稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第139話 多分一生こない

「エミが配信をするとして、一つ問題がある」

 

 『project:eden』事務所、その会議室。たけしが何をやらかしたかを知りたがっていたアザミさんには、「あんま知られたくないことだと思うんで」と言ったら納得してもらえた。正直たけしが何やらかしたかは言ってもいいけど、透華が嫌がるだろうしな。ただ、どっちにしろたけしへの興味はあるみたいで、会った瞬間に触ってたけしの周りをうろちょろして、佐藤との違いがないか確認し、アザミさんに触れられて童貞臭い反応を見せないたけしに「童貞ではないようだな」と佐藤との違いを明確にした。

 

「問題……あぁ、俺が元の世界に戻った時か」

「エミからニコへ切り替わるタイミングよね。いつ帰ってくるかわかんないから、視聴者から見ればぬるっと変わったように見えちゃうし」

「元に戻った、と言って納得できる理由が必要だな」

 

 まぁ、初っ端『別世界のミッドナイト・サイコナイトだ』って言って受け入れてくれたから、ぬるっと元に戻ってもよさそうな気もするけど、それだと『何のためにそんなことをやったのか』って思う視聴者は必ずいる。で、もし『エミ』の人気が出てきたら、『またエミをやってくれ』っていう声も出てくるはずだ。っていうことは、『別世界のミッドナイト・サイコナイトを演じてる』っていう風に捉えられすぎると、今後佐藤が動きにくくなる。佐藤はエミをできないわけだから、『エミをやってくれ』っていう声は無視するか、跳ねのけるしかなくなるからな。

 

「まずは、西園寺帝斗の意見を聞こうか。エミに配信してもいいと最終的に許可を出すのはお前だろう? であれば、この辺りを考えていないはずがない」

「考えてなくもねぇっすけど……。思ったよりも『別世界のミッドナイト・サイコナイト』が受け入れられてるんで、このまま『別世界感』を押し出して、はっきりニコに戻った、って視聴者に感じてもらうのがいいと思います」

「なるほどな。いつ戻ってくるのかわからないのであれば、今のうちに『別世界のミッドナイト・サイコナイト』が嘘ではない、演技ではないと視聴者に思わせる、ということか」

 

 はっきり『別世界のミッドナイト・サイコナイト』を押し出せば、ある日突然戻るっていうのにリアル感が出る。佐藤が『エミになれ』って言われても「あれは別世界の俺だと言っているだろう!!」で押し切れる。いうなれば、長期間かけて視聴者にいじるネタを提供する、って感じだな。戻ってくる佐藤にとってはたまったもんじゃないだろうけど、あいつはいじられてボコボコにされる方が似合ってる。っていうかこんな状況にしやがって! ってより、帰ってくるまで繋いでくれてありがとう、が先に出るやつだしな。

 

「別世界のニコっていうのを前面に押し出すのは、普段の配信でもできそうね。昨日の配信も童貞臭くなくてその時点でニコとは全然違うし」

「この世界の俺はそんなに童貞臭いのか……?」

「あとキモい」

「……厳密に言えば俺に言われているわけではないのに、なんか傷つくな」

「大丈夫だよ! 佐藤さんキモくないよ!」

「励ますな! 本当はキモいみたいになるだろう!」

「本当にキモくない。情けないだけで」

「おい。キモくないって言うだけでいいだろう。なぜ新たな悪口を生み出すんだ」

 

 にしし、と歯を見せて笑う満ちゃんに、たけしが微笑みながら「まったく」呟いた。なんか、アレだな。やっぱりたけしのが佐藤よりカッコいいな。カッコいいっつーか大人っつーか、佐藤は満ちゃんと喧嘩っぽくなる時は精神年齢が同じくらいになるけど、たけしはあくまで大人のままなように見える。でもギャグキャラなんだろうな。いや、どうなんだ? あっちの世界はこっちの世界よりも数段とんでもなさそうだし、一般人に紛れ込んだらギャグキャラになるけど、周りの人がおかしすぎて結果的にまともになってるような気もする。だから佐藤よりも大人っぽく見えるのかもしれない。

 それでいうと、満ちゃんもちょっと違う。目つきもキリっとしてるし、素直さがちょっとだけ抜けてるような気がする。どっちにしろたけしの安定剤的な立ち位置ってことには変わりないけど、やっぱり邪神だとかオカルト事件だとか、そういうのをたけしと一緒に経験してるからこそ、こっちの満ちゃんとの違いも出るんだろうな。

 

「別世界のニコ……つまり俺を前面に押し出すというのはわかったが、肝心の配信内容はどうすればいい? 俺はあまりVTuberに詳しくない。見たところ、雑談やゲームなどが多いようだが……やはり、俺を前面に押し出すのであれば、この世界でニコと関わりのある人と話した方がよさそうだな」

「昨日の凸待ちみたいなのじゃなくて、ちゃんと一対一でコラボする、とかいいかもしれないわね」

「童貞でないことを証明するための情けない配信ではなく、な。最初は私たちと一緒に配信でもするか」

「そういえば月宮さんとアザミさんと一緒にデビューしてるんだっけ」

「そうか。いや……違和感がすごいな。事件で組むことはあったが、月宮さんとアザミとVTuberデビューか」

 

 まぁたけしからすればそうだろうな。確か、たけしの世界じゃちゃんとオフィス失楽園が、依頼が少ないながらも機能していて、所属してるのは朝凪さん、安倍さん、アザミさん。こっちの世界でいうとびっくり調査団とアザミさんか。そう考えると、こっちの世界でもユニットって形で一緒になってるのは何かしらの力が働いてそうだな。

 ……って思ったけど、安倍さんは職業柄近いっちゃ近いし、朝凪さんはまぁ、アレだし。そんなに不思議ってわけでもねぇのか。自然と集まるからこそ、向こうの世界でもオフィス失楽園に所属したんだろうしな。

 

「ニッコリ探偵団、だったか。満が命名したらしいな」

「ほんとにそんな子どもっぽい名前を私が……?」

「お前は子どもだろう。確かにあまりらしくはないが」

「そうなのか。確かに、少しこちらの世界の満とは雰囲気が違うと思っていたが」

「あぁ。こちらの世界で満がドラゴンを召喚した際は、随分カッコいい名前をつけていた」

「色々聞きたいことあるけど、カッコいい名前は多分厨二病っぽいし、間違いなくあんたの影響でしょ」

「そっちの世界はドラゴンまで召喚できんのか……?」

「とはいってもシゲキ的立体VRによって想像を具現化しただけだがな」

「誰がそのシステムを作ったのかが丸わかりだな」

 

 やっぱり、この世界のシゲキさんを近づけないっていうのは正解だったらしい。シゲキさんが別世界の話から着想を得て、この世界もとんでもないことになったらめちゃくちゃになる。あの人、まだ捕まってないだけだからな。今のところ司法が働くようにも見えないし、いつの間にか科学都市が出来上がっていてもおかしくない。それはそれで発展っていう点ではいいかもしれねぇけど、せっかく『project:eden』でおとなしくしてくれてるのに、シゲキさんが力を持ちすぎるのがマズい。

 ……でも楽しそうだな。シゲキ的立体VR? 想像を具現化する? どういうシステムだ。多分オカルト関連の力を取り入れてるんだろうけど、まったく想像がつかない。楽しそうってことだけはわかる。リニスさんとかめちゃくちゃ好きそうだ。

 

「察しの通り、シゲキが作ったシステムだな。試運転を頼まれて、リニスと一緒にエンターテイメントを繰り広げた」

 

 ほらな? この世界でも似たようなことしてたし、どの世界でもリニスさんはリニスさんなんだろう。っていうか一期生の人たちもどの世界でも変わらないような気もする。でも多分、向こうの世界のシゲキさんはこっちの世界よりも更に倫理観が欠如してると思う。じゃないと想像の具現化なんていう一歩間違えれば大犯罪が可能になるようなシステムを作るわけがない。シゲキ的ならなんでもいいんだろうな。

 

「よし、なら当面の動きは決まったな。まずは俺たちで配信をして、他の人たちとも雑談配信をする。意識はせず、あくまで俺は俺として対応するだけでよさそうだな」

「日常的なプレッシャーには弱いもんね」

「そこは一緒なのか」

「でもいざというときは強そうよね」

「そう! やっぱり月宮さんは佐藤さんのことわかってる!」

「やっぱり……?」

「いらない邪推はするな。何度か協力して、波長が合うというだけだ」

 

 いつも通りアザミさんが『佐藤と月宮さんをくっつけるイジリ』をするも、たけしが大人な対応。こ、こいつ、童貞じゃない……!?

 

 

 

 

 

「し、死ぬ……!!」

「大丈夫か? ほら、水」

「ありがとうございます。ほら、佐藤さん。飲める?」

「す、すまない……」

 

 奇妙な恐竜から逃げ出して(俺は途中でダウンし、フレイルさんに引っ張ってもらい、それでは追いつかれてしまうと満が浮遊して俺を引っ張ることによってなんとか逃げ切れた。情けない)、東西南北もわからない暗い森の中で一息つき、満に支えられながら水を飲ませてもらう。ジジイすぎる。消えてなくなりたい。

 おかしくなりそうだ。走っても走っても景色が変わらず、いつまで逃げればいいのかもわからない。なんとか早いところ突破口を見つけ、この空間から抜け出したいところだが、その目途もまったく立たない。

 

「しっかし、やっぱりヤバい空間なんだな、ここ」

「で、ですね……何か、手がかりがあればいいのですが」

「一応気づいたことは共有しとくぜ。走りながら周り見てたけど、私たちとあの恐竜以外、生き物一匹見当たらねぇ。3月の頭、まだ寒いけど一匹も見えねぇってのは明らかに異常だな」

「この森に入れる者を限定している、とかですかね。だとすると、俺とフレイルさんの共通縁は……別世界、か」

「私は別世界の人間じゃねぇぞ?」

「『銀色の鍵』です。それを持っているのなら、別世界の人間と判別されてもおかしくは……」

「? どうした」

「いえ、少し……」

 

 そういえば、あの恐竜はなんなんだ? 明らかに地球上の生物ではない。この空間にのみ生息する化け物? 俺たちを襲う理由はなんだ? 明らかに肉食動物に見えるから、ただの本能か? 邪神と何か関係がある? そもそも、『別世界の人間』をこの空間に侵入させる理由はなんなんだ? この空間が『別世界』に関連している? 何が目的で作られた空間だ? 侵入させるシステムを作っていると考えるのなら、目的と侵入させる対象に関連があるはずだ。そして、『別世界の人間』を集めたい理由。例えばこの空間を作った犯人がいたとして、『別世界の人間』を危険視して、『別世界の人間』を隔離する空間を作り上げた。何かしら誘引剤的なものが働いていた可能性もある。

 もう一つ考えられるとすれば、『俺がおまけであった可能性』だ。犯人の目的はフレイルさん……いや、『銀色の鍵』。『銀色の鍵』の特性である『別世界』を条件にこの空間を作り上げたが、『別世界からきた』俺がその条件に偶然引っかかり、取り込まれた。ただ、公式の写真でフレイルさんが『銀色の鍵』を身に着けている姿があったから、可能性としては薄いか? 別にこんな空間を作らなくとも、直接襲えばいい。

 

 ……ん? 俺が取りこまれた? なんか、似たような経験したことがなかったか?

 

「あ」

「どうした、満」

 

 俺の思考を読み取れる満が、何かに気づいたように口を開き、それからフレイルさんを見る。つられて俺もフレイルさんを見た瞬間、思い出した。

 

「「廃村!」」

「おっ、なんか思いついたのか?」

「いえ、元の世界で似たような経験をしたんです。俺はその地の幽霊を引き寄せる体質があるのですが、向こうが動かない存在であれば、俺が引き寄せられる。元の世界でも、ちょうどこのような森でそんな経験をしました」

「あの時はどこかにしめ縄があったよね。フレイルさん、どこかでしめ縄見ました?」

「上下左右確認しながら走ってたけど、見なかったな」

「俺の経験に賭けてみてくれませんか。俺が先頭を歩きます。俺の引き寄せられる体質により俺がこの空間に囚われたのであれば、俺が向かう先にそれがあるはず」

「わかった。頼むぜ」

「お任せを! 俺はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士ですから!!」

 

 そんなやる気に満ち溢れている俺の耳に、草をかき分ける音が聞こえた。振り向けば、あの奇妙な恐竜。

 

「ねぇ!!」

「すまん!! もう大声は出さん!!」

「何回やんだよこれ!! 走るぞ!!」

 

 クソッ!! 俺がカッコつく日はいつくるんだ!!???

 

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