稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第117話 エンターテイメントオブエンターテイメント (4)

「帝斗ー!! 満ー!! がんばっ、ゲホッ、ゴホッ」

「だ、大丈夫っスか?」

「だい、大丈夫だ……」

 

 応援しすぎてむせた。まだスタートしていないのに。

 透華に背中を擦ってもらいながら帝斗たちを見ると、俺の声が聞こえていたのか帝斗がクールに片手をあげて応え、満は両腕をぶんぶん振って応えてくれている。今更だが、満が帝斗のことをいいなって思っていたということを思い出して腹が立ってきた。身近な男性でいいなって思う相手が帝斗だというのは無理もない話で、それはそうなるだろうとは思うが、それとこれとは話は別であり、そもそも年齢差というのも……いやしかし、愛や恋の前に年齢を持ちだすのは野暮な話であるということも重々承知で、そもそも満は帝斗のことが恋愛的な意味で好きという意味ではなく、あくまでいいなと思う要素があっただけのこと。気にしすぎて満に嫌われるのもよくない。

 

「どうしたんスか?」

「いや、満の彼氏は苦労するだろうな、と」

「確かに。男性の基準が先輩と西園寺さんですからね」

「むしろ俺を基準にするならより取り見取りだろう。俺より優れた男はたくさんいるぞ」

「満にとってはそうじゃないっスよ」

「そ、そうか……」

 

 てれてれ。

 

 照れている場合ではない。電光掲示板に目を向けると、既にカウントが始まっていた。俺はスタートする前、透華のことを意識してカウントされていることに気づいていなかったが、まさか帝斗がそんなミスをするはずもなく、同時にスタートする。

 相手はイベリスが操縦者で、その後ろにシゲキが乗っている。イベリスにまったくしがみつかず、片手で銃をくるくる回して弄んでいる姿が非常にガラが悪くてシゲキ的だ。満は帝斗にしがみついているというのに。しがみついている!?

 

「満! いくら帝斗が相手だとはいえもっと離れろ! はしたない!」

「私も先輩とあれくらいくっついてたっスけど……」

「え!!???」

「はしたないんスね……気を付けます」

「えっ、あっ、あ! もうすぐ一つ目のターゲットだぞ!」

 

 よし! 完璧に話を逸らせた! フフ、VTuberになってからというものの、俺の話術の上達が留まるところを知らんな……。

 さっきのレースでわかったが、最初のターゲットはかなり重要だ。ここを取れるか取れないかで、今後のレース展開に大きく影響する。もちろんシゲキは当たり前のように撃ち抜いてくるだろうから、満が撃ち抜けるかどうか……。

 

 という俺の心配は、嫌な形で当たった。満とシゲキ、どちらも撃ち抜くことには成功したが、ターゲットの減り方がおかしい。ターゲットはハイ、ミドル、ローのレベルで撃ち抜く難易度が用意されていて、それぞれ二つ、四つ、六つの合計十二個用意されているが、二つどころか五つ減っている。

 

『ず、ずるい! 四つも撃ち抜くなんて!』

『ギャハハ!! 別に一つしか撃ち抜いちゃいけねェなんてルールねぇだろォ!!? イベリス!! シゲキ的にぶちかましてやれ!!』

『えぇ、オシャレに行くわよ!』

 

 イベリスが天高く腕を突き上げて、払うようにバイクのモニターをタップする。それと同時、レース場に虹がかかり、星屑なような煌めきと、色とりどりのバルーンが投影された。

 

『『エンターテイメント・アクション:オープニング・セレモニー』! どう? オシャレでしょ!』

『それなんの効果もねぇクソアクションだろ!!!! テメェふざけやがって操縦代われ!!』

『お黙り!! 私のレースの開幕は、オシャレじゃないといけないの!! いいえ、開幕どころかこの先もね!!』

『黙れ!!!!』

『黙れ!!!!???』

『『エンターテイメント・アクション:オーバーディレイ』。次のターゲットまで相手のスピードは強制的に『ロー』になる』

『なんですって!! 鬼畜! 鬼畜オシャレ!』

『イベリス!! シゲキ的なアクション使え!!』

『いやよ! 私はオシャレなことしかしたくない!』

 

 相性最悪だ……。互いの個性が強すぎてぶつかり合っている。その間に帝斗がさらっと『エンターテイメント・アクション』を使って差を広げた。シゲキが四つ撃ち抜いたから、イベリスはあと三つ『エンターテイメント・アクション』を使えるはずなのに、オシャレじゃないから使わないんだろう。少し心配なのは、帝斗が笑ってちゃんと操縦できなくなることくらいか。

 ただ、ここで終わるイベリスとシゲキじゃない。シゲキが四つ撃ち抜けるなら、オシャレな『エンターテイメント・アクション』を引ける可能性も十分ある。そもそもオシャレな『エンターテイメント・アクション』がなんだという話ではあるが。

 

 後ろでイベリスとシゲキが大揉めしている間に、帝斗たちが先に二つ目のターゲットポイントに到達すると、満が危なげなくターゲットを二つ撃ち抜いて……二つ!?

 

『ナイスだ満ちゃん!』

『やった! できた!』

『ほォ、中々シゲキ的じゃねぇか』

『あらやだオシャレ!』

 

 満の運動能力はすごいとは思っていたが、二回目のターゲットで二つ撃ち抜くなんてとんでもないぞ。シゲキはシゲキだからで納得できるが、普通は一つでも難しい。戻ってきたら褒めちぎってやろう。

 

「満、すごい! すごいっスよ先輩、ほら!」

「わ、わかっている! わかっているから離れてくれ!」

「嫌っス!」

「わかってくれたならよかった!」

 

 満の活躍でテンションが上がった透華に手を握られて体を寄せられたが、流石は透華、言えばわかってくれる。……ん? なにかおかしくないか? 気のせいか。

 

 帝斗はすぐに『エンターテイメント・アクション』を使わず温存するようだ。距離が離れていてまだ焦る状況ではないからか、それともカウンター系のアクションを手に入れたからかはわからないが、帝斗の考えることであれば間違いはないだろう。俺の予想では、満がこの先ターゲットを二つ以上撃ち抜いてくれると信頼しているからこそ、あえてアクションを温存することでどのような状況にも対応できるようにしているのだと思う。帝斗はロマンチストでありリアリストでもあるからな。その点は助かった。リアリストなだけだったら、今頃俺は見放されていただろうからな。

 

『オラ、イベリス!! ターゲットシゲキ的に撃ち抜いてやったぞ!!』

『でかしたわ、シゲキ!! さぁ見なさい! 『エンターテイメント・アクション:ミラージュ・カーテン』!!』

 

 イベリスたちが二つ目のターゲットポイントに到達し、シゲキが当たり前のようにターゲットを四つ撃ち抜く。その直後、イベリスが『エンターテイメント・アクション』を使用すると、帝斗たちの前に無駄にキラキラした装飾が施された赤いカーテンが現れた。

 

『これであなたたちはターゲットが見えなくなるわ! ちなみに効果は10秒間よ!』

『テメェイベリス!! 10秒間しかねぇならターゲットポイントの手前で使いやがれ!! 自動操縦だから今使ってもシゲキ的に意味ねぇだろうが!!』

『嫌よ!! こんなにオシャレなら、早く見せたいもの!!』

『不本意だけどなんか勝てそうだな……』

『うん……』

『あら、そんなこと言ってていいの? 私のオシャレはまだ止まらないわよ! 『エンターテイメント・アクション:ミーティア』!!』

『なにっ、めっちゃ速くなるとかか!?』

『いいえ、上を見なさい!』

 

 イベリスの言葉につられて上を見ると、綺麗な流れ星が投影されていた。

 

『オシャレでしょう?』

『ぶっ殺してやる!!』

『ちょうどいいわ! 前からあなたはもっとオシャレにしないといけないと思ってたのよ!』

『上等だ、シゲキ的にしてやるよ!!』

 

 

 

 

 

「お疲れ、帝斗、満」

「クソ面白かったわ」

「私は納得いかない! もっと、こう、なんかさぁ!」

 

 結局、レースはイベリスとシゲキが大喧嘩して、その間に危なげなく帝斗たちがゴールして、勝利で終わった。観客席に戻ってきた帝斗と満を出迎えれば、帝斗は勝ち負けの過程はともかく、イベリスとシゲキが面白かったからか満足した様子で、満はぷりぷりしている。こういう熱い感じのやつ好きだもんな、お前。

 視界の端では、背中に六本の機械的な銀色の腕をつけたシゲキと、オシャレな装飾が施されたカーテンを手にしたイベリスが戦闘を繰り広げている。あいつら、生まれてくる世界を間違えてるだろ。

 

「佐藤さん! 次私と行こ! リニスさんならちゃんとやってくれるし!」

「んん、そうだな……」

 

 ちら、と透華を見る。目が合うと、眉尻を下げて微笑んでくれた。「仕方ないからいいっスよ」といったところか。

 帝斗を見る。イベリスとシゲキに興味深々だった。そろそろ寂しいぞ俺は。

 

「いや、透華と行く。我慢してくれ」

「えー……」

「俺は透華と共にレースを走り、そして負けた。イベリスとシゲキがあの様子なら、次のレースはリニスとルイスだろう。であれば、俺と透華以外選択肢にない。俺と透華の思い出に、敗北で終わるものなどあってはならん!」

「よく言った!! それでこそ俺が認めたエンターテイナーだ!!」

 

 見ずともわかる。腕を組んだリニスが、堂々と俺を見ているということを。リニスの方を見れば案の定腕を組んで仁王立ちしており、その隣で着替えたルイスがコーヒーを飲んでいた。いつの間に着替えたんだ?

 

「先の勝利は俺も納得していない。あれが貴様らの真の実力ではないからだ! エンターテイメントとは、相手の真の実力を引き出し、魂でぶつかり合うもの! その点で言えば、俺も未熟だったと言えよう。貴様らの真の実力を引き出せなかったのだからな」

「安心しろ、リニス。必ず貴様の納得のいくエンターテイメントを作り上げることを約束しよう」

「フッ、やはり貴様は見上げたエンターテイナーだ。行くぞ、ルイス!」

「あぁ……それと、ニコ、透華。次は俺も本気で行く。どうやら、今のお前たちにはクールな手加減をする必要はなさそうだからな」

 

 やはり、本気ではなかったか……。ハイレベルのターゲットを一瞬で撃ち抜く腕も見事だと思ったが、ルイスならそれだけで収まらない何かがあると思っていた。どうやら、当たり前だが楽には勝てそうにないらしい。

 

「よし、俺たちも行くぞ、透華」

「はい、絶対勝ちましょう」

「ねぇねぇ西園寺さん。これ、初めての共同作業ってこと?」

「別に初めてでもねぇだろ」

 

 そういうことを言うな!! 意識しちゃうだろう!!!

 

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