稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
0ptとなり脱落となって、途中から『project:tag』の様子を見させてもらったが、もう色々おかしかった。気づけばタグが無くなっているし、ヴァールハイト同士で戦って色々ぐちゃぐちゃになっていたし。大混戦に大混戦を極め、結局はフィジカルが一番強いシェリーさんが優勝した。優勝賞品は『シゲキとアザミが叶えられる範囲でならなんでも叶える』というものだった。その賞品を、「『project:tag』で壊れた箇所の修繕を一刻も早く頼む」と人格者らしい使い方をし、シゲキとアザミは面白くなさそうに頷いていた。あの分だと、アザミはともかく、シゲキはやらないだろうな。
というわけで、現在は『project:tag』の翌日。普段運動しないからか、面白いくらいに筋肉痛だ。あの時はアドレナリンか恐怖か、その別の何かが働いていたのか普通に動けたが、今は体がバキバキで歩くのにも苦労する。帝斗と透華と満がいるから、動かなくてもなんとか生活できるのが救いか。しかし、
「結構うまくいったようだな」
「だね!」
俺とは違って元気に配信している魔王様とルーシィのコメント欄を見て、当初の目的は果たせたのだと確信する。とはいっても俺は何もしていない。アザミが互いの好きなところを言い合うという場所をセッティングし、魔王様とセレナさん、そしてルーシィがそれにうまく応えただけだ。
魔王様とルーシィにかわいいところがあるとわかったからか、コメントの雰囲気は温かい。魔王様はめちゃくちゃ煽られていて、ルーシィは友だちみたいな感覚で接されている。あれ? 魔王様のコメント欄は温かいのか? これ。
まぁ、魔王様であればどのようなことがあっても、どんな状況であろうとも打破できるだろう。フフ、依頼達成というわけだな。
「ん? もういいのか」
配信を閉じてヘッドホンを外すと、すぐに帝斗が話しかけてくれる。こうしてすぐに話を振ってくれるのは非常にありがたい。帝斗と透華相手だと流石にないが、俺から話しかけようとすると「あっ、えっと、その」とごにょごにょ言って、相手に呆れられて会話が始まらない可能性があるからな。もっとも、最近の俺はコミュ障から脱却したからそれももうないが。
「あぁ。聞いてくれ帝斗、透華。俺は後輩の面倒を見るのが向いているかもしれん」
「実際、面倒見はいい方だと思うっスよ」
「最近まで佐藤の唯一の後輩だった透華が言うなら間違いねぇな」
「遠回しに俺の交友関係の狭さを露呈させるのはやめてくれないか?」
別に唯一とかつけなくていいだろうが。確かにVTuberになるまでの俺には後輩は透華しかいなかったし、仲のいい先輩は一人もいなかったが……。もしかしてそんな交友関係しか持てなかった俺が悪いのか? いや、俺は悪くない。月宮さん曰く、俺が童貞なのは俺にも原因はあるが、大部分は俺のせいではないらしいから、交友関係も同様だろう。暴論な気もするがそう思っておくことにしよう。
「しかし、一月に入ってからというもの、3D配信や昨日の『project:tag』で落ち着かなかったが、やっと落ち着けるな」
「でもまだアレあるだろ?」
「……? 満」
「え? アレって何? 私も知らないよ?」
「西園寺さん、また悪い癖出てますよ」
「あぁそうだ。なんか疲れてるタイミングで教えた方が面白そうだからまだ伝えてなかったんだったわ」
「なにっ!? つまり、俺が疲れなかったら一生それを知ることがなかったということか! よかった、俺が疲れていて」
「佐藤さん。普通怒るとこだよ」
俺も一瞬怒ろうと思ったが、俺を面白がるくらいのことは許さなければ、帝斗が俺にやってくれていることの帳尻が合わない。よく考えてみろ。帝斗は俺が原因で彼女にフラれるのにも関わらず俺の世話をしてくれて、私生活ばかりかVTuberになってからは仕事のサポートまでしてくれている。そんなやついるか?
恐らく、俺の最大の幸運は帝斗に見つけてもらえたことだと思う。あっ、もちろん満と出会えたこともだぞ? 当たり前だろう。だから面白くなさそうな顔をするな。
「それで、アレとはなんだ?」
「『project:eden』はVTuberの事務所にしちゃあ珍しく、年末年始は特にイベントねぇだろ?」
「あぁ」
『project:eden』は帝斗の言った通り、年末年始のイベントはない。「年末年始はクールに過ごすべきだ」「年末年始はオシャレに過ごすべきよ!」「年末年始はシゲキ的だ!!」という一期生の方針の下、年末年始は箱全体で休暇になっている。ちなみに、なぜそんな意味のわからない方針で休暇になっているかは本人たち以外誰もわかっていない。
「んで、その代わり一月の末に毎年やってる箱全体の企画あるんだよ。全体つっても、全員参加ってわけじゃねぇけどな」
「『project:festival』だろう?」
『project:festival』。毎年一月末に行われる、『project:eden』の箱イベント。二日にわたって配信を行い、その配信の企画はいくつか固定のものもあるが、大体は毎年異なる。いくつか試して、好評だったものを固定にしていく方針らしい。
固定のものでいえば、『project:check』と『project:rank』だ。『project:chek』は一期生が『project:eden』のライバーをテストし、クールかオシャレかシゲキ的かを判定するというもの。この企画で納得いったことは一度もないらしい。
『project:rank』は、『project:eden』のライバーにちなんだランキングを発表するというもの。勢いランキングなどが鉄板だ。大体は視聴者にアンケートを取っていて、それ自体は公式からアンケートの協力依頼が出されていたのを見た記憶がある。
「それで、それがどうかしたのか?」
「いくつか企画に呼ばれてるんだよ。詳細は教えねぇけど」
「なぜだ!? いじわる!!」
「ぶっつけ本番のが強いからな」
「俺の能力を鑑みてか。すまん、そうとも知らず怒ってしまって」
「人がいいのも考え物っスね」
「それが佐藤さんのいいところでもあるし……」
しかし、箱企画にお呼ばれしてもらえるとは。期待に添えらえるよう努力せねば。一期生に好かれていそうだから、なんとなく『project:check』は確定で呼ばれているような気もするが、今は聞かないでおこう。精神衛生上よくない。唯一いいところと言えば、一期生が相手だとまったく緊張しないことくらいだろう。あの三人を相手にすると、あの三人が規格外すぎて緊張している暇がない。
「人がいいというわけではないだろう。実際、準備をしていたとしてもどうせ緊張ですべて吹き飛んでぶっつけ本番になってしまうからな」
「どうっスかね。月宮さんから優しすぎるーとか、懐が広いーとか言ってもらえてたじゃないっスか」
透華が拗ねているような気がする。帝斗がグローブとボールを置いている場所に視線を送ったから俺の感覚は間違えていないようだ。こういう時、帝斗を見ると状況がわかるから便利で助かる。
確かに、褒めすぎなくらい褒めてもらえた。嬉しすぎて今でも思い出したら涙が出そうになる。ムキになっていたとはいえ、月宮さんはあぁいう場面で嘘を言うような人じゃない。本心からそう思ってくれているということだ。俺としては過大評価だと言いたいが、ここは受け止めるのが礼儀だろうとありがたく受け止めている。
透華が拗ねている理由は、俺が月宮さんを褒めていたからか? 普段から感じたことは伝えるようにしているが、VTuberになってからはあまり透華と話せていなかった気がするし、構ってほしいと思っているのかもしれない。まったく、可愛い後輩だな。
「ふぅ、俺に構ってほしいのであれば素直にそう言えばいいものを」
「はい。構ってください」
「何こっち見てんだよ」
本当に素直にそう言ってくれたからびっくりして帝斗を見てしまった。キャッチボールをしたそうには見えない。なら、俺の行動は正解だったということか。問題は、ここからどうするべきかがわからないということか。
構うって具体的に何をすればいいんだ? ペットのように撫でまわすわけにもいかんだろうし、月宮さんを褒めたように透華も褒めるか? だが、いざ褒め始めて「先輩、何言ってんスか? キモいっスよ」と言われたら、めちゃくちゃ恥ずかしくなって泣き出してしまう。そうなったら流石にみっともなさすぎて見限られてしまう可能性がある。クソッ、27年も生きているのに人生経験が浅すぎて答えが見つからない……!!
が、後輩が構ってくださいと言ってくれたんだ。それに応えなくてなにが先輩だ。人生経験は浅くとも、答えは出ずとも、応える必要はある。
「満、どうしたらいいと思う?」
「えっ、信じられない……」
でも、どうしても答えが出なかったからこっそり満に聞いてみると、信じられないと言いたげな表情、というか言われた。珍しく本気でドン引きしている。しっ、仕方がないだろう!! 配信をしている時は大体みんなが勝手に楽しんでくれるが、自発的に相手を楽しませるとなればどうすればいいかわからないんだ! それに、満は透華の親友だから何を求めているかがわかるだろう? 親友とはそういうものだ。俺も帝斗の求めていることがわかるからな。帝斗は俺の醜態が何より好物らしく、今も俯いて笑いを堪えている。それでいいのか? 俺たちの関係。
「佐藤さん、ここは男らしくデートに誘う場面だよ?」
「でっ、デート!? なんていやらしい言葉を……」
「デートをいやらしいって言う方がいやらしいでしょ」
「そもそも、デートとは恋仲の者に対する言葉だろう? それに、どうせなら帝斗ともどこかへ行きたいと思っていたし、俺と透華と満だけでというのは……」
「透華があんなに可愛く構ってほしいって言ってたのに、二人で行ってあげないの?」
「なにっ、透華は俺と二人がいいのか? 慕ってもらえて嬉しいが……満と帝斗に悪い」
「確かに私も一緒に行きたい!」
「おい透華、満ちゃん負けたぞ」
「いいじゃないですか、かわいくて」
何!? 俺と満の内緒話が聞こえていたというのか!? 流石帝斗と透華だ。社会経験があるからか、俺よりも随分大人らしい。「どこか遊びにいこうよ!」と透華に向かって飛んで行った満も成長するようになったから、いつか大人の気遣いを身に着けるのだと思うと感動して涙が出そうだ。
しかし、遊びに行くとしてもどこがいいか。せっかくなら、透華の行きたいところにしたい。次の機会があればその時は帝斗の行きたいところにしよう。配信業ばかりであまり二人と遊べていなかったしな。VTuberになる前から俺と仲良くしてくれている大事な友人なんだ。疎かにしていい理由などどこにもない。
「透華。どこか行きたいところはあるか?」
「んーっと、最近できたレジャー施設の……なんでしたっけ、西園寺さん」
「『EOE』だろ? アミューズメントもあるけど、どっちかっつーとスポーツ楽しむ系のとこ」
「スポーツか……あまり自信はないが、行きたいと言うのならそこにしよう」
「あまり?」
「本当はまったくだが、別にいいだろう! ちょっと見栄張っても!」
ふん! 満は知らないんだ! 27歳が見栄を張って、それを指摘されたときのみじめさが! じゃあ見栄を張るなだと?
よし、事前に『EOE』のことを調べておくか。最大限に楽しむためには、施設のことを知っておく必要があるからな。なになに? 『EOE』とは『エンターテイメントオブエンターテイメント』の略で、この世で最もエンターテイメントなエンターテイメント施設……。
ん……?