稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第142話 差

「ほんっとーにごめん! 私がもっと気を付けるべきだった!」

「そ、そんな、謝らないでください! それで言うなら俺も気を付けるべきでしたし、何よりあんなことが起きるなんて誰も想定できませんから!」

 

 都さんからのコラボ依頼を受け、とりあえず事務所に戻って都さんの配信をすべて見てどうやって関わろうかと考えようと思っていたら、帝斗のもとにフレイルさんから連絡があった。もう完全にマネージャーが移行しているな……とぼんやり考えていると、「すぐに謝らせてくれ」とフレイルさんから言われ、フレイルさんの性格的に気にするなと言っても気にするだろうなと思い快諾。事務所の会議室で会おうということになって会議室に入ってみれば、土下座して待っていた。流石に申し訳なさすぎる。

 

「とりあえず顔を上げてください。俺はそんなに気にしていないですし、満も気にしていないよな?」

「うん。別世界に行っただけだしね」

「……二人がそう言うなら……いや、このままじゃ私の気が済まねぇ。困らせてるってのもわかってる。だけど、何か力にならせてくれ」

 

 律儀な人だ……。これを断れば、悪者になるのは俺だろう。フレイルさんはいい人だから、ここで断ってこの先微妙な関係になるのも避けたい。かといって、何をお願いしようか……。ちょうどいいから、都さんとのコラボのことを相談するか? フレイルさんは『project:eden』でもまともな方だから外部とのコラボ経験もあるし、外部との交流が増えれば活躍する人であることには間違いない。そもそも、別世界に行く前は一周年記念のことも相談しようとしていたし、色々ちょうどいいか。

 

「では、実は『ゆーとぴあ』のみ……アー、ユースさんとコラボすることになりまして」

「お、マジか。ニコなら大丈夫だろうけど、大仕事だな」

「……!!」

「フレイルさん! コラボ当日まで緊張しっぱなしになっちゃうから、大仕事とかあんまり言わないで!」

「ワリィ。でも、そんな大仕事に見合うだけの実力があんだから、堂々としててもいいと思うぜ?」

「フレイルさん、俺の事務所にきませんか?」

「慰めがあまりにも気持ちいいからって勧誘しないの!」

 

 だ、だって! こんなに俺を肯定してくれる人はいないぞ!? アルかフレイルさんくらいだ! あまりにも光すぎる。アルかフレイルさんが事務所にいてくれれば、俺の精神は常に安定し続け、今までとは比べ物にならないパフォーマンスを発揮できるに違いない。……いや、待てよ。帝斗が敢えて俺に予定を教えていないのは、ぶっつけ本番の方が面白くなるから、だったな。それならば、俺の精神が安定してしまっては面白くなくなり、帝斗が愛想を尽かし、俺から離れていくんじゃないのか……?

 

「フレイルさん、やはりさっきの話はなしでお願いします」

「ん? おう。別に本気だと思ってねぇよ。嬉しかったけどな」

「くっ、助けてくれ満! 俺の精神の安定か、俺の面白さか、どちらを取るべきだと思う!? この選択によって俺の未来が変わってしまう!」

「そんなことよりユースさんとのコラボのこと考えようよ」

「今、俺の未来のことを”そんなこと”と言ったか?」

 

 聞き捨てならないことを言った満に追及するも、ガン無視。こ、こいつ……!!

 ただ、満の言うことももっともだ。今はフレイルさんの力を借りて、ユースさんとのコラボに備えるべきだ。いくら俺らしくしろとイベリスに言われたからと言って、何も気にしなくていいわけではないからな。外部コラボの時の作法は知っておいた方がいいだろう。

 

 ……今思ったら、そういうのは事務所から教えられるべきではないか? まぁ、イベリスがあの調子なら事務所としてはそういう研修みたいなのは不要ということなのだろうが、不安だ。遠くない未来、外部コラボが当たり前になった時、作法を教えられていないせいで『project:eden』のライバーが好き勝手やって、結局また鎖国みたいなことになるかもしれん。

 が、そもそも研修をしたとして、『project:eden』のライバーが守るとは思えん。守るような人は研修をしなくても身についているような人たちだろう。だから杞憂だな。杞憂で終わらせていいかは別として。

 

「しっかし、外部コラボかー。私が外部コラボしたのって大分前だしなぁ」

「確か、デビューして三か月くらいですよね」

「おう。一期生から三期生があんなのだから、四期生で窓口広げようってのでな。でもまぁ、広げようとしても一期生から三期生が異質すぎて気味悪がられて無駄に終わった」

 

 まぁ、一期生から三期生の頃はまだVTuberは女性が主で、完全にアイドル路線だったしな。そんな中で一期生はルイス、イベリス、シゲキの『クール』、『オシャレ』、『シゲキ』を行動原理としている理解不能な三人組。二期生はリニス、聖麗、物部さんのエンターテイナー二人にド変態一人。三期生は芥川一族でそもそも『project:eden』のライバーですら掴み切れない不気味さがあるという、当時のVTuber業界ではかなり異質だったのだろう。それだけでも敬遠されてもおかしくないのに、更に頭のおかしい集団だと思われてしまっては、外部との関わりがなくなってもおかしくない。

 

「今は事情が違うから、比較的大丈夫だと思うけどな。まず外部コラボすると、私たちを知らねぇ向こうの視聴者は、『project:eden』のライバーだっていう入り口があって、その入り口の評判がとてつもなく悪い。めっちゃくちゃ警戒されてたな」

「その点、俺には満がいるからまだマシそうですね」

「でも、ニコさんみたいな人が未成年連れてたら更に警戒されそうだけど」

「……そういえば、デビューしたばかりの時は、一瞬にしてロリコンに仕立て上げられたな」

「そういうことだ。向こうは私たちのことを知らねぇから、まず偏見から入られるんだよ。そこをどう突破するかだな。ま、ニコなら普段通りにしてるだけでなんとかなんだろ。満もついてるしな」

「えへへー。ま、ニコさんのサポートをやらせたら右に出る者はいないですから!」

 

 フレイルさんに褒められて嬉しそうな満を見ていたら、何とかなる気がしてきた。俺が変なことをしても満が助けてくれるだろうし、何より俺のデビュー時と違うのは、満が自分で相手に声を届けられること。デビュー時はまだ実体化ができなかったし、ボイスチェンジャーもなかったから、俺が満のことを言っても妄想扱いされて厨二病だロリコンだとボコボコにされていたが、今は違う。思ったよりもハードルは低いかもしれない。

 そう思えば、都さんが俺に声をかけてくれたのは、満がいるからというのもあるだろう。いつかイベリスが言っていたように、未成年の満がいればそれだけで性的要素が薄れる。もちろん、俺の燃えにくさも評価してくれていたのだとは思うが、そもそも俺の燃えにくさの原因の一部は満にもあるから同じことだろう。

 

「あとは、厄介ながちこい? みてぇなやつらにどう認めさせるかだな」

「認められなければ、一周年を炎上して迎えかねませんからね」

「でもさ、それ怖がって縮こまるよりかは、好きにやっていいと思うぜ? こうやってぐだぐだ考えるよりもそっちの方がいいって」

 

 やはり、『project:eden』のライバーは同じ結論に辿り着くのだろうか。イベリスにも同じようなことを言われたし、誰に相談しても同じようなことを言われそうな気がする。というか今までもそうだったな。俺がびくびくしていても『いつも通りでいい』と言ってくれるんだ。俺自身、俺にいつも通りやってなんとかなるような能力があるとは思っていないが、周りがそう言ってくれるんだったらそれが正解なような気もする。

 

「……いえ、まぁ、いつも通りでいこうとは思ってはいますが、やはり気を遣うべきところは遣うべきかと。流石に、向こうの視聴者を無視したパフォーマンスはできませんから」

「ほら。そういうとこ含めていつも通りだから、ニコなら大丈夫だって」

 

 俺の背中を勇気づけるように叩いて、フレイルさんが笑う。本当に、この人は勇気づけるのがうまい。一家に一人フレイルさんがいれば、日本の自己肯定感の平均が急激に上昇するに違いない。俺、もうなんでもできるような気がしてきているしな。『ミッドナイト・最高ナイト』というやつだ。ワハハ!!

 

「うわ……」

 

 ちょっとした冗談に対し、満が極限に冷めた目で俺を見てきたことによって、正気に戻った。一家に一人フレイルさん、一家に一人満がいれば、日本全体の精神がフラットになるかもしれない。

 

 

 

 

 

《ところで、そっちは今の俺たちの状況を話したか?》

《事務所メンバー全員に一瞬でバレた。聖麗に「おや? ショチョー、童貞臭いですね」と言われ、マリーに「あれ……なんか向こうのたけちーの童貞感がある」と言われ、アザミに「いつもより童貞……向こうの童貞、いや、佐藤たけしと繋がりでもできたか?」と言われた。お前、どこまで童貞なんだ?》

《まさか自分に童貞加減を問われる日がくるとは……》

 

 帝斗が運転する車に揺られ、事務所までの帰り道。色々あって疲れたのか、眠る満に肩を枕にされながら、エミと会話できるようになったことをどう伝えようかと相談を始めた瞬間、エミに童貞を指摘された。恐らくこの調子なら、俺も聖麗とマリーとアザミと会えば一瞬でバレそうだ。隠す意味もないし俺から言うつもりだが、俺の場合「おや? なにか童貞臭さが薄れていますね」みたいなことを言われるのかと思ったらちょっと傷つく。

 

《原因は十中八九、互いの世界に行ったことだろうが……。これによる影響がわからんな。先ほどアザミに裸に剥かれてサンドバッグ作成ついでに色々調べられたが、特に悪影響はなさそうだったが》

《なっ、なに!? 貴様、透華というものがありながら、裸に剥かれるとはどういうことだ! 破廉恥極まりない!》

《前半部分は同意だが……とりあえず、わかったことはやはりお前は童貞だということだな》

《おい、俺にマウントを取るのはやめろ。俺自身にも負けたら俺はどうすればいいんだ》

《別に、お前はミッドナイト・サイコナイトで佐藤たけしなんだろう。他からの評価などどうでもいい。自分は自分だと胸を張ればいいんだ》

 

 俺に慰められた……。どうやら、人としてエミの方が上らしい。俺もそうなりたい。ずるくないか? 依頼があって結婚していて余裕があるの。なぜ俺は依頼がなくて未婚で余裕がないんだ。童貞だからか?

 

《まぁ、当面は暇つぶしとして話し相手になる、くらいでいいだろう。助けてほしいことがあれば、人生の先輩として聞いてやらんこともないが?》

《フン! 俺は俺自身の力で未来を切り開く! 誰が貴様の力なんて借りるか!》

「なぁ佐藤。向こうのお前と話してるとこワリィけどさ」

「???」

 

 煽られたことにムカついてエミに反発していると、帝斗が俺に話しかけ……話しかけただけじゃないな。今普通に「向こうのお前と話してるとこ」って言ったよな? なぜバレた? もしかして今までの会話をすべて声に出していたか?

 

「出してたぞ」

 

 出していたらしい。わかりやすいどころの騒ぎじゃないな、俺。

 

「それ、悪い影響とかねぇのか?」

「向こうの俺……エミがアザミに調べられたらしいが、今のところはないそうだ。常に繋がっているというよりも、電話みたいな感覚だしな」

「意識すれば会話できるってレベルか……。あ、そういえば」

「なんだ?」

「透華、めちゃくちゃ心配してたぜ。色々大変なのはわかるけど、ちゃんと安心させてやれよ」

 

 ……。

 

《エミ。人生の先輩として助けてほしいことがあるんだが》

《透華のことならお前自身でなんとかしろ》

《いや、なんかあるだろう! 透華が何で喜ぶとかそういうの!》

《愛した女性のことは自分で理解するべきだ》

《あっ、あいあい、あいあいあいあいあい》

《お猿さんか、お前》 

 

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