稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

118 / 228
第116話 エンターテイメントオブエンターテイメント (3)

 佐藤と透華がバイクに乗って、スタートラインに乗る。てっきり佐藤にプレゼントしてくれたバイクを使うのかと思ったけど、『エンターテイメント・ライディング』のバイクを使うみたいだ。さっきSNSを見てみたら、イベリスさんが種をまいたおかげで『佐藤のバイクでの初めての二人乗りを誰が手に入れるか』で大盛り上がりしてたから、その火を消さないようにっていう意味ではよかったのかもしれない。

 

『さて、準備はできたようだな』

『あぁ。透華は大丈夫か?』

『はい。いつでもいけるっス』

『ふっ、クールだな。リニス、遠慮はいらない。クールなテクニックでクールに勝利するとしよう』

 

 第一レースは佐藤と透華、リニスさんとルイスさん。『エンターテイメント・ライディング』は搭乗者の声が会場内に響くエンターテイメント要素があり、お互いの声も走行中であろうと聞こえるらしい。マジでエンターテイメントに特化してるな。

 走らない俺たちは観客席で並んで座っている。イベリスさんはどこから出てきたのかわからない豪華絢爛な椅子に座ってるし、シゲキさんは椅子の背もたれにヤンキー座りしてるけど、まぁ並んでいることに変わりはない。そんな人たちがすぐ近くにいるのに、「佐藤さん! 透華! がんばれー!」と応援している満ちゃんは、多分ずっと佐藤の隣にいたから意味不明な状況に慣れてしまったんだろう。成長するようになったから彼氏もできるし結婚もできるようになったけど、満ちゃんを満足させられるような男はもうこの地球上にはいないのかもしれない。

 

「佐藤さん、大丈夫かなぁ」

「設計的には事故らねぇはずだし、大丈夫だろ」

「じゃなくて、佐藤さんは童貞すぎるから、透華と二人乗りなんて……」

 

 十個以上年下の女の子に「童貞すぎる」って言われんの面白すぎだろ。

 

 確かに、透華は佐藤の腰に手を回してるし、佐藤はなんとか密着を避けようと変な姿勢になってるし、大丈夫じゃないかもしれない。レースの歴史上あったか? 童貞が原因で負けるって。後にも先にも佐藤くらいだろ。

 

『では行くぞ! レディ、ゴー!』

『そんな小学生のかけっこみたいな掛け声で!? クソッ、待て!!』

 

 リニスさんたちが軽快なスタートダッシュを見せ、佐藤たちが出遅れる。ちなみに、佐藤はリニスさんの掛け声で始まったのだと勘違いしてるけど、電光掲示板で『3,2,1』ってカウントされてたし、なんなら音も出てたぞ。よっぽど透華との二人乗りでドギマギしてるみたいだ。

 

「スタートからいきなりオシャレねあの二人!! オシャレセンサーがオシャオシャオシャオシャオシャ!!! 1万オシャレポイント贈呈!!」

「ビビビビとかじゃないんですか?」

「シーゲキシゲキシゲキシゲキ!! ニコからシゲキ的エネルギーが強烈に溢れ出てやがる!!!!」

「それ笑い声で合ってます?」

「西園寺さん! 反応してたらキリないからレースに集中しよ!」

 

 満ちゃんに腕を抱かれて、レースに目線を戻される。あんな面白い人たちを無視するってマジか? オシャレポイントとかシゲキ的エネルギーとか気になるだろ。多分近い将来オシャレポイントがオシャレに関する通貨になって、シゲキ的エネルギーはシゲキ的な資源になって地球を助けてくれるぞ?

 と思ったけど、2レース目は俺と満ちゃんで走るし、満ちゃんと一緒に走るのに負けるわけにはいかない。満ちゃんを勝たせてやりたいし、俺たちが勝った方が佐藤と透華は喜ぶからな。レースを見て全貌を把握して、対策を立てた方がいい。やるならガチだ。

 

『クソ、追い抜けん!!』

『フン、同じエンターテイナーであれば、選ぶコースは手に取るように把握できる! 貴様の選んだコースと同じコースを選べば、俺たちを追い抜くことは不可能ということだ!!』

 

 佐藤たちとリニスさんたちはそんなに離れていないどころか、佐藤たちが加速すればすぐに追い抜けそうな距離だ。ただ、リニスさんが佐藤の進もうとしたコースの前に行くせいで、追い抜かせない。ていうかそもそも機体でスピードに差はないって言ってたから、どっちにしろ追い抜かせねぇだろ。

 

「佐藤さんが遊ばれてる……! いつものことだけど……!」

 

 満ちゃんがナチュラルに佐藤を攻撃するのもいつも通りだな。

 

 ただ、この膠着状態を打開するためにあるのが『エンターテイメント・アクション』。各所に設置されたモニターにターゲットが表示されていて、後ろに乗っている人はその手に持っている銃で撃ち抜くことで手に入れられる。銃っつっても弾が発砲されるわけじゃなくて、ポインターをターゲットに合わせて引き金を引けば、それに反応してターゲットが撃ち抜かれるみたいだ。撃ち抜く時は前の人にしがみつけなくなるけど、そもそもしがみついていなくても、安全装置によってバイクから振り下ろされることはない。ルイスさんなんかコーヒー飲んでるしな。

 

「透華、大丈夫かなぁ……。あれで結構乙女だから、佐藤さんとくっついててドキドキしてて、まったくターゲット撃ち抜けないなんてことないといいけど」

「ハハ、いいんじゃね? 可愛らしくて」

「でも勝ってるとこみたいもん!」

 

 佐藤が勝ってるところなぁ。まぁそりゃあ勝ち負けで言えば勝つ方が一般的にはいいんだろうけど、佐藤に限ってはどっちでもいい。悪い意味じゃなくて、どっちでも映えるっていう意味で。負けても佐藤らしいし、勝っても佐藤らしい。面白いもん見せてくれればそれでいい。で、佐藤は面白いに決まってるからどっちでもいいっていうことだ。満ちゃんは二人のことが大好きだから、二人に勝ってほしいって思ってるだろうけどな。

 

 しかし、満ちゃんの想い空しく、ルイスさんが一番小さいターゲットを撃ち抜いて、透華は一つも当たらなかった。

 

『すみません、先輩。外しちゃったっス……』

『気にするな! 俺のテクニックで抜き去ればいい話!』

『フン、テクニックでどうにかできる範囲だと思うか! 俺は今、ルイスがターゲットを撃ち抜いたことで手に入れた『エンターテイメント・アクション:オーバードライブ』を使用する! その効果により、俺たちの機体の速度が上昇する! ただし、効果が持続するのは次のターゲットポイントまでだ!』

『油断するなよリニス。もちろん俺はクールにターゲットを撃ち抜くが、逆転される可能性もある』

『当たり前だ。全力でこい、ニコ、羽崎透華!』

 

 リニスさんたちの機体が加速し、佐藤たちとの距離がどんどん離れていく。最初のターゲットを撃ち抜けるのと撃ち抜けないのとじゃ、やっぱりかなり差が出るな。見たところターゲットポイントは五か所。今回は一周勝負だから、あと四回のチャンスをものにしないとキツイ。それどころか、最初に差をつけられた時点で、リニスさんたちが先に『エンターテイメント・アクション』を使えることが確定したようなもんだ。ここからの巻き返しは正直キツイ。

 

『透華! 難しいだろうが、ターゲットを撃ち抜いてくれ! 透華ならできる!』

『え、なっ、なんスか?』

『聞こえていなかったか、すまん。このままでは俺たちは負けてしまう! お前の力が必要なんだ!』

『わっ、わ、私が必要なんスか……?』

『あぁ、お前以外いない!』

 

 満ちゃんが首を横に振った。あぁ、ダメそうだな。思ったより透華が佐藤との二人乗りで頭がいっぱいになってる。そういえば、佐藤が相手なら押せばゴールインできそうなのにそうなってないのは、透華自身も奥手で恥ずかしがり屋だったからだったな……。

 

 

 

 

 

「見損なったぞ!! それでも俺が認めたエンターテイナーか!!」

「すまんリニス、言い訳のしようもない……!!」

「フン、まぁいい。三回目のレース、必ず貴様が出ろ! あれが貴様のエンターテイメントだとは俺は認めんぞ!」

 

 不機嫌になったリニスが去っていき、高速のバイクでコーヒーを飲んだからかびしょ濡れになっているルイスがその背中を追って去っていった。なぜそんな状態でクールな表情ができるんだ。

 

「その……すみません、先輩。役に立てなくて」

「いや、無理もない。今回は相手が上手だった。それに、最後の二つは撃ち抜けただろう? できなかったことを悔やむより、できたことを誇ってくれ」

 

 レースは負けた。最初に差をつけられて、そのまま一度も追いつけず。最後の方に手に入れた『エンターテイメント・アクション』は強力なものだったが、それまでにつけられた差が大きすぎて、あまり意味をなさなかった。

 そのことを気にしているのか、透華が申し訳なさそうにして目を合わせてくれない。も、もしかして俺が臭すぎて、密着していて気分が悪くなったとかか? 毎日風呂には入っているし、レース前こっそり帝斗に「消臭剤を持っていないか!?」と聞いてなぜか帝斗が持っていた消臭剤を借りたのに。俺の奥底の実力があまりにも臭いというのか!?

 

「すまん、俺が臭くて」

「え? や、臭くはないっスけど……」

「何? それならばなぜ浮かない顔をしているんだ」

「んーっと……次、どうやってリベンジしようかなって考えてただけっス」

「おぉ、そうか! やる気だな、透華!」

「はい。次は情けないところ見せるわけにはいかないんで」

 

 何か含みのありそうな感じなのが気になるが、透華がリベンジに前向きならばこれ以上言うことはない。それに、今負けたのは次への布石。リベンジを達成してこそのエンターテイメント! だからこそ、リニスも三回目のレースに出ろと言ってきたんだろう。

 

「次は帝斗と満か。あの二人なら心配はいらないだろうが……いや、相手が相手なだけに心配だな」

「イベリスさんはともかく、シゲキさんが危なそうっスもんね……」

 

 流石に人殺しはしないだろうが、それでも危なそうなのは事実だ。イベリスと一緒にいることでイベリスがある程度のストッパーにはなってくれるだろうから、そこまで心配はしていない。

 

「よし、透華! 二人を応援しつつ、次の作戦を練るぞ!」

「はい。お願いします」

 

 次こそは俺たちが勝利を飾り、エンターテイメントを見せつけてやる!!

 

 ……待て、俺なんか毒されてないか?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。