稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第13話 コラボ(一ノ瀬 星菜)

『みなさんこんばんは! 笑顔輝く一等星! みんなを照らす見習いアイドルVTuberの一ノ瀬 星菜です! そして!』

「昏き闇に潜む漆黒の影。万物を睥睨する深淵。我が名はミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコ! よろしくお願いいたします」

《隠しきれない人の好さが出たね……》

 

噂の新人さんだ

ニコのところからお邪魔します

この二人が並んでると、アイドルと厄介ファンにしか見えない

何言ってるかわかんなかったけど、いい人そう

 

 コラボ当日。チャンネルは一ノ瀬さんのチャンネル。配信画面には俺の隣に、黒髪ふんわりボブの、星の髪飾りが可愛い一ノ瀬さんがいる。星の装飾が散りばめられた、真っ白なフリフリのアイドル衣装を着ている一ノ瀬さんと、長い黒髪に眼帯の俺。俺が警察だったら、まず話を聞くだろう。

 

『掴みは上々みたいですね! ていうかその挨拶、もしかして今日のために考えてくれたんですか!』

「うぁ……」

 

もうコミュ障かよ

挨拶し始めた時はいけるかなって思ったのに

あまりにもポンコツ

ニコ、俺恥ずかしいよ

 

『あ、ごめんなさい! いきなりびゃーって聞いちゃって! ニコさんとコラボできたのが嬉しくて……』

「《ごめんなさい。ニコさん、信じられないくらいコミュ障でどうしようもなく社会不適合者なので……。ついでに自己紹介します! ニコさんに憑りついてる幽霊の満です!》」

『満ちゃんだ! 満ちゃんともお話したかったの!』

「《ありがとうございます! でも、このままお話するとニコさんが黙っちゃうので、基本的には控えておきますね!》」

 

 クソ、返答に困っただけでこの仕打ち……! でも仕方ないだろう、恥ずかしかったんだ。今日のために考えてくれたんですか、というのはその通りだったから。

 コラボするなら事前に相手のことを知っておかないとと思って一ノ瀬さんの配信を見ると、毎回気合いを入れた挨拶をしていた。であれば、俺がいつもの挨拶をすれば一ノ瀬さんが浮いてしまう。相手のチャンネルにお邪魔するのであれば、相手の流儀に合わせるのが礼儀というものだ。

 

 そう考えた俺は、一週間挨拶だけを考え続け、他のことは一切考えていない。つまりマカロン以外に話題がない。終わった。

 

あれ、今ニコさんが喋ってなかった?

二重人格?

確か、憑りついてる幽霊の子の言葉を、ボイスチェンジャーで乗せてるんだっけ

 

『そうだよ! 数年前からずっと一緒らしくて。ニコさん、満ちゃんのことを相棒って言ったり、AI診断で満ちゃんが悪く言われただけなのに本気で怒ったり、満ちゃんの声をみんなに届けられることをすっごく嬉しがったり。満ちゃんのことを大事にしてて、絆! って感じがするんだー』

「? そりゃあ大事ですからね」

《えへへー。ありがと!》

『ほら!』

 

この男、優しさだけはいつも出てくるな

ニコに限って演技ってことはないだろうしな

幽霊ってほんとにいるの?

 

 《なんでお礼言ったのに声乗せてくれないの!》と文句を言ってくる満を無視する。恥ずかしいだろうが。それに満は家族も同然。大事にするのは当たり前のことだ。今更お礼を言われるようなことでもない。

 しかし、一ノ瀬さんのチャンネルだからか、幽霊に半信半疑のコメントもちらほら見かける。一ノ瀬さんがいい人だからか、それに合わせて視聴者の方もいい人なのか、ほとんどは受け入れてくれているが……。

 

『というわけで、今日は仲良しになるのを目的に、三人でお話しましょう!』

「あっ、はい」

「《お願いしまーす!》」

『まずはお互いのことを知りたいなーと思いまして! お互いのリスナーさんも見に来てくれていることですし、パーソナルな部分を掘っていきましょう!』

「ちょっ、パーソナルな部分!? 女の子がそんなこと言っちゃいけませんよ!」

「《ニコさん、果てしなくキモい。そういうことじゃないから》」

 

今日もキモくて安心した

いつものニコだ

おかえり

これがいつものなんだ……

 

 いや、そういうことなんじゃないか? 26歳の男が女子高生にパーソナルなことを聞くなんてセクハラだろう。「今日何食べた?」とかも、『女子高生の食べたものを把握し、同じものを食べて同じ栄養分を摂取しようとする変態』だと思われるし、「好きな作品は?」とかも、『好きな作品を聞くように見せかけて、”好き”というワードを女子高生から引き出そうとする変態』だと思われる。

 

 クソっ、まさか出だしから躓くなんて!

 

『大丈夫ですよ! ニコさんがいい人だって知ってますし、dicecodeでのやりとりも、さっきだって年下の私に対して敬語遣ってくれますし、変な捉え方できちゃうような言葉でも、そういうつもりで言ったんじゃないってわかりますから!』

「い、いい人だと判断する基準が甘すぎますよ! 俺からすれば一ノ瀬さんは先輩ですし、そもそも今日はお招きいただいている立場なんですから、失礼があってはいけないでしょう!」

『ほら!』

 

男とコラボするって聞いてちょっとなぁって思ってたけど

いい人だ

無害そう

 

 まったく、若い女の子なんだからもう少し警戒心を持った方がいいだろう。せっかくここまで言ってくれたから、それを無下にするわけにはいかないしパーソナルな部分とやらを掘って……。

 

「満。頼んだ」

「《もー、仕方ないなぁ》」

『満ちゃん、頼ってもらえるの嬉しそうだね?』

「《嬉しいです! ニコさんからはいっつももらってばかりなので!》」

「俺は満が隣にいてくれるだけでもいい。だからお互い様だな」

『もう掘らなくていい気がしてきましたね! ほんと可愛いこの二人』

 

星菜ちゃんからコラボ持ち掛けたって聞いたけど、そういうことか

多分ファンだ、この子

もう掘らなくていい気がしてきましたね!(アイドル) ほんと可愛いこの二人(オタク)

マジ無理……って続きそうなトーンだった

 

『んんっ、さぁ! 私への質問をどうぞ!』

「《えーっと、好きなタイプは?》」

『頼りになってたくましくて面白い人!』

「《ニコさん、残念だったね》」

「あぁ、俺は面白くないからな」

「《むしろ”面白い”しか当てはまってないよ》」

 

このままで生きてこられたんだから、たくましくもあるんじゃ?

こんな面白い生物はいないから、配信という点では頼りにもなる

つまり……?

 

「あまり人の気持ちを勝手に推測してつなげるものじゃありませんよ。一ノ瀬さんの気持ちは一ノ瀬さんのものなんですから。可愛く元気な彼女の相手を立てて盛り上がりたい、もしくは妬ましいと思う気持ちもわかりますが、それは彼女に見えないところでやりましょう」

『あと、優しい人かなぁ』

「もしかして俺のことを燃やそうとしてます?」

『火は持ってませんし、実際には今離れてますよ?』

「物理的な話はしてないんですよ」

 

 面白がって一ノ瀬さんの好きなタイプと俺をつなげようとしていたのを見て注意すると、他でもない一ノ瀬さんが追撃をしかけた。いや、気にしないならいいんですが、俺を炎上させようとするのやめませんか? 俺が炎上したら、帝斗と透華が全力で火消しにかかって、二人の自由な時間が少なくなってしまうので。

 

『ふふっ、ごめんなさい。ニコさんは安全だってわかってるから、ついからかいたくなっちゃうんです』

「慣れてるのでいいですよ」

『えっ、結構女性からからかわれたりするんですか?』

「《一ノ瀬さん。今のはおもちゃにされることに慣れてるってことです》」

『ニコさん、楽しい人だもんね!』

 

普通は悲しい気がする

いつもいじられてるところしか見てない

ニコの配信のコメント欄は、その容疑者の集まりだしな

 

 おもちゃにされることは悪いことじゃないと思っている。それは帝斗と透華が「いじられは天性で、狙ってできるものじゃない」と言っていたからだ。もちろん言われる前からそう思っていた。思っていたが、あの二人が言うなら間違いないということだ。

 

 しかし、ノータイムで『おもちゃにされる』を『楽しい人』と表現してくれるとは。対応力も高そうに見える。ニッコリ探偵団の一つ前にデビューしたのにも関わらずこの対応力。もしや一ノ瀬さん、コミュ強か?

 

「《ていうか、そうだ! なんでコラボ誘ってくれたんですか?》」

『……実は、相談がありまして』

「相談?」

 

 普通の相談ならdicecodeでいいし、俺じゃなくてもいい。ということは俺にしかできないこと……オカルト関連しか思い浮かばないぞ。なんで俺はこんなになにもできないんだ?

 

『前に、リスナーさんとのゲーム勝負をやったんですよ』

「あぁ、負けたらホラーゲームをやると言って、負けてしまったやつですね」

『え! 見てくれてたんですか!』

「はい。コラボするのであれば相手のことは知るべきだと、一ノ瀬さんの配信はすべて見ました」

「《ちなみにほんとですよ。むしろキモいからやめた方がいいって言ったんですけど……》」

 

嘘でしょ?

コラボ告知あってから一週間くらいしかなかったぞ

普段お仕事してるんですか?

ニコは仕事ないぞ

なくても星菜ちゃんの配信全部見るのは時間足りないだろ

 

 なんとか足りた。俺は幼い頃から幽霊が見えていて、その声も聞こえていたからか、多方面からの言葉を脳で処理する必要があった。それで身に着けたのが聖徳太子のような、複数の意味の異なる言葉を同時に聞いて理解するスキルだ。とはいってもせいぜい同時に視聴できるのは3つ4つくらいだったが、学生ということもあって配信頻度は少なく、すべてみるのはそれほど時間はかからなかった。

 

『えー、嬉しい! ねーねー、どの配信が一番好きだったとか聞いてもいいですかっ?』

「歌ですかね。デビュー当時からアイドルを名乗っていましたが、みんなに聴かせられるレベルじゃないからと封印してきて、30万人記念配信で披露した。我々VTuberは表情で何かをお届けすることが難しい。だからこそ、歌というのはシンプルなうまさ、表現力で勝負するしかないのですが、一ノ瀬さんの歌は聴くだけで一ノ瀬さんの踊る姿が、表情すら目に浮かんだ。気づけば体が揺れていて、脳が楽しいと感じていた。早く3Dでみたいなと思わせていただけた、すばらしい配信でしたね」

『あ、ありがとうございます……』

 

最高評価のレビューみたいなコメントだな

これが『パーソナルな部分』に対して「女の子がそんなこといっちゃいけません!」って言ってたやつなのか?

星菜ちゃん照れてる

かわいい

ニコはキモい

これで照れてくれる純粋さがあってよかった

 

 いやぁ、あれはよかった。早く3Dになれと心から思った。歌だけであれほど元気をもらえたんだ、そこに動きまでついてくれば向かうところ敵なしだろう。バラエティ要員が多数属する『project:eden』の貴重なアイドル枠なんだから、もっと優遇してもいい。

 

『え、えっと、それで、ですね……ちょっとまってさっきのが嬉しすぎるし恥ずかしい! 時間ください!』

「《一ノ瀬さん可愛い》」

『うー、ありがとう満ちゃん。ニコさんまっすぐすぎるよ……』

「俺は自分の道はまっすぐ曲げないと決めていますから」

「《忍道の話してる?》」

 

 俺があんなにみんなから好かれる主人公体質だと思うか? だったらなんで最近まで帝斗と透華しか友人がいなかったんだ?

 

『よしっ、もう大丈夫です! それで、相談なんですけど……一緒にホラゲーやってくれませんか!』

「えっ」

『だめ、ですか……?』

 

 どうしよう、正直言うと断りたい。今日も勝手に口から音が出ているだけで、ほとんど考えて喋っていない。やはり俺にはまだコラボはハードルが高かったんだ。だというのに次のコラボのお誘い。しかもホラゲー。無意識のうちに「こんな幽霊いませんよ。それにこんな形で出てこないですし、いるとしたらあのあたりですね」とか聞かれてもいないのに幽霊知識を披露して嫌われそうだし。

 

「いいですよ、やりましょう!」

『やった! ありがとうございます!』

 

 でも、一ノ瀬さんの悲しそうな声を聞いて口が勝手に動いていた。ま、まぁ、一ノ瀬さんは今日コラボしたし、次は初対面というわけでもないし……。

 

『お姉ちゃんも見守りできてくれるので、よろしくお願いします!』

「え」

 

 衝撃発言をした一ノ瀬さん。驚愕する俺。笑い転げる満。お前、あとで覚えておけよ。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part4

 

743:このライバーがすごい! ID:jgmOtCBbG

優姫ちゃん「ニコが私とアザミ以外の子とコラボしてる……」

 

744:このライバーがすごい! ID:sjZMQ8AGv

アザミん「何? 月宮優姫が嫉妬している? 詳しく教えろ」

 

745:このライバーがすごい! ID:s9XjAGstF

>>744

いじるネタを手に入れようとしてて草

 

746:このライバーがすごい! ID:KH9YpvCmx

優姫ちゃんのは嫉妬じゃなくて心配じゃないか?

 

747:このライバーがすごい! ID:FDPFeTUHC

最初は危なかったけど、案外なんとかなったな

 

748:このライバーがすごい! ID:G24GBl4gK

俺気づいたんだ

ニコを喋らせるには、無意識に出るいい子な部分を引き出して、そこから乗せなきゃいけないって

 

749:このライバーがすごい! ID:d2ISQLN+t

星菜ちゃん、ニコがまっすぐすぎてめちゃくちゃ褒められて、かなり照れてて可愛かった

 

750:このライバーがすごい! ID:4YqUHNvmJ

星菜ちゃんに近づく男ふざけんなって思ってたけど、ニコが無害すぎて安心したわ

 

751:このライバーがすごい! ID:rFhMvdnN3

どっかの板で、アイドル売りしてんのに男とコラボすんなっての見かけたけど、大丈夫か?

 

752:このライバーがすごい! ID:kWrxwEOR3

>>751

「なんだ、男じゃなくてニコっていう生き物か」っていう結論で落ち着いてたぞ

 

753:このライバーがすごい! ID:TvAQdN6jz

 

754:このライバーがすごい! ID:4LEyshtJb

流石ニコ

 

755:このライバーがすごい! ID:6fMG9mWne

なんか、男っていうかなんていうか、キャラクター感強いんだよな、ニコ

 

756:このライバーがすごい! ID:RiSQStpD4

彼女がアニメの男キャラが好きでも嫉妬しないだろみたいなことか

 

757:このライバーがすごい! ID:C21GCvvEu

>>756

いったい何の話をしてるんだ?

 

758:このライバーがすごい! ID:3p6YMFB8E

>>756

ソースは?

 

759:このライバーがすごい! ID:2NpO/juqq

>>756

共感できない例えはやめろ

 

760:このライバーがすごい! ID:kV8YpdPj5

彼女できなくてこじらせすぎだろ

 

761:このライバーがすごい! ID:FzJrmX7uE

メタな話だけど、ニコってリアルだよな

作った設定に思えないっていうか

 

762:このライバーがすごい! ID:TniC1sOOj

VTuberが設定をまっとうしてるの見たことないしな

 

763:このライバーがすごい! ID:hAFxIqVDj

野暮な話はやめよう

 

764:このライバーがすごい! ID:VIgErZokV

そうだ

次回のニコがどうやら大ピンチらしい話でもしよう

 

765:このライバーがすごい! ID:TQv/qD4Mt

明星姉妹とホラゲーコラボか

 

766:このライバーがすごい! ID:8f0eqyW1U

オカルト専門家として見守ったり解説したりしてほしいって言ってたな

 

767:このライバーがすごい! ID:u29ffI8zT

(あかり)の姉御とはうまくやれるんだろうか……

 

768:このライバーがすごい! ID:kdkG76pys

ニコならなんとかなる

 

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