稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「なんか久しぶりな気がするな、ソロ配信」
今日も今日とてVTuber活動。最近ニッコリ探偵団で一緒にいることが多かったからか、そんなことはないはずなのにソロ配信が久しぶりに感じる。
満ちゃんを出せ
この画面に映ってる厨二病は誰ですか?
満ちゃんの中継器
「満の中継器だと? あっ、我が名はミッドナイト・サイコナイト! またの名をニコ! 深夜の狂騎士だ!」
案外律儀だよな
満ちゃんの挨拶はまだですか?
ニコの配信だから、そろそろやめような
「《やめなくていいよ! ニコさん、私が求められてるってわかってすっごく嬉しそうだから!》」
「余計なことを言うな!」
ボイスチェンジャーに乗せてるだけだから、ニコが言うか言わないか選べるんだよな?
例え余計なことでも、満ちゃんの言葉は乗せたいんだろ
それもある。ただそれよりも少し困っていることがあって、満の言葉を届ける練習をしすぎたせいか、もはやボイスチェンジャーをかけたら俺が喋っているんじゃなくて、満が喋っている感覚になる。そのうち俺と満の存在が近くなって、憑依できるようになるんじゃないか? カッコいいな……。
「安心しろお前たち。満の声は変わらず俺が届けてやろう!」
「《ニコさんの配信だし、あんまり喋らないようにするけどよろしくお願いします!》」
元気が出る声だなぁ
元気が出る声を出せる満ちゃんと一緒にいるから、ニコはそんななのに元気なのか
何か、ニッコリ探偵団と一緒にいる期間と比例して、俺に対する罵倒が多くなっているような気がする。嫌なわけじゃなく、むしろ気安い感じがして嬉しい。俺の周りにいる人間は大体俺を罵倒してくるからな。帝斗と透華は注意の方が多いが。
「さて、満の声も乗せられるようになったことだ。せっかくなら、感情移入しやすいゲームをしようと思ってな」
「《ニコさんのお友だちが見つけてきてくれたんだよね! 私たちにぴったりかもって!》」
性懲りもなく、俺は帝斗と透華に「満と一緒に配信できるようになったんだが、どんな配信をすればいいと思う?」と助けを求めた。その答えが、今俺が起動したゲーム『青春ノート』。
あー、なるほど
インディーズのノベルゲーだっけ
「そうらしい。とはいえ、ミニゲーム要素もあると友人から聞いた」
「《ていうか、もしかして私たちのために一回プレイしてくれたのかな……?》」
もしかしてじゃなくて、絶対そうだろうな。帝斗がゲームを勧めてきたのなら、当然配信のことも考えて、何か問題のある表現がないかチェックするはずだ。あいつ、いいやつ過ぎるんだよ。一回俺が原因で彼女と別れたことあるしな。「なんであんな訳の分からない生き物の世話見てるの!!」って。別れたと聞いた時平謝りしたものの、「佐藤を受け入れらんねぇなら、遅かれ早かれこうなってただろ」と俺を切り捨てるつもりは毛頭ない意思表示。
もしかしたら俺は帝斗のヒロインなのかもしれない。
「概要欄にも書いたが、ネタバレはなしで頼む!」
「《約束ですよ! 破ったら怒りますから!》」
ニコをおもちゃにはするけど、エンターテイメントを阻害するようなことはしない
でも満ちゃんに叱られたい
私欲のために満ちゃんに嫌な思いをさせようとしている輩がいるぞ!
囲め!
段々、コメント欄が身内ノリ化してきた気がする。帝斗と透華は「身内ノリは強いけど、強くなりすぎるとよくない」と言っていたし、近いうちになんらかの策を講じるか。もちろんその策は帝斗と透華に考えてもらうし、なんなら俺が助けを求めるのを先読みして、もう考えているかもしれない。
「主人公の名前は……ニコにするか」
「《苗字と名前で分かれてるみたいだよ?》」
「じゃあどっちもニコにしよう」
世界一朗らかな名前だな
どんだけニコって呼んでもらいたいんだ?
あだ名気に入ってるのかわいい
なになに……? 俺は部員がまったくいないオカルト部の部長。部員は中学からの同級生である
「じょ、女性と二人きりの部活だと!? 心配だ……」
「《普通、始まる前から感情移入しないよ? まだ説明段階だよ?》」
オカルト部ってのがマッチしてる
部員がまったくいないのもマッチしてる
友だちもいないんじゃないか? これ
「季節は夏か。ふん、見ていろお前たち。俺が鈴花さんと青春を綴ってみせようじゃないか!」
楽しみだ。季節は夏で、部員は俺と鈴花さんの二人で、タイトルが青春ノート? 楽しい予感しかしない。失った青春を取り戻させてくれそうだ。
夏休み初日。オカルト部というみょうちきりんな部活なのにも関わらず、顧問である芥川平と二人、道を歩いていた。
ふむ、鈴花さんのところへ向かっている道中といったところか。顧問である芥川先生はいい人とみた。部員が全然いない部活なのに、夏休みにまで付き合ってくれるなんて。まだ一言も喋っていないが、俺にはわかる。これでも人を見る目はあるんだ。
芥川平
「幽霊をこの世につなぎとめているのはなんだと思う?」
「なんだと思う?」
「《ほっとけないっていう気持ち?》」
こんなに放っておけないやついないからな
既に数年一緒らしいし
シンプルな答えは未練だろう。満の答えもまた未練と言えるかもしれない。ただ、俺は幽霊が見えるし喋れるし、なんなら調子が良ければ触れられたりもするが、幽霊がどういう原理でそこに存在するかは詳しくない。何が原因でそうなったのかは不明のままだ。
芥川平
「未練っていうのがオーソドックスな答えだな。生前の未練がこの世に縛り付け、いつまでもあの世にいけない。……だから老人の霊はあまり見ないのかもな」
確かに。俺がよく見るのは若い幽霊だ。この先生、幽霊が見える俺より詳しくないか? よければぜひ俺に幽霊について教えてほしい。そうすれば、俺がボイスチェンジャーを使わなくとも、本当の満の声をみんなに届けられるかもしれない。
そのまま、ぽつりぽつりと言葉を交わしていると、背景が変わった。とある一軒家が映り、表札には『鈴花』と刻まれている。当たったな、俺の予想。
同じオカルト部のメンバーで、中学からの同級生であった鈴花藍の葬式に出席したのは、記憶に新しい。
今日先生と集まったのは、藍の遺品整理が目的だった。家族で遺品整理をしないのは、『怪しいものを見つけたら扱いに困るから』という藍の母たっての希望である。
「……ん? 葬式? 遺品整理?」
「《え? どういうこと? 懐かしい単語が出てきたんだけど》」
え? これ、亡くなってるってこと?
進めばわかる
マズい、始まる前から感情移入しすぎて、鈴花さん……いや、藍との日常を楽しみにし過ぎたせいか、めちゃくちゃショックだ。満も目を丸くして、信じられないと表情が語っている。
藍のお母さんと一言二言話し、藍の部屋へ入る。水色を基調とした部屋作りは空を思わせて、何にでも興味を持ち、何でも受け入れる彼女の性質を表しているように思えた。
一言謝って机の引き出しを開ければ、オカルト部で撮った写真を収めたアルバムが出てくる。心なしか、俺と一緒に映っている写真が多いように思えた。
「いや、それはそうか。俺と藍しかいなかったんだしな」
ノベルゲーの才能がありすぎる
あまりにもスムーズな没入で草
他の引き出しは、オカルトグッズや今までハマっていたものの残骸があった。オカルトに詳しい俺ですら用途がわからないオカルトグッズは、確かに何も知らない藍のお母さんからすれば、触れていいのかどうかも判断がつかない代物だ。
鍵付きの引き出しを残して、本棚へ目を移す。ここにも今までハマっていたものの名残があった。数十冊ある小説はジャンルもバラバラで統一感がない。
ふと、一冊のオカルト小説が目について手に取ってみた。目についた理由は、他でもない俺が勧めた小説だったからだ。ノスタルジーというやつかもしれない。まだ藍を失った現実が受け入れられていないのか、懐かしさに笑みすらこぼれた。
「ん……? あっ、先生! 鍵見つけました!」
『机の引き出しの鍵、だろうな。どうする?』
「藍に限ってないでしょうけど、危ないものが入っていてもいけないので。藍には悪いですけど、開けてみましょう」
そう思ってしまうくらい入り込んでるな
ノベルゲーのキャラと会話してるぞ
でもニコが入り込んでるから、こっちも入り込めるな
心の中で「ごめん」と藍に謝って、引き出しの鍵穴に見つけた鍵を差し込み、回す。抵抗感はまったくなく、すんなりと開けることができた。
引き出しを開けてみると、そこには一冊のノートがあった。表紙に『青春ノート』と書かれてある、青いノート。
「青春ノート……?」
『中身を見るのは流石に申し訳ないな』
「一応、ちらっと見てみます。思いがけない重要なことが書かれているかもしれませんし」
手を伸ばし、ノートに触れる。その瞬間、誰かの手が俺の手に触れた。いや、触れたというより掴まれたという表現が正しい。
その手の主は、目を丸くしていた。俺に触れられたことが、向こうも予想外だったらしい。
「《ニコ……?》」
「藍……?」
途中からそんな気がして、そのために満ちゃんが黙ってるのかと思った
よく考えれば、ニコと一緒にいるんだからそのあたりの察しもよくなるよな
『どうしたんだ?』
どうやら、先生には見えていないらしい。どう説明しようか……。事実だけを言うのなら、青春ノートに触れた瞬間、藍が見えるようになりました、だが。
……いや、先生を信じよう。先生なら、俺をバカにせず「そんなことがあったのか」と受け入れてくれるはずだ。
「先生。このノートに触れたら、藍が見えるようになったんです」
『鈴花が? ……どうやら、俺には見えないようだな』
「《なんでニコだけ……?》」
「いや、というか、幽霊? なんでこれに触れたら見えるように……」
「《わー待って! 見ないで!》」
藍が見えるようになった原因と考えられる青春ノートを開こうとすれば、俺の腕を掴む力が強くなった。藍の表情を見るに、どうやら恥ずかしいものであるらしい。他でもない本人の頼みなら聞かないわけにもいかないと、とりあえず開くのはやめにした。
『……未練、か?』
「え?」
『そのノートに触れた瞬間、鈴花が見えるようになったんだろう? それなら、そのノートに鈴花が現世に縛り付けられている要因があると思ってもよさそうだ』
「……ちなみに、藍。この青春ノートって」
「《……直近でやりたいことが書かれてるというか。今それに書かれてあるのは、夏休みにやりたかったことかな》」
「藍が夏休みにやりたかったことが書かれているらしいです」
『モロに未練だな』
どうやら、青春ノートが藍を現世に縛り付けているとみて間違いなさそうだ。
しかし、未練を晴らしてもいいのか? そうしてしまったら、せっかくまた藍と会えたのに、離れ離れになってしまう。
「未練、晴らさなくてもいいんじゃないか?」
「《私も同じこと考えてた。またニコと離れちゃうのは寂しいし》」
『成仏しなくてもいいならそれでもいいが、俺がそのノートに触れても鈴花は見えなかった。なら、鈴花はニコに憑りついている可能性が高い。体調に変化があったら連絡しろよ』
「《でも、それはそれとして! 遊びたい! オカルト部の活動っぽいし! ほら、幽霊の私がどんなことができるのか、みたいな?》」
こうして、俺は幽霊となった藍と一緒に過ごすことになった。藍の提案で肝試し、海、キャンプに行った。その中で段々体の調子がおかしくなってきて、でもそれを言ってしまえば藍は成仏すると言い出すだろうから。失ったと思った青春が戻ってきたのに、それをまた手放すのが怖くて、俺は胸の中にそっとしまっておくことにした。
そんな俺の考えが甘いと思い知ったのは、藍と夏祭りに行った時。特等席があると得意気に語る藍についていけば、周りに人がいない空間に辿り着いた。夏の夜空に、色とりどりの大輪が咲く。だというのに、俺と藍は互いを見ていた。
「《ね、ニコ。私に隠してること、あるでしょ》」
「……ない」
「《うそつき。ニコの体調とか、弱ってるなーとか、大体わかるんだよ? 憑りついてるんだもん》」
それは盲点だった。隠していたつもりがバレバレだったってことか? 恥ずかしい。
「《そんなに私と一緒にいたかったんだ》」
「当たり前だろう。自慢じゃないが、俺は藍以外に構ってくれる相手がいないんだ」
「《……理由って、それだけ?》」
藍を見れば、何かを期待するような目を俺に向けていた。
俺だってバカじゃない。確かに藍以外誰も入ってくれないオカルト部の部長をずっとやっていて、そのせいか変な噂を流されて誰も話しかけてくれなくても、それと察しの良し悪しは別の話だ。
「……」
「《そこで黙っちゃうのが、ニコらしいよね》」
呆れたように笑って、藍が俺の耳元に顔を寄せる。
そして、告げた。俺の名前と、四文字の言葉。回りくどくなく、藍らしいまっすぐなそれに、やっぱり俺の察しは悪くなかったんだと証明された。
藍を見る。花火は少し前に終わっていた。だから、藍の顔が赤くなっているのは、花火に照らされているわけじゃない。
「《ふふ。変な顔してる》」
「だっ、誰のせいだと」
「《私ね、死んじゃって、幽霊になって、どうしようって思ってた時に、ニコがあのノートに触れてくれて、こうしてニコとお話できるようになって、嬉しかった》」
藍のセリフに動揺していた俺は、ふと藍の体が淡く光始めていることに気づく。
そして、ここでも察しの良さは発揮された。藍は俺の体の調子が悪くなっていることに気づいていた。そして、藍はそれに気づいていてずっと現状維持するような性格じゃない。確実に、成仏しようとする。
隠し事をしていたのは俺だけじゃなかった。藍も、俺に隠していたんだ。青春することで、未練を晴らしていることを。
「《肝試しに行って、海に行って、キャンプに行って、おはようって言って、おやすみって言って……楽しかった。幸せだった》」
「待て、藍」
「《未練は、そんなにないかな。あの青春ノートに書いてあったことは全部できたから!》」
「……藍、それって」
「《それは無粋でしょ》」
さっき俺に言ったことも、と聞こうとした俺を、藍が睨む。それが答えだった。
「《ねぇ、ニコ。ニコは、私と一緒にいられて幸せだった?》」
「それこそ無粋だろう」
「《それでも、ちゃんと聞きたいの》」
「……当たり前だ。楽しかった、幸せだった。だから、隠していたんだ」
「《伝わってたよ。だから、私も隠してた》」
「そうか。なら、それに関して怒るのはやめておこう。お互い様だしな」
「《うん、そうだね。お互い様だ》」
感覚でわかる。藍は、もうすぐ成仏する。こうして笑い合う時間も、あと数秒しか残されていない。
その数秒間で、俺ができることはなんだろうか。考えて、すぐに答えが出た。単純な話だ。まだ、返事をしていなかった。
「藍」
「《なに?》」
「好きだ」
「《……へへ、やっぱり未練、残っちゃったかも》」
「必ずまた会おう。二回目があったんだ。三回目も必ずある」
「《うん。ぜったい。だから》」
「またな、藍」
「《またね、ニコ》」
藍が光に包まれ、粒となって空へ溶けていく。花火というほど派手じゃない。でも、俺にはその光が一番綺麗に見えた。
消えてほしくないと願ってしまうのは、花火と似ていた。
「つらい……」
「《しんどい……》」
普通に動かないアニメ観てる気分だったぞ
お疲れ
まさかニコに涙腺を刺激される日がこようとは
クソ、なんだこれは! なんだこれは! 俺と満の関係に重ねてしまって、死ぬほど入り込んだ! 見ろ、満が強烈に寂しくなって俺にしがみついてるじゃないか!!
「大丈夫だ満、俺たちはずっと一緒だ!」
「《うん……》」
ニコからは離れようにも離れられないだろ
残していくと心配がありすぎてな
とりあえず、素晴らしくてとんでもないものを勧めやがった帝斗に文句を送っておいた。