稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第144話 お菓子の意味

 ホワイトデー。バレンタインデーにチョコレートをもらったお返しとして、贈り物をする日。一説では、渡すお菓子によって意味があるらしく、例えばキャンディであれば『あなたのことが好き』だとか、マシュマロであれば『あなたのことが嫌い』だとか。今年は色々な人からもらったから、この辺りをちゃんと調べておかなければ、いらない誤解……をしそうな人はいないが、誤解したということにしてネタにし、散々いじりつくされるだろうからちゃんと調べておかなければならない。

 であれば、相手がお菓子が持つ意味を知っていることを前提に考えるべきだ。だとすると、マイナス方向の意味を持つお菓子は除外するべきだろう。オーソドックスなイメージのあるチョコレートだと『あなたの気持ちは受け取れない』という意味になるらしく、まずバレンタインにチョコを貰った人に贈るには適さないものだと考える。特に透華には贈れない……いや、別に深い意味はないが。

 お菓子の中にも意味を持たないものが存在する。渡すのなら意味を持たないものの中から選ぶのが無難だろう。意味を持たないのは和菓子、プリン、ラスク、ケーキなど。月宮さんにはクッキーでもいいかもしれない。クッキーは『あなたとは友だちのままで』という意味が……待て、『あなたとは友だちのままで』というのは、『向こうからは友だち以上の関係になりたいという提案をされた』という意味が内包されているのではないか? そうすると、俺が自意識過剰に『月宮さんから告白された』と受け取り、『あなたとは友だちのままで』と断ったように映るのではないか!?

 

《エミ、どう思う!?》

《うるさい! 俺も必死なんだ!》

 

 満は「佐藤さんがホワイトデーのこと考えたいらしいから」と言って透華を連れ出し、事務所には帝斗しかいない。帝斗に相談しようにも、こういう時の帝斗は「自分で考えた方が相手も嬉しいと思うぜ?」といい子ちゃんな意見しか言わない。しかし、今の俺にはもう一人相談相手がいる。もう一人の俺、エミだ。

 ただ、エミもホワイトデーで頭を悩ませているらしい。返ってきた言葉に「エミも俺と変わらないところがあるんだな」と安心し、また頭を悩ませる。

 

《おいニコ。俺は結婚しているから、透華にだけお返しをしようと思っているが、流石にそれは他のくれた人に対して不義理だと思うか?》

《不義理だな。むしろ、透華なら他のくれた人に渡さなかったということを知ったら叱ってくるだろう》

《やはりそうか……ちなみに、お前はどんなものを渡そうと考えている?》

《意味を持たないお菓子を渡そう、というところまで考えた》

《やはりお前は俺のようだな。俺たちが同じ結論なら、それで問題ないはずだ》

 

 なんと頼もしい……。客観的に見て既婚者である、俺よりも社会的地位が上のエミがそういうのであれば間違いないのだろう。であれば、問題は和菓子、プリン、ラスク、ケーキの中からどれを選ぶかだ。ケーキは重すぎる、プリンは形が崩れそうで、和菓子は好みが分かれそうだ。となると、ラスクが無難だな。

 

《よし、決めた。ラスクだ!》

《俺も今同じ結論に至ったところだ。ところで、お前は透華に何を贈るんだ? まさかラスクを贈るわけではないだろう》

《えっ……そ、そのつもりだったが》

《未婚だった時の俺は、周りから見たらこんな情けなく映っていたのか……。いいか、ニコ。お前は俺だ。鈍くはなく、気づいていないフリをしているだけというのはわかっている。透華がお前に好意があるというのは気づいているな?》

《……お前相手に誤魔化しても仕方がないか。あぁ、気づいている》

 

 満と帝斗から何回もそんな感じのことを言われたし、透華の様子を見ても明らかだ。初めの頃は自惚れだと切り捨てたが、それにしては無視できないほどの好意を見せてくれている。俺は童貞だが、鈍いわけではない。向けてもらった好意にはちゃんと気づく。透華が俺を気遣って踏み込んでこないでくれているというのにも。

 俺は勇気も甲斐性もない。社会に出ていなかったからしっかりとした責任が伴っていない。俺の人生という枠に他の誰かを入れて、俺ごと沈んでしまうのが怖い。そのくせ一人は寂しいからと遠ざけることもせず、今の幸せに甘んじてしまっている。

 

《別に、今すぐ決意しろというわけではない。お前にはお前のタイミングがある。お前にはお前の人生がある。ただ、だからといってもらった好意に対して応えないというのは、それこそ不義理というものだろう。せめて、特別に思っているということを形で示すくらいのことはしてもいいんじゃないか?》

《……わかった。ちなみに……いや、そうだな。お前は自分で考えるべきだ、と言うだろうな》

《あぁ。だが、安心しろ。ていとくん曰く、俺は最終的に何とかなる星の下に生まれてきているらしい》

《俺も帝斗から言われたことがある。なら安心だな》

《ふっ、そうだな。武運を祈る》

 

 まさか、もう一人の自分であるエミに発破をかけられるとは。でも、そうだな。あと三年で俺も三十になる。これ以上待たせてしまっては、男が廃るというものだろう。あと、時間をかけてしまえばマリーが一転攻勢に出る可能性もある。その前に城を築かねばならん。

 特別に思っているということを形で示す。言葉にすると簡単だが、どうしようかというのが難しい。他の人とは違う贈り物をする、それこそ何か意味を持ったお菓子を贈るというのもありだろう。だが、それはよく考えれば手抜きなような気もする。それに発生する労力は贈り物を選ぶだけ……それでも透華は嬉しいと言ってくれるだろうが、与えて続けてくれたものへの対価としては相応しくない。

 

 であれば、贈り物だけではない何かで、特別であるということを伝える必要がある。

 

「帝斗」

「ん?」

 

 ソファに座ってパソコンとにらめっこしている帝斗に声をかけると、帝斗が俺の方を見てくれる。それから、意外とでも言いたげに目を丸くした。こ、こいつ、俺の表情を見て俺が何を言おうとしたのかを読み取ったのか? ……まぁ、別にいつも通りか。

 

「びびった。エミから何か言われたのか?」

「びびるのは俺の方だ。毎度毎度、俺が何も言っていないのに察しおって」

「まぁなぁ。流石に今回はよりわかりやすかったぜ? 覚悟決まった顔してたからよ」

「あぁ、覚悟を決めた。帝斗、ホワイトデーのことなんだが、満を預かってくれないか?」

「おっけー。まぁ多分満ちゃんのことだから霊体になってついてくだろうけど、そこはなんとか言っとくわ」

「助かる」

 

 よし、あとはどこに出かけるか、だな。エンターテイメント系の施設は……あまりにもエンターテイメントすぎていなければ大丈夫だろう。エンターテイメントすぎると、見覚えのある誰かが登場しそうだからな。別に嫌というわけではないが、前も出かけた時に遭遇したから、透華に「あぁ、やっぱり先輩と出かけたらこうなるんだ」と思われたくない。もしかしたら出かけるのがトラウマになるかもしれない。俺は悪くない……のに、と思ったが、俺が悪い気もする。俺がそういう人ばかりと関りがあるからかもしれない。

 

 出かける先、出かける先……ん? 待てよ? そういえば、俺の力を最大限に活かせるテーマパークがあったな。チケットが取れるかどうかだが、企業の力でなんとか……いや、それでは誠意に欠ける。俺個人としてちゃんと取るべきだろう。

 

 そうと決まれば、まずは贈り物だ!!

 

「帝斗! 少し出かけてくる!」

「ん。あと、ほんとはダメだけど透華には都さんと佐藤がコラボ予定だって伝えてあるから、変に隠そうとしなくていいぜ」

「有能すぎる」

 

 俺がそれを知らなかったら、うっかり漏らして変な空気になって、帝斗がキャッチボールの準備をしていたに違いない。どこまで有能なんだ、この男。

 

「基本的にお前の失敗は大好物だけど、透華関連はあんまり笑えねぇからな。頑張れよ」

「お前が親友でよかった」

「ありがとな。俺もいつも思ってるぜ」

 

 ……お前、俺を攻略しようとしているのか!?

 

 

 

 

 

 ……佐藤さんが、覚悟を決めてる!?

 

「満、どうかした?」

「んーん! なんでもない!」

 

 隣にいる透華に気づかれないようにどきどきを取り繕って、佐藤さんの思考の読み取りに集中する。まさか、佐藤さんが覚悟を決めるなんて……。もしかして、別世界の自分と入れ替わって、透華と結婚した自分のことをより知ったからとか? 確か、佐藤さんはエミさんと脳内で話せるようになったって言ってたし、そこで何か言われたのかも。どっちにしろ、やっと大好きな二人がくっつきそうな予感……。

 でも、なんとなくまた失敗しそうな気もする。いやでも、今までこんな風に覚悟を決めることなんてなかったし、佐藤さんはやるときはやるから、もしかしたらもしかするかも……。

 

 違う。佐藤さんが失敗するのをただ待つんじゃなくて、失敗する可能性を少しでも減らさないと。私の役目は佐藤さんのフォローだから。それに、佐藤さんと私は一心同体だし。

 

「透華。ホワイトデーの日、私が西園寺さん引っ張ってどっか行こうか?」

「えっ、な、なんで」

「なんでってことないでしょ」

「なんでってことも、ないけど……」

 

 はぁ? かわいい。佐藤さんはどうかしてる。こんなちょっとつついただけで顔赤くしてもじもじする可愛い透華から好きって言って……言ってはないけど、丸わかりな好意向けられて何年もそのままにしてたなんて本当に信じられない。私が男だったらもうゴールインしてるのに。あと生きてたら。

 佐藤さんはカッコいいしやるときはやるし頭もいいし、優しいし面白いからちゃんとすればモテるだろうけど、ちゃんとしてないから相手が透華くらいしかいない……真理さんもいるけど、それはそれとして。透華くらいしかいないのに、童貞だからとか色んな弱気になる理由を探して縮こまってバカみたい。

 でも、透華もちょっとだけ悪いと思う。佐藤さんがあんなのだってわかってるはずだから、透華が押した方がいいってずっと思ってた。二人の問題だから言ったことはないけど……ただ、佐藤さんが覚悟を決めたのなら、言った方がいい。

 

「ね、透華。そろそろさ、佐藤さんにちゃんとアタックしないとだよ」

「あたっく」

「そう! 佐藤さんってコミュ障で社会的信頼がなかったからモテてこなかっただけじゃん? でも、今はそんなことなくなってきてるから、これからどんどん佐藤さんのことが好きって人が出てきてもおかしくないし」

「確かに……」

「だからさ、ホワイトデーさ! おねだりしてみたら? どこか連れてって、って」

「でも、他に予定があったりとか……それこそ配信とか、事務所のイベントとか」

「ちょっとくらいわがまま言ってもいいんだよ。それを優先してくれるくらい佐藤さんにとって透華は大事な人なんだし、むしろ喜ぶんじゃないかな? 能動的な行動苦手だから」

 

 佐藤さんは自分から透華のことを誘おうとしてるし、なんならプランもあるみたいだけど、「ほ、本当にこれでいいのか……?」って絶対不安になる。だから、透華から佐藤さんにおねだりすれば、佐藤さんは「それでいいんだ!」って安心する。まったく、ダメ男め。私がいなかったらどうなってたか。多分西園寺さんがどうにかしただろうけど。

 

 透華はむむむ、と考え込むように俯いて、「言って、みる」と可愛くぽそりと呟いた。普通に私がホワイトデーにデートしたくなった。

 

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