稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第131話 3月の海

 時が流れるのは早いもので、3月に入った。去年の今頃は事務所でダラダラと過ごしていただけだと思うと、かなり成長したと思う。27歳にしてまだ成長し続けるとは、俺が成長しきったら一体どうなってしまうんだ? 人間国宝と言われるようになる日も近いかもしれない。

 さて、3月といえば……というわけではないが、来月にはあるイベントが控えている。そう、俺たちニッコリ探偵団の一周年記念。俺たちがデビューしたのは4月だから、来月でちょうど一年だ。来月でちょうど一年ということは、俺たちニッコリ探偵団の一周年記念だということ。来月がニッコリ探偵団の一周年ということは、俺たちがデビューしたのは去年の4月ということだ。

 

「同じことをダラダラ考えるのやめて。ストレス」

「そう思うなら一緒に考えてくれ! 一周年とは何をすればいいんだ!?」

 

 そして俺が悩んでいるのはまさに一周年記念のこと。VTuberに限らず、大体の組織は周年記念というのを大事にするイメージがある。だから俺もそれに倣って一周年記念に何をやるか考えていたのだが、これがまったく思いつかない。

 視聴者に聞くというのはもうやった。やったが、『別に、やってほしいことはない』『毎日配信してもらってるしなぁ』『歌って踊ってとかもいらないし』『ニコはそのままでいい』と甘やかしに甘やかされた!! そんなことを言われたら意地でも何かをやりたくなる。覚えておけ、俺が必ず貴様らを喜ばせてやる!!

 

「って意気込んだはいいものの、何も思いつかねぇんじゃカッコつかねぇな」

「俺の思考に割り込んできて会話を始めるのはやめてくれるか?」

「普通に声出てたっスよ」

「別に、みんないつもニコさんが配信してるから十分喜んでくれてると思うけど」

 

 めちゃくちゃ嬉しくて可愛いことを言ってくれた満をくしゃっと撫でると、「えへへー」と笑って更に可愛くなった。透華と目を合わせて満を嫁に出さないことを誓い合い、「流石に満ちゃんの意思を尊重してやれよ」と視線で割り込んできた帝斗に対し、「意思を尊重した上で嫁に出さないと言っているんだ。訳の分からないことを言うな」と視線で返す。

 

「ねぇ、口があるんだから普通に話さない?」

「すまん、あまりにも楽で」

「ひとまずは一周年記念どうするかだな」

「一緒に考えてくれるのか!?」

「どっちかっていうと私は楽しみにしておきたいっスけど、先輩が困ってるなら助けたいですし」

「だから年中佐藤さんと一緒にいてくれるんだね」

「誰が一年中困ってるって!?」

 

 満に指を指された。深く頷いた。

 

 しかし、うーん……それでいいのか? いや、別に気にしなくてもいいとは思うが、帝斗と透華に頼り続けるのもどうかと思う。自分で収入を得るようになり、普通の会社と比べると閉鎖的な空間だとはいえ、社会に出ることもできた。それなのに今まで通り帝斗と透華に頼り切りというのはどうかと思う。二人は気にしないだろうが、最終的に二人がいればどうにかなる環境というのは、甘えきる理由にはならないんじゃないか? 一人で考えて、どうしても思い浮かばないとなったときに頼る、というのが正しい……かはともかく、そうしなければ俺が甘えきった人間のまま人生を終えてしまう。誰だ俺が人間国宝とされる日が近いとか言ったやつ。こんな人間が人間国宝になると思うか?

 

「やはり、申し出はありがたいが俺と満で考える。一周年記念なら、俺自身で考えたもので視聴者に喜んでほしい」

「西園寺さん。病院の予約を」

「いい医者知ってるぜ。その分人気だからすぐ対応できるかはわかんねぇけど」

「憤慨!!! 行くぞ、満!!」

「怒った時に『憤慨』って言う人いるんだ……」

 

 それほど怒ったということだ! 失礼なやつらめ!

 

 

 

 

 

 3月の海はまだ寒い。訪れたのが3月後半であれば春の気配を感じられただろうが、冷たい空気が肌を刺し、波も荒々しいように見える。暖かくなったり寒くなったりと微妙な時期だが、どうやら今日は外れを引いたらしい。普段外に出ないからと天気予報をあまりみないことと、勢いのまま事務所を出てきてしまったことが仇になった。

 

「なんで海?」

「いや……なんか、ほら」

「どうせ、考え事するときに海行くとカッコいいからとかでしょ」

「違う!!!!!!」

「違うならなにか理由つけて反論してほしい」

 

 もちろん満の言う通りだったから、俺は満の声は聞こえなかったことにして、バイクを下りて砂浜に立つ。ちょっと離れたすきにバイクが盗まれるかもしれないと考えたが、確か事務所にもある『シゲキ的防衛システム』があのバイクにも搭載されていて、悪意を検出して自動的に反撃する機能があったはずだ。だから大丈夫……まぁ、盗みにきた人が大丈夫かどうかは置いといて、ひとまず盗まれる心配はない。

 満は俺を言い負かして得意気だったものの、砂浜に足跡をつけるのが楽しいのか、「見て! 足跡ついてる!」と大はしゃぎ。数年間幽霊だったから、足跡をつけるというのも満にとっては珍しくて久しぶりなんだろう。考えるより先に出た「よかったな」という言葉に、満は飛び上がりながら笑顔を咲かせ……飛ぶな飛ぶな!! 嬉しいのはわかったから!!

 

「ご、ごめん……あまりにも嬉しくて」

「まぁ、幸い周りに人はいないからな。最近歩くことに慣れたのに飛んでしまったということは、それだけ嬉しかったんだろう? なら無理もない」

「うん! ありがと!」

 

 満は一瞬だけ申し訳なさそうにしょんぼりしたものの、すぐに立ち直って海へと走り出す。そのまま海に触れて、「冷たい!」とまた大喜び。そういえば、プールには行ったが海にはきたことがなかったな。旅行で海は見たが、実際に入ってはいないから、今度の夏は海に行ってもいいかもしれない。あの時はニッコリ探偵団で行ったが、今度は他の人も誘って。もちろん女性は俺以外の人が誘う。俺が誘ったら配信でそれを言われ、見事炎上してしまうかもしれない。海で濡れた体を乾かすには炎の勢いが強すぎる。

 

「佐藤さーん! 海入ってもいい? がっつりじゃない! 足だけ!」

「いい……と言おうとしたが、やめておけ。海に入るのは、ちゃんと海開きして、管理者がいるときにした方が安全だ」

「えー……でも……」

「もちろん、何かあったら必ず助けるが、その状況にならないことが一番だ。悪いが我慢してくれ」

「どうしてもだめ……?」

 

 満が俺を見上げて必死にお願いしてくる。正直愛しすぎてどうにかなりそうだが、ここは心を鬼にしなければならない。海というのは危険で、何が起こるかわからない。一度波にさらわれてしまえばそのまま沖まで……なんてことも十分ありえる。満なら飛んで戻ってこられるだろうが、それはそれでその場面を誰かに見られたら……と考えると、ライフセイバーがいてくれる海開きまで待った方が安全だ。

 

「一分だ。それ以上は波を見て判断するが、あまり長くいるのもよくない。体も冷えるしな」

「やったー!! 佐藤さん大好き!!」

 

 なら、まだ安全で済む範囲で許可すればいい。一分間でいきなり海が大荒れすることも浅瀬ならないだろうし、満も約束を破ってがっつり水泳し始めるなんてことはしない。満は俺から海に入るのは危険だと言われたということをちゃんと理解している。もちろん、お願いしてくる満が愛しすぎて俺の意思が折れたからなどではなく、論理的思考に基づいて許可しただけだ。

 

「つめたーい! 思い出すなぁ」

「何をかは聞かないぞ!!」

「? 生きてた頃のことだけど……」

「もちろんわかっていた」

 

 いつもの幽霊ギャグかと思ってしまった。生きてた頃のことだとしてもそれはそれで少し寂寥感というか、きゅっとしてしまうが……まぁ、生きている人間よりも生きているという言葉が似合っている満に対して、そのような感情を抱くことは失礼にあたるだろう。満は気にしないだろうがな。

 ……そういえば、幽霊が全然寄ってこないな。あのバイクのせいか? シゲキやアザミがいると幽霊が寄ってこないのと同じ原理か。どうやら、幽霊は行き過ぎた科学が怖い……というより、幽霊は人より感情に敏感だから、きっとあのバイクに込められたシゲキの感情を感じ取ったのだろう。俺にはあまりわからない感覚だが、めちゃくちゃ怖いだろうからな。

 

「それにしても、どうしたものか……」

「なにがだ?」

「どわぁぁあああああ!!!???」

 

 そういえば一周年記念のことを考えるんだった、ということを思い出して考え始めた瞬間、背後から声をかけられて驚きまくり、思いきり砂浜にダイブして、そのタイミングで波がやってきて頭だけずぶぬれになった。ほらみたことか!! 海は危険だ!!

 物理的に頭を冷やした俺は震えながら立ち上がり、恐る恐る振り向いた。そこにいたのは、目を丸くしたフレイルさんだった。

 

「フレイルさん! どうしてここに?」

「あぁいや、この辺に住んでんだけどよ……大丈夫か? ワリィな、いきなり声かけて」

「い、いえ、驚きはしましたが、頭に波をかぶっただけなので」

「かぶっただけって……」

「あ、フレイルさんだ! こんにちは!」

「おう、こんにちは」

 

 フレイルさんは俺の頭に波がかぶってしまったことを気にしているのか、俺の頭をちらちら見て悩みつつ、満に笑顔で挨拶を返す。いい人だ。あと俺の頭を気遣わし気にちらちら見られると俺がハゲてるみたいだからできればやめてほしい。遺伝的には大丈夫なはずだ。大丈夫だよな?

 

「そういや、そっちこそなんでここに?」

「ちょっと考え事をしようかと思いまして。とはいっても何も浮かんではいないんですが……」

「考え事? 一応先輩だから、なんかあんなら聞くぜ」

「え? いや、その」

「それに、波かぶらせちまった詫びもしてぇしな。なんならうちくるか? シャワーくらいなら貸すけど」

「え?」

 

 俺が? フレイルさんの、家に? 聞き間違いじゃないよな? 俺は男でフレイルさんは女性だよな? 見間違いじゃないよな? じゃあなんで俺は家に誘ってもらったんだ? ま、まさかドッキリ!? 『童貞を誘ったらノコノコついてくるか検証』みたいなことか!? いや、そんな卑劣なドッキリにフレイルさんが加担するとは思えない。えっと、つまりどういうことだ……?

 

「……おい、固まんのやめろよ。満がいるからそういう意味にはなんねぇだろっつーか満がいなくてもそういう意味にはなんねぇし! いいからこい!」

「あっ、ハイ!」

「え? なに? フレイルさんのおうち行けるの? やった!」

 

 満が変な風になった空気をなんとかしようと頑張り始めた。すまん、苦労をかける。

 

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