稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
帝斗と透華にちゃんと説明した。入れ替わったっていうことだけを説明すればよかったのに、VTuber活動をしているといったものだから色々聞かれてしまい、「確かに天職かもな」とこの世界の帝斗からも太鼓判。やはり俺の選択は間違えていなかったらしい。
そんなこんなで、これからの話。とりあえずはこの世界ではまだ使用されていないであろう『銀色の鍵』を探すのは当然として、じゃあどこをどう探せばいいのかというのが問題だ。俺のいた世界ではフレイルさんが持っていたが、この世界で持っているかどうかはわからない。
「そもそも、フレイル・アースレイドという人物との交流はない」
「この世界と佐藤の……っつーとややこしいからたけしって呼ぶか。たけしの世界で、交流にも差があるみてぇだな」
「フレイルさんがどこにいるのかわからないとなると……どうしよう」
「どこで手に入れたとか言ってなかった?」
「満」
「自分で思い出す努力してから私に振ってくれる? 確か、言ってなかったよ」
いや、だって……そんなオーパーツだとかアーティファクトだとか、心躍るものを前にしてまともに話を聞けるわけがないだろう? まったく聞いていなかったわけではないが、所々聞き逃していたというのも事実。少なくとも俺の記憶の中には、『銀色の鍵』をどこで手に入れたかという情報はない。
となると、この世界のフレイルさんも手に入れているかどうかはわからないが、ひとまずフレイルさんを探すというのは行動として間違っていないように思う。問題は、どうやって探すかだ。恐らく俺の世界での活動名はこの世界で本名になっているはずだから、フレイルさんが何かしらで有名になってくれていれば話は早い。
「まず、フレイルさんを探そう。とりあえずフレイルさんの名前で検索してみて、会いに行けそうなら会いに行こう」
「南アメリカにフレイル・アースレイドという探検家がいるらしい。写真もあるが、一致するか?」
いつの間にそんな有能なことを……。アザミが持っている得体の知れない端末を見てみると、そこには銀色の鍵を首からぶら下げているフレイルさんがいた。銀色の鍵を首からぶら下げている!!???
「おい!! 『銀色の鍵』を首からぶらさげているぞ!!!」
「鍵っ子のようですねぇ」
「ちょうど『銀色の鍵』を手に入れた探検で撮った写真のようだな」
「へー。そんな都合いい写真見つけられたんだ」
「それが見つかるように調べたからな」
……アザミが有能すぎる。もしかしたらぼーっとしているだけですべてが終わっていて、いつの間にか元の世界に戻れているかもしれない。こんな一瞬でフレイルさんが見つかることあるか? しかも『銀色の鍵』の所在まで。いや、でも、俺もフレイルさんを探そうと言ったし、所長である俺の命令を受けてアザミが動いたと考えれば……やめておこう。自分の位置を高くしようとするのは空しいだけだ。あと聖麗のボケがスルーされているのも空しい。
しかし、南アメリカか。大自然を擁するそこは、探検大好きなフレイルさんにとっては楽園のようなものだろう。ただ、会いに行くには日本を出なければならないということか……。幸い、俺は俺だからパスポートも問題ないだろうし、幸先がよすぎる。これで一周年記念もゆっくり考えられそうだ。
「今日本にきているみたいだな」
「日本にきている!?」
「三日前か」
「三日前!?」
「そこから探検に出て、連絡が取れなくなったらしい」
「連絡が!?」
「びっくりするだけでいいって、楽な仕事だね」
驚愕の情報に驚いていたら満に刺された。いや、だって、とんとん拍子に事が進んでいたと思ったら、行方不明だぞ!? 探検に出ているからそれはそうだろうと言えなくもないが、わざわざ『連絡が取れなくなった』という情報が出てくるということは、異常事態だということだ。日本のどこへ探検に行ったのかはわからないが、少なくとも何かしらの連絡手段は確保してあって、それが使えなくなったと見ていい。あと帝斗、随分爆笑しているが、俺が刺されたのがそんなに面白いか?
「しかし、行方不明か。『銀色の鍵』を持っているフレイル・アースレイドが野たれ死ぬ可能性を考えると、こちらから探しに行くべきか」
「えげつない可能性考慮したくないけど、ない話じゃないかんね。でもなー、たけちーよわっちいし……」
「なにおう!? 確かに俺には体力がない!! だが、必ずやり遂げるという意思は誰よりもあるつもりだ!!」
「そんな戯言は置いておいて、とりあえずワタシたちだけで取りに行きますか」
「俺の熱い宣言を戯言の一言で片づけるな!!」
ったく、俺を舐めてもらっては困る。階段で息は上がるし、元の世界でフレイルさんと一緒に行った探検ではめちゃくちゃ息が切れて大変なことになったし……よわっちいな、俺。『貧弱』の意味があんまりピンと来ていない人に俺を見せたら、「あぁー、これが貧弱かぁ」と納得されるくらいには貧弱だ。もっと体力をつけるべきか……?
そういえばこの世界の俺はどうなんだ? 数々の事件を解決しているようだから、俺よりは体力があるだろうが……。気になって帝斗にアイコンタクトで聞いてみると、「透華に聞いてみりゃいいんじゃね?」とアイコンタクトで返ってきた。「流石にそれはセクハラだろう」と返せば、「セクハラだと思って聞くからセクハラになるんだろ。そういう意味で言ってねぇよ」と返ってきた。そ、そうか。それに、俺と透華が結婚しているなら、俺のことは透華の方がよく知っているだろうし……。
透華を見る。緊張して目を逸らす。帝斗と視線がぶつかった。
「童貞だな、お前」
「貴様!! 誰がすさまじい童貞だ!!」
「形容詞はつけてねぇよ」
「佐藤たけしが童貞かどうかは心底どうでもいいから後にしてくれ……いや、別に佐藤たけしが参加しなくとも話は進むから、勝手にやってくれていても構わん。……何? その歳で童貞だと? どういうことだ?」
「別に、この世界のたけちーも結構最近まで童貞だったでしょ」
「やめて真理さん!! その、佐藤さんが童貞じゃなくなる可能性を示唆しないで!!」
「大丈夫だ満。何が起こったかはわからないが、帝斗が一瞬で俺のところにきて耳を塞いでくれた」
「流石……」
一体マリーは何を言ったんだ? 透華が俺から気まずそうに目を逸らしたのが気になるが……。まぁ、女性を前に童貞だなんだと言うのもよくなかったという話か。それは反省するべき……よく考えたら最初に言ったのは帝斗だよな? じゃあ俺は悪くない。責めるなら帝斗にしてくれ、透華。
……いや、待てよ? 別に透華なら俺が童貞どうこう言われるのは慣れているはずで、だとしたら気まずくなることもないはず。じゃあなんで今は気まずそうに目を逸らしているんだ?
そこで、俺は気づく。結婚、童貞。
「う、ウワー!!!!!!!」
「まずい、佐藤さんが自力で辿り着いた!!」
「ずるい!! ワタシもその体験してみたい!!」
「近寄らないで化け物!!」
「透華、今の透華はたけしには刺激が強い!! 視界から外れてくれ!!」
「あの、普通にめちゃくちゃはずいんスけど……」
「ねぇアザミ。たけちーの記憶消したりできない?」
「とりあえずハンマーで殴ってみるか」
「とりあえずで死の淵に立たされる佐藤さんの気持ち考えてよ!!」
う、ウア、アァ……。
「我が名はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士だ」
ニコ!?
活動休止したはずじゃ……
何かのドッキリか!?
満ちゃんはどうした!
「あ、えっと、います!」
よかった
なんかいつもと様子が違う?
活動休止関連か
改めての挨拶とか?
たけしが配信を開始した。満ちゃんを出すかどうかは、本名を言っちまうんじゃないかとかでギリギリまで悩んだけど、本人が「やってみたい!」というから出てもらっている。正直ひやひやして仕方ない。事務所にも「別世界の二人が配信します」ってわけわかんねぇ説明しなきゃなんなかったし、二人が入れ替わったことを知らない人たちにはとりあえず連絡をしないでおいて、ありのままに反応してもらおうと思ってる。
コメントを見てみると、やっぱりなんとなく違和感を持つ人たちがちらほらいる。そりゃそうだ。並行世界のミッドナイト・サイコナイトと赤羽満っていうのをリアルにするために、佐藤と満ちゃんが配信でどう振舞ってたとかまったく教えてないからな。だから挨拶からして違う。今のところは活動休止の説明をするから、みたいな方向で捉えてる人が多いみたいだけど、これがどうなるかだな……。
「アー、まずは、活動休止についてだが……嘘ではない」
説明しづらいことだったら説明しなくてもいいぞ
ゆっくり休んでくれ
でも帰ってきてくれ
まだ童貞かだけは教えてくれ
「童貞ではない!!」
「反応しなくていいから! 説明!」
「ん、あぁ、そうだな。なんといえばいいか……嘘ではない、とは言ったが、配信はする。というのも……俺は、この世界のミッドナイト・サイコナイトではない」
「ついでに私も!」
いい病院でも探すか……
元の世界のニコは休止するけど、別の世界のニコが配信するってこと?
どういう種類の遊びだ? これ
何かの企画?
大体は思った通りの反応だな。真剣に捉えない人、乗っかってくれる人、困惑する人。俺としては、真剣に捉えてもらわないでくれるとありがたい。ニコが無意味に暴走してるだけで、それをネタとして捉えてくれた方が、佐藤が戻ってきた後がやりやすいからな。多分、それが一番ニコと差異が生まれない気がする。っていうかやっぱり童貞じゃねぇのか。透華が「同じ自分とはいえ、流石に下着とか歯ブラシとか別の方がいいっスよね」って日用品買いに行ってて、今この場にいなくてよかった。
「冗談ではなくそのままの意味だ。俺は別世界のミッドナイト・サイコナイト。恐らく、この世界のミッドナイト・サイコナイトは俺が元々いた世界にいる」
「信じてもらえないのもわかるけど……うーん、どうすれば信じてもらえるかなぁ」
この世界のニコとの違いとか?
どの世界でも違いなんてないだろ
多分仕事もない
名誉もない
地位もない
「好き勝手言いおって!! ニコと言うのは恐らくこの世界の俺のことか? この世界の俺との違いというのなら、俺は結婚している!!」
『虚言』っていうコメントで埋め尽くされた。どんだけ女性関係でうまくいく信用がねぇんだよ。少なくとも結婚してるってのは事実なのに、流石に可哀そうだ。たけしも「む、ムキー!!」と言って怒っている。それが結婚してる男の怒り方か?
でもまぁ、いい流れっちゃいい流れか。『今のニコはこうやって遊べばいいんだ』っていうのを視聴者が掴んでくれれば、あとはどうにでもなる。
無理するなよ童貞
女の子の前だとガチガチになる癖に
お前が結婚してるっていうなら、女の子を相手にしても平気っていう証拠を見せろ!
生贄にされる女の子が可哀そうだろ
「さっきから貴様ら好き勝手言いおって……!! あぁわかった。正直女性が相手だからといってガチガチになる意味もわからんが、そんなに見たいのなら話してみせよう。てい」
「!!!!」
今、俺の名前呼ぼうとしたか!? 満ちゃんが口塞いでくれなかったら本名バレるとこだったぞあぶねぇマジで!! なんで佐藤より先に炎上したのに本名もバレねぇといけねぇんだよ!! ありがとう満ちゃん、あとでなんでも好きなもん買ってやる。
ただ、これくらいのリスクは承知の上だ。そう考えるとたけしと満ちゃんが二人で配信するっていうのは体制的にいいのかもな。どっちかがミスりそうになったら今みたいにカバーできるし。
で、多分。たけしはどうすれば女の子と話せるかを聞きたかったんだと思う。字面だけ見るとひでぇな。
そうだな……こっちから通話かけるのは流石に迷惑だろうから、凸待ちって形にするか? 突発で始めて誰もこないってのも面白いし。そうと決まれば、たけしにDMで凸待ちの作法を送って、少し悩んでからたけしの隣に移動する。ぶっつけ本番でやらせるより、俺が操作した方がいいだろ。ついでに本名漏らしかけた戒めに軽く殴っておいた。
「なにをする!」
反応すんなテメェ!!
誰かいるのか?
満ちゃんがいたずらした?
さっきの「てい」ってなんだ?
友人か?
「ん? てい? あぁ、凸待ちを剃毛と言い間違えただけだ」
「苦しい言い訳……」
「おい、言い訳とか言うな!! 焦って誤魔化しているみたいになるだろ!!」
「それ言ったら余計際立つでしょ!! ごめんなさいさい」
今俺の苗字言おうとしたか!!? たけしが口塞いでくれなかったら本名バレるとこだったぞあぶねぇマジで!! なんで佐藤より先に炎上したのに本名もバレねぇといけねぇんだよ!! つかなんでこんな短い間隔で同じ危険味わってんだよ!!
でもたけしよりマシか。「ごめんなさいさい」になってたから視聴者は舐めた謝罪だと思ってくれてる。話しの流れ的に「ごめんなさい」は微妙につながんねぇけど、多分数人は「マジで本名漏らしかけたんじゃね?」と察して舐めた謝罪ってことにしようとしてくれてるんだろう。マジでいい人ばっかだな、佐藤の視聴者。
「というわけで、凸待ちをするぞ!! 俺が女性を前にしても平気だということを証明してやる!! 誘惑でもなんでもしてみせろ!!」
「私の前で女の人に誘惑されるってどんな気分?」
「普通にお話しましょう!!」
草
流石に気まずいか
今日はニコの童貞を笑う日か
本来は一日でも人の童貞を笑う日があっちゃダメだろ
ふぅ、冷や汗かいた……。いいって、二人そろって頭下げなくても。仲いいなお前ら。