稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第105話 お披露目会議

「さて、月宮さんの3Dお披露目についてだが」

「最終確認をしよう。優姫を辱め、その可愛らしい姿を世界へ届けるための、な」

「月宮さん、かわいそう……。こんな大人二人に恥ずかしい目に遭わせられるなんて」

 

 『project:eden』事務所、その会議室。アザミと顔を突き合わせ、直後に控えている月宮さんの3Dお披露目についての最終確認をすることと相成った。俺から始まったニッコリ探偵団の3Dお披露目は、今日配信される月宮さんの3Dお披露目で終了する。

 その月宮さんの3Dお披露目の内容を、月宮さんをなんとか説得して俺とアザミで考えることとなったのはいつのことだったか。月宮さんが内容で悩んでいるということを聞いてアザミが即座に提案し、嫌な予感がした月宮さんはそれを否定したが、満が乗り気だったため、当然満に弱い月宮さんが折れた形になる。後に、満は「そういえば、よく考えたらニッコリ探偵団でまともなのは月宮さんだけだった」と3Dお披露目の内容を考える俺たちを見て頭を抱えていた。

 

 が、そんなに悪い内容ではないと思う。自分で考えたのだから悪く見えるわけがないといわれればその通りだが、客観的に見ても月宮さんを普段見てくれている視聴者には満足してもらえるだろうし、新規視聴者の獲得も期待できそうな内容にはなっている。

 

「まず、モテない視聴者からかき集めた『万が一恋人ができたときに言ってもらいたいセリフ』を言ってもらうところからか」

「あぁ。正直モテない男どもの妄想に目を通すのは苦行どころの騒ぎではなかったが、優姫の羞恥心を刺激し、私に歓喜を与えてくれる気色の悪い内容ばかりだったのは喜ばしいことだな」

「せっかく協力してくれた人にひどい言い草……」

「では満。ここにその集大成と言っても過言ではないものがあるが、読んでみるか?」

 

 満が勢いよく首を横に振った。どうやら満から見ても見るに堪えない内容らしい。俺のようなスマートな男であれば、『万が一恋人ができたときに言ってもらいたいセリフ』を考えたとしても気持ち悪がられることはないというのに。こうしてみると、視聴者が哀れだな。

 

「なんか、ニコさんが言ってもらいたいセリフに見えるからムリ」

「ナニィ!? 流石に俺はもう少し常識があるぞ! 見てみろ、『なぁに? くすぐった……あ、ちょ、どこ触ってんの!』などという破廉恥極まりないセリフを月宮さんに言わせようとすると思うか!?」

「そのセリフが破廉恥極まりないかどうかは置いておいて、言わせようとはしなくても考えてはいそうだな」

「いいや、この内容だと末尾に『!』がついている。これは月宮さんに叱られたいという願望が前面に出ているが、このシチュエーションを想像した時に、月宮さんであれば叱ることはせず、優しく迎え入れてくれるはずだ。『なぁに? くすぐった……あ、ちょっ、もう』と言いつつ微笑むというのが正しい」

「ニコが書いたやつも紛れ込ませるか……」

「そうしよ。一番キモがられそう」

 

 どうやら満とアザミからすれば、俺も視聴者と同レベルらしい。そういえば最初視聴者からもらったセリフ集を見て満とアザミが嫌そうな表情だったときも、俺は「そんなにひどいか?」と首を傾げていたことを思い出す。どうやら、俺は満とアザミが感じた嫌悪感に同調し、多数派の意見を俺の意見と勘違いしてしまっていたようだ。俺のような人間は自分を持っていてこそだというのに、反省すべき点だな。

 反省もそこそこに、『万が一恋人ができたときに言ってもらいたいセリフ』を束ね、薄い冊子にする。台本のようにまとめられたこれを月宮さんに渡し、セリフを読み上げてもらうというわけだ。もちろん中には読みたくないものもあるだろうから、それは月宮さんの裁量で読んでもらう。

 

 冊子が出来上がり、中身を確認する。読みづらくなっているものがないことを確認し、一仕事終えて一息ついていると、アザミが冊子をぺらぺら捲りながら「んん……」と悩んだ様子を見せた。

 

「どうした?」

「いや、私としてはぜひ読んでもらい、優姫が恥ずかしがっている姿と気持ち悪がっている姿を見たいが、優姫がこれを読むことで自分の恋人だと勘違いする救いようのないバカが現れないかと危惧してな」

「流石にない、とは言い切れないな。不特定多数の者が見るからこそ、その数だけ人の性格、個性がある。それに相手が月宮さんともなれば、そのような幻想を抱いてもおかしくないだろう」

「あぁ。というわけでお前が優姫の彼氏ということにしたいんだが、どうだ?」

「そういうことなら仕方……なくない!! 自然な流れで俺を燃やそうとしおって! 何が目的だ!」

「燃やすこと」

「これ以上ないくらいはっきりした目的だった」

 

 アザミは今日も今日とて俺を燃やそうと企んでいるらしい。聞いたことあるか? 身内が積極的に燃やそうとするって。アザミは興味のあることに忠実すぎる。きっと俺を燃やそうとするのも、ただ単純に面白そうだからという理由だけだろう。その後の処理も完璧にこなせる自信があるのだろうが、一度燃やされる身にもなってほしい。あと多分、視聴者からの攻撃だけでは済まない気もしている。

 俺が断ったことが気に入らなかったのか、口先を尖らせて「けちなやつだな」と拗ねてみせるアザミに負け、「まぁ、一日くらいなら彼氏になっても」と言いかけたが、「月宮さんが腰抜かして二度と立ち上がれなくなるくらい嫌がるでしょ」と満に思念を飛ばされ、咄嗟に口を塞ぐ。確かにそうだ。俺のような人間が彼氏になるなど、月宮さんがごめんだろう。あと普通に嫌がるだけでよくないか? 腰を抜かして立ち上がれなくする必要があったか?

 

「ところでニコ、お前はいつまですさまじい童貞を貫くつもりだ?」

「一つ勘違いしているのなら訂正させてほしいが、別に信念を持って貫いているわけではない」

「そんなことはわかっている」

「そんなことはわかっているなら、そんなことがわかっているような聞き方をしてくれ」

 

 アザミが口元に指を添え、首を傾げた。くっ、あざとかわいいな……!!

 

「お前ももう27歳だろう? そろそろ結婚を見据えた交際をしてもいい頃じゃないか」

「とはいっても相手がいない」

「私が相手になってやってもいいが」

 

 すべてをなぎ倒して床を転がり回るところだったが、それを予期した満に支えられ事なきを得る。助かった。やはりずっと一緒にいるからか、俺がどのようなリアクションを取るか熟知してくれているらしい。ところで女子中学生に軽々と支えられる成人男性というのはどうなんだ? 満が力持ちなのか、俺が薄っぺらいのか。恐らくどちらもだと思う。この前暇つぶしに満と腕相撲したら簡単に負けたからな。流石にショックを受けてダンベルを買おうとしたが、「どうせ一回使って強くなった気になって長続きしねぇんだからやめとけ」という帝斗の言葉を信じ、踏みとどまった。あいつの俺に対する解像度は信頼できる。納得はいかんが。

 

「さて、次に優姫を恥ずかしい目に遭わせる計画だが」

「あれ? 俺の交際の話は……」

「ニコの滑稽な姿を見たかっただけだ」

「なにっ、それは期待に添えず申し訳ない」

「添えてたよ。期待」

 

 俺を支えた時の体勢のまま、俺の肩に手を添えて満にチクリと刺される。やはり俺は滑稽なのか……? よく言われるし……。

 

 俺が自分の滑稽さについて考えていると、アザミがカバンから紙束を取り出し、テーブルへと広げた。そこに書かれている内容は、3Dお披露目でよくあるポーズ指定するアレだ。

 普段の配信では2Dであり、全身の動きが見えない。だからこそ、3Dお披露目ではポーズをとることが多い。更に言えば、誰かにリクエストしてもらってそのポーズをとる、というのがベタと言えるほどVTuber界隈では一般的だ。

 

「ここに、私が研究に研究を重ね、優姫が可愛く映り、そして優姫が恥ずかしがるであろうポーズ集がある」

「この前連携してもらったやつだな。俺も目を通した」

「もちろん、お前の指摘も反映させてある」

「流石アザミだ。わかりやすく、完璧に反映されている」

「私、今から聞かなかったことにできないかな……」

 

 月宮さんに怒られる心配をしているのなら必要ない。月宮さんなら俺とアザミが何を考え、自分に何をやらせようとするかなどわかっていてもおかしくない。それでもいいからお披露目の内容を考えてもいいと言ってくれたのだろう。月宮さんは筋の通らないことが嫌いだから、内容を考えていいと認めたからには怒れない、いや、怒らない。そういう人だ。

 だからってなんでもやっていいわけではないが、そこは、その、本当に月宮さんの魅力を伝えたかったというか……。

 

 ……え、怒られないよな?

 

「アザミ」

「まさかミッドナイト・サイコナイトともあろうものが、今更日和ったわけではないよな」

「当たり前だ! 俺はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士だぞ!」

「ニコさん、そろそろその乗せられやすい癖、どうにかした方がいいよ」

 

 満が訳の分からないことを言っているが、吐いた唾を飲み込めないのは当然の話。さぁ行くぞ、月宮さんの3Dお披露目へ!!

 

 

 

 

 

『ザ・ドリームハウス(試用版)へようこそ、ミッドナイト・サイコナイト、月宮優姫』

「クソ!!!! 騙された!!!!」

「途中で気づきなさいよ」

「どこで気づけと言うんだ!! ただ満とアザミが、急用ができたとどこかへ行っただけなんだぞ!?」

「怪しさしかないと思うけど」

 

ザ・ドリームハウス!?

アザミんの声だ!

唐突に始まったな

リビング?

ザ・ドリームハウスって、Project:SPのアザミんの企画だよな?

 

 クソッ、月宮さんの言う通りだ! もうすぐ月宮さんのお披露目が始まるからとスタンバイしに行こうとした時に、満とアザミから急用でしばらく外すと言われ、俺一人でどうにかせねばと混乱してまったく気づけなかった! そもそも当初の予定では画面外から月宮さんに指示をする予定だったのに、スタッフさんに画面内に行くよう指示された時点で流石におかしいと気づくべきだった! どこまで察しが悪いんだ俺は!

 

『ザ・ドリームハウス(試用版)は、お前たちを恥ずかしい目に遭わせ、私が満足するという企画だ』

「貴様!! よくも騙してくれたな!!」

『ちなみに優姫。ニコはノリノリでお前を恥ずかしい目に遭わせようとしていたぞ』

「へぇ」

「なっ、ちがっ、俺はただ月宮さんの魅力を伝えようと……!!」

「誰かに手助けをしてもらわなきゃ、私の魅力は伝わらないってわけ?」

「違う!! いつも見せている月宮さんの魅力とは違う面を視聴者に届けようと悩んでいただけだ! 決して恥ずかしい目に遭わせようとしていたわけでは、というかそれで言うならアザミの方が積極的だっただろう!!」

『ごめんね。許してくれる?』

「あぁ。仕方がないな」

「よっわ」

 

 よく考えればそんなに怒ることでもないしな。決して可愛い言い方をされたからではなく、ここは俺が年上として折れてやるかという寛大な心を見せつけただけだ。きっと俺の器の大きさに心を打たれた視聴者も多くいることだろう。なぜか「相変わらず情けない」「弱すぎ」「チョロくて草」という意味のわからないコメントが流れているが、恐らく俺とは関係ない話だ。

 

 配信の様子を映し出してくれているモニターを見れば、特に変わった様子のないリビングに俺と月宮さんが立っている。リビングにあるのはソファとテーブル、そしてテーブルの上にはちょうどくじ引きで使われるような、腕を通す穴が開いた箱が置かれている。

 

『ルールは簡単だ。その箱の中にある指令をクリアする。配信時間内にクリアした数に応じた報酬がもらえる。以上』

「報酬があるのか!」

『10クリアすれば、お前たちの好きなものをなんでも買ってやる』

「っていうことは、10もクリアできないほどエグイのが入ってるってことね」

『エグイかどうかはお前たち次第だな』

 

優姫ちゃん頑張って!

頑張るのは主にニコだろ

謎解きとかだといいなぁ

アザミんが生ぬるいやつを入れるとは思えない

 

「ふん! この俺を舐めるなよ! 俺はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士だ!」

 

 俺を騙していい気になっているアザミに一矢報いるべく、淡々とクリアしてみせる! 決意の勢いそのままに、箱から紙を一枚引き抜いた。

 

「なになに? 『3分間手を繋ぎ、お互い見つめ合う。一度でも目を逸らしたり、手を離したりしたら失敗』……」

「ま、仕方ないわね。一つもできないっていうのは癪だし、やりましょうか。……ニコ? ちょっと、ニコ……立ったまま気絶してる?」

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part22

 

437:このライバーがすごい! ID:iKdtL2cfX

指令

『3分間手を繋ぎ、お互い見つめ合う。一度でも目を逸らしたり、手を離したりしたら失敗』

結果

優姫ちゃんから手を繋いだ瞬間ニコが飛び上がり、床をカサカサと動き回ったため失敗

 

438:このライバーがすごい! ID:dsvZmH3be

ゴキブリかよ

 

439:このライバーがすごい! ID:4uceMcG3i

ニコ「け、結婚前の女性が軽々とそんなことをしようとするな!」

優姫ちゃん「何よその性の価値観。少子高齢化の原因のマイノリティ?」

 

440:このライバーがすごい! ID:Dc1ZBhgjW

 

441:このライバーがすごい! ID:+eutR44GV

優姫ちゃんがニコと手を繋ぐことに抵抗がないのは嬉しい

 

442:このライバーがすごい! ID:ixiWsWc7p

弟に見えるって言ってたしな

 

443:このライバーがすごい! ID:oLJXUC7pk

普通に異性として見てないんだろ

 

444:このライバーがすごい! ID:JRia7HR6q

キモがられてないってだけマシだろ

 

445:このライバーがすごい! ID:RxVh3YnX/

>>444

求めるハードル低すぎだろ

 

446:このライバーがすごい! ID:S23Z1ejd/

指令

『どちらかがどちらかに3分間膝枕。途中で離れたら失敗』

結果

ニコが膝枕することになるも、優姫ちゃんが寝る直前で逃げて失敗

 

447:このライバーがすごい! ID:OEEYi68HQ

動きが俊敏すぎる

 

448:このライバーがすごい! ID:JcvXThSog

優姫ちゃんがただただソファで寝てしまった

 

449:このライバーがすごい! ID:QmrtFepA9

ニコ「危ないところだった……」

優姫ちゃん「私を危険物みたいに言うのやめてくれない?」

 

450:このライバーがすごい! ID:3A4KP0KXp

早くも2つ失敗したぞ

 

451:このライバーがすごい! ID:z35cVBVQq

ニコのせいでな

 

452:このライバーがすごい! ID:PwPb2G/1V

アザミんはなんとしてでもニコを炎上させようとしてる

 

453:このライバーがすごい! ID:080d/vTG7

満ちゃんもニコから離れさせる徹底ぶりだからな……

 

454:このライバーがすごい! ID:AtrpsIUVS

早く優姫ちゃんの可愛いところを見せてくれ

 

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