稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

104 / 227
第102話 守るべき報連相

 アザミの3Dお披露目配信、当日。帝斗に送ってもらうことなく満と一緒に事務所へたどり着き、控室へ移動しているところ。

 

 ありがたいことに俺も呼んでもらえた。呼んでもらえなかったらむせび泣いているところだったからよかった。一視聴者としてアザミの3Dお披露目を楽しむだけというのもいいと言えばいいが、やはり俺としても仲がいいと自信を持って言える相手でもある。そんな相手から呼ばれなかったら、俺は今後友人を作れなくなっていたかもしれない。だから呼んでもらえたよかった。

 

「別に今までも作れてなかったと思うけど……」

「貴様!!」

 

 最近クセになっているのか、俺の思考を読んで余計な一言を言う満に憤慨し、追いかけっこが始まる。そろそろ言ってやらねばならん。親しき中にも礼儀あり。これからどんどん成長していくのだから、人との関わり方に関して、俺相手で慣れてしまってはいけない。

 

 しかし、無謀だった。俺は体力がまったくなく、俺と満の差はぐんぐん開いていく。やがて、満の姿が見えなくなったところで、膝に手を付いて全身で息をする。つ、疲れた。俺、体力なさすぎじゃないか? おかしい。俺はただ、究極のインドア派ではあるものの、ちょくちょく収録とか買い物とか色々行っているのに。元々の体力が少ないからか? やはり、ジムに行くべきか……。今度帝斗に連れて行ってもらおう。

 

「……そういえば、事務所で走るのもよくないことだったか」

 

 口の悪さを注意する前に、俺もダメなことをしてしまっていた。これでは注意する資格がない。誰にもバレなかったからいいというわけではなく、人間というのは誰にも見られていないところでの振る舞いにこそ人格の根幹がある。普段ちゃんとしていない人間が、表でちゃんとできるかと言われれば、完全にはという枕詞がつけばノーだ。

 ……まぁ、今回は許してやることにしよう。満もいい子だから、ちゃんとわかってはいるだろうしな。ひとまず、死にかけている俺を潤すために、自販機に行こう。このままではお披露目に死に体で出ることになってしまう。

 

 満が姿を消した方向とは逆側にフリースペースがあり、そこに自販機も設置されている。近くに給湯室もあって、インスタントの飲み物もいくつかあるが、疲れたからと言ってコーヒーを飲むのも微妙な話だ。水でいいだろう。

 

「!!!!??」

 

 水を買おうとフリースペースに到着した瞬間、身を隠す。それはなぜか。

 初対面の人がいた。しかも二人。一瞬見えた感じでは色違いの同じ服装で同じ背丈。俺の記憶と照合するに、エルさんとロイさんだろう。

 

 エルロイの愛称で親しまれているお二人は、『project:eden』の7期生であり、双子。アルの同期であるお二人だが、所属は6期生の『ヴァールハイト』と少しややこしい。デビュー配信では「情操教育のために、まともな人とデビューさせる」とエルさんの口から明言されていた。そういうことなら納得しなくもない。ヴァールハイトの方々は、サラさんとイオスさんはともかく、グレイヴィーさんとイレイナさんとリックさんは少し教育に悪い。

 が、エルさんとロイさんは年齢不詳ではあるものの、未成年ではなかったような記憶がある。見た目は未成年に見えるが……。いや、女性に年齢の話はご法度か。よかった。このことに気づく前に顔を合わせていたら、「おいくつですか?」と聞いてしまって大炎上し、アザミのお披露目配信を俺の引退配信に塗り替えてしまうところだった。

 

「ねぇ」

「ヒィ!!」

 

 ごちゃごちゃ考えている俺を見上げるようにして、いつの間にかエルさんが立っていた。思わず飛びのいて悲鳴を上げてしまったが、ここは情けない後輩として見られないよう立ち振る舞う必要がある。

 襟を正して正面に向き直り、「すみません、ミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコ。深夜の狂騎士です」と一礼。ふっ、決まった。

 

「変な名前ー」

 

 しかし、後ろからジュース片手にてちてちと歩いてきたロイさんに真っ向からバカにされた。へ、変な名前……! ルーシィといい、なぜ見た目年下の子は俺をバカにしてくるんだ!

 

「こら、ロイ。確かに変な名前だけど、正面から言ったらダメよ」

「あ、そっか。ごめんなさい」

「あ、あぁ、いや……えぇ、構いません」

 

 エルさんもバカにしながら注意していたが、この程度で憤慨するような男ではない。相手は先輩だしな。一種の可愛がりとでも思えば、怒りも沸いてこないというものだ。

 

「自己紹介が遅れたわ。私はエル、こっちはロイ。アザミのお披露目にお呼ばれしたの」

「よろしくー」

「よろしくお願いいたします。そうなんですか……アザミは俺と満と月宮さん以外は誰が出るかを隠していたので、初めて知りました」

「アザミがねぇ、『事前に知らない方が、ニコが動揺しそうで面白そうだから』って言ってたよ」

「どうやらその目論見は外れたようですね」

「当たってたわよ」

 

 エルさん曰く当たっていたらしいが、そんなことはない。この場にアザミがいない以上、俺を面白がれなかったということだ。アザミに勝利したようで気分がいい。

 少し話しただけだが、大人っぽい喋り方をする方がエルさん、子どもっぽい喋り方をするのがロイさんで間違いなさそうだ。いくら双子だとはいえ、間違えるのは失礼にあたる。元々コミュニケーションが得意ではないのだから、せめて人間違いくらいは避けなければならない。

 

「そういえば満は? 一緒じゃないんだ」

 

 ロイさんがジュースで喉を潤してから、きょろきょろ周りを見て首を傾げる。俺たちのことを知ってくれていたことに一瞬大喜びしそうになるが、大人としてぐっと抑えた。

 

「どうしたの? でろでろした顔でガッツポーズしてるけど」

 

 抑えられていなかった。そりゃ周りの人に思考を読まれるわけだ。省みよう。

 

「満なら、先に控室にいるかと思います。俺たちも行きましょう」

「そうね。はじめましてだから挨拶しておきたいし」

「ヴァールハイトに勧誘しようよ。空飛べるんでしょ?」

「バカ。一般人だからダメ」

「えー」

 

 ……ヴァールハイトとは本当に存在する組織なのか!? 運動能力が化け物だったり何かしらの卓越した特技を持っていたりするから、特殊部隊ではないかと噂されていたが、まさか本当に!?

 いや、普通にユニットとして勧誘する、と言っていただけかもしれない。『空を飛べるから』というのも実に子どもらしい着眼点だ。だが、空を飛べるからこそ可能になる作戦もある。そう考えればやはり、ヴァールハイトは何かしらの組織だということなのではないか?

 

 ……聞いてみるか。

 

「その、一つお聞きしても……」

「どうぞ」

「ヴァールハイトとは、何かの組織だったりします?」

「うん! 傭兵組織!」

「と、ロイは思い込んでるけど、普通にユニット名よ。ただの」

「あぁ、そ、そういうことですね。ハハハ」

「元厨二病っていうのは本当みたいね」

「カッコいいじゃないですか! 組織とかそういうの!」

「そういうのに憧れる年齢じゃないと思うわよ」

「憧れに年齢は関係ありません!」

「いつまでも憧れだから成長しないんじゃないの?」

 

 ロイさんに撃ち抜かれ、俺は絶命した。そんな俺を放置して、エルさんとロイさんは控室に向かっていく。

 ちくしょう……。やはり傭兵組織は本当なんじゃないか? 無邪気に口を滑らせたロイさんをカバーして、ただのユニット名だと誤魔化しただけだろう。でなければ、俺がこうして絶命している理由が説明できない。きっと音もなく狙撃されたに違いない。ロイさんの言葉に傷ついて倒れたというわけでは決してない。

 

 そろそろ立ち上がろうと床に手を付いて立ち上がろうとして、満との追いかけっこの負担に襲われて無様に滑り、床とキスをしてしまう。危なかった。イベリスが事務所をオシャレに清潔に保っていなければ、危うく病気になるところだった。

 心の中でイベリスに礼を言いながら安心していると、背後に気配を感じる。床に這いつくばりながら後ろを見れば、小さく首を傾げたアザミと、怪訝な表情をしている月宮さんがいた。

 

「……何をしているんだ?」

「アザミ、月宮さん! ち、ちがう! 決して俺は床に性的興奮を覚えるわけでは」

「なら先に弁明させてほしいが、私はそのような勘違いをするほど愉快な脳をしていない」

「エルさんとロイさんにでも会った? どうせ傷つくこと言われて倒れて、立ち上がろうとして失敗したんでしょ」

「帝斗の血縁か?」

「将来を支える妻として素晴らしい理解力だな」

「こんな床に這いつくばるような男と私が結婚するように思える?」

「優姫はもっと賢いと思う」

「そういうことよ」

「お前たちまで俺をボコボコにしなくていいだろうが!」

「いつも通りのじゃれ合いよ。でも、傷ついたならごめんなさい。ほら」

 

 差し伸べてくれた月宮さんの手を取って立ち上がる。「軽っ」という月宮さんの言葉は傷つくから聞かなかったことにして、服についた埃を払……ついていない。イベリス、どこまで事務所をオシャレに清潔に保っているんだ?

 あまりの綺麗さに思わず感動していると、アザミが小さく笑ったことに気づく。どうしたんだと尋ねてみれば、俺をからかうようににやにやと笑いながら、

 

「初めの頃なら、手を取ることすら躊躇するほど童貞だったろうにな、と」

「!! すまん月宮さん! シャワールームはあっちだ!」

「行かないわよ」

「流石に俺はそこまで汚くなかったか……」

「アルコール消毒液あるから」

「俺は汚かったか……」

「そんなことより、聞きたいことがあるんだが」

「俺の清潔感をそんなことで片づけるな。なんだ?」

 

 アザミがずいっと体を寄せて、至近距離で俺を見上げてくる。ちっ、近い! もっと離れてくれ! 俺は男でアザミは女性で、つまりその、あまり距離を近づけるべきではないということで!

 

「さっき満を見たが、背が伸びていなかったか? もし成長するようになったのだとしたら、なぜ私たちにはそれを伝えていない? 納得のいく説明をしてもらおうか」

 

 さっきとは別の理由で離れてほしくなった。月宮さんに助けを求めたが、今回ばかりはアザミの味方のようだ。

 

 満ー!! いつも通りなんだかんだで和やかな空気にしてくれー!!

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part22

 

189:このライバーがすごい! ID:+LWMD0XWd

アザミんの3Dお披露目だ!!

 

190:このライバーがすごい! ID:vQsBq5KGd

うおおおおおおお!!!

 

191:このライバーがすごい! ID:qgmS275ev

でぇりゃああああああああ!!!

 

192:このライバーがすごい! ID:JjDA/IeR4

今日は流石にスパチャオンにするらしいからな

 

193:このライバーがすごい! ID:Le+HSe9gU

>>192

普通にオフのまま行くつもりだったけど、ニコがオンにしたからオンにするって言ってた

 

194:このライバーがすごい! ID:6/TNAJiWd

お揃いがいいってこと……!?

 

195:このライバーがすごい! ID:yoE4w5MwC

アザミんはあれで一番可愛いところあると思ってるから、ない話じゃない

 

196:このライバーがすごい! ID:XTZatHDUs

あんな冷めた感じなのに同期大好きとかふざけんなよ俺を虜にしやがって

 

197:このライバーがすごい! ID:vxzF1+hGa

今日も虜にされにきました

 

198:このライバーがすごい! ID:G2Y7YccIW

はじまった!!

 

199:このライバーがすごい! ID:wM5oPhork

めちゃくちゃ研究室

 

200:このライバーがすごい! ID:7E1ToylGE

プロエジェってめちゃくちゃ技術あるけど、どこから人材引っ張ってきてるんだ?

 

201:このライバーがすごい! ID:n019cqYin

シゲキとアザミんがいるから、いくらでもコネあるだろ

 

202:このライバーがすごい! ID:o/wYXCq4V

アザミんかわいい!!

 

203:このライバーがすごい! ID:CR7/dMlfc

めちゃくちゃダルそう!!

 

204:このライバーがすごい! ID:dkttlp64d

開始5秒で座ったぞ!

 

205:このライバーがすごい! ID:AiFdD2IU6

むしろ開始5秒は立ってたことを褒めるべきだろ

 

206:このライバーがすごい! ID:UtMzUu1uh

アザミん「アザミ・フレンジーだ。ではゲスト」

 

207:このライバーがすごい! ID:3WrEJpwEP

くっ、ファンサが全然ない……!

 

208:このライバーがすごい! ID:b3w9GLvgd

痺れるぜ……!

 

209:このライバーがすごい! ID:nn5MP4SIY

やっぱエルロイか

 

210:このライバーがすごい! ID:YtEVjsUzc

エル「私はエル、こっちがロイ」

ロイ「あのねー、さっきニコに会ったよ。変だった」

アザミん「ふっ」

 

211:このライバーがすごい! ID:XHqjImoWJ

同期がツボのアザミん、尊い

 

212:このライバーがすごい! ID:LXQWWlw3i

ロイがアザミんのお膝に乗ったぞ!!

 

213:このライバーがすごい! ID:u1FY/+KGl

エルは背中に張り付いたぞ!!

 

214:このライバーがすごい! ID:Ptyut7Qdb

アザミん「重い」

エル「普段運動しないからよ」

ロイ「というわけで、project:sportsで勝負だ!」

 

215:このライバーがすごい! ID:+cLhzVG9R

いつもプロエジェの企画名なんじゃないかと勘違いする

 

216:このライバーがすごい! ID:mTMV+Roih

projectっていうハードの、モーションつきのコントローラーでスポーツゲーできるやつか

プロエジェのまとも組が案件やってたな

 

217:このライバーがすごい! ID:DDbLry3Hb

アザミんが動くのか……?

 

218:このライバーがすごい! ID:oQDdIDmjh

一種目目はテニスか

 

219:このライバーがすごい! ID:yKdeDT19j

当然のようにダブルスでアザミんが孤立してて草

 

220:このライバーがすごい! ID:rqUNsmONe

CPUいるし……

 

221:このライバーがすごい! ID:kjLxNqP7r

エルロイもめちゃくちゃ動けるんだよな

 

222:このライバーがすごい! ID:jQp3p3L5c

まぁ流石に負けるだろ

 

223:このライバーがすごい! ID:FvUkLyyxB

あ……

 

224:このライバーがすごい! ID:sboNz86eJ

え……

 

225:このライバーがすごい! ID:+ff4inVPI

アザミん、手首だけ動かして1ゲーム先取

 

226:このライバーがすごい! ID:pjUNx6FKq

エルロイ「なんで!」

アザミん「本当のスポーツではないからな。どうすれば勝ちやすいかは理解した」

 

227:このライバーがすごい! ID:6nXk/+plH

エル「運動しなさいよ!」

ロイ「そうだそうだ!」

アザミん「ならさせてみろ。今のところその必要性を感じない」

エルロイ「ムカつく!!」

 

228:このライバーがすごい! ID:sHgPP1Kfi

アザミん、笑顔だ……

 

229:このライバーがすごい! ID:pVqEhc3qn

人をいじってる時によく笑う

 

230:このライバーがすごい! ID:0B8UbVHKC

なんか、あれだな

お姉ちゃんって感じがしていい

 

231:このライバーがすごい! ID:XAGNauG0x

髪の色も一緒だしな

 

232:このライバーがすごい! ID:u0n5IvIyr

多分、エルロイが全敗するんだろうな……

 

233:このライバーがすごい! ID:QAhKdumgJ

てか、3Dお披露目で体動かせるゲームして、体動かさないやつ今までいたか?

 

234:このライバーがすごい! ID:552D2yN81

アザミんだし

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。