺さんは先輩のお母さんじゃないんスから」とお叱りを受けた。ほんとうにその通りだと思う。

 

「嬉しい話ですね。こうも立て続けに公式番組に呼んでいただけるなんて」

『結構手厚いわよね。私たちの成功が事務所の収入に関わるから、それはそうなんでしょうけど』

『とはいえ、公式番組に早い段階で呼んでもらえるのは、私たちの需要があるということだ。一週間任せるんだ、半端なやつは呼びたくないだろう』

《月宮さんとアザミさん、しっかりしてるもんね》

 

 俺は?

 

『それで、企画どうする? 毎日1コーナーは好きなことしていいらしいけど』

「ちょっと待っててください。頼りになる友人に声をかけます」

『それは私たちと話して、答えが出なかったときにしろ。今私たちと話しているのに、他に頼られるのは気に入らない』

「キュン! いいですねそれ。ボイス台本に組み込みましょう!」

『片鱗はあったけど、ボイス台本作り始めてから更にキモくなったわね』

《そんな傷ついた顔でこっち見ないで佐藤さん。佐藤さんは真面目なだけだから! キュンはキモいなと思ったけど》

 

 いや、ありがたいことだ。俺は人と話した経験がほとんどないから、何がキモくて何がキモくないのかのラインがあまりわからない。こうしてはっきりキモいと言ってくれるのは、そのラインの見極めに役立つからな。その代償にメンタルがやられるが、安いものだ。社会人はもっとメンタルがやられているんだから、これくらいなんてことはない。

 

『固定であるコーナーは、proect:edenの箱企画募集、パーソナリティのライバーに配信してほしいこと、パーソナリティのおすすめ配信……これに被らない企画じゃないといけないわね』

『うまいやり方だな。ラジオを通して箱の宣伝をしているわけか』

「だからこそ、パーソナリティの力量が問われますね。ただの宣伝だと捉えられるか、面白い宣伝だと捉えられるか」

『それはあんたがいるから心配してないわ』

『あぁ。ニコは面白い生き物だからな』

「満。これは褒められてるということでいいのか?」

《面白いは褒め言葉だよ! 自信と自己肯定感持って!》

 

 あんまり慰めで自己肯定感持ってって聞いたことないぞ。自己肯定感が薄いって言ってるのと一緒じゃないか? 悪いが、自己肯定感はある。あった上で、自分の悪い部分を認める度量があるということだ。悪い部分が多すぎて反省ばかりで、自己肯定感が薄く見えるのは否定しない。

 しかし、コーナーを考えなければいけないのか。どうしよう。俺の配信はほとんど帝斗と透華のアイデアで成り立っている。まったくいい提案ができる気がしない。

 

『せっかくなら、三人でないとできないことがいいな』

『あんたって私たちのこと好きよね』

『だから好きだと言っているだろう。いじわる』

『今視聴者いないから、あざといことしなくていいわよ』

「ドッキュン!」

『くらってくれるやつはいるから、意味はあったみたいだ』

《佐藤さん。佐藤さんがキモいって言われるのって、擬音を口にするところが大部分を占めてるんだよ》

 

 俺はシュンとした。

 

 いや、でも、アザミさん声の乗せ方うまいんだよ。ちゃんと感情が乗ってるというか、アザミさんのようなキャラクターの人に拗ねた感じで「いじわる」って言われたら、そりゃもう男ならドッキュン! とくるに決まっている。その後に笑いながら「こういうのが好きなんだろう?」って言われたらたまらない。わかるぞ、アザミさんのファンの気持ち。

 

 あぁ、だからキモいって言われるのか。反省した。

 

『せっかくなら、満ちゃんのことに触れたいわね』

『あぁ、そうだな。公式番組なら、赤羽満のことを知らない者もいるだろう。広く認知してもらえるいい機会だ』

《好き……》

「満! 嬉しいのはわかるが浮き上がりすぎだ! 戻ってこい! 昇天するかと思うだろうが!」

 

 幸せそうな顔をして天へ昇り始めた満を慌てて呼び戻す。成仏は悪いことではないだろうが、満がいなくなったら寂しくて泣く自信がある。そしてしばらく何もできなくなる。透華にもなんて説明すればいいかわからない。数年間成仏しなかったのに、「俺の同期が好きすぎて成仏した」なんて言ったら、絶対嘘だと思われる。

 

『……ん? そうか、ニコ。近いうちに私の家へきてくれないか』

「えっ!? あっ、お、俺ですか!?」

『ちゃんと名前を呼んだだろう。いや、赤羽満の声をどういう風に届けようか考えていてな。本来なら肉声そのものを届けられればいいんだが、ひとまずボイスチェンジャーを利用しようと考えた』

「あぁ、なるほど。満の声を知るのは俺しかいないから、声を作る手伝いをするということですね」

『ニコはポンコツの割に話が早くて助かる』

『私が言えたことじゃないけど、とりあえずニコを攻撃するのやめてあげなさいよ』

「いや、満のことを考えてくれている嬉しさが勝りすぎて気になりません」

《嬉しすぎて涙出てきた……》

 

 俺もだ。最近泣くことが多い気がする。悲しみと嬉しさが5対5の比率で。

 

 なるほど、ボイスチェンジャーか。実際に声を乗せるのは俺で、満の声を聞いて、ボイスチェンジャーで音声を切り替えてからそれを音に乗せる、という工程になるだろう。慣れが必要だが、俺には余り過ぎて配りたくなるほど時間が余っている。なんなら、ラジオまでに間に合わせよう。

 

「わかりました。ラジオまでに完成させたいです」

『気が合うな、私もそう考えていた』

『私も一緒にお邪魔していい? ついでだし、そこでコーナーのことも考えましょ。それまでは各自考えるってことで』

『そうだな。直近で空いているのは、というより何より優先させることに今決めたから明日が空いている』

「俺も腰抜かすくらい予定がありません」

『私も大丈夫。なら明日にしましょ』

『あぁ。住所は送っておく。今日は解散だな』

「えぇ、よろしくお願いします」

 

 通話が切れ、るんるん気分で明日のことを考える。嬉しい。今まで幽霊が見えると言ったらバカにされていたから、満の存在を認めてくれるやつはほとんどいなかった。それこそ帝斗と透華くらいだ。だから、こうして満のことを肯定して、満のために何かを考えてくれることが嬉しくてたまらない。

 

 しかし俺はふと、とある事実に気づく。

 

「……アザミさんの家に行って、月宮さんとアザミさんと対面するだと!!!!!???」

《びっくりした!!》

 

 そうだ、そうじゃないか!! 嬉しすぎて思考の彼方へ飛んでいたが、オフであの二人と会うんじゃないか!! それも配信という形ではなく、完全なオフで!! いや、ラジオのために集まるから完全なオフだと言うわけではないが、その空間を共有するのは俺と満と月宮さんとアザミさんだけだ。

 

 死ぬほど緊張してきた!!

 

「み、満、どうしよう。確か、女性の家できょろきょろ物色したら死刑だよな!?」

《そんなバイオレンスな法律なら、今頃私のお仲間でいっぱいだと思うよ?》

「そ、そうか。なら懲役何年くらいだ?」

《物色したくらいで法律に触れたりしないから。動揺しすぎ》

 

 するだろう、動揺! 女性の家に行くんだぞ? 透華の家にすら行ったことないのに! でも、アザミさんの家なら研究所っぽいイメージがあるから、比較的女性を意識することはないのか? クソ、なんで俺はこんなに人生経験が薄いんだ!! 普通幽霊が見えるなら、人より人生経験が豊富であって然るべきだろう!!

 

《別に、そんなに緊張する必要ないんじゃない? あの二人だし、佐藤さんが何かやらかしても笑って許してくれるよ》

「それはそうだろうが、だからと言ってそれに甘えていい理由にはならんだろう。甘えの先にあるのは停滞だ。親しき仲にも礼儀あり。許してくれるからこそ、より気をつけなければならん。というわけで、帝斗と透華に助けを求めるぞ!!」

《停滞してるじゃん》

 

 満の言葉は、帝斗と透華に助けを求めるのに夢中で聞こえなかったことにした。

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part3

 

672:このライバーがすごい! ID:qlIfS5fal

【朗報】来週のproject:radioのパーソナリティ、ニッコリ探偵団に決定

 

673:このライバーがすごい! ID:dCiBS2O+C

めでたい

 

674:このライバーがすごい! ID:P3kVTFN8y

目で鯛

 

675:このライバーがすごい! ID:bCQ4VMGRf

芽出た

いい

 

676:このライバーがすごい! ID:ww+ImsL4o

>>674

>>675

二度とここにくるな

 

677:このライバーがすごい! ID:E0iRjxcJg

そこまで罪深いこと……?

 

678:このライバーがすごい! ID:IodnlPyxI

ニコの視聴者だ

俺にはわかる

 

679:このライバーがすごい! ID:2PoyWo2kw

というか層的に、ここにくるのって大体ニコの視聴者だろ

 

680:このライバーがすごい! ID:undniuXjW

そしてニコの視聴者は、ニコをよくしてくれる優姫ちゃんとアザミんが好き

 

681:このライバーがすごい! ID:QsZbaJkNp

つまりニッコリ探偵団の視聴者

 

682:このライバーがすごい! ID:XfvRgPZ5q

つまり来週のパーソナリティに決定したのがみんな嬉しい

 

683:このライバーがすごい! ID:sgoApEwsy

実際勢いすごいよな、ニッコリ探偵団

 

684:このライバーがすごい! ID:RH53rpjLg

叩かなくても鳴るニコ

正統派の優姫ちゃん

あざとい知性派アザミん

見えない癒し満ちゃん

勢いが出ない要素がない

 

685:このライバーがすごい! ID:MMbOpSZUG

全員、どのライバーと絡んでもいけそうだし

 

686:このライバーがすごい! ID:Pk64DX4kv

ソロ配信も面白いけど、先輩とのコラボも見たいな

 

687:このライバーがすごい! ID:TOGMVoiG1

控えめなライバーとニコは合わないんじゃない?

 

688:このライバーがすごい! ID:fIdhSVq0I

>>687

自分がどうにかしないと! って空回りして面白くなるニコの姿が見える

 

689:このライバーがすごい! ID:h266z1uSc

ニコは面白がれるコンテンツだからな

 

690:このライバーがすごい! ID:y7ZNY8olS

あの性格であの面白さで友だちいないんだから、本物のコミュ障なんだろうなぁ

 

691:このライバーがすごい! ID:SSdXg3NNy

正直、優姫ちゃんとアザミんだからニコがここまでやれてるっていうのもありそう

 

692:このライバーがすごい! ID:OAicC9Nfs

面倒見いいよな、優姫ちゃんとアザミん

 

693:このライバーがすごい! ID:GtbemvACv

俺も面倒見てもらいたい

 

694:このライバーがすごい! ID:s9VrXgG6v

>>693

なら、厨二病を患って仕事をなくして実質ニートになりつつ、社会的信用と社交性を失え

 

695:このライバーがすごい! ID:AFNorIKF0

代償がデカすぎる

 

696:このライバーがすごい! ID:Bbtzdso7h

ニコってそんなボロボロなのに、なんであんなキャラでいられるんだ?

 

697:このライバーがすごい! ID:OO7L0bMpH

人に恵まれたんだろうな

 

698:このライバーがすごい! ID:14hiU/s5R

俺嬉しいよ、ニコ

 

699:このライバーがすごい! ID:FnPVVkVck

何はともあれ、ラジオ楽しみ

 

700:このライバーがすごい! ID:EinhH8za6

オリジナルコーナー何するんだろ

 

701:このライバーがすごい! ID:PWI5aZ/lN

あの三人なら心配ないだろ

 

 

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