稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
あれから数日経って、エンターテイメントオブエンターテイメント。誰がどう聞いても正気だとは思えない施設名。だが俺は、正気でこの施設名にしそうなやつに心当たりがある。一期生と同じく独特な行動原理は持つが、まだ意味はわかる人物。ただ、だからといって積極的に会いたいかと言われればそうではない。帝斗はまだしも、透華といるときにあまり会いたくはない。それに、今回は久しぶりに遊ぼうという目的でやってきたんだ。変な巻き込まれ方をしたくない。
帝斗がスマートに受付を終え、入館証であるバンドを手渡してくれる。いつものお返しにと俺が払おうとしたが、「お前が楽しんだり、笑わせてくれたりすんのでお釣りがくる」と嬉しいことを言って、気づけば支払いを済ませてくれていた。なぜこんなにできた人間が俺の面倒を見てくれているんだ? あぁ、できた人間だからか。
「さて、どうする? まずは佐藤ができそうなもん選ぶか」
「帰るということか?」
「ちょっとは強がった方がいいっスよ」
「あまりにも情けない……」
「運動が苦手だということは知っているだろう! ふん、余計な気は遣うな。第一、試合というわけでもあるまい。楽しめればそれでいいんだ」
「甘い!! それでも俺が見込んだエンターテイナーか!?」
聞こえてきた声に、頭を抱える。帝斗曰く、俺はそういう星の下に生まれたらしいからどこかで会うとは思っていたが、まさか受付直後だとは思っていなかった。
あまり見たくはないが恐る恐る声がした方を見ると、やはりいた。『project:eden』二期生、一期生と同じく、自身独特の行動原理を持つ男、リニス・ディバルディア。
「やはりいたか……!」
「エンターテイメントあるところ、このリニス・ディバルディアあり! 当たり前だろう! 貴様ほどのエンターテイナーがエンターテイメントをすると言うのなら、エンターテイナーである俺がエンターテイメントをしないわけがない!」
「ちょ、名前!」
「名前? 本名を名乗って何が悪い! 逃げも隠れもせん、堂々たる勇往邁進、それこそが俺のエンターテイメントだ! あと今日は普通に貸し切りだ!」
「なにっ……! 見上げた男だ。すまん、俺が悪かった」
「構わん。俺にはわかっている。先の貴様の発言は、俺のエンターテイメントを引き出すためのエンターテイメントだったのだろう。やはり貴様は見上げたエンターテイナーだ」
「なんスかこれ……。先輩と一緒に遊びに行くんだから覚悟はしてたっスけど」
どうやら不本意な覚悟を透華にさせてしまっていたらしい。すまん、変なやつばかりに好かれていて。
リニスの男らしさ、いや、エンターテイメントは確かに堂々としていてカッコいい。が、周りに客がいなくてよかった。リニスはキャラクター性が強く、リアクションがかなりいいから『project:eden』の中では顔が売れている方だ。今のを聞かれていれば、身バレは必至だっただろう。というか本名だったのか……。リニスらしいと言えばリニスらしいが、色々と大丈夫なのか? それ。
「そして、もうわかっているな。俺と貴様がこうして出会ったということは、エンターテイメントを作り上げる必要があるということだ!」
エンターテイメントを……!? 随分楽しそうだが、今はプライベートだ。まさか帝斗と透華を放置して、リニスとエンターテイメントを作り上げるというわけにはいくまい。リニスが折れてくれるとは思えないが、断らなければ。
「すまないリニス。誘いに乗りたいのは山々なんだが」
「もちろん貴様の言いたいことはわかっている」
リニスは俺の言葉を制し、口角を僅かに上げた。そ、そうか。確かにリニスは一期生と比べればまだ常識が通じる方だ。恐らくエンターテイメントオブエンターテイメントのオーナーはリニスで、俺の顔が見えたから挨拶しにきてくれただけなのだろう。
「貴様らは四人で俺は一人。対戦相手が足りないという話だな?」
違った。俺をエンターテイナーとして見込みすぎているだけだった。
「いや、リニス」
「その心配には及ばん! 当然貴様らが四人でくると想定することは、エンターテイナーである俺からすれば児戯に等しい! 俺と貴様のエンターテイメントに相応しい者たちをここに呼んでいる! さぁこい! エンターテイナー!」
リニスが認めているエンターテイナー……? 嫌な予感しかしない。そして嫌な予感はどこからともなく聞こえてきたオシャレな音楽を聴いた瞬間に当たったと確信した。
背もたれが異常に高く、そこから鳳凰の羽のごとき金色の装飾が施された、豪華絢爛な椅子に座ったイベリスと、そのイベリスが座っている椅子を鎖でつなぎ、大型のバイクで牽引しているルイスと、鳳凰の上でヤンキー座りしているシゲキ。普通の人生を送っていれば絶対に見慣れない光景なはずなのに、もう見慣れてしまった。俺は歩む人生を間違えたのか……?
「ニコ、今日もクールだな」
「よォシゲキ的ニコ!! 今日こそテメェを徹底的にシゲキ的にしてやる!!!!」
「ニコ、今日もオシャレ……イヤァアアアア!!! あなたオシャレね!! オシャレすぎるわ!!」
俺たちの前に到着した三人が三人なりの挨拶をしたかと思ったその時、イベリスが奇声を上げ、I字バランスで回転しながら透華へと接近する。マズい! 変態から透華を守らねば!
「透華に近づくな!」
「名前までオシャレね! はじめまして、私はイベリス。オシャレなあなたのお名前は?」
「今名前褒めてくれませんでした……?」
「いやね! 自己紹介は本人の口から聞くものよ。さぁあなたのお名前を教えてちょうだい!」
「オイ、イベリス!! んなこたァどうでもいいからさっさとシゲキ的なバトル始めるぞ!!!」
「お黙り!! 私はこのオシャレな子とオシャレをする必要があるの!!」
「黙れ!!!!!!」
「黙れ!!!!???」
登場数秒でめちゃくちゃやかましい。リニスは腕を組んで頷いて満足気だ。満は透華を抱いてイベリスを警戒し、透華は混乱し、帝斗は笑い転げている。お前好きだもんな、常識じゃ測れない出来事。えっ、つまり俺も常識では測れないということか!?
「すまないな、ニコ。それにご友人。貴重な休日だったろうに、クールにお邪魔させてもらった」
「あぁ、いや……どちらかと言えば俺も謝る側だな」
「え、私は別に構いません。西園寺さんもこういうの大好きですし、気にしてないと思いますよ」
「ふっ、ニコがクールだからか、周りにもクールなやつらが集まるみたいだな」
透華とオシャレをしようとしているイベリス、早々にシゲキ的なことをしたいシゲキがバトルを始めようとしているのを横目に、ルイスがコーヒー片手にやってきた。いつもコーヒー飲んでるなこいつ。
しかし、やはりルイスは一期生の中でも落ち着いていて常識がある。『クール』を行動原理にしているだけはあるな。ルイスなら透華と話させてやってもいい。イベリスとシゲキはダメだ。オシャレすぎてシゲキ的すぎる。
「さて、クールなエンターテイメントを始める前に、お前に言いたいことがある」
ルイスが一度言葉を切ってタバコを咥えて火をつけるが、イベリスに「禁煙よ!」と握りつぶされ、「アツゥイ!」といってイベリスが飛び上がり、その勢いのまま豪華絢爛な椅子に座り、脚を7回組み直す。多分見るの三回目くらいだぞ。お決まりのパターンなのか?
「そうだな、ニコ。貴様をエンターテイナーだと見込んでエンターテイメントを作り上げようというだけではない。俺は貴様に更なるエンターテイナーとなるための場を用意しただけのこと!」
「アァ、そういやそうか。テメェをシゲキ的にしてやることも目的だったが、こいつを渡すんだったな」
そう言って、シゲキがポケットから取り出したスマホを操作すると、エンジン音とともにバイクがやってきて、俺の前で停止する。
メインのボディは艶のある黒と金属的なグレーで構成されており、フレームは鮮やかなライムグリーン。フロントカウルは鋭い角度で、ヘッドライトは細長く、鋭い目のようにも見える。タンク部分は筋肉質なフォルムで、ホイールは黒を基調としつつ、リム部分にライムグリーンのラインが描かれている。マフラーは大型で光沢感があり、全体としてクールかつオシャレかつシゲキ的なバイク。
「約束の品だ、ニコ。クールに受け取れ」
「おぉ、これが!!」
「わ! すご!!」
「今スマホで呼んでたっスよね……? ていうかこれ、もしかして先輩に?」
「そうよ。誕生日プレゼントにあげるっていう約束をしてたの」
「ありがとう! いいな、早速乗りたい!」
「んじゃまァ、シゲキ的に機能説明でもしておくか」
言いながら、シゲキが俺にスマホを投げ渡してくる。俺がキャッチできなかった場合を考えてか、満が俺の前に出て華麗にキャッチしてくれた。よかった。落として壊れたなんてことがあったら微妙な空気に……ならないな。ルイスとイベリスとシゲキとリニスがいて、微妙な空気になることはありえない。気遣いの達人である帝斗もいるし、雰囲気という点に関しては盤石の布陣だろう。
投げ渡されたスマホをよく見てみれば、スマホとは違った見た目をしている。
四角形に近いフォルムだが角は丸みを帯び、エッジ部分には滑らかなカットが施されている。両側に握りやすいグリップのようなデザインがあり、本体は白や薄紫を基調としていて、周囲には濃い紫がアクセントとして使用されている。液晶部分は大型のタッチスクリーンディスプレイで、画面にはアプリのアイコンが並んでおり、このあたりはスマホの使用感と変わらなさそうだ。アイコンはクールなデザインだったりオシャレなデザインだったりシゲキ的なデザインだったりと、様々なアイコンが並んでいる。
「これは?」
「シゲキ的コントローラーだ!!! そいつがあればそのバイクの性能をシゲキ的に発揮できる!! マップで目的地をシゲキ的に設定すれば自動でシゲキ的にテメェを運ぶ、シゲキ的な飛来物があればシールドが展開されシゲキ的に身を守る!!!! 他にも機能があるが、それはシゲキ的に使ってからのお楽しみだ!!!!」
こいつ、この性格じゃなければ世界一有名になっているくらいの技術力があるんじゃないか? 自動操縦というのは少し怖いが……あとどう考えても速度制限を取っ払いそうなアイコンがあるが、これは一生使わないでおこう。シゲキ的に警察に捕まってしまう。
「しかも二人乗りできるじゃん!」
「そうよ! ニコ、オシャレなあなたならわかってるわよね。初めての二人乗りはオシャレに特別よ! よく考えて相手を選びなさい!」
「なっ、なにっ……!」
満を見る。めちゃくちゃ乗りたそうにしている。かわいい。
透華を見る。咄嗟に目を逸らしたかと思えば、ちらちら俺を見ている。かわいい。
帝斗を見る。笑い疲れて床に転がっている。少しは興味を持て!!!!!!
「それはまた別のエンターテイメントだ。さぁ、行くぞ!! 俺たちでエンターテイメントを作りあげるんだ!!」
誰にしようか悩む俺を救ったのは、リニスだった。俺たちに背中を向け、堂々と歩いていく。り、リニス……! よかった! このままでは帝斗を選び、機嫌を悪くした満と透華と過ごすことになり、帝斗と二人乗りばかりかキャッチボールもするところだった。ん? なんだ満。《真理さんとか星菜ちゃんとかにバレる前に済ませちゃった方がいいよ》だと?
……あとで帝斗を誘っておくか。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part24
21:このライバーがすごい! ID:Ll9x0vZvh
今日はニコ配信休みか?
22:このライバーがすごい! ID:NSwKgzc5j
ほぼ毎日配信してるから寂しいな……
23:このライバーがすごい! ID:gtHuYK9tx
まさか、ニコに仕事!?
24:このライバーがすごい! ID:37ZdeldjP
>>23
そんなわけあるか
25:このライバーがすごい! ID:JkfX+Kk1K
>>23
義務教育から出直してこい
26:このライバーがすごい! ID:0f6iF/Zc/
義務教育で無職だってことを広められるの不名誉すぎだろ
27:このライバーがすごい! ID:gZ6aBG8i/
ニコにバイクをあげるわよ!
初めての二人乗り、オシャレに手に入れなさい!
28:このライバーがすごい! ID:9ZUgboGRe
うおおおおおおおおお
29:このライバーがすごい! ID:zm4dQT+gt
流石に写真はなしか
30:このライバーがすごい! ID:T3JCoiE5b
バイクをプレゼント!?
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ひと月遅れの誕生日プレゼントか?
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【速報】マリー、「二人乗りしたい」配信を開始
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【速報】星菜ちゃん「えー! 乗せてもらお!」
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【悲報】聖麗「ワタシも♡」
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聖麗にだけは乗らせるな
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>>34
いつもわいてくるな、この化け物
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まぁ最初は満ちゃんか友人だろ
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優姫ちゃんかアザミんもいい
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優姫ちゃんとアザミんは特に反応してないな
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見てないだけか?
41:このライバーがすごい! ID:nJt99fxLG
マリー「できればはじめてがいいけど、乗せてくれたらそれだけで嬉しい」
マリー「うそ。なんとしてでもはじめてがいい」
マリー「どうやってライバル蹴散らそうかな……」
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ニコとの二人乗りを巡って血みどろの戦いが始まろうとしてる
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コメント欄イレ姉「ニコには借りがあんだ。協力するよ」
マリー「ニコちーを仕留められたら困るんだけど」
44:このライバーがすごい! ID:rKRtHZnQC
草
45:このライバーがすごい! ID:NromeL2Hy
草
46:このライバーがすごい! ID:DFHB1Gojv
アザミんが配信始めたぞ!
47:このライバーがすごい! ID:gWJ5B2Qi4
配信タイトル「優姫をなんとしてでもニコと二人乗りさせるための作戦会議」
48:このライバーがすごい! ID:pnglWJur7
ブレなさすぎる
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あいつ、プレゼントしてもらうだけでこんなにおもちゃにされるのか
50:このライバーがすごい! ID:ygINXO/ut
まぁ初めての助手席とか二人乗りとか、そういうのがほしいっていうのはわかる
51:このライバーがすごい! ID:9I/QWpunt
アザミん「さて、ニコと優姫がラブラブだというのは周知の事実だが」
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嘘言ってて草
53:このライバーがすごい! ID:WdgCV592Q
嘘から事実を作り上げようとしてる
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水を得た魚
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優姫ちゃんから抗議の電話で席を外し、帰ってきた直後
アザミん「二人乗りは譲らないわよ! と言われた」
56:このライバーがすごい! ID:0nUjEhkUV
やりたい放題すぎる
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無敵か?
58:このライバーがすごい! ID:VyJR4o64D
もしニコが遊びに行ってたとしたら、帰ってきたらびっくりするだろうな