稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第127話 ドキッとするバレンタインデーシチュエーション!

「教えて! 『ドキッとするバレンタインデーシチュエーション』!」

「わー!!」

「うおおおおお!!!!」

 

 『EDEN’s:School』収録日。バレンタイン回である今回はゲストを招かない、というところまで聞いていた俺は、今日も今日とてぶっつけ本番で挑んでいた。何もかもがぶっつけ本番すぎて、もはや何にでも対応できるようになっている気がする。

 

「とりあえず盛り上げてみたが、『ドキッとするバレンタインデーシチュエーション』とはなんだ?」

「はい! 今回はですねー、視聴者の方々からいただいた、ドキッ! とするバレンタインデーシチュエーションを実践してみよう! という回になります! 実際に私たちがやってみて、ニコさんがドキッ! とすれば、そのシチュエーションを使って気になる彼にアタックできる! ってわけですね!」

「この動画の配信日はバレンタインデー前日だと聞いたが……」

「あと、ニコさんは大体ドキッ! てしそうだから教材にならないような……」

「甘く見るな。俺自身がドキッ! としなくとも、一般的にドキッ! とするかどうかは判断できる」

 

 スタッフから笑いが起きる。どういうことだ!!

 俺が言ったことは嘘ではない。俺が他の人と比べて感性がずれているということは流石に自覚しているが、だからと言って一般的な感覚がわからないというわけではない。むしろ、シチュエーションに自分自身を落とし込むのは得意分野だといってもいい。ゲームもTRPGも完全に没入型だからな。シチュエーションを実践し、それに対して判断を下すというのは俺にかなり向いている。

 

「ところで、満は何をするんだ?」

「満ちゃんにももちろん参加してもらいますよ? なので、ニコさんにチョコを渡してもらいます! 本命っぽく!」

「私、何か悪いことしたっけ」

「俺にチョコを渡すのが罰ゲームだと捉えるのはやめてくれるか?」

 

 まぁ、満からすれば気持ち悪いと思うのも無理はないが……。帝斗を呼ぶべきだったか? 協力者Aみたいな感じで。それだったらまだ満もやりやすかっただろうし……。その場合、帝斗が炎上することになるが、あいつなら大丈夫だろう。本当に意味が分からんな。俺に炎上経験がなく、あいつに炎上経験があるの。俺はどこまであいつの人生の足を引っ張れば気が済むんだ。

 

「それじゃあ、私と満ちゃんで順番に色んなシチュエーションを試していきますが、ニコさんにはどんなシチュエーションかは教えません!」

「男性側が知っていては意味がないからな。わかった」

「うーん……気乗りしないけど、ちょっと待っててね」

「一つ言っておくが、俺もお前から本命っぽくチョコをもらうのは気乗りしないからな?」

 

 スタッフから一斉にブーイングをくらった。こ、こいつら……!!

 ふん、当然のことだろう。妹、姪、もしくは娘のような存在なんだ。そんな子から本命っぽくチョコをもらうなど、できることなら遠慮したい。俺以外の人からすれば満はかわいい女の子で、本命っぽくチョコをもらう俺のことを羨ましく思うだろうが、俺の立場になって考えてみろ。俺も満も気まずいだろうが。

 ……いや、待て。流れで星菜さんと満から本命っぽくチョコをもらうことになってしまったが、俺が危惧していた状況なんじゃないか? 満からもらって炎上することはないだろうが、星菜さんから複数のシチュエーションで複数のチョコをもらうなど、星菜さんからのファンからすれば嫉妬で呪い殺せるほど羨ましいものだろう。マズい! 俺の命日が二週間後に設定されてしまった!!

 

「すみません、今から内容の変更はできませんか?」

「火葬でいいですか?」

「どうせ燃えるからか? 覚えておけよ!!」

 

 満と星菜さんを待っている間にディレクターさんに直談判したもののあえなく撃沈。やはり『project:eden』のスタッフ、炎上を炎上とも思っていない。むしろ火葬だと捉えている始末。数字のためなら倫理観も捨て去るということか……!!

 違う、信じろ。俺は今まで炎上しそうなものも幾度となく乗り越えてきた。色んな人から炎上しにくいと評してもらえているんだ。今回も炎上しないはず。よく考えれば月宮さんの3Dお披露目の時の方がマズかった気がするし、そう考えれば気が楽になってきた。一般的な感覚からすればえげつないことしてるな、『project:eden』。この事務所でよかった。他の事務所だったら俺は今頃燃えて灰となっていただろう。

 

「ニコさんニコさん! 準備できたので、高校生になってください!」

「わかった」

「高校生になってくださいって言われてすぐに了承するの、ニコさんくらいだよ」

 

 それが仕事だからな。

 高校生になってくださいということは、恐らくというか十中八九高校でのシチュエーションだろう。俺は高校時代に青春をまったくしていなかったから、どのようなものがくるか想像もできない。というか普通に申し訳ないな。リアルで星菜さんからもらいたい男子生徒は大勢いるだろうに、俺のような27歳独身童貞彼女いない歴=年齢の俺が、演技とはいえチョコをもらうなんて……。改めて見たら終わってないか? 俺のスペック。

 

「それじゃあ準備できましたか?」

「あぁ、問題ない。ここにいればいいのか?」

「はい! あ、向こう向いてもらってもいいですか? ……ありがとうございます! じゃあ満ちゃん、スタートお願い!」

「はーい。それじゃあ、スタート!」

 

 満の合図と同時、背後から走ってくる音が聞こえる。振り向くとすぐ近くに星菜さんがいて、その手にあるチョコを俺に押し付けて、俺を追い越して走り去っていった。は? ドキッ!

 

「はいカット!」

「なっ、なんだ今のは……!? 一瞬の混乱の後に『え、まさかこれは本命か!? 義理でこのような渡し方はしないだろうし……』という期待がこみ上げ、ドキッ! としたぞ!」

「ふふ、やった。一つ目のシチュエーションは、『走って無言で渡して去っていく!』です! 下校の時とかに使えますね!」

 

 星菜さんの表情もよかった。俺が振り向いた瞬間に目を見開いて、慌てて目を逸らしてチョコを俺に押し付け、そのまま顔を見られないように伏せて走り去っていく。『好きな相手にチョコを渡すのが恥ずかしい女の子』の完璧な演技ができていた。満のカットがなければ、俺は数分ぼーっとした後、本命チョコをもらえた実感が沸いて「えぇ!?」と大声でびっくりしていたことだろう。

 

「どうでしたどうでした?」

「いや、かなりドキッとした。女の子の恥ずかしさと、その中でも好きな人に気持ちを伝えたいという精一杯の勇気が感じられていい。並大抵の男なら一撃で屠れるだろう。それに、次会った時どうしよう、とその子のことで頭がいっぱいになるのもかなりいい。相手に自分を意識させるという意味では、かなり有効な手かもしれんな」

「なんでそういうことがわかってるのに、今まで彼女いたことないの?」

「やってくれる相手がいなかったからな」

「へー! ニコさんが同級生だったら、気になっちゃうと思うけどなぁ」

「異性としてじゃなくて、面白すぎるからでしょ?」

「? うん」

 

 あ、危なかった。満がフォローしてくれたから、辛うじて炎上を回避できそうだ。満のフォローが日に日にうまくなっていっている気がする。俺は言われた瞬間どうやって返そうか脳をフル回転させていたところだったのに。もしかして俺より満の方が頭の回転が速いのか? い、いや、そんなはずはない。俺は探偵事務所の所長だ。満の方が早く反応できたのは得意分野の違いというだけであって、俺の方が満より頭が悪いわけではない。

 

「何はともあれ、このシチュエーションは使えそうだな」

「ですね! 私も渡す時ドキドキしちゃった!」

「ニコさん相手に!!!????」

「驚きすぎだろう!! シチュエーションの話だ、シチュエーションの!!」

 

 幽霊の特性を利用して、天井まで吹き飛びながら驚く満を手招きで呼び戻す。というか別に俺相手にドキドキしてもいいだろうが!! そこまで驚くようなことか? ちなみに、俺も俺相手にドキドキしたと言われたらかなりびっくりする。正直、さっきは満がめちゃくちゃ驚いたから俺が驚く隙も無かっただけで、普通にびっくりしていた。

 満を呼び戻したところで、手元にあるチョコをどうしようかと悩む。次は満の番だから、満に渡せばいいのか? 恐らく備品だろうし、これを使い回しにするのだろう。なんとなく質感が本物のチョコっぽいな。流石『project:eden』。細部までこだわりを見せるプロの業、感服するほかない。

 

「よし、次は満だな? チョコはもう一度これを使うのか?」

「あっ、それは私からニコさんへのチョコです! ハッピーバレンタイン!」

「ん?」

「え?」

「? もしかして、いらなかったですか……?」

「い、いやいやいやいやいらないということはないが、えっ、星菜さんから、俺にチョコを!? シチュエーションを試すための備品ではなく!?」

「はい! えへへ、びっくりしてくれるかなーって思って、渡しちゃいました!」

「ちょっと待ってニコさん、流石に可愛すぎる。炎上するかも」

「あぁ。これは……いや、それよりもまずありがとう。大事に食べる」

「はい!」

 

 マズい、普通にドキッとした。まだ高校生の俺が残っていたのかもしれん。流石に愛らしいが過ぎる。俺が女子高生を恋愛対象として見る大バカ者だったら、この一撃で恋に落ちていた。これが星菜さんが俺に渡すためのチョコだったというならば、先ほどの星菜さんの「ドキドキした」というセリフは、シチュエーションと自分のチョコを俺に渡すという二つの意味がかかっているということになり、勘違いするのに十分な要素がある。あまりにも恐ろしい。バレンタインデー付近はネットを断とうと決断するくらいには炎上が怖い。

 

「ふふー。ちなみに、お姉ちゃんからもチョコ預かってるので、ついでにあげますね!」

「明さんからもか! ありがたい。今度直接お礼をさせてもらおう」

「じゃあじゃあ、ホワイトデーどこか連れてってください! お返しに!」

「満! どうするのが正解だ!?」

「私、次の準備してくるから」

「満!! いつものフォローはどうした!! 満!! 満ー!!」

 

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