稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第126話 バレンタインの不安

「バレンタインバトル?」

「おう。『project:eden』に所属している男性ライバーで、誰が一番チョコをもらえるか、みたいな。まぁ実際にはファンレターだけど、その数を毎年面白がって公式が発表するもんだから、イベント化してるんだよ」

 

 2月初旬。忙しかった時期を潜り抜けて落ち着いていた頃、「そういえばどうするんだ?」と帝斗に聞かれ、「俺も迷っているところだ」と言った瞬間にバレンタインバトルの説明をしてくれた。どうやらまたしても知ったかぶりをしたことに気づかれたらしい。この業界に入るとなった時にある程度は勉強したが、俺には縁のないイベントだと思って忘れ去っていたようだ。

 2月14日と言えば、バレンタインデー。日本におけるそれは、想い人にチョコを贈る日とされている。想い人ではなくとも、義理チョコという形で友人にチョコを贈ったり、恵まれない男にチョコをあげたりと幸せなイベントには違いない。ちなみに、俺は学生の時に「恵まれない男子どもにチョコをやろう!」と言われ、なぜか俺だけもらえなかった。まぁ、あの時期は「バレンタインデーはチョコを売りたい企業の戦略にまんまとつられている愚か者どもが、それに気づかずバカみたいに浮かれている日だ」と言って斜に構えていたから当然だろう。

 

「バトルといっても、ファンレターの数を競うだけか?」

「そう。別に景品とかも出ねぇし、ファンが自分の推しが一番だって押し上げてくれるイベントって感じだな」

 

 なるほど、つまり『バレンタインバトル』というイベントは、自分がどれだけファンに応援してもらえているかを、『ファンレターの数』というはっきりとした数値で実感できるイベントということか。俺もこの前の『楽園都市』でやっと自分がちゃんと応援してもらっているんだと実感できたから、こういうイベントはライバーにとってかなり嬉しいものだろう。

 思い出してきた。確か、『project:eden』はこの『バレンタインバトル』を盛り上げるために、普段はファンレターを受け付けていないんだ。「そういえば全然ファンレターとかもらってないな……」と思っていたが、『バレンタインバトル』のせいだった。よかった。俺に全然人気がないわけじゃなかった。

 

「ところで、満と透華はどこに行ったんだ?」

「チョコの試作だってよ。今年は満ちゃんもチョコ作れるようになったからな」

「そうか。毎年悪いな」

「それを言うなら年がら年中悪いだろうが。思う必要はねぇけど」

 

 バレンタインデーが近いというのに帝斗が辛い。いや、わかっているんだ。もう個人的な収入もあるし、世話をしてもらわなくてもいいだろうというのはわかっているんだが、人間は一度堕落するとそこから抜け出すのが難しいというのもので……でも、俺もう27歳だよな? それなのにほぼ毎日世話をしてもらって、恥ずかしいと思わないのか?

 どうやら、そろそろ自立するときがきたらしい。遅すぎたくらいだ。いやしかし、配信業というのは安定しない。もしかしたら突然収入がなくなることもありえる。やはり、探偵でも有名になってからでなければ自立はリスクがある。もちろん帝斗と透華に世話をしてもらうのが楽だからという理由ではなく、現実的に俺がちゃんとした生活ができるかという可能性を考慮した上での結論だ。まだ俺は自立するには早い。というかできない。帝斗と透華がいなくなったら一日で野たれ死ぬ自信がある。

 

「で、バレンタインで言えばもう一個あってな」

「なんだ?」

「次のエデスク、バレンタイン回撮るって。明日の話だけど」

「おぉ、そうか。……」

 

 ん? 待てよ?

 

「帝斗、マズい!! 俺が星菜さんからチョコをもらうと、それが原因で炎上してファンがいなくなり、バレンタインバトルで歴史に名を刻む大敗を喫することになってしまう!!」

「別に、動画でその場面が出なきゃ……まぁ、動画にするだろうな。そんな面白そうな場面」

「俺が星菜さんからチョコをもらい、それが原因で炎上してファンがいなくなり、バレンタインバトルで歴史に名を刻む大敗を喫することのどこがおもしろいんだ!!」

「チョコもらうとこだけな。なんで炎上してバレンタインバトルで負けるとこまで動画化されんだよ。密着取材でもついてんのか」

「チョコをもらうところが面白い……? なぜだ……?」

「炎上してバレンタインバトルで負けるところまでを一瞬で想像するようなやつがチョコもらうのは面白いだろ」

 

 面白いとは思わないが……。流石に俺も童貞だとはいえ、完全に義理だとわかっているチョコをもらって狼狽えるようなことはない。普段みんなが期待しているような童貞ムーブはできないだろう。毎回思うがなぜ俺は童貞を期待されているんだ? 童貞の期待の星か? 星の中で一番なりたくない星になってしまっている。

 俺がチョコをもらうところを帝斗が面白がるのはわかる。こいつは大体俺の起こす事象が面白く見えてしまうから、きっと好き勝手に自分の中で解釈して、自分なりの『面白い』に落としてしまうのだろう。だが、視聴者から見て面白いことはどうもできそうにない。

 

「!! 帝斗、マズい!! 俺が星菜さんからチョコをもらった時に視聴者が期待しているのは童貞ムーブ!! 俺がそれをできなければ、それが原因で炎上してファンがいなくなり、バレンタインバトルで歴史に名を刻む大敗を喫することになってしまう!!」

「同じことを何度も言わせんな」

「帝斗、お前は俺のマネージャーだろう!! こんな大ピンチに何を呑気にしているんだ!!」

「お前のファンはお前に常識があるってこと知ってるし、星菜ちゃんからチョコ貰って童貞ムーブかまさないってことは理解してんだろ」

「しかし!! ……」

「反論の言葉も出ねぇのにデケェ声出すな」

 

 つ、強すぎる……。もう少し手心を加えてくれてもよくないか? まったく言い返す言葉が出てこない。ぐぅの音も出ない。俺は人生で何度ぐぅの音を封殺されるんだ。ぐぅの音を封殺されすぎて、突然世界から『ぐぅの音』が無くなったとしても、俺だけは問題なく生活できる未来が見えた。そもそも、もしかしたら既に俺から『ぐぅの音』は無くなっているかもしれない。あまりにも出なさすぎる。

 

 まぁ、帝斗がそこまで言うのなら炎上する心配はないのだろう。もし俺に炎上する可能性があるのなら、「炎上するけど面白いから大丈夫」か、「笑えない炎上するから何とかする」のどちらかを言ってくれるはずだ。帝斗は未来が見えてるんじゃないかというくらい先見の明があるからな。

 

《じゃあなんで佐藤さんの親友なの?》

《うるさい!! チョコ溶けてしまえ!!》

《普通に今溶かしてるけど……》

 

 遠隔で俺を煽ってきた満に喧嘩を仕掛けたら、チョコの調理工程を知らないことが露呈してしまった。恥ずかしい。それ以降満から何も言われないのが余計恥ずかしい。

 

「クソ!! もういい!! 帝斗、今から配信するから静かにしておけ!!」

「満ちゃんに何か言われて不機嫌になってんのか?」

「俺は時々、お前が親友すぎて怖い」

「数秒黙って、表情が変わったからな。お前がわかりやすいんだよ」

「静かにしろ!!」

「会話する気がねぇなら先に言っといてくれよ」

 

 帝斗を静かにさせて、配信を開始する。帝斗に口で勝つには理不尽にキレるのが一番だ。それはもう負けだと言われるような気もするが、俺が勝ちだと思っていたら勝ちなんだ!!

 

「我が名はミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコ!! 深夜の狂騎士だ」

 

いきなり始めるな

俺たちにも予定があるんだよ

ニコにはないだろうけど

おい、満ちゃんはどこだ?

 

「満は友人とチョコの試作をしているらしい。だから今日はいない」

 

は?

解散

ニコだけっていうのも懐かしいな

レア配信

旅行とか、それこそ初期くらいか?

 

 そういえば、俺だけで配信するのは初期と旅行のとき以来か。今日は帝斗と二人だけというのも然り、久しぶりなことが多いな。配信画面も俺の立ち絵のみで、隣に満はいない。普通に寂しい。

 ただ、久しぶりというのは何もいいことばかりではないらしい。ありがたいことに満のファンも多くいるようで、満を望むコメントが多い。めちゃくちゃ嬉しいな。まぁ、満のことを好きにならないやつなどいるわけがない。俺ではなく満目的で配信を見てくれている人もいるだろうしな。

 

「満目当てで見に来てくれた人は申し訳ない。その分、久しぶりの俺一人の配信を楽しんでくれると嬉しい」

 

いやだいやだ!! 満ちゃん出して!!

ニコ、お前がキモいから視聴者もどんどんキモくなっていってるぞ

責任取れ

別にそいつが潜在的にキモかっただけで、ニコに責任はないだろ

 

「いや、潜在的にキモかったことが事実であろうと、それを引き出してしまったのが俺だという事実は変わらない。でもそもそもキモくはないだろう? 満を望むのは当然のことだ」

 

確かに

俺たちが悪かった

ニコに気づかされた

というわけで満ちゃんを出せ

満ちゃんが出てくるまでここを一歩も動かないぞ!!

元々一歩も動かなくていいだろ

 

 今日も俺の視聴者は元気だ。この前、月宮さんから「あんたの配信のコメント、コメント同士で会話してて楽しそうよね」と言ってもらったことがある。通常、配信は配信者対コメントであることが多いというかスタンダードだとは思うが、俺の配信だと俺対コメント、もしくはコメント対コメントになっている。とはいっても俺を置いてけぼりにするかと言えばそういうわけでもなく、コメント対コメントの話に対して俺が入っていく、みたいなこともあるから、本当に俺の配信に集まってみんなで喋っているみたいな感覚だ。

 

「そういえば、バレンタインデーが近いな」

 

そうだな

ただ近いっていうだけだけどな

ニコはチョコもらえるからいいよな

全部義理……いや、ほとんど義理だろうけど

 

「あぁ、ありがたいことにチョコは毎年もらえている。が、それも重要だが、バレンタインバトルの話をしたくてな」

 

俺たちに任せろ

ニコを一位にすればいいんだよな?

ニコは俺たちが頑張らなくても普通に多そう

やっぱムカつくからやめとくか

 

「いや、俺を一位にしてほしいわけじゃない。『楽園都市』で応援してもらっているというのは理解できたから、無理に頑張って俺を押し上げるよりも、元気に俺の配信を見てくれるだけで嬉しいからな」

 

 『project:eden』の視聴者はお祭りが大好きだから、ファンレターを大量生産して自分の推しを一位にしようという人がいてもおかしくない。俺の視聴者にそういう人がいるかは定かではないが、それをやって体調を崩したとなるのは申し訳ない。まぁ、それはそれとしてファンレターがほしいのは事実だが……。

 

「ん?」

 

 うるせぇ、応援させろ! 黙ってろテメェ、ぶっ飛ばすぞ、という俺を袋叩きにするコメントに返そうとした時、RINEが届く。見れば、グレイヴィーさんとアルとのグループに、グレイヴィーさんから『バレンタインバトルでビリだったやつは、ホワイトデーボイスを出すことにしよう』という提案があり、すぐにアルが『オッケーっす!』と返していた。

 

 ……。

 

「お前たち、何としてでも俺を応援してくれ」

 

これ、何かあったな

ファンレター少ないと不都合あるとか?

ファンレター贈るのやめるわ

俺も

 

 応援してくれるって言っただろうが!!

 

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