稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第143話 おかえり

「ただいまー……」

「ただいまー……」

「おかえりなさい」

 

 帝斗から透華が心配していたと聞いて、気まずい思いをしながら事務所に帰ると、ひとまずは普通におかえりを言ってくれたことに安心する。満も俺に引っ張られて気まずくなっているからか、どことなく申し訳なさそうにしている。門限を過ぎて帰ってきた子どもみたいだな。似たようなものか? ただ出かけていた先が別世界であったというだけで。

 しかし、向こうが普通にしているからといってこっちも普通にしていいというわけではない。心配をかけたのなら謝るべきだ。そう考えると帝斗に一言も謝っていないなと思ったが、帝斗は「まぁ、別になんとかなると思ってたしな」と言ってくるだろうし、謝りがいがないから別にいいだろう。本当に謝ってほしかったら「おい、謝れよ」くらいは言ってくるからな。

 

「透華」

「……はい」

「心配をかけてすまなかった」

「透華、ごめんね?」

「べ、別に気にしてないっスけど。なんとかなると思ってましたし」

 

 強がってる? 強がってるね。満とアイコンタクトで会話して、透華が強がっていると断定。本当に気にしていないなら、俺たちに笑顔を向けてくれるはずだ。今は口の先を尖らせて拗ねたように視線を逸らしたから、これは気にしている。人にわかりやすいとか言っておきながら、透華も中々にわかりやすいな。この場にいる人間でわかりにくいのは帝斗……いや、帝斗もわかりやすいな。大体面白がってるか面白がっていないか、キャッチボールをしたがっているかしたがっていないかだからな。

 さて、気にしていない風を装っている相手に対し、食い下がって謝ると機嫌を損ねる可能性がある。とはいえ、ここで引き下がるというのもあまりよくはない。何かしらの埋め合わせをするべきで、だが俺の人生経験が乏しいせいで埋め合わせとして何が正しいかの判断がつかない。

 

 ここは満に打開してもらうしかない。いつもなら俺だけの問題だが、今回ばかりは満も謝罪する立場だ。満に頼るのは情けないが、この空気を振り払う術は俺にはない。

 満に視線を送ると、任せてと言いたげに頷いて口を開いた。

 

「あのね、向こうの佐藤さん、エミさんね、ほんとに透華と結婚してたよ」

「満!?」

「あなたって呼んでたし、敬語とかもなくなってて」

「満!!」

「事務所に結婚式の写真もあった! あと多分子……これは言わない方がいいか」

「満!? 最後のは知らんぞ!?」

「認知しないってこと?」

「そういう意味ではない!!」

 

 途中で切れたが、子!? 子どもか!? 子どもというと大人から守られるべき立場であり、『子供』という漢字は『供える』というお供え物を連想するからと公的文書では『子ども』と表記されることが多い子どものことか!? いや、まだ『タブンコ』という訳の分からない固有名詞を言った可能性もある。あの世界は邪神と普通に遭遇する世界だから、恐らく『タブンコ』と呼ばれる生命体がいて、その話をしようとしたが、この世界は邪神とは縁が遠い世界だからその話をしない方がいいと判断して途中で切ったのだろう。じゃあ認知というのはどういう意味でいったんだ!? あ、そうか。別に認知というのは子どもに対してのみ使う言葉ではなく、ただ単純に『タブンコ』という存在を認知していないという意味か!! そうに違いない。そういえば向こうの世界で透華が帰ってきた時、マリーが透華の体を気遣っていたなとか思い出したりもしたが、今満は『タブンコ』の話をしたのだろう。そういえば『タブンコ』って並べ替えたら『タンコブ』になるな。

 

「ぁぇ……」

 

 などと俺が現実逃避している間に、透華が顔を真っ赤にして俺を見ていた。どうやら先ほどの『認知』の話を子どもの話だと勘違いしているらしい。ここは俺がフォローせねばならんな。

 

「透華。先ほど満が言っていたのは『タブンコ』という生命体の話で、認知というのは俺がその『タブンコ』という生命体を知らなかったというだけの話だ」

「あ、そ、そうなんスね。そっか、ちょ、ちょっと勘違いしちゃいました」

「あぁそうだ。満、ややこしいことを言うな」

 

 あはは、と俺と透華の乾いた笑い。それを見ていた帝斗が、「こういう時、お互いが踏み込まねぇからいつまで経っても進展ねぇんだろうな」と目で語り掛けてきた。うるさい!!!!

 

「とにかく、すまなかった。これからは……まぁ、何かの事故に巻き込まれる、などということがないと断言はできないが、何かあったとしても必ず帰ってくる。だから、信じて待っていてほしい」

「……信じてなかったわけじゃ、ないっスけど。ちょっと、不安だっただけで」

「佐藤さん。そろそろ透華を安心させる証を用意するべきじゃない?」

「さぁ!! 久しぶりに配信でもしよう!!」

「その前に月宮さんとかアザミさんとか朝凪さんとか、別世界のお前と入れ替わったってことを知ってる人には連絡しとけよ。ダメ男」

 

 うるさい!! 俺には俺のペースがあるんだ!!

 

 

 

 

 

「我が名はミッドナイト・サイコナイト! またの名をニコ! 深夜の狂騎士だ!」

「こんにちはー! 満です!」

 

ニコ!?

エミはどうした!!

エミを返せ!!

ニコだったりエミだったりしろ!

 

 月宮さんとアザミとマリーに連絡し、月宮さんからは「案外早かったわね」と返され、アザミからは「案外早かったな」と返され、マリーからは「ここはまだチャンスのある世界だってことだよね」と返された。案外早かったと返してくれた月宮さんとアザミは俺を信頼してくれているように思えてまだいいが、マリーはなぜ俺の恐怖心を煽ったんだ? いや、女性に好意を持ってもらって恐怖とは何事だとは思うが、改めてロックオンしたことを伝える必要もないだろう。

 というわけで、久しぶりの配信。体感的には二日程度だが、この世界では五日経過している。その間にエミがどんなことをしているのか把握できていないが、これは帝斗から「知らねぇ方がリアルだから」とわかるようなわからないようなことを言われ、何も知らないまま配信をしている。今のところ、エミは随分人気だったようだな……。なんか、ショックだ。

 

「フン、エミを返せなどと言っているが、実のところ俺を待っていたんだろう? ネットに浸っていると天邪鬼になる気持ちもわかる」

 

普通に待ってた

エミも悪くなかったけどな

なんか、エミは成功者の香りがしてニコが恋しくなってた

エミの方が女性人気は出そうだったけどな

 

「ふ、ふふ。そうだろうそうだろう! エミも悪くはないが、俺には及ばんな!」

「なんで自分同士で競い合ってるの……」

「別にエミが結婚しているし依頼もあるしスマートだから劣等感があるとかそういうのじゃない!! 勘違いするな!」

「そんな勘違いしてなかったけど……。でも、ニコさんがそう思ってるんだとしたら、気にしなくていいと思うよ? みんなもエミさんとニコさんの違いがわかってるし、ニコさんはニコさんだからいいっていう人もいっぱいいると思うし、もちろん私もそうだし」

「うぉうぉうぉうぉう!!!」

 

歌みたいに泣くな

実際、ニコとエミの役割は違ったしな

エミはおもちゃにしづらそうだった

なんか、どうしようもない時に助けてくれるもう一人のボクみたいな……

 

 満はなんていい子なんだ……!! 客観的に見たらどう見てもエミの方が勝ち組で、隣にいて恥ずかしくないはずなのに……!! 満は実際にエミと会っていないし話していないからこう言ってくれているのかもしれないが、満がこう言ってくれるのであれば、俺はミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコとして堂々と胸を張らねばならん。劣等感を抱くのは今この瞬間までだ。あとは、何かあった時に助けてもらうもう一人の俺、くらいに思っておこう。

 

「改めて、ただいま。別世界に行くというのはかなり貴重な経験だったが、できればもうごめんだな」

「こっちの人に心配かけちゃうしね」

 

普通の人なら嘘だろって思うけど、ニコならなんかほんとにありそうなんだよな

別の自分の演技できるほど器用じゃないしなぁ

自分より成功してる自分を生み出して嫉妬するって、変態すぎだろ

別世界で何してたんだ?

 

「別世界で何をしていた、か……。詳細はあまり言わない方がいいと思うから言えないが、そうだな。向こうでは俺の事務所にアザミと聖麗とマリーが所属していて、かなりオカルト関係に強そうだった」

 

 あの森であったことは、あまり言わない方がいいだろう。この世界でもあの森に何かあるかもしれない。ここで何かを言って、そのせいであの森に誰かが行って、もし何かが起これば責任問題だ。フレイルさんにもあの森で何が起きたかは伝えていない。聖麗が言っていたように、この世界が『VTuberが流行っていたから作り出した世界』なのだとしたら、この世界ではあの森で何も起きないのだろうと思いたいが、その保障もないからな。

 

奇紀怪解と一緒か

ってことは、奇紀怪解の世界線がほんとにあったってことか?

確か、奇紀怪解でも結婚してたよな……

なんで優姫ちゃんが所属してないんだ!

 

「月宮さんとも一緒がよかったが、月宮さんは月宮さんで、俺の下につくような人ではないからな。必要な時に隣で助け合う戦友、というのがしっくりくる」

 

 奇紀怪解のことには触れないように、話題を月宮さんの方へと持っていく。危ない。奇紀怪解の世界線が本当にあった、というのを確定してしまえば、邪神だとかそういう存在についても、この世界にはいないが並行世界には存在する、ということも確定してしまう。その事実がどのような影響を及ぼすかもわからない。

 ……そうなった時のために、エミと体を入れ替える術でも探しておくか? 多分、エミは邪神関連であれば百戦錬磨だろうし。いや、違う! 俺がなんとかする! 正しかったとはいえ、聖麗に無理やり元の世界へ帰らされたのはまだ納得がいっていないんだ! 俺の力でなんとかできることを証明せねばならん!

 

ニコと優姫ちゃんはそんな感じだよな

相性いい

お互い相手がいなかったら、いつの間にかくっついてそう

 

「いつの間にかくっついてそう!? 月宮さんはそんななぁなぁで相手を決めるような人ではなく、しっかり自分の価値観と相手を照らし合わせ、生涯を共にするに相応しい相手を選ぶに違いなく、俺のような依頼のないオカルト事務所所長をやっていてなおかつ情けないと度々人から言われるような者を相手にするわけがないだろう! そもそも、そういうことを言うのは月宮さんに失礼だ。個人で、もしくは見えないところでそういう話をするのは自由だが、ありがたいことに月宮さんは俺の配信を見てくれているから月宮さんの目に触れる可能性がある。つまりそういうことをコメントするのは控えるべきということで、いや、ただ月宮さんは人の思想を縛るような人ではないから、悪意のあるものでなければ恐らく構わないのか……? 何にせよ、わかっているとは思うが月宮さんのところでそんなコメントはするなよ? 最悪、俺のところではいい。今思えば、月宮さんはその程度で目くじらを立てるような人でもないからな。そう考えれば月宮さんはやはり素晴らしい人で、『月宮優姫』として堂々と胸を張れるような生き方をしている。俺も月宮さんを見習うべきだな」

 

ニコが帰ってきたぞ!!

ニコだ!!

おかえり、ニコ

これだよこれ

この考えすぎがたまらないんだよな

 

 なぜこのタイミングでおかえりと言われたんだ……?

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part29

 

689:このライバーがすごい! ID:3SeFKd/t4

実家のような安心感

 

690:このライバーがすごい! ID:7FDSYvKpO

ニコが帰ってきた!

 

691:このライバーがすごい! ID:Zk8exCI5/

もうちょっとエミもほしかった……

 

692:このライバーがすごい! ID:9pREkSYF9

女性ファンが増えそうになってたのに

 

693:このライバーがすごい! ID:jM25YNDOH

よかった、もう二度とニコの童貞が見れなくなるのかと

 

694:このライバーがすごい! ID:S+aQe33fz

改めて思うけど、童貞がコンテンツになってるのってニコくらいだよな

 

695:このライバーがすごい! ID:UCSpag96z

マリーが『この世界はまだチャンスがあることを再認識する配信』始めたぞ!

 

696:このライバーがすごい! ID:yeZI6sO/V

マリー「次年度の目標は、ニコちーと結婚すること」

 

697:このライバーがすごい! ID:Rezo7ZO4J

ほんとにVTuberか?

 

698:このライバーがすごい! ID:0D96eIv6j

改めて思うけど、女性Vが男性Vに求婚してても燃えないの、プロエジェくらいだよな

 

699:このライバーがすごい! ID:bValJysXT

アザミんが『月宮優姫も負けていないことを再認識する配信』始めたぞ!

 

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アザミん「次年度の目標は、優姫とニコを結婚させること」

 

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アザミんがまためちゃくちゃやってる

 

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帰ってきて早々おもちゃにされる男

 

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アザミん「ニコと優姫がゴールイン目前なのは周知の事実だが」

 

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やっぱりまた嘘言ってて草

 

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水を得た魚

 

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ニコがさっき配信で似たようなこと言った視聴者を注意したばかりなのに

なんでアザミんはエンジンかかってるんだ?

 

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アザミんはいいだろ

 

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アザミんにマリーが凸してきたぞ!

 

709:このライバーがすごい! ID:raML4O60t

うおおおおおおおおお

 

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マリー「優姫の代わりに私でそのノリやってくんない?」

アザミん「加害者になりたいのか?」

 

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外堀から埋める作戦か

 

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外の箱からニコがプレイボーイとか思われそう

 

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蓋を開けてみたら童貞

 

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女子中学生連れてるプレイボーイとか大犯罪者だろ

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