稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第138話 墓穴

「そういえば、ご飯とかどうしているんです? 連絡が途絶えたのは三日前と聞きましたが」

「……? 三日前?」

 

 ここから抜け出そうと意気込んだはいいものの、どうやって抜け出そうかと考えていると、ふと疑問に思って聞いてみたら首を傾げられた。あれ? 数日前からここにいたと言っていなかったか? 満に視線で確認してみると、「佐藤さんの思い込みだよ」と視線で返された。しかし思い込みも何も、三日前に連絡が途絶えてこの森にいたのなら、三日間ここにいる、となるのは自然な話ではないのか?

 

「そんなには経ってねぇと思うけど……職業柄、体内時計には自信があんだ。経ってたとしてもせいぜい半日くらいだと思うぜ」

「半日……? フレイルさんは三日前に日本へきて、そこから連絡が途絶えたと聞いています」

「マジか。スマホも時計も動かねぇからちゃんとはわかってなかったけど、そんなに経ってたのか」

 

 体内時計狂っちまったかなぁ、と呟きながらフレイルさんがお腹を撫でる。なるほど、腹の空き具合で判断しているのか。

 ……森の中。光もさほど入らず、電子機器も役に立たない。時間の感覚が狂ってもおかしくはないが、それにしても三日を半日と間違えるか? 体内時計が狂ったとしても、三日間あればどこかで眠気がくるはず。そこで大体一日経ったと大体で判断できそうなものだ。にも関わらずフレイルさんが半日しか経っていないと誤認している……いや、誤認ではない?

 

「確証はないですが」

「?」

「今俺たちがいる場所と外では、時の流れが違うのかもしれません」

「……んなことありえんのか?」

「フレイルさんの体内時計を信用するのであれば、そう仮定できます」

「じゃあ信用すんなって言いてぇところだけど、流石に三日と半日は間違えねぇか……」

 

 フレイルさんが俺の言うことを素直に受け取って、静かに頷く。元の世界でご一緒したときもそうだったが、フレイルさんは人の意見をちゃんと受け取ってくれる。先入観や価値観などですんなりは受け入れないという人も多い中、素晴らしい姿勢だと思う。気持ちのいい性格だ。

 いや、そんなことはどうでも、どうでもよくはない! フレイルさんの性格はやはり素晴らしいもので、そういうところが視聴者にも好かれていて、人の意見をちゃんと受け取れるからこそ、慣れていない異性関連で乙女的な反応を見せるところも視聴者にウケている。いつも思うが、やはりギャップというものはいつの時代もいいもので、

 

「佐藤さん。そんなこと考えてる場合じゃないよ」

「す、すまん」

「? 何考えてたんだ?」

「い、いえ! お気になさらず!」

「わかった。誰にだって言いたくねーこととかあるもんな」

 

 やはりいい人だ。フレイルさんのこの気持ちのいい性格は、

 

「何度も同じことを言わせないで」

 

 す、すまん。

 

 そう、フレイルさんのよさというのも今後のVTuber人生のために考えるべきだが、もし俺の考えている通り、外とこの空間の流れる時間が異なっているとすれば。フレイルさんの体内時計を信じるとすれば、ここでの半日は外での三日。つまり四時間で大体一日分。ここでの一日は六日ということになる。今は三月初旬で、もし五日間ここで過ごせば、ここで一周年を迎えるということだ。更に、五日間過ごす前に戻れたとしても、一周年記念に何をやるか考える時間がその分だけ削れるということになる。

 

 なんとしてでも早く帰らなば!!

 

「フレイルさん!! 一刻も早くここから抜け出してみせます!!」

「おう。頼んだぜ」

「さっきも似たようなこと言ってたって言わないの優しいですね、フレイルさん」

「せっかくやる気出してくれてんだ。水差すのもちげーだろ?」

「ふっ、この俺のやる気に恥じぬよう、見せて上げましょう! オカルト探偵事務所、オフィス失楽園所長の実力を!!」

 

 胸を張って大声を張り上げる。思えばまともなオカルト事件は久しぶりだ。ふふ、俺の実力を見れば満も俺を雑に扱うことはしばらくなくなるだろう。

 そんなやる気に満ち溢れている俺の耳に、草をかき分ける音が聞こえた。振り向けば、あの奇妙な恐竜。

 

 あぁ、そういえば大声を出してしまったな。

 

「佐藤さんのアホ!!」

「す、すまん!!」

「チンタラしすぎたな! 走れ!!」

 

 クソッ!! 俺がカッコつく日はいつくるんだ!!???

 

 

 

 

 

 佐藤が別世界に行って、たけしがこっちにきてから一日が経った。あいつなら一周年には間に合うだろうなぁと思いつつ、そういえばホワイトデーも近いからそっちにも間に合わねぇと……と思っているのを見透かされたのか、「私は別に気にしないですけど、他の子は大丈夫ですかね」と透華が頑張って気にしていない風を装ってきた。これは気にしてるな……。

 それで言うと、たけしの方も早めに帰らなきゃいけない予定とかあるんじゃないか? 結婚してるって言ってもどっちかって言うと新婚な方だろうし、ホワイトデーとかそういう日は大事にしたいはず。けど、焦った様子もなくコーヒーを片手に「満、新聞」と言って、「いつも読んでないじゃん」と返されていた。今のは『いつもは新聞を読んでる』って俺たちに思わせたかったんだろうな。俺たち相手にカッコつける必要ねぇのに。

 

「たけしはあんま焦んねぇのな」

「やれることはないとわかっているからな。それに、命が危なくなるわけでもあるまい。オカルト的なアプローチも考えなくはないが、あまりこの世界に影響を与えるのもな……」

「私たちの世界と違って危ないことなさそうだもんねぇ。変なことしちゃって、変なの呼び起こしちゃったら責任取れないし」

 

 そういうこともあんのか……。確かに、どのルート使っても邪神云々の話は拾えなかったし、根本的に世界の造りが違うとか、そういうのかもしれねぇな。たけしは経験で言えば佐藤よりも全然あるだろうし、その辺りの判断は正しそうだ。

 『別世界のミッドナイト・サイコナイト』として視聴者も一旦は受け入れてくれたから、こっちは普通に過ごせそうだ。あとは佐藤が向こうで何やってるか知らねぇけど、頑張ってこっちに戻ってきてくれたら……でもなぁ。なんかあいつ、時間の流れが違う空間とかに閉じ込められて、めちゃくちゃ焦らされてそうな気もするんだよなぁ。そういう展開に愛されてるし。

 

「しかし、暇だな……おい、何か俺に質問とかないか?」

「暇すぎだろ。俺は別にないな……」

「私たちとの出会い方とかも一緒なんスかね」

「あー確かに。俺とはどうやって出会ったんだ?」

「ある日突然無人島にワープさせられて、同じくワープさせられていたていとくんと邪神から逃げ出したのが始まりだったな」

 

 なんだそれ面白そうだな。

 

「そういえばその頃の話、私知らないんだよね」

「ていとくんは高校からで、満と透華は大学からだからな。俺の周りで一番付き合いが長いのはていとくんだ」

「小中の友だちとの付き合いって自然となくなっていくよな」

「は? 別に小中の友だちもいたが? ちょっとまぁ、アレなだけで」

「いらない見栄張るのやめなよ」

「男には戦わねばならん時がある! 邪魔をするな!」

「透華と付き合いもせずに結婚したクセに……」

 

 満ちゃんの攻めにたけしは目を逸らし、逸らした先で透華と目が合ってお互いに目を逸らす。気まずいったらねぇな。ていうかマジで付き合いもせずに結婚したのか。つっても普段から大体事務所にきてるし、身の回りの世話もしてるから半同棲みたいなもんで、違和感しかないかって言えばそうでもねぇけど、どうせ焦りに焦って告白よりも先にプロポーズが出たんだろうな、と容易に想像できる。勝負一段階飛ばしてんじゃねぇよ。

 

 結婚の話が出て気まずくなったのか、透華がたけしから隠れるよう俺を壁にする。あの、やめてくんねぇか? たけしが複雑そうな表情してんだろうが。あいつ、佐藤と一緒で繊細だろうから、多分結構引きずるぞ。「と、透華が、俺以外の男を頼りに……! いや、この世界の透華は俺と結婚していないんだ。であれば、透華と結婚している俺との距離を測りかねるのは事実。しかし、なんだこの複雑な感情は……待てよ、透華が俺の次に頼りにするのはていとくん、つまり俺がこのままこの世界にいれば、透華がていとくん、いや、帝斗に取られてしまう!? そっ、そんなことはないはずだ。透華を信じろ。だがこのままいつまでも帰らなければ愛想を尽かすということもなくはない。であれば、俺がそんなことがないよう立ち振る舞うべきではないか? といってもどうするべきか……透華が帝斗を頼る、という状況にさせない、というのが一番か? つまり俺への警戒心というか、気まずさをなくせばいいんだ。それをどうやってやるか……よし、まずは普通に会話からだな。昨日日用品を買ってきてくれたから、その礼から始めよう」って考えてそうだな。

 

「透華、そういえば昨日慣れない配信でちゃんと礼を言えてなかったな。日用品を買ってきてくれてありがとう」

 

 ほらな? キモすぎだろ俺。

 

「い、いえ。別にいいっスよ。他に何か欲しいものとかありますか?」

「いや、完璧だった。流石は透華と言ったところだな。服も下着もちょうど俺のサイズのものを……ということは、この世界の俺も介護されているのか……」

「気づいたか」

「流石に下着とかは先輩が自分で買ってるっスよ? 服も稀に私か西園寺さんが買いますけど」

「……ではなぜ俺のサイズを知っているんだ?」

「ウワー!!!!!」

「透華が壊れた!! 何しなくていい追及してるの!!」

「いやっ、違う! 今のは違う!! というか帝斗! ていとくんから西園寺帝斗!!」

「自分の失敗で焦って日本語崩壊させてんじゃねぇよ! 帝斗! 透華から離れろ!! だろ!!」

 

 墓穴を掘ってたけしにそこをつつかれた透華が、死ぬほど恥ずかしくなったのか俺の背中に張り付いてきた。いや、大丈夫だって透華。下着のサイズとか服のサイズとか、見りゃわかるよな? 洗濯とかもしてるし、目に入ることもあるし。別に恥ずかしいことじゃねぇって。恥ずかしいのはこの歳にもなって自分の身の周りの世話も自分でできねぇ佐藤だから。おいたけし、「お、俺の危惧していた状況が……!!」っつってワナワナ震えてんじゃねぇよ。そもそもお前が服とか下着とか言わなきゃ透華が墓穴掘ることなかったんだから、お前がどうにかしろ!!

 

「そ、そーうだ!! 配信について相談させてくれ! 俺は初心者だからな!! ハッハッハ!!」

「……月宮さんとかアザミさんとかに相談してください」

「くっ、透華! すまない、俺がいらないことを言った!」

「……」

「満! どうすればいい!?」

「それも含めて、月宮さんとアザミさんに相談したら? ダメ男」

「今は一旦飲み込んでおいてやる!! 少し出る!!」

「あ、待て待て。流石に野放しにするわけにはいかねぇから俺も行くぞ」

「よし、ならついでに月宮さんとアザミへ連絡してくれ」

「向こうの都合もあんだろうけどなぁ……」

 

 透華のことは伏せて『たけしが配信の相談したいって言ってるんで、協力してもらえませんか? 直接会って相談したいみたいです。プロエジェの事務所とかどうですか?』と送ると、『わかりました。向かいます』と月宮さんから、『通話をすれば済む話を、直接会って、か。ということはつまり佐藤たけし、今はエミと呼んだ方がいいか。エミが何かをやらかして、自分の事務所を出ていきたいという心理状態になっていると思える。やらかすとすれば、羽崎透華に対しデリカシーのないことでも言ったか? とりあえず向かうが、そのあたりも教えてくれ』とアザミさんから。

 

 面白がりたいことを面白がろうとする人が頭回るの、死ぬほど厄介だな……。

 

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