稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第137話 閉じ込められた!!

「うおおおおお!!! なぜこの世界にきて追われてばかりなんだ俺は!!」

「つべこべ言わないで足動かして足!! 多分追いつかれたら死んじゃうから!!」

 

 俺たちの背後には、青と白の縞模様が浮かんでいる、体全体が体毛に覆われたダチョウのような、しかしよく見れば恐竜のような見た目の正体不明な生物。頭部は小さく、鉤型の嘴があるが歯はなく、まるで嘴で肉をえぐり取ることのみに特化したような形状。いっそバランスが悪いとはっきり言えるほど大きな目はぎょろぎょろと蠢いて、普段運動しない俺に火事場のバカ力を出させるほど不安を煽ってくる。

 

「はぁっ、はぁっ……こ、こんなことなら、普段から運動しておくんだった……!」

「毎回そう言って運動しないじゃん! 今度こそ帰ったら運動初めてもらうから!」

「そ、そうだなっ、そのためには、生きて帰らねば……」

「佐藤さん? なんか足遅くなってるけど、佐藤さん? 佐藤さーん!」

 

 も、もう体力がもたない。火事場のバカ力とはいえ、元の能力が低ければ最底辺が一般的になる程度。満のような運動能力お化けとは違い、俺の体力がそう長くもたないのは当たり前の話だった。ま、まさか、別世界で死ぬことになるとは……。だが、俺は悔いのない人生を送ってきたつもりだ。多分、俺なら死んでも霊体になって現世に残れる気がするし、そうなったら何かしらの方法でみんなに謝ればいい。

 満が叫ぶ声が聞こえる。手を引かれるが、満まで巻き添えにするわけにはいかないと振り払ってその時を待った。瞬間。

 

 激しい閃光に辺りが包まれた。

 

「悪い、ちょっと抱えるぞ!」

 

 潰された視界では誰が助けにきてくれたのかは見えないが、助けにきてくれたことだけはわかる。どこか聞き覚えのある声を記憶の中から探していると、宣言通りに抱えあげられて、音だけでその場から走り出したことを把握した。

 

「どっ、どなたですか! ありがとうございます!」

「口閉じてろ! 舌噛むぞ!」

「ありがとうございますフレイルさん! 間一髪でした!」

「ん? 私の名前知って……っていうかお前、なんで閃光避けれてんだ? 合図なかったのに」

「ハッハッハ! 満は高い運動能力をほこっブッ!!!」

「佐藤さんが舌噛んだ!」

「言わんこっちゃねぇ!!」

 

 い、いたい……舌を噛んだのは久しぶり……ん? 今フレイルさんと言ったか?

 

 

 

 

 

 時は数時間前に遡る。フレイルさんが日本にきていることを知り、元の世界に帰るために『銀色の鍵』を譲ってもらおうと、アザミがフレイルさんの探検先を(恐らく合法的に)割り出して、「たけちー、よわっちいのに大丈夫?」と心配してくれるマリーに対し、「俺が原因でこうなっているんだ。俺が動かずにどうする!」と意地を張って探検先へ出発。ちなみにアザミは「外に出たくないから」とついてこなかった。本当に俺の世界のアザミとは全然違うな……。

 そんなこんなで、マリーと聖麗とともに向かった場所は、都会に住んでいれば目にすることがないような鬱蒼とした森。そこに立った時点で俺たち三人は「普段なら絶対入らない」ほど妙な気配を感じた。うまく表現できないが、魂が見られているような、シンプルな表現で言えば怖気。シャンプーをしているとき、後ろに誰かがいるような感覚を最大限まで拡大させたような、とにかく気分の悪い場所だった。

 

 こういうときは所長である俺(この世界の所長は俺ではないが)が先陣を切るべきだろうと森に足を踏み入れた瞬間、何かが変わった気配を感じて、振り向けばマリーと聖麗がいなくなっていた。しかも本来なら森の外が視界に映っているはずなのに、四方八方森になっている。「足を一歩踏み出しただけで迷子になることある?」と恐怖を通り越して笑ってしまった俺と「佐藤さんが踏み出しただけなのになんで私まで森の中に連れてこられたの!!」と今更ながら一心同体に文句を言っている満の下に現れたのが、先ほど俺たちを追いかけてきていた青白い恐竜? のような生物。

 

「というのが簡単な経緯です」

「えーっと、並行世界からきて? それが私が持ってる『銀色の鍵』が原因で、それを知って私を探しに来て、うっかり迷子になって……ほんとに一日の出来事か?」

「私たちもそう思ってます」

「人生は小説より奇なりとは言いますが、奇すぎると思っています」

「まぁ、嘘をつく理由もねぇよな。大変だったな……」

 

 あの閃光を用いて俺たちを逃がしてくれたのは、フレイルさんだった。今はひとまず落ち着ける場所に連れてきてもらって、お互いの状況を教え合っているところ。フレイルさんも数日前からこの森の中にいるらしく、あの恐竜とも何度も追いかけっこをしているらしい。少し思ったが、フレイルさんもフレイルさんでかなり運動能力が化け物なのか?

 そして写真でも見たが、やはりフレイルさんも俺の世界での立ち絵の方が本人の姿となっている。やはり、あの説の通り俺たちの世界がこの世界をベースに創られているのだろうか。考えても仕方がないことだとはいえ、どうしても気になってしまう。

 

「んで、『銀色の鍵』か」

「あぁ、はい。その、フレイルさんからすれば関係ない話かと思いますが、元の世界に帰るためにはそれが必要で……」

「おう、いいぜ。ほら」

「え?」

 

 フレイルさんは首からかけている『銀色の鍵』を外し、俺に差し出してくる。い、いやいややいやいや、男前すぎる! ちょっと待ってくれ! どんな苦労をしたかは知らないが、探検の末に手に入れたものをそんな簡単に差し出していいのか!?

 

「俺が言うのもなんですが、いいんですか?」

「いいんですかって、必要なんだろ?」

「必要は必要ですが……」

「だったら迷うことねぇだろ。人が困ってて、これ渡すだけで解決すんだからよ」

 

 なんて気持ちのいい人なんだ……。カッコつけてるとかそういうのじゃなくて、本当にそう思っている顔をしている。いい人過ぎて俺がちっぽけな人間に見えてきてしまった。なんだこけて『銀色の鍵』に触れて色んな人に迷惑をかけた挙句、無意味に意気込んで迷子になって、恐竜から助けてもらった上に何の見返りもなく『銀色の鍵』を貰う? 本当に同じ人間か?

 いや、ここでただ単純に受け取ったら俺は『ミッドナイト・サイコナイト』を名乗れなくなる。そんな気がする。

 

 フレイルさんが『銀色の鍵』を差し出してくれた手をそっと押し返し、手が触れた瞬間にフレイルさんがびっくりして手を引いて、「わ、ワリィ」と気まずそうにぽそりと呟いた。まっ、まずい!! セクハラだったか!?

 

「す、すみませんフレイルさん!! 一つ言わせてほしいのですが今のはフレイルさんの手に触れたかったから触れたわけではなく、セクハラを働こうというつもりはなかったんです!!」

「わ、わかってるって! ちょっとびっくりしちゃっただけだ!!」

「俺が童貞すぎてですか!?」

「ちげぇよ!! その、なんだ、とにかく気にすんな!!」

「二人とも、大声出しちゃうとあの恐竜きちゃうから……」

 

 フレイルさんと慌てて口を塞ぐ。満は小さく息を吐いて、俺を見ながら「落ち着いてね、バカ」と短く罵倒した。貴様!!!!!

 

「佐藤さんは色々気にしすぎ。フレイルさんは乙女でかわいいだけなんだから」

「なっ、誰が乙女だ!」

「手が触れただけでびっくりしちゃうって、相当乙女じゃないですか。しかも自分で『銀色の鍵』差し出してくれたのに、そりゃ触れるでしょ」

「なっ……し、仕方ねぇだろ。慣れてねぇんだよ」

「佐藤さん。どうにかしてフレイルさんをお姉ちゃんにしたいんだけど」

「可愛いのは同意するが、気軽に親族を増やそうとするのはやめておけ」

 

 佐藤さんの影響なんだけど……と呟く満は無視することにした。自分に都合が悪いからだ。というかそもそも俺は最近家族を増やそうとしていない。VTuberになって初めの頃は積極的に増やそうとしていたが、俺がそうしようとすると随分気持ちが悪いことに気づいて最近はやっていないんだ。つまり、俺の責任ではなく満個人の責任ということになる! どうだ! 参ったか!

 そんなことはどうでもいい。これ以上このことを考えると満から心底軽蔑されるからやめておこう。それに、満の身近な大人は俺なのだから、満に悪影響を与えたのなら間違いなく俺が悪い。

 

 改めてフレイルさんに向き直る。どうやらこの世界でも乙女であるらしいフレイルさんは俺と目があった瞬間、さっきのことを思い出したのか咄嗟に目を逸らすが、俺の目に宿る真剣な色を感じ取ってくれたのか、目を合わせてくれた。き、緊張する。

 

「フレイルさん。『銀色の鍵』をいただけると言うのであれば、もちろんいただきたいです。しかし、このままでは俺は与えられるだけの人間になってしまう。フレイルさんが『銀色の鍵』をくださるというのなら、それ相応の働きであなたに返したい」

「別に気にすんなって。つか、お前の話じゃ『銀色の鍵』を使ったとしてもこの世界のお前がここに現れるんだろ? そん時に助けてもらえばいいし」

「確かに、この世界の俺の方がこの現状を打破するのに向いているかもしれません。でもそれではダメなんです。この世界の俺は俺ですが、俺ではない。今ここにいるこの俺が、フレイルさんに恩を返したいんです」

 

 フレイルさんは俺の言葉を聞いて、一瞬目を見開いた後、にやりと笑った。そのまま俺に近づいて、笑みを快活なものへと変えて肩を組んでくる。

 

「いーい男だなぁお前! わかった、困ってるのも事実だし、頼りにさせてもらうぜ!」

「任せてください! さっきはこの世界の俺は俺で、俺ではないとは言いましたが、その能力には差がないはず! 必ずこの現状を打破してみせましょう!」

「おう! 頼む……うわぁ!! ちけぇな何近づいてんだお前!!」

「うわぁ!! 何近づいてるんだ俺!!」

「めんどくさいな、童貞と乙女……」

 

 なんてこというんだ満!!

 

 

 

 

 

『佐藤たけしが森に飲み込まれて約一時間。進捗はどうだ?』

「どの世界でも流石ショチョー。面白い以外に言葉が見つかりません」

『感想ではなく進捗を聞いたのだが、心だけではなく耳も腐ったか?』

「オッホ! キビシー!!」

「聖麗、ちょっと静かにしてて」

「ワタシに死ねと?」

『朝凪真理は死刑宣告をしたつもりはないだろうが、そう捉えてもらっても構わない』

「これ以上ワタシを気持ちよくしてどうするおつもりです?」

『お前、本当に義務教育を終えたのか?』

「道徳は学年最下位でした」

「道徳で差がつくって聞いたことないんだけど」

 

 たけちーが飲み込まれた森の前。鬱陶しいくらい気持ちが悪い森の中に入るのも憚れる、なんてことを気にせずたけちーが森に踏み込んでいなくなって、聖麗も「じゃあワタシも!」と踏み込んでも飲み込まれなくて、なんでだろうと首を傾げながら調査すること約一時間。

 自慢じゃないけど、私と聖麗とアザミは、オカルト面で言えば日本一、いや、世界一と言ってもいい。とはいっても比較対象を見たことがないからなんともだけど、並大抵のオカルトなら一瞬で解決できるだけの自信と力がある。

 でも、この森に関しては今のところほとんど何もわからない。今まで私たちが気がつかなかったのは、これを目にして初めてその気持ち悪さに気づいたからまぁわかるとして、こういうのは大抵何かしらの結界術とか、邪神に基づく呪文とかでコーティングされていたりするから知識でどうにかなるんだけど、知識のどれにも当てはまらない何かで森が覆われてる。となれば、今まで人前に現れたことがない邪神か、それとも別の何かが結界を作ってるか、それとも偶然の産物か。風水とか星の並びとかで偶然オカルト的な結界とか事象とかが起こることはまぁあるから、今のところいろんな可能性があって手がつけられない。

 

『私も同じ見解だ。とはいえ、佐藤たけしがそれを突破、もしくは取り込まれたのは事実。何かしらの条件がある者はこの森への侵入を許されることは確かだ』

「童貞とかですかね?」

「じゃあ多分この森の中は酒池肉林だね。だとしたらなんとしてでも早く助けてあげたいところだけど」

「ここは森なので、酒池肉森では?」

「四字熟語が環境に左右されて文字が変わるのは聞いたことないかも」

『未経験の者を色欲に溺れさせるための結界であれば、少々非効率ではないか? このような未知の場所というのは大抵アグレッシブな者が訪れる。となれば自然、経験のある者が訪れる可能性の方が高い。未経験の者を対象にするのであれば、ここより相応しい場所があるだろう』

「や、別に本気で酒池肉林の結界だとは思ってないからね」

 

 たけちーが恋しい……。アザミと聖麗は本気で頭がおかしいから、話が脱線して仕方がない。たけちーならうまくまとめてくれる……ていうか、いつの間にか『たけちーの力にならなきゃ』って思考が働いて、みんなが同じ方向向くんだけど。アザミも聖麗もドライだから、あのたけちーは自分たちの所長じゃないって考えていまいちやる気を感じられない。言っとくけど、あのたけちーが『銀色の鍵』に触れなきゃ私たちの世界のたけちーも帰ってこないんだからね? なんとなく、アザミは別のアプローチでたけちーを呼び戻す方法考えてそうだけど。合理的なのもいい加減にしてほしい。たけちーが可哀そうだ。

 となると私がしっかりしなきゃいけないんだけど、正直よくわからない。このまま森に入って取返しのつかない事態になることもあり得るし、最悪なのはそのパターン。安全だってわかってる外からどうにかできれば最善。でもその手段がわからない。

 

「うーん、ほんとに何なんだろ。たけちーだけが結界内に入れた理由」

「恐らく、この結界は世界ごと切り取っていますねぇ。媒介は数百人の命といったところでしょうか」

「おい、わかってんだったらさっさと教えなよ。私が必死に考えてんのがバカみたいじゃん」

「今わかったんですよ。どうも歪というか、この結界、人々の魂で構成されていまして」

「ふぅん。ヤバ」

「えぇ。そして死とはしばしば色んな意味が含まれます。例えば別世界、とか」

『なるほど。つまり、別世界との出入口を作ろうとしている、と』

 

 ……あー、まぁ、辻褄は合うかも。別世界からきたたけちーと満、そして『別世界への扉を開ける銀色の鍵』を持っているフレちー。この三人が結界内に入れたっていうのは、わからなくもない。

 

「恐らくは。もう少し解析を進めなければ、何をもって完成するのかはわかりませんが……そうですねぇ、この森が別世界との出入口になるとするのなら、完成すればサトーさんは帰れるのでは?」

「めんどくさくなるな。ダメに決まってんでしょ?」

「わかってますよ。このせっかちさん!」

 

 聖麗をつるし上げて、「早く解析しろ」と言えば、「もっとしていただけるなら」と気持ちの悪いことをほざきだした。ほんとに早くどうにかした方がいい。聖麗も結界も。

 

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