稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

147 / 226
第145話 ホワイトデー (1)

 ホワイトデー、天気は晴れ。暖かかったり寒かったりする変な気温も今日は当たりで、暖かく過ごしやすい。

 

「うおっ、お前たち! 今日は大事な日で……わかった! また今度遊びに来る! それでどうだ!」

 

 視界の先では、先輩が多分幽霊の子たちにちょっかいをかけられて、申し訳なさそうに私をちらちら見ている。それに「大丈夫っスよ」と伝わるように笑って手をひらひら振れば、「あー! UFOだ!」と言って空を指して、先輩が駆け寄ってきた。

 

「ふぅ、間一髪だった。やはり子どもだな。UFOを信じるとは」

「ふふ、そうっスね」

 

 多分、「騙されたってことにしておこうぜ」って気を遣われてる気がする。私には幽霊が見えないからどれくらいの年齢の子たちかはわからないけど、流石にUFOを信じるってことはないと思うから。……むしろ私なら信じちゃうかもしれない。並行世界とか、それこそ先輩だって幽霊が見えるし、超常的な現象とか存在とかは信じやすいようになってるから。

 

「到着早々すまなかったな。よし、行くぞ!」

「はい」

 

 西園寺さんに手伝ってもらったのか、珍しくセットした髪を気にしながら園内へ踏み出した先輩の少し後ろをついていく。正直、カッコいいなって思ったけど、それを先輩に伝えたらもしかしたらぐちゃぐちゃになっちゃうかもしれないから伝えないでおいた。それに、先輩もちゃんとオシャレしてきた私にかわいいとか言ってくれなかったからお相子だ。まぁ、「と、透華っ、そ、そのっ……かっ、カイワレ大根についてどう思う?」って、恥ずかしいからか「かわいい」が「カイワレ大根」になっちゃってたけど、言おうとはしてくれたから十分だ。「うまく育てたらしっかり大根になるらしいっスよ」って言ったら「なにっ!? そうなのか!?」って大げさにびっくりしてたのが可愛かったし。

 

 私たちが今日きたのは『FAKE LAND』。いつだったか、先輩が案件を受けた遊園地で、他にはない『幽霊OK証』っていう、携帯すると園内にいる間は幽霊にちょっかいをかけられる、多分全国どころか全世界で唯一のおもしろいシステムがある。それを考案したのが先輩で、さっき支配人っぽい人が挨拶しにきてくれていた。もちろん先輩はそんなことに慣れてないから、「い、いやっ、俺のおかげなどではなく、そもそも遊園地として楽しいからお客さんがくるわけであって」って腰を引きながら謙遜していた。それが先輩のいいところでもあるけど、もうちょっと大きな顔してもいいのにな、とちょっと思う。

 

「さて、まずは何から乗る? 好きなのでいいぞ!」

「先輩は何か乗りたいのないんスか?」

「俺は前に来たことがあるからな。遠慮はいらん。俺は何でも乗れる」

 

 そういうことなら、と園内を眺める。目につくのはカラフルなゴンドラが明るいストライプ模様のテント型になってる大きい観覧車……だけど、最初に観覧車は流石に違う。……期待、してるのも恥ずかしいけど、何かあるとしたら、先輩なら絶対「さっ、最後に観覧車だ!!」って言ってくれるはずだし。

 次は、ここからだと全体像がはっきり見えないけど、迷路みたいになっているアスレチック。ファンタジーの世界に出てくるような大きい樹の見た目のてっぺんからは渦を巻く滑り台があって、運動が好きだからあれに行きたいなーと思いながら先輩を見る。

 

「どうした?」

「んー……」

 

 先輩は運動が苦手、っていうのもあるけど、遊園地にきてアトラクションやりたがるのって可愛くないかな、っていうのも……先輩がそんなこと思わないってわかってはいても気にしてしまう。先輩と出かけるから何があるかわからないと思って動きやすい服装ではあるけど、やっぱり可愛いって思われたいし……。

 そんな風に悩んでいたら、先輩が私の手を掴んだ。先輩から私に触れるなんて天変地異の前触れかと思ってびっくりして先輩を見たら、いかにも「今からキメます」と丸わかりな表情多分西園寺さんだったらお腹抱えてのたうち回ってるようなわかりやすさも、惚れた弱みかカッコいいって思ってしまう。

 

「そういえば、俺は前回行けていないアトラクション、いや、施設があってだな」

「……はい」

「あそこの超巨大なアスレチックだ! 悪いが、全制覇していないのは俺のポリシーに反する。付き合ってくれ!」

「先輩、アスレチックっスよ? 大丈夫っスか?」

「大丈夫だ。なにしろ、俺は数々の死線を潜り抜けるポテンシャルがあるということが証明されているからな!」

 

 それは先輩が大丈夫であることの理由にはならないけど……。でも、私が行きたいところを理解して、行きやすいようにしてくれたのを無下にする意味もない。「じゃあ、競争しません?」とうきうきしながら提案したら、「いや、競争は危ない。安全に楽しもう」と真面目に返された。この先輩、モラルがしっかりしてる。

 

 

 

 

 

 結局全然運動できなくてボロボロでダメだった先輩は、「す、すまん、ちょっと休憩させてくれ……」とベンチに寝そべり、「よし、復活した!」と立ち上がって、まだ復活しきっていなかったのかすぐにこけて、それを誤魔化そうとしたのか「次はあれに乗るぞ!」と倒れながら叫んだ。身長制限に引っかかってジェットコースターに乗れない子どもが「やだ! 乗りたい乗りたい!」って駄々こねてるみたいでかわいかった。

 

 「この前きたときは俺の馬が一番速かったんだ」とそんなわけがないことを言いながらメリーゴーランドに乗ろうと言われて、この歳になってメリーゴーランドは恥ずかしいかな、と思ったけど、乗ってみたら先輩が大はしゃぎしてて、楽しくてかわいかった。

 「少しは男らしいところを見せねばならん」と先輩が意気込んで、ホラーハウスに入った。多分幽霊が大勢押し寄せてきてホラーハウスどころじゃないんだろうな、と思ってたら、案の定「幽霊まみれで前が見えん! 助けてくれ!」と先輩が助けを求めてきた。「入場前に今日は構ってやれないと言ったから、ここなら合法的に遊べるということだったらしい」って先輩がやれやれみたいな感じで言ってたけど、そうまでして幽霊が遊びたいって思える先輩にちょっと誇らしくなった。

 先輩が疲れてそうだったからちょっと休憩したいと提案したら、「俺は全然大丈夫だが、仕方がないな!」って、本当にさっき私に気を遣ってくれた人と同じ人なのかなと疑問に思っちゃうくらい先輩が強がってきた。休憩しにフードコートに行ったら先輩が走り回ってた男の子とぶつかって、「俺が強い男だったからよかったものの、君より小さい子とぶつかったら怪我をさせてしまうだろう?」って優しく注意したのに、「僕も悪かったけど、そんな細いのに強いとか嘘ついちゃだめだよ」って言われてて、先輩も「す、すまん」って謝ってて笑っちゃった。

 

 食べた後すぐに絶叫系はやめておこうということになって、フードコートの近くにあった射的をやった。「風は……西の方向か」って先輩がカッコつけながら見事に外して、ポケットティッシュをもらっていた。ちなみに風は吹いてなかった。あと私は普通に当てた。当ててから「あ、しまった。これだと先輩がカッコつかない」って失敗しちゃったと思ったけど、先輩は「流石透華だ!」って大喜びしてた。かわいかった。

 射的で取れたピンクの生地で、紫の継ぎ接ぎのあるくまのぬいぐるみを「すまんな、お前は一緒に連れてはいけない。また迎えに来る」と言いながら先輩がロッカーに預けて、ジェットコースターに乗った。まだお腹の中に物が入ってるからどうかなと思ったけど、先輩が乗りたそうにしてたのがかわいくて私から提案すると、「そっ、そうか! 透華が平気なら乗ろう!」って目を輝かせて私の手を引いてくれた。ジェットコースターに乗ってる時に何か話しかけてきて、「すみません、もうちょっと声上げてください!」って言ったら高音になって返ってきた。笑いすぎてそういうことじゃないって返す余裕も、結局何を言っていたのかを聞く余裕もないままジェットコースターが終わって、改めて何て言ってたのか聞いたら、楽しいなって言ってたらしくて、高音の楽しいなを想像したらまた面白くなってしばらく笑ってた。

 一人乗りの急流すべりで、最後下るところで大声を出してその日の一番の大声を決めるアトラクションがあって、勝負をしようってことになった。先攻が先輩で、大声を出す場所で待ってると、声がかすれた先輩がほぼ無音で下ってきた。話を聞くと、ずっと大声を出してなきゃいけないと思って叫びっぱなしだったらしい。もちろん勝った。

 

「時間的に次が最後くらいっスね」

「そ、そうだな」

 

 日が落ち込んで、園内がライトアップされる時間帯。子どもが「もうちょっと!」って駄々をこねて、お父さんとお母さん仕方ないなと笑っているのを、ロッカーからぬいぐるみを取り出しながら、先輩が微笑ましそうに見ている。そんな先輩にどきっとして、恥ずかしくなって目を逸らした。今日ずっとかわいかったのに、そんな優しい顔できるなんてずるい。

 ……さっきなんか緊張してそうだったし、期待して、いいのかな。色々バッチリ準備はしてきたつもりだけど、いざそれが目の前に迫っていると思うと緊張する。で、でも、私が期待しすぎてるだけかも。先輩は先輩だし、何もないかもしれないし……何もないってこと、ないか。あの先輩がデートに誘ってくれたんだから、何かある、と思う。これで本当に私の期待しすぎだったらすごく恥ずかしい。

 

 けど、満から言われたから。私はわがままを言ってもいいんだって。

 

「せんぱい」

「なっなな、ななななんだ、透華」

 

 緊張して声がかすれて、舌も回らなかった。なんか甘えた感じになっちゃって先輩がめちゃくちゃ慌ててる。ごめんなさい、そんなつもりじゃなかった……わけでも、ないけど。

 大げさに見えないように、細く息を吸って、吐いて、小さく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。きっと、これを言えば「期待してます」って言われてるって先輩は受け取るはず。

 

「観覧車、乗りませんか」

「……あぁ、行こう」

 

 先輩は、私の目を見て頷いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。