稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「さて、新衣装をどうするかの会議を始めまーす」
「あの、なぜ七色さんがここに……?」
「楽園都市で事務所に招待するっていう話になってたって聞いたから、俺が呼んだ」
事務所には帝斗と透華、満に七色さん。先ほど七色さんがやってきて軽く挨拶を交わし、ホワイトボードを引っ張り出して会議の開催を宣言した瞬間にやっとなぜ七色さんがここにいるのかという疑問がわき、そして解決した。どうやらまたしても帝斗の裏での働きによるものだったようだ。
どうせなら、俺も七色さんがくることを知った上で丁重にお迎えしたかったが、なぜかお迎えプランのことごとくを失敗し、情けない姿を晒す未来しか見えなかったからこれでよかったのだと思う。
「って、新衣装!!?」
「そ。ニコちゃん聞いてないんだ」
「大体の連絡は俺にくるようになってるから、俺の一存でこいつに与える情報を操作できるんですよ」
「西園寺さん、先輩のリアクションが好きすぎて大体情報与えないっスもんね」
「だからと言って、それで俺の仕事が滞ったらどうするんだ!」
「いいじゃん。今までなかったんだから、滞る経験もしたことないだろうし」
「七色さんの前でなんて恥ずかしいことを!!」
「ごめん。でも知ってると思う」
七色さんを見ると、ニコニコしながら頷かれた。な、なんだと……? なぜ俺に今まで仕事がなかったことを知っているんだ……?
いや、当たり前の話だった。七色さんはありがたいことに俺の配信を見てくれているんだった。そうでなくとも、透華はともかく帝斗なら俺のそういう恥ずかしい事情を普通に言っていてもおかしくない。帝斗は大体、俺と会う可能性のある人と話すときは最初に俺の恥ずかしい部分を教えておいて、俺と実際に会うまでに耐性をつけてくれるんだ。「えっ、こんな無職が存在するの!?」と俺と実際に会ったときにびっくりさせないようにな。なんて情けない介護なんだ。
「3Dにもなったし、そもそも結構前に20万人突破したし。そろそろお願いできますかーって運営からきてさ」
「な、なるほど……そういえば最初の新衣装は満のモデリングにしましたし、本来の新衣装という意味では初めてですね」
「今回はさ……っ、ニコさんの新衣装にしようよ!」
「ちなみに、本名知ってるよ。あと敬語もいらない」
帝斗を見る。別にお前だったら七色さんには教えるだろうなと思って、だと? 当たり前だ。お前は本当に話が早くて助かる。今までどれだけ俺のコミュニケーションを助けてくれて、そして俺がそれを台無しにしてきたことか。
しかし今回ばかりは失敗するわけにはいかない。それに、初対面というわけではなく楽園都市で一回会っている。更に、帝斗の手助けを台無しにしてきたのはVTuberになる前の俺の話であり、俺はVTuberになってから様々なコミュニケーションを経験してきている。だからこそ失敗などありえない。
七色さんを見る。
「ひゅっ……」
「佐藤さんが呼吸を忘れた!」
「大丈夫っスか? 先輩。ネブライザー使います?」
「いっ、いやっ……大丈夫だ。七色さんがあまりにも優しい微笑みを向けてくるものだから、緊張して呼吸の仕方を忘れてしまった」
「あまりにも優しい微笑みを向けてくれてたら普通は安心するだろうが」
しっ、仕方がないだろう!! 俺は優しい微笑みを向けてもらえた経験がほとんどないんだ! 大体は失笑か嘲笑だったからな! そっちの方が安心するまである。なんかこう、見守られている感じの優しい微笑みだと、俺はその素晴らしい微笑みに応えられる人間なのかという自問自答を繰り返し、自分の器以上の自分を演じてしまいそうになるんだ。
気を取り直して深呼吸。どうやら俺にはまだ円滑なコミュニケーションは早かったらしい。何? じゃあいつになったらできるのだと? うるさい!!
「ごめんね? なんか、本当に自分の子みたいに思っちゃってるから、微笑ましくなっちゃって」
「いえ、あっ、いや、感覚的にはそうなのでしょうから、あっ、そうなのだろうから、別に気にしていませ、あっ、気にしていない」
「信じられないくらい喋りにくそうだね……」
「別に、強制したいわけじゃないからどっちでもいいよ?」
「いや、敬語もいらないというのは、敬語はやめてほしいという意味、だと思うから、努めて敬語はやめるようにしたい」
「……ふふ。ありがと」
嬉しそうに微笑む七色さんを見るに、俺の言ったことは間違いではないようだ。帝斗が硬球を取り出してキャッチボールの片鱗を見せていることから、何か別のところで間違えた可能性はあるが、今はお客様である七色さんが優先だ。それに、まだグローブを取り出していないから大丈夫だということだろう。
敬語云々の話が片付いたところで、新衣装の話に戻る。俺はデビューした時の衣装以外は現時点で存在せず、初めの新衣装の時は満のモデリングを依頼した。さっきも言った通り今回の新衣装が、本来の意味での新衣装となる。
今の俺の衣装は、赤地に白いチェック模様のマフラー、右目を覆い隠す眼帯、高そうな黒のスーツ。特に面白味もない、いつも通りの俺といった感じだ。
「西園寺さんと透華さんはどういう方向性がいいと思う?」
「なぜ最初に俺に聞かない?」
「センスに期待してないからだと思うよ」
「だとしたらお前も聞かれてないから、お前もセンスがないということだな!」
「ベロベロバー」
「こ、こいつ、言い負かされそうになったからと急に子どもっぽく……!!」
そのような稚拙な煽りに乗るほど子どもではないが、これからの満の成長を考えてそういうのはダメだと言ってやる必要がある。というわけで満と取っ組み合いの喧嘩を開始。無事俺が負け始めたところでホワイトボードを見てみれば、三人で話し合った結果が書かれていた。
俺の衣装は白のニットセーターに、なんか模様がついたグレーのコートに黒の少し開いたワイドパンツ。雑に伸ばしていた髪はセンターパートになっており、毛先を遊ばせる始末。こ、これが本当に俺……!?
満の衣装はなんか白のもこもこしたやつを着ていて、深めの青い動きやすそうなパンツを穿いている。俺にファッションの知識がなさすぎる……!!
「というかこの短い時間で俺たちの絵を!?」
「というか私の衣装もあるの!?」
「そうだ! いいのか!? 作業量が増えてしまうだろう!?」
「むしろもっと描かせてほしいくらいだよ? 前んときだってニコちゃんの新衣装も描こうとしたのに、めっちゃ遠慮するから引き下がっただけで、納得してなかったんだから」
な、なんていい人なんだ……! いい人過ぎて「ありがとー!」とお礼を言いながら満が飛びついてしまった。
しかし、なんだ、その……上が白と白だと、合わせに行っているようで気恥ずかしい。嫌というわけではないが、全力で仲良しアピールをしているみたいだ。実際に仲良しだし、胸を張って相棒だと言えるが、それをアピールするかどうかは別の話だ。
……とはいえ、俺にファッションについての口出しができるはずもなく、七色さんと帝斗と透華が話し合った結果があれになったのなら文句のつけようもない。俺より社会に出ている三人なんだから間違いないだろう。透華が少し不満気なのが気になるが……。
「どうした? 透華」
「スカート……」
「なにっ、俺にスカートを穿いてほしかったのか!?」
「満ちゃんだろ」
「もちろんわかっていた。冗談だ」
び、びっくりした。まさか透華がそのようなことを思っていたなんて、と勘違いしてしまった。よく考えなくてもそうか。前に服を買いに行った時も満にスカートを穿いてほしがっていたし、透華はもっと満の可愛いところを見たいのだろう。今のままでも十分可愛いが、普段まったく穿かないスカートを穿いている姿を見てみたいというのもわかる。
「難しいだろうな。その衣装を満に受け入れられたとしても、お披露目の時に着るだけで、あとはデフォルトの衣装にしそうだ」
「せっかく可愛いのに」
「着たいって思ってくれるもんを着てもらうのが一番だろ。それに、満ちゃんだってこれから成長すんだから、どっかで穿きたいって思ってくれるかもしれねぇしな」
「満が……!!」
「成長……!!」
「二人そろって満ちゃんの成長で泣き出すのめんどくせぇな……」
だ、だって、満が成長して「す、スカート穿きたいんだけど、どう思う?」と今まで一切スカートを穿きたがらなかったのに、恥ずかしそうにもじもじしながら聞いてくるのを相談したら、涙が止まらなくなって……!! マズいな、今のうちから祝いの酒を準備しておく必要がある。決意を持って透華にアイコンタクトをすれば、「私は祝いの料理っスね」と心強いアイコンタクトが返ってきた。やはり、俺たちも通じ合う者同士らしい。
そうして頷き合う俺たちのところに、はしゃぎ終わった七色さんと満がやってくる。満は七色さんの背中に張り付いていて、随分懐いた様子だ。
「なんで佐藤さんと透華が泣いてるの?」
「あぁ、すまん。衣装関連で色々考えていたら、感動で泣いてしまった」
「満、ずっと一緒にいようね」
「え、えぇ? うん、ずっと一緒にいるけど……」
透華のテンションがおかしくなって、満ごと七色さんも抱きしめてしまっている。七色さんがどうすればいいかと視線を送ってくるが、別に嫌そうではないからそのままにしておこう。別に、女性に視線をしきりに送られたから動揺しているというわけではなく。
「透華。七色さんごと抱きしめてるぞ」
「あっ、ごめん!」
「いえいえ。むしろ役得というか……」
帝斗が助けた。ごめんなさい。女性に視線をしきりに送られたから動揺していただけです。俺はなんてダメな人間なんだ……。いるか? 助けを求められていて動揺する探偵が。その時点でもう向いていないだろう。あっ、だから依頼がないのか!
「ぐすっ」
「何泣いてんだ?」
「いや、気にするな……」
「じゃあ泣くなよ」
「厳しすぎる!」
帝斗に文句を言えば、けらけら笑われた。くっ、悔しい!!