稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「よしっ! ビリ回避だ!」
「それで、この山のように積み上がったファンレター一つ一つにお返事書いていくんだよね?」
バレンタインデー当日。バレンタインバトルでアルに敗北したもののグレイヴィーさんには勝利し、ホワイトデーボイスを出さなくて済んだのも束の間。俺の目の前には事務所から送られてきたファンレターが山のように積み上がっている。正確にはファンレターの形状ごとに適した入れ物に分けられ、乱雑に積み上がっているわけではない。この辺りがイベリスのオシャレな気遣いというところだろうか。
数は、少なくとも目視ではどれくらいあるかが判断できないほど。俺のような者がこれほどもらえるとは思っていなかった。こ、これ全部に返事を書くのか……? いや、もちろん自分で言い出したことだからやっぱりやめるとは言わないが、少々予想外だ。配信をする時間を考えると、しばらく返事を書く時間で一日がなくなるかもしれない。
「先輩、随分もらったんスね」
大量のファンレターを前に何から手を付けようかと悩んでいると、事務所のドアが開いて透華がひょっこりと顔を出した。俺の目の前にあるファンレターを見て、よく見なければ気づかない程度に口角を上げる。
「透華。あぁ、ありがたいことにな。帝斗は?」
「さっきまで一緒だったんスけど、途中でイレイナさんに拉致られました」
「誰かが拉致られて平気そうにしてるのって、この事務所か『project:eden』くらいだよね」
命は取られないだろうからな。流石に誰かもわからないような相手に拉致されたら慌てるが、イレイナさんなら問題……ない、と思う。一応グレイヴィーさんにバレンタインバトルの結果ついでに連絡しておこう。『バレンタインバトル、勝ちましたよ! それと、俺の友人がイレイナさんに拉致られたのですが』と送ると、一瞬で『ホワイトデーボイスの準備はもうできてるぜ。あとイレイナについては知らん。俺が関わったら死体が増えるだけだ』と頼りにならない返事がきた。どうやら同じヴァールハイトでもイレイナさんは止められないらしい。
「帝斗なら、助けが必要であればどうにかして連絡してくれるだろう。心配はいらん」
「どっちかっていうと佐藤さんの方が大変だもんね……」
「何か手伝う必要あるっスか?」
「いや、今のところはいい。ファンレターなのだから、できるだけ自分の力でどうにかしたい」
「ふふ、わかりました。それと、今年もチョコ持ってきたっスよ。本命っス」
「おぉ、ありがとう。大事にいただく」
そ、そうか、今日はバレンタインデーか。バレンタインバトルのおかげでファンレターを貰う日だと勘違いしていた。
透華からチョコを受け取り、ファンレターと交互に見てから、一旦所長机の上に置いておく。恐らく手作りだろうし、ファンレターの返事に一区切りついてから大事に食べよう。
「よし、満。ファンレター読んでいくか。多分満のことも書いてくれているんじゃないか?」
「え? あ、あぁ、うん。うん? うん」
「ん? どうした満」
「んー? や、なんでもないけど……」
満の様子がおかしい。何やら俺が透華から受け取ったチョコを見て、俺を見て、またチョコを見てと視線が忙しい。どうしたんだ……? あ、さては今日まで透華と一緒にチョコを作っていて、透華の作るチョコがあまりにもおいしいから羨ましがっているな? ふふ、成長するようになったとはいえやはり子どもは子ども。いつも俺に対してわかりやすいだなんだと言ってくるが、満も十分わかりやすい。であれば、チョコを食べる時に満も一緒に……と思ったが、透華が俺のために作ってくれたのであれば、いくら満であろうと分けるのも申し訳ない、か。悪いが、満には我慢してもらおう。
ただ、透華のことだから満の分も作ってくれているはずだ。透華に目配せすれば、小さく首を傾げてから満を見て、「あー」と小さく声を漏らした後、笑顔でオッケーサイン。かわいい。じゃない、よかった。やはり満の分もあるようだ。
「よかったな満。満の分も作ってくれているらしいぞ」
「……うん。ありがとね、透華」
「いーえ。満からはないの?」
「もちろんあるよ! ファンレターとの格闘が終わったら渡すね」
「うん。楽しみにしてる」
うんうん。よかったよかった。これで心置きなく……いや、やはり満の様子がおかしいな。いつもの満なら、満の分もあると伝えた瞬間に大喜びするはずだ。しかしさっきは少し間が空いてからの返事だった。一緒にチョコを作っていたなら、元々自分用もあると知っていたとかか? であれば、なぜさっき俺が透華からもらったチョコを見ていたんだ? 知っていたなら最初の俺の仮説が間違えていたということになる。間違えていたとするのなら、別の理由があるはずで……。
!! 待て、チョコを見て、俺を見て、と視線を動かしていたということは、少なくとも俺が関係するということ。そして今日はバレンタインデー。ということはつまり、満が俺にチョコをあげようとしてくれているが、恥ずかしくて渡せない、ということか!? 満は心優しくめちゃくちゃにいい子だが、俺に対しては随分心を開いてくれていて、かなり遠慮がない。普段俺をけちょんけちょんにしているのに、今更チョコを渡すのは恥ずかしい、しかも実体化できるようになって初めてチョコを作ったから、それも合わさってより恥ずかしい、ということか!! ふっ、探偵としての本領を発揮してしまったな。
であれば、満が恥ずかしくないよう誘導してやるのが大人というものだ。まずはジャブを打ってみるか。
「満。そういえば誰かにチョコをあげるのか?」
「うん。佐藤さんと西園寺さんにあげよーって思って作ってあるから、あとであげるね」
「?」
「?」
「?」
「?」
「? ……あぁ、ありがとう」
「? うん」
俺にあげるのを恥ずかしがっていたわけではない? あまりにもあっさりと俺の推理が外れたものだから、右に左にと首を傾げてしまった。満も俺の真似をして右に左にと首を傾げたのが可愛かったから結果オーライとしよう。途中から透華もこっそり動画撮ってたし。あとで見せてもらおう。もちろん俺の姿は編集してカットする。
それにしても、ではなぜ満は最初チョコと俺を見ていたんだ? チョコが羨ましかったわけでもなく、俺に渡すのが恥ずかしかったわけでもない。まずい、ファンレターの返事を書きたいが、気になって取り掛かれない。それに、満の様子がおかしいのを放置して、もし満の身に何か起きていたのだとしたら、俺はここで解明しなかったことを一生後悔する。なんとしてでも満の様子がおかしい原因を解明したい。
直接聞いてみるというのはどうだ? いや、今の時点で俺に言っていないということは、俺に言いたくないことなのではないか? 満は大体のことならなんでも俺に話してくれるから……そうか、満が俺に言いたくないこと、という線で考えるのが早いか。それなら、俺を見ていた説明もつく。
!! 気づいて、しまった。俺に言いたくないこと。そして今日はバレンタインデー。気になる人に自分の想いを伝える日。
「……満、好きなやつができたのか?」
「えっ、そうなの満!」
「え? できてないけど」
「俺に言いたくないというのもわかる。お前が好きになった相手なら間違いはないだろうから、深くは追及せん。が、いつか紹介してくれると信じている」
「満、どんな人なの? 年齢は? 職業……は学生かな? どこで会ったとか聞いてもいい?」
「だから好きな人いないってば! なんでそういうことになってるの!」
本気で言っているな……。どうやら本当に好きな人はいないらしい。透華も満に好きな人がいないとわかって落胆してしまった。ぬか喜びさせてしまったな。
それなら一体なんなんだ? なぜ満の様子がおかしい? 俺の推理が間違っているというのか? このオカルト探偵事務所所長の俺の推理が? そんなはずはない。解決してきた事件自体は多くないが、推理力自体はあるはずだ。それに、いつも俺の隣にいる満のことがわからないなんてことあるはずがない。
つまり、俺の推理のどれかが当たっていて、満がそれを隠しているということだ。そうに違いない。俺の推理が間違っているわけがない!
「満、観念しろ! 俺の推理が当たっていると言え!」
「はぁ? いきなり何言ってんの? さっきからごちゃごちゃ考えてるみたいだけど、全部的外れだからね!」
「そんなはずがないだろう! さっきからどう考えても様子がおかしいじゃないか! ……いや、もうこの際俺の推理が当たればいい! 満、好きな人がいることにしろ!」
「プライドなさすぎでしょ! いないったらいないから! 意味わかんないこと言ってないでファンレターの返事書こうよ!」
「くっ、意地でも認めないつもりか……いいだろう。今は大人しく引き下がってやるが、既に窮地に立たされていることは自覚しておけ」
「一つ言わせてもらうけど、様子がおかしいのどう考えても佐藤さんだからね?」
まったく、意地っ張りなやつだ。素直に俺の推理が当たっていると言ってくれればいいのものを……まぁ、認めたくないというのはわかる。自分の心を丸裸にされるというのは、恥ずかしいものだからな。
気を取り直して、ファンレターに取り掛かる。まずはしっかり読んで、一通一通その場で返事を書くことにするか。すべて読んでからの返事だと、読んだ時の感動が薄れてしまっているかもしれない。読んだ感情そのままで返事を書かなければ本物ではない。
一通目のファンレターを手に取り、中身を、
「なにっ!!!!??????? 本命だと!!?!?????」
「やっぱり気づいてなかったんだ!!! ていうかうるさい!!!!」
とっ、透華が俺に本命と言ってチョコを渡しただと!!??? 聞き間違いじゃないのか!? 本当にほ、本命!? 本命とはどういう意味だ!? 本当に命を狙うということか!? いや、違う。本命とは元々陰陽道に由来するものであり、そもそもバレンタインデーにおける『本命』とは本当に好きな相手に使うもの!!
「透華!! 本命と言ったか!?」
「じょ、冗談っスけど」
「冗談かーい!!」
「佐藤さんが情緒おかしくなりすぎて、ギャグマンガみたいなリアクションしてる……」
そ、そうかそうか、冗談か。なんだそうか。そうかそうか。
「ほんとは、冗談じゃないっスけど」
「え……?」
「や、やっぱ冗談っス」
「やっぱ冗談かーい!」
「透華、佐藤さんで遊ぶのやめて」
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part27
256:このライバーがすごい! ID:JT2cjDGsw
バレンタイン当日ですが、いかがお過ごしでしょうか
257:このライバーがすごい! ID:h4hUfZaxg
エデスクのシチュエーションが俺にも訪れると思ってた
258:このライバーがすごい! ID:7v6iBx0+j
ていうかよく考えたら、星菜ちゃんからチョコ貰いすぎじゃね? ニコ
259:このライバーがすごい! ID:zjoUSTcI5
シチュエーションとかじゃなくて、ちゃんと星菜ちゃんからのチョコももらってたしな
260:このライバーがすごい! ID:cez7J1sAz
あいつ、そろそろ一回炎上させておくべきだろ
261:このライバーがすごい! ID:kPDly8DFD
チョコもらえなさすぎる妬みでニコを燃やそうとするのやめろ
262:このライバーがすごい! ID:RqDQvSLfm
そういえば優姫ちゃんとアザミんはニコにチョコあげんのかな
263:このライバーがすごい! ID:2yyzM5iok
>>262
優姫ちゃんはこの前事務所で会った時に渡したって言ってたぞ
264:このライバーがすごい! ID:X71XHRlOx
>>262
言うつもりなかったのに視聴者があまりにもうるさいからブチギレながら言ってたぞ
265:このライバーがすごい! ID:8Em1b+tYJ
ちょこちょこアザミんが混ざってたの草だった
266:このライバーがすごい! ID:rmi64gz2E
アザミんはもちろん誰にもあげてないらしい
267:このライバーがすごい! ID:pfq0M7TUG
まぁキャラじゃないもんなぁ
268:このライバーがすごい! ID:ri29C+GQX
くっ、バレンタインボイスに優姫ちゃんもアザミんもいないし、供給が少ない!
269:このライバーがすごい! ID:BZAxvkkyq
ニコから返事貰えるし、それで我慢しよう
270:このライバーがすごい! ID:m3Q8nKp3A
>>269
女の子からチョコ貰いたいだろうが!!
271:このライバーがすごい! ID:VpnP6hPXu
おい!! マリーが配信で「そろそろ体にチョコ塗ろうかな」って言ってるぞ!!
272:このライバーがすごい! ID:mIY00nqlu
ニコに逃げろって言いたいけど、あいつこんな時に限って配信してねぇ!!
273:このライバーがすごい! ID:Vd+mgNfQF
女の子って甘い香りするって聞いたことあるけど、甘味系の甘い香りは聞いたことない
274:このライバーがすごい! ID:M5PK985tB
というかまだ渡してなかったのか
事務所で会う機会あっただろうに
275:このライバーがすごい! ID:8OyYoW5pE
>>274
当日にこだわるのがガチっぽくていいんだろうが
276:このライバーがすごい! ID:8J25+j7SA
マリー、訂正
マリー「流石に満もいるし、冗談だよ」
277:このライバーがすごい! ID:hZaRymshV
満ちゃんがいるからっていう問題じゃないだろ
278:このライバーがすごい! ID:Px0RqYgRN
そもそも体にチョコ塗ってどうぞっていうのが問題ってことに気づいていない……?
279:このライバーがすごい! ID:eTTSwSZ5Y
なぁ、なんかニコってモテてないか?
280:このライバーがすごい! ID:cVzYlHXud
そんなでもないだろ
281:このライバーがすごい! ID:Gy9FQKMmU
星菜ちゃんは懐いてるだけで、姉御はからかってるだけで、
優姫ちゃんはないって断言してて、アザミんはおもちゃにしてるだけで、
マリーは……
282:このライバーがすごい! ID:0J7SPC4AA
改めてあいつの人生羨ましすぎだろ
283:このライバーがすごい! ID:t7UNUd+ss
ないって断言してるっていうけど、俺たちはないって言われることすらないんだぞ?
女の子と関りがないから
284:このライバーがすごい! ID:ZoB6AdVTR
悲しい話はやめよう