稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「さて、今日集まってもらったのは他でもない」
「俺たちはどんだけ集められんだよ」
「応じる私たちも私たちっスけどね」
「《ごめんね二人とも。佐藤さんがおぞましいほど一人じゃなにもできなくて》」
「んーん。満とも話したかったし」
帝斗が呆れ、透華が俺には見せない優しい微笑みを満に見せる。俺に見せる表情と言えば、呆れか呆れか呆れだ。じゃあ呆れだけじゃないか。
今日はなんで集められたんだと言いたげな帝斗と透華に、PCの画面を見せる。それを見た二人は、なるほどと二人同時に頷いた。
「コラボのお誘いか」
「それで、いつもみたくコミュ障こじらせて、どうしたらいいのかってことっスね」
「《流石二人とも! 佐藤さんのことよくわかってるね!》」
こんな後ろ向きな理解のされ方は本意ではないが、どう考えても俺がコミュ障だから悪い。忍ぶ恥などとうの昔に失った。
そう、コラボのお誘いだ。それも、月宮さんやアザミさんじゃない。『project:eden』に所属する先輩ライバーからのお誘い。
いつもみたいにPCにかじりついてごちゃごちゃやっていたら、いきなりdicecodeに通知がきて、なんだと思ってみてみれば『初めまして! ニコさんの前にデビューした
「一ノ瀬星菜って、確か現役の女子高生っつってる人だろ?」
「みんなを笑顔にするアイドルを目指してるって言ってる子っスね」
「俺より詳しいな。なんでだ?」
「どうせ佐藤のことだから、月宮さんとアザミさん以外とコラボするってなったら助けを求めてくると思って」
「同じくっス」
やはり俺の友人は優秀だ。もう友人というよりマネージャーじゃないか? 俺がマネージャーと密にコミュニケーションを取らないのも二人のせいだろう。二人がいるとマネージャーと連携を取らなくてもなんとかなってしまう。この前、帝斗はついに俺のマネージャーと食事にいったらしいしな。うちの事務所はそれでいいのか?
「で、相談っていうのは?」
「年下の女性との会話が想像できない。辛うじて挨拶をした後は固まる自信がある」
「挨拶すら辛うじてのレベルなんスね……」
「《数年隣にいたけど、佐藤さんが生きてこれた理由がわかんないよ》」
ほら、学生なんて勉強してればなんとかなるだろう? 別にコミュニケーションを取らなくたっていいんだ。青春というもう縋り付こうにも縋り付けないものさえ捨てれば。
そして、俺は青春を捨てたからこそ、学生がどういう会話をするのかもまったくわからない。ゲームの知識があてにならないことは流石の俺でも知っている。なぜか知らないがやけに女性からの好感度が高いなんてことはありえないし、会話をするときに選択肢が出てきたりもしない。
「要は、どうやって会話を繋げればいいかってことか?」
「そうだ! さぁ、俺に年下の女性との会話術を刻み付けてもらおうか!」
「満に助けてもらえばいいんじゃないスか?」
「《私が話しちゃうと任せっきりにされて、佐藤さん空気になるもん》」
「挨拶だけやって、ずっと無言の先輩もおもしろそうっスけどね」
めちゃくちゃ情けないだろうそれ。そんなことをしたら、しばらく視聴者からいじられてしまう。月宮さんとアザミさんからもだ。今度こそミットモナイヨ・サイコナイトの名を刻まれて、事務所ホームページの俺の紹介ページの名前も変えられるに違いない。
「つか、普通に断るのはだめなんスか?」
「ダメだ。お誘いいただいたものを無下にするわけにもいかんし、何より満が同年代の同性と喋るまたとない機会だ。断るのはありえん」
《……えへへ》
「どう思う? 透華。いつも通りでよくねぇか」
「私もそう思ってたとこっス。念のために何個か話題用意したりマカロン募集したりしてもいいと思うっスけど」
「えぇ!? それじゃ困る!! 『年下の女性と何事もなく波風立てずお互いが損しない、最悪損するなら俺だけで済む機』を出してくれ!」
「俺のこと猫型ロボットだと思ってんのか?」
あんまりなことを言い出したことに焦って帝斗に縋り付けば、自分が発泡スチロールなんじゃないかと誤解してしまうくらい軽く持ち上げられて、ソファにぶん投げられた。え、そんな軽い? 俺。確かに外にも出ていないし、食事以外は不健康だという自覚はあるが……空気の音がし始めたマヨネーズの残量くらいはあった男のプライドが崩れ去りそうだ。
「この件に関しちゃ手助けは特に必要ねぇな」
「っスね。ご飯作りましょ」
「クソ、見損なったぞ!」
「《今から佐藤さんのご飯作ってくれるのに、なんで見損なえるの?》」
床に頭をこすりつけて「いつもありがとうございます」と感謝を込めて謝罪すると、帝斗は「お前と一緒にいると楽しいよ。ありがとな」と、透華は「いつも満のこと考えてくれてありがとうございます」と言ってくれた。泣いた。
「ということがあったんだ。さぁ、俺に一ノ瀬さんとの話題を提供してくれ」
清々しいくらいに無能だな
恥が服着て眼帯つけてるようなもんじゃん
自立した大人になろうとは思わないのか?
視聴者に助けを求めたらボコボコにされた。
あの後、一ノ瀬さんに了承の旨を伝え、スケジュールを調整(もちろん俺に調整するスケジュールなどない)し、コラボする日は一週間後の土曜日に決まった。学生の休みを潰すのは申し訳ないと思いつつ、一ノ瀬さんがいいと言っているのに気を遣うのは、むしろ相手に面倒をかけると思い了承。
「ふん。色々言っているがお前たち、もし一ノ瀬さんとお話しするとなって、会話が途切れない自信があるのか?」
は?
は?
は?
は?
「《おっきなジャンルで言えば、ニコさんと同じ人が集まってるんだね》」
コメントの流れが緩やかになった。どうやら満の言葉が心にきたらしい。ちなみに俺もだ。満の言葉を届けたいから口にしているが、俺が心にくることを自分で言わなきゃならないの本当にどうにかしてほしい。
俺たちに助けを求めても無駄だ
俺たちが助けられるようなやつだったら、毎日お前の配信見る生活なんてしてないだろ
そもそも、なんで星菜ちゃんはニコとコラボしようって思ったんだ?
家族を人質にとってるんだろ
「どちらかと言えば俺が取られる側だろう。あっ! 今のはコラボが嫌とかそういうわけじゃなく、むしろ俺がコラボする勇気が出ないあまりに家族を人質に取られ、もちろん一ノ瀬さんが人質を取るなど非道なことをするわけもなく、人質を取っているのは俺の視聴者であり、あっ! 今のは俺の視聴者が非道であるということではなく、むしろ『人質を取る』というどう考えてもマイナスなことを押し付けてもいいという信頼の表れで」
「《ニコさん! 長いし、喋れば喋るほど言わなくていいこと言いそうだからストップ!》」
これは泣く泣くやめるしかないな
え……
え……
クソ! 視聴者が変なことを言うから動揺してしまった! なんて失礼なことを言うんだ! 俺も!
冷静になろう。こんなことで焦っていては、一ノ瀬さんとのコラボが思いやられる。俺が失言して一ノ瀬さんにドン引きされ、満にバトンタッチしてその後俺は消える未来が見えた。ちなみに、見える未来はそれしかない。
「……今思ったんだが、一ノ瀬さんのような子と俺がコラボしていいのか? 片やみんなを笑顔にするアイドルを目指す女子高生、片やみんなから笑いものになる26歳男性だぞ」
「《それ、自分で言うことじゃないよ?》」
草
みんなを笑顔にする点では同じだから、シナジーある
ユニット名も一ノ瀬の一とニコでイチニコとかになるからシナジーある
笑顔にするって言っても笑顔の質が違うだろう。一ノ瀬さんの方は幸せな笑顔で、俺の方は悪意が混ざっている。俺は悪意のある笑いしか取れないのか? 不甲斐なさ過ぎる。俺の両親も「よし、笑いものを産むぞ」と言って俺を産んでくれたわけじゃないのに。
というか、
「ゆ、ゆゆゆ、ユニット名!? ダメだそんなこと! そんなことをしたら、俺が女子高生とつながりを持ちたい変態みたいになるだろう!」
「《そんな考え方する方が変態臭いしキモくていや》」
でも実際キモかった
でも実際いやだった
ニコ、元気出せ
何もそこまで言わなくていいじゃないか……。いや、わかっている。VTuberになり、帝斗と透華以外の人と話すようになって、俺が比較的キモいということは。ただ、理解しているからといってダメージを受けないわけじゃないんだ。むしろ、理解しているくせにそれを直せていないとわかって、二重でダメージを受けている。
「というわけだ、わかっただろう! このまま俺がステゴロでコラボに臨めば、大事故が起きる! 俺だけの配信ならそれでいいが、一ノ瀬さんを巻き込むわけにはいかない! だからこそ、当日の会話のタネとなるようなマカロンを送ってきてほしい! それをベースに会話を切り出せば、なんとかコラボが終わるまで黙ることはないはずだ!」
性懲りもなく視聴者に助けを求める。が、それしかない俺から話題を探そうものなら、『最近の幽霊について』とか、『心霊スポットって本当に幽霊が出るの?』とか、『幽霊って悪霊とか聞いたことあるけど、本当にいるの?』とかのオカルト話になってしまう。相手から聞かれてもいなく興味もないのに、自分の専門知識を得意気に披露する男は嫌われると帝斗が言っていた。
「そして! それだけではない! 一ノ瀬さんとのコラボを告知した後、こんなマカロンが届いていた!」
星菜ちゃんと仲良くなる
ついでに未来分の罰ゲームもやっとけ
ついでに先に星菜ちゃんに謝っとけ
好き勝手いう視聴者を無視して、もう一つマカロンを配信に乗せる。
10人くるまでやめられない凸待ち配信
「俺はこう考えたんだ。普段の俺なら喋られないとしても、喋られなければ地獄が待っているという状況にすればいい!」
「《ニコさんに凸待ちなんてさせらんない……!》」
いうて新人だし、可愛がってもらえるんじゃ?
そこは問題じゃないんだよ
箱内ほぼ全員初対面だから、ニコが終わる
どうやら俺と視聴者の俺への認識は一緒らしい。悲しい。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part4
392:このライバーがすごい! ID:KIhxCB+z9
優姫ちゃんとアザミん、登録者10万人超えたぞ!
393:このライバーがすごい! ID:OQfzF0iLX
目出たすぎる
394:このライバーがすごい! ID:M59/S8cwi
記念配信とかすんのかな?
395:このライバーがすごい! ID:9++LEerOz
優姫ちゃんは要望の多かった恋愛ゲームをやってくれるらしい
396:このライバーがすごい! ID:mF3nBOl5x
>>395
マ?
絶対見る
397:このライバーがすごい! ID:azGEqXf3n
ニコの青春ノート見てやってみようって気持ちになったって言ってたな
398:このライバーがすごい! ID:7Z981ZAky
感謝の印に視聴者の要望に応える優姫ちゃん、いい女
399:このライバーがすごい! ID:17xSd81EI
一方アザミんは平常運転
400:このライバーがすごい! ID:snKfA3AmV
記念日を特別扱いするキャラじゃないもんな
401:このライバーがすごい! ID:I2fEzYev0
平常運転といいつつ、いつもより転がしてくれるんだ
俺にはわかる
402:このライバーがすごい! ID:tKhyFrzDR
その頃、ニコは星菜ちゃんとコラボの約束を取り付けた
403:このライバーがすごい! ID:svFB7nL/g
ニコと星菜ちゃんか
無理だろ
404:このライバーがすごい! ID:TPQzm9DqX
コラボ配信を死に場所と見つけたか……
405:このライバーがすごい! ID:d8jSyGlbf
どんな醜態が見れるのか楽しみ
406:このライバーがすごい! ID:DEDNuXQJF
でも満ちゃんいるし、案外なんとかなるんじゃ?
407:このライバーがすごい! ID:S0XMfEexJ
むしろニコがいらない可能性もある
408:このライバーがすごい! ID:24QafkQte
>>407
ニコはいるだろ
なんか大体面白くなるから
409:このライバーがすごい! ID:K4rr9u+J1
ニコって時々才能凄いのに、なんであぁなんだろう……
410:このライバーがすごい! ID:+L1t5T73t
才能があるからって結果が出るわけじゃないし
411:このライバーがすごい! ID:Vg8uTqSy2
性格よくて面白いのに……
412:このライバーがすごい! ID:FFoqEoJ3O
>>411
なんでこの要素があって、コミュ障でいられるんだ?
413:このライバーがすごい! ID:soYg8Eg+j
>>412
本人が一番知りたいと思う。