稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第9話 ドキドキドキドキ! おうち訪問!

「なぁ帝斗、本当にスーツを着なくても大丈夫なのか?」

「友だちの家にスーツ着ていくやつ聞いたことあんのか?」

「聞く相手がいなかった」

《呼吸をするようにぼっち露呈させるのやめなね》

 

 アザミさんの家にお邪魔する、その当日。昨日早速帝斗と透華に助けを求め、「とりあえずスーツは必須だよな」と言えば「絶対にいらねぇよ」「訪問販売のつもりっスか?」とダメだしを受けた。失礼がないようにという俺の気遣いは、どうやら友人界隈では受け入れ難いものであるらしい。

 当日になって、電車で行くともし俺が溢れんばかりのオーラで身バレした時にアザミさんの最寄り駅がバレてしまうことを危惧した俺は、帝斗に「車を出すつもりはないか?」と遠回しに確認。「近くまでなら送っていってやるよ」と気前の良さを見せた帝斗の車に揺られ、アザミさんの家に向かっていた。

 

「でも確かに、結婚の挨拶と思われたら気まずいしな」

「佐藤にそんな度胸ねぇだろ」

《あるよね! 佐藤さんやるときはやるもん!》

「やるときはやる男が、なぜ依頼のない探偵事務所の所長をやっているんだ?」

《……》

「返す言葉なくしてるじゃないか!」

 

 大体、やるときはやるってあんまり褒め言葉じゃないと思わないか? やるときはやるなら、いつもやれよと思ってしまう。ちなみにこれは自分への戒めを込めている。

 でもやらないわけじゃないんだよ。思いつかないんだ。いくら宣伝しても宗教だとしか思われない。ふざけるなよ。俺が宗教を開けるような人望の持ち主ならこんなに苦労していない。

 

 家まで迎えに来てもらって、数十分。アザミさんの家が近づいてきた。ドキドキを越えてドキドキドキドキしてきた。鼓動が早まりすぎて増えるんじゃないかというくらい緊張している。

 

「帝斗。三つ目の信号を右に曲げてくれ」

「事故起こさせるつもりかお前。右に曲がればいいんだな」

《順調に緊張してるね……》

 

 し、仕方がないだろう! アザミさんは女性だ。しかも最近できた友人だ。友人が全然いなくて、人と喋ると言えば帝斗と透華と満くらいしかいなかった俺が、緊張しない道理がない!

 

「お、落ち着け俺。我が名はミッドナイト・サイコナイト。深夜の狂騎士……」

「別に、緊張したまんまでいいだろ? 佐藤らしくていいと思うぜ」

《そうそう! どうせ月宮さんとアザミさんが緊張解してくれるし、佐藤さんはいつも通りでいいの!》

「おいおい、緊張したままが俺のいつも通りだと? それじゃあまるで俺が情けないみたいじゃないか」

「ははは」

「愛想笑いだけはやめてくれ。寂しい」

《佐藤さん。26歳が”寂しい”はちょっときついかも》

 

 いいだろ! 26歳が寂しがったって! むしろ今までよく寂しがらなかったもんだ! 全然友人がいないのに!

 まぁでも、帝斗と透華はめちゃくちゃ構ってくれるし、面倒を見てくれる。寂しくなる理由がない。二人ともめちゃくちゃいいやつだしな。今日だって文句ひとつ言わず送ってくれてるし、透華も「先輩の大失敗、慰めてあげますね」って言ってくれたし。失敗どころか大失敗が前提なのは少し気になるところだが。

 

 アザミさんの家が数十メートル先にまで来たところで、ゆったりと停車する。まだついていないぞと帝斗を見れば、ハンドルに寄りかかりながら帝斗が口を開いた。

 

「あのな、前も言ったろ? 俺みたいな一般人が、中の人と会うわけにはいかねぇんだよ。本来なら家の近くまでくるのもよくねぇし」

「じゃあなんできてくれたんだ?」

「マジでスーツで行こうとしてねぇか不安になったから」

《いつも苦労おかけします……》

 

 ほんとにな。

 

 しかし、そうか。帝斗はいいやつだから、月宮さんとアザミさんに紹介したいのに。それをやめろと前も言われたが、隠し事をしているみたいで何か嫌だ。理屈ではわかっているが、感情が理解を示していない。

 

 ただ、こればかりは帝斗が正しい。おとなしく引き下がって、「ありがとう。また何かで返す」と言って、「じゃあこれからも友だちでいてくれ」といういい友人すぎる言葉を背にして車を降りた。

 

《西園寺さんって絶対モテるよね》

「顔がいい、人がいい、頭もいい、スタイルもいい。モテないわけがないな」

《佐藤さんも顔がよくて、人がよくて、頭もよくて、スタイルいいじゃん》

「この話はやめよう」

 

 これ以上続けても空しくなるだけの会話を切り上げて、アザミさんの家に向かう。

 アザミさんの家は、帝斗に降ろしてもらったところから数十メートル先にある。収まらない緊張を携えてアザミさんの家の前に立ち、インターホンを鳴らそうとした。

 

「よくきたな」

「きゃあ!」

 

 背後から聞こえた声に悲鳴を上げて振り向くと、小さく笑うアザミさんと呆れ顔の月宮さんがいた。なぜ俺の背後から? 背後にいたとしても満がわかるはず!

 

《二人とも、私が見えないはずなのに「しーっ」ってしてくれたから、すごく嬉しくなって》

 

 それは仕方ないな。

 

「ほ、本日はお日柄もよく」

「そういうのはいい。さっさと上がれ」

「私たちの間柄に、そんな堅苦しい挨拶いらないわよ」

 

 嬉しいことを言ってくれる月宮さんに、ドキドキドキドキがるんるんになり、前を歩く二人に追い付いて家に入る。

 アザミさんの家は一軒家。一人暮らしで一軒家はかなり贅沢だなと思ったが、入った瞬間納得する。

 

 廊下の天井には、束ねられた無数のコードが走っている。どこからか機械の駆動音が聞こえるのは恐らくサーバか何かが家にあるのだろう。

 

「あんたの家、サーバルームか何か?」

「気が付いたら色々増えていた……あんまり見ないで、とでも言えばよかったか?」

「流石にこれを見るなというのは無理な話ですね」

《ほえー……機械がいっぱい》

 

 素人からすればどれを何に使っているのかがまったくわからない。一つ確かなことは、俺が何かをやらかしてダメにしてしまえば、アザミさんの奴隷になるしかなさそうということだ。

 そうならないよう細心の注意を払いながらアザミさんについていくと、「ここだ」と言ってとある部屋のドアを開く。

 

「下着は片づけてある」

「普段放り出してるの? だらしないわね」

「満! 何も異常がないか確認してきてくれ!」

《合点!》

 

 下着などという卑猥すぎる単語が聞こえてきた俺は、満を先遣隊として送り、《異常なし!》という満の報告を聞いて深く頷いた。

 

 アザミさんの部屋に入るということを意識して、薄れていた緊張が蘇り、部屋に入った瞬間霧散する。めちゃくちゃ配信部屋だった。というか色んなゲーム機があるし冷蔵庫があるし、食糧が入ってる棚があるし、この部屋だけで完結する、まさにアザミさんらしい部屋だった。

 

「効率! って感じの部屋ね」

「夢中になるとこの部屋から離れるのが億劫になるからな。必要なものはこの部屋にまとめた」

「いいなぁ。それができる財力」

《佐藤さんも大人気になればできるよ!》

 

 実質俺の家、というか事務所は帝斗と透華が物の置き場を管理してるから、迂闊に模様替えできないんだよ。あまりにも世話をしてくれるものだから、もうどこに何があるのか俺が家主であるはずなのにわからない。ダメ人間過ぎないか? 俺。

 

「さて、早速始めるか。まず声のイメージを教えてくれ。ベースを作る」

「満の声は、聞くと元気になる明るくて可愛い声です。活発なイメージですね。一文字一文字がはっきりしつつ、子どもっぽさが残る活舌です」

「人の声をすぐに言語化できるって結構すごいわよね」

《私はちょっと恥ずかしくて、かなりキモく感じた》

 

 せめて逆であれ。

 

「アザミがいじってる間に、コーナーの話でもしましょうか」

「友人の案を披露するときがきたみたいですね」

「進歩がないのが面白いのはお前くらいだ、ニコ」

「俺はアザミさんの家にくるのに緊張していて忙しかったんです」

「ご友人は普通に仕事してるんでしょ? じゃああんたより忙しいわよ」

「俺は無能です」

《正論の暴力……》

 

 でも本当なんだよ……。コーナーのこと考えようにも、アザミさんの家にくる緊張が勝ってたんだ。アザミさんの家がアザミさんすぎて今はまぁまぁ大丈夫だが、それでも緊張が解けないくらいには緊張していたんだ。

 

「しかし、そんな俺だからこそ有能な友人が集まってくれるというもの。俺の友人から提案するのはズバリ、『視聴者台本による寸劇』!」

「なるほど。近々ボイスを出す宣伝効果もあり、視聴者の需要も満たすことができるいい案だな」

「投稿してくれる台本は、次のボイスの参考にもなるわね。いいじゃない」

「面白そうなものをこちらで選定すれば、事故もないでしょう。フハハハハ!! 我が友人ながら完璧な案だ!!」

「よく人の案振りかざして高笑いできるわね」

「違いますよ、月宮さん。俺は頭のいいお二人をもってしていい案だと言わせしめるものを提供できる、俺の友人が誇らしいんです!」

《かわいいねぇ佐藤さん》

 

 いやぁ、気持ちがいい! 帰ったら透華に報告しよう。俺の突然の相談にも文句ひとつ言わず乗ってくれて、すぐに案を出してくれた。きっと俺に友人が少ないのは、数少ない友人のスペックが高すぎるからだろう。あと俺がコミュ障だからだ。じゃあ俺がコミュ障だからじゃないか?

 

「ひとまずはその案で行こう。それなら、月宮優姫に媚び媚びボイスを出させるという私の悲願も達成できそうだ」

「それでいいの? あんたの悲願」

「月宮さんの媚び媚びボイスはイメージと違いすぎて解釈違いの意見が飛び交いそうですが、それはそれとして可愛くていいと言いますか、媚び媚びの種類にもよりますね。自分が可愛いとわかっていての甘えた感じの媚び媚びか、こちらをバカにしたような感じの媚び媚びか。俺としては、前者でありつつその後に恥ずかしくなった恥じらいボイスまでがセットというのがしっくりきますね」

《佐藤さん。長くてキモくて最低》

 

 あぁ、わかっている。月宮さんが引いていて、アザミさんが笑っているから俺はとんでもなく間違えたことをしたんだなと自覚できた。うっかりボイス台本作者スイッチが入ってしまった。ほんと早くどうにかしないといけないぞ、このスイッチ。容易く女性からの軽蔑を獲得できてしまう。

 

「それ、いいな。流石だ、ニコ」

 

 ただ、アザミさんからの高評価も獲得できるらしい。プラマイゼロだ。

 

「さて、本題だ。その具体的かつ長くて気持ちの悪い妄想を吐き出す口で、このマイクに向かって声を出してみてくれ」

「人にものを頼むにしては罵倒しすぎじゃないですか?」

「それくらいのことはしたわよ、あんた。ま、その妄想がすぐに飛び出すっていうのは才能だと思うし、否定はしないけどね」

《月宮さんほんと好き。好き!》

「《月宮さんほんと好き。好き!》」

 

 ボイスチェンジャーの調整が完了したということだろうと思って満の言葉をマイクに乗せれば、スピーカーから満の声が返ってきた。

 え? なんで? 俺、声のイメージ伝えただけだぞ? なんでこうも完璧に満の声を再現できるんだ? アザミさんは天才か? 天才か。そういえば天才だった。

 

「今のって満ちゃんが言ってくれてたの?」

「はい。ちなみに声の調整完璧です」

「ん、そうか。本当に可愛くて元気が出る声だな」

「そうね。あと満ちゃん、ありがと。ニコ挟まないといけないけど、やっとお話できそうで嬉しいわ」

《……》

「満、今嬉しすぎて涙を流しています」

「あんたも泣いてるわよ」

「ほら、札だ」

「そんな昔の漫画の金持ちキャラみたいなことしませんよ。ティッシュください……」

 

 その後、楽しく四人でお喋りした。それを帝斗と透華に言ったら、「よかったな」と呆れながら帝斗。その呆れの意味は、「嬉しいし仕方ないことっスけど、まずは私が満と喋りたかったな」という透華の言葉を聞いた時に理解した。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part3

 

817:このライバーがすごい! ID:PKVDe/73H

おい! おい! おい!

 

818:このライバーがすごい! ID:0Hx8gQDKe

>>817

アイドルのライブでもやってんの?

 

819:このライバーがすごい! ID: PKVDe/73H

>>818

バカが! ニッコリ探偵団ゲリラオフコラボだぞ!

 

820:このライバーがすごい! ID: 0Hx8gQDKe

>>819

ナニィ!? それを早くイェイ!

 

821:このライバーがすごい! ID:cmRUG5SNk

>>820

喜びを隠しきれてなくて草

 

822:このライバーがすごい! ID:UW30pilRa

は?

 

823:このライバーがすごい! ID:3RfT9Fcot

 

824:このライバーがすごい! ID:AItiElou9

【超朗報】project:radioで、満ちゃんの声をお披露目

 

825:このライバーがすごい! ID:y7/HewrD1

嘘だったらニコのチャンネル登録解除する

 

826:このライバーがすごい! ID:EEr9GgviN

本当だったら満ちゃんデビュー計画を推進する

 

827:このライバーがすごい! ID:ks3YssZ5P

ボイスチェンジャー使って再現したらしい

 

828:このライバーがすごい! ID:loE8J0fUG

ニコの労力エグそう

 

829:このライバーがすごい! ID:6G6fQslsB

普段働いてないからちょうどいいだろ

 

830:このライバーがすごい! ID:I88Mk28FZ

>>829

ちょうど配信でも似たことを本人が言ってたな

 

831:このライバーがすごい! ID:HoQzVShAJ

ニコ「ボイスチェンジャーでの切り替えが忙しいが、むしろ忙しい経験をしたいからちょうどいい」

優姫ちゃん「悪いわね。みんなより先に、さっき満ちゃんとお話しちゃった」

アザミん「月宮優姫は終始にこにこしていたぞ。ニッコリ探偵団に相応しくて誇らしいよ」

優姫ちゃん「そりゃそうでしょ。ずっとお話したかったんだから」

 

832:このライバーがすごい! ID:FpHU/Puvk

>>831

なんて尊いんだ……

 

833:このライバーがすごい! ID:ihRTOBnSR

心が汚すぎると、浄化されすぎて消えてなくなるという噂の配信

 

834:このライバーがすごい! ID:V6fj9Ngie

優姫ちゃん、いつもよりテンション高くてかわいい

 

835:このライバーがすごい! ID:NxUiqg4ZB

ニコ、涙声

 

836:このライバーがすごい! ID:1WFO3KpXc

ニコ「本当に、満が俺以外の誰かと話せるのが嬉しくて……ずっと窮屈な思いさせていたからなぁ。よかったなぁ、満」

アザミん「なぜニコはこうも好ましいのに、今まで友人がまったくいなかったんだ?」

優姫ちゃん「こんな時まで精神攻撃しなくてもいいでしょ」

 

837:このライバーがすごい! ID:IdiQAKwVU

>>836

アザミんは気になったことに対してはブレーキがきかないんだ……

 

838:このライバーがすごい! ID:QdNTb0dIl

良い性格を帳消しにするくらいドギツイコミュ障だとは思わないし

 

839:このライバーがすごい! ID:1a+DiAReG

友だちだと判断すれば喋れるけど、そうじゃなかったらめちゃくちゃコミュ障とか?

 

840:このライバーがすごい! ID:WmHxdCgiL

警戒心強い末っ子みたいだな

 

841:このライバーがすごい! ID:U88jAWowk

ニッコリ探偵団家族概念、イー!

 

842:このライバーがすごい! ID:LTilmCrmM

>>841

出たな、ショッカー!

 

843:このライバーがすごい! ID:jyQrLVO0N

何で時々くだらないやつが出てくるんだ?

 

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