稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第140話 元の世界

「一緒だな……」

「だね」

 

 奇妙な恐竜から逃げ出して、予定通りしめ縄を探し、拍子抜けするほどすぐに見つかって、その先を歩いていけば見覚えのある廃村を見つけた。人の気配はなく、元の世界で見たような幽霊もいない。ただ、なにか別の気配はある。今まで気づかなかったことが不自然なほどの、大量の魂の気配。

 廃村は確か、除霊術が文化として残っていた時代のもの。幽霊も俺たちの時代に生きていたものではなかった。しめ縄の効力によってこの廃村に封じ込められ、成仏すらできていない状態だったはず。しかし、今回はどこにも幽霊がいない。見えない位置にいるのかもしれないが、それにしても幽霊が一人も見当たらないのは違和感がある。

 

「状況が状況じゃなきゃ、大発見だって喜べたんだけどな」

「あまり公表しない方がよさそうな場所ではありますね」

「佐藤さん、どうする?」

「とりあえず、魂の気配がする方へ向かうか。そこに何もなければ、廃村をしらみつぶしに探すしかないが……」

 

 満が頷いて、フレイルさんも同意するように「じゃあそうするか」と言って俺の後ろについてきてくれる。奇妙な恐竜を何度も呼び寄せてしまった俺に従ってくれるとは、どこまで人格者なんだ……。

 生物の音も、風の音も何も聞こえない廃村を三人で歩く。聞こえる音と言えば、俺たちが歩く音のみ。実際にそうなのかもしれんが、世界から隔絶されているような印象を受ける。直感でしかないが、元の世界で訪れたことのある廃村と違う状態になっているような気がする。元の世界では『別の世界がもう一つあった』ような感覚になったが、ここは『世界にぽっかりと空いた穴にいる』ような感覚だ。何かが生まれようとしているような気配も感じる。俺に経験があればその何かの正体も掴めたのかもしれないが、ない物ねだりをしても仕方がない。

 

「そういや、魂の気配ってどんなのなんだ?」

「なんといえばいいですかね……。こう、心を擽られるような、空間で波が揺れているような……」

「それらしいじゃん。第六感ってことだろ? 理屈で説明された方が納得いかねぇし、そういうもんなのか」

「すみません。聖麗……俺の事務所の者ならうまく説明できたかもしれませんが」

「いえいえ。ワタシもあまり自信がありませんよ。結局、わかる者にしかわからないものですから」

「おい、自然と会話に参加するな」

「アラ? もっと驚いてくださるかと思ったのですが」

 

 ほんとはびっくりしたけどびっくりするのが癪だからめちゃくちゃ我慢した。

 

 俺とフレイルさんの間に割って入ってきて当然のように会話に参加したのは、青白い光を纏った頭蓋骨。流石に頭蓋骨の形で誰かは判別ができないが、喋り方と声と気配で聖麗だとわかるその骸骨は、顎をカタカタと鳴らして「どうも、現代最高の陰陽師、安倍聖麗です」とフレイルさんに自己紹介していた。

 

「骸骨が喋って……いや、あんな変な恐竜がいるんだから、別に今更驚くこどでもねぇか。私はフレイル・アースレイド、探検家だ。よろしく」

「みなさん驚かないとは、つまらないですね……。満さん、ちょっと驚いてみてください」

「やだ」

「サトーさん、どんな教育をしているんですか?」

「正常に育ってくれているとは思うが……」

「自分にとっての正常が、世界にとっての正常とは思わないでください。人それぞれ正常を持っており、誰かにとっての正常は誰かにとっての異常であって」

「ええいやかましい!! 何をしにきたんだ!! 多分助けにきてくれたんだろう!? ごちゃごちゃ言うならここから出た後に聞いてやる!!」

「あっ……!!」

「なっ、どうした聖麗!!」

「失礼。私の本体の方でおならをしていました」

「お前、もしかして助けにではなく笑いにきたのではないだろうな……?」

 

 相変わらず人の神経を逆なでしかしないな、こいつは……!! あとでマリーに謝っておけよ。多分聖麗の本体の近くにいるのはマリーだろう? いきなり屁の音を聞かされるマリーの気持ちにもなってみろ。本体が無事じゃなくなっていても文句は言えんぞ。

 ……が、こんなにふざけている聖麗だが正直ありがたい。俺はオカルトセンスがあっても経験がない。この先に何かがあったとして、それに対する最適解を見つけ出せる確証もなかった。その道の専門家であり、経験も豊富な聖麗がこのタイミングできてくれたのだから、多少の神経の逆なでは許してやってもいいかもしれない。

 

「さて、この空間の説明からですが」

「あぁ」

「ワタシにもわかりません! オッホ!」

「貴様……!!」

「落ち着け! 暴力はダメだ!」

「そうだよ! あと多分殴っても佐藤さんが痛いだけだよ!」

「離せ! 負けてもいいからやってやる!」

「ところで、ワタシの頭蓋骨の造形どうです? ナイスガイ、いや、ナイスガイコツだと思いませんか?」

「さっさと本題を話せ! もう無視するぞ貴様!!」

「仕方がないですねェ」

「おい、俺がわがままを言ったみたいな反応をやめろ」

 

 何頭蓋骨を横に振って「やれやれ」みたいな雰囲気出してるんだ。どう考えても悪いのはお前だからな? どれだけ俺たちの神経が削れていると思っているんだ。俺らしくもなく拳を握ってしまうほど神経が削れているんだからな? あまり煽るなよ。でなければ満の前だというのに拳を振るい、満の言う通り殴り慣れてなさすぎて俺だけダメージを負い、情けない姿をさらしてしまうだろうが。

 クソッ、俺は、弱い……!!

 

 ここが引き際だと見たのか、聖麗はどこか不服そうにため息を吐いた後、カタカタと顎を鳴らして話し始めた。

 

「この空間が何かわからないというのは、ちょっとだけ冗談です」

「少しは目星がついているということか」

「えぇ。別世界への門を作る、その儀式場と言ったところでしょうか。媒介は『世界の軸から外れた者』。つまり『時代の異なる魂』や『別世界の存在』などですね」

「……? つまり、俺たちは媒介にされているということか?」

「今はまだ。媒介にするのにも手順があるでしょうし」

 

 なるほどな。要は、儀式の素材を集めるためにあの奇妙な恐竜がいた、ということか。アレに捕まってしまっていれば、もしかしたら儀式が完成していて、この空間は別世界への門となっていたかもしれない。それによる影響がどのようなものかは明確にはわからないが、ろくでもないだろうということはわかる。ただ単純に、俺がいた世界とこの世界がつながる、というだけならまだしも、それによって邪神のような人智を越えた存在が元の世界にも現れるなんてことになってしまえば、その影響は計り知れない。

 ということは、俺がやるべきはこの儀式を止めること。儀式を止めるには、媒介をどうにかする必要があり、その媒介は恐らく『時代の異なる魂』、つまりこの廃村に元々いた幽霊たちの魂をどうにかする必要がある。廃村の人々の魂がどうなっているかはわからないが、今感じている魂の気配から察するに、まだ魂は無事……ということは、何らかの形で囚われている可能性がある。

 

「『魂の牢獄』……」

「おや、ご存知でしたか。魂の気配から察するに、この廃村にいた方々の魂が牢獄に囚われ、儀式に利用されているのでは、とお話しようかと思いましたが」

「どちらにせよ、確認せねば始まらんな。行くぞ」

「はい。ところで、えげつないくらい周囲に恐竜がいますが、どうします?」

「え?」

 

 どうせいつもの冗談だろうと思って周囲を見渡すと、今まで俺たちを追ってきていたあの奇妙な恐竜が大量にいた。十数どころではない。なぜ今まで気づかなかったのか不思議なほど、いない空間を探すことが困難なほどの数の恐竜がいる。

 

「なぜ今まで気が付かなかったんだ!?」

「あれは特定の条件を満たした場所に出現するものですからねェ……。少しは抑えられますが、ミスったら死んじゃいますね。オッホ!」

「何が面白い! クソッ、どちらにせよやるしかないことに変わりはないか……!!」

「一つ、ワタシから提案があります。この場を確実に切り抜けられる方法」

「なにっ!? そんなものがあるのか!」

 

 普段はふざけていてどうしようもないやつだが、やはりこういう状況の時は頼れる! 少しは見直してやってもいい。よく見れば骸骨の造形も見事だ。ナイスガイ、いや、ナイスガイコツだな。

 

「フレイルさん。『銀色の鍵』をサトーさんの胸にさしてみてくれませんか?」

「ん? おう」

 

 フレイルさんが何の疑いもなく『銀色の鍵』を俺の胸にさす。その瞬間、この世界にきたときと同じような奇妙な感覚に襲われる。あ、あれ!? このままじゃ帰ってしまうんじゃないか!?

 

「まっ、待て聖麗!! 俺は俺自身がフレイルさんに恩を返さねば」

「正直あなたよりもショチョーの方が役に立ちますし、賭けのレベルにしかならないあなたの力を頼りにするのは愚の骨頂。人の命がかかっているこの場面で、あなたの恩返しを優先する理由もありませんよね? 精神論以外でワタシの意見が間違っていると言えるのであれば、どうぞ仰ってください」

「やっぱり嫌いだ!!!!」

 

 元の世界に帰る直前に俺が見たのは、愉快そうにカタカタと顎を鳴らす聖麗の姿だった。覚えておけよ、貴様!!!!!

 

 

 

 

 

「ですから、コラボしませんか。お願いします!!」

「えっ!!?」

 

 元の世界に戻った瞬間、コラボをお願いされた。いっ、一体なにが!?

 

 周りを見てみる。どうやら個室の居酒屋のようで、目の前にいるのは黒髪ロングで、『この人のことを美しいと思いますか?』とアンケートを取れば全員が『はい』と答えるような美貌を持つ女性。なぜ個室居酒屋に俺とこの人が二人きりでいるのか、帝斗が店員のフリをして配膳をしているのか、イベリスが決めポーズで彫像のように部屋の隅でピクリとも動かない状態でいるのか、何もかもまったくわからない。

いや、帝斗に関しては向こうの世界の俺を一人で行動させないがためについてきてくれているのだろう。そしてイベリスがこの場にいるということは、事務所関連の何か。更に直接顔を合わせてコラボを依頼されているということは、それなりに重要なもの、ということか? まずい、満もいきなり元の世界に帰ってとびきりの美人に俺がコラボをお願いされたことにびっくりして混乱しているから、いつものように茶を濁してもらうこともできない。クソッ!!

 

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 どうしようかと頭を悩ませて、思わず向こうの世界の俺に悪態をついた瞬間。脳に俺の声が響き、それに驚く声も響く。……ま、まさか。

 

《いや、そんなことは後だ!! 簡単にその状況になった流れを伝えると、他事務所から俺に対してコラボの打診があり、俺の状況が状況だったから断るのが正解だったものの、相手がオシャレすぎてイベリスが快諾してしまった!! 自己紹介は済ませてある! こっちは!?》

《別世界の門を創造する儀式を止めるところだ! 恐らく『魂の牢獄』から魂を解放すればなんとかなる!!》

《わかった!! 武運を祈る!!》

《どちらかというとそっちがな!》

 

 ……さて、色々混乱する要素はあるが、どう乗り切ろうか。

 

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