稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第148話 つまりそういうことか?

「優姫、そう気を落とすな……」

「気遣ってくれてるところ悪いけど、おめでとう以外の感情ないわよ」

 

 月宮さんとアザミに婚約したことを報告したら、アザミがいつも通り月宮さんをいじり始めた。いつもあんまり表情が動かないのに、こういう時は気遣ってる表情ができるから、実は演技がかなりうまいんだと思う。あざとい行動とかするし、人間の心理に精通しているのか?

 月宮さんは肩に乗せられたアザミの手を優しく払いのけて腕を組む。腕を組んだ瞬間「腕を組むというのは人間の心理的に本心を隠しているとされている。もしかしてそういうことか?」とアザミにいじられて、月宮さんに軽くデコピンされていた。

 

「それにしても、あんたが結婚ねぇ。いつかするとは思ってたけど、案外早かったわね」

「なにっ、いつかすると思っていたのか?」

「何分、羽崎透華に相談されていたものでな。あとはお前の勇気の問題ではあったが、別世界に行ったことがいいきっかけになったか」

「え、透華二人に相談してたの!? 私ほとんどしてもらったことないのに!」

「満ちゃん大体ニコの隣にいるから仕方ないわよ」

 

 満は親友である透華が自分に相談してくれていないことが不満だったのか、頬を膨らませている。とはいっても相談していないわけではないだろうし、実際透華の相談相手は満が一番多そうな気もするが、満は案外子どものようで大人で、大人のようで子どもだから、自分だけに相談してほしいなんて思っているんだろう。他の相手ならそんなことは思わないだろうが、透華は親友だからな。ちなみに、俺は親友である帝斗が俺以外に相談していても、まぁそうだろうなとしか思わない。俺に思いつくことであれば、帝斗なら既に思いついているだろうからな。

 

「発表はするの? あんたなら隠す意味もないと思うけど」

「今のところ、一周年のタイミングで考えている」

「『ゆーとぴあ』の都優里奈とコラボする前でもいいな。既婚者ということであれば、向こうの厄介な視聴者もある程度は黙らせることができそうだ」

「待て、なぜそれを知っている?」

 

 俺の情報はすぐに洩れるようになっているのか? 別に隠すようなことでもないからいいが、プライバシーという概念は『project:eden』にはないのか? ないか。『project:eden』だしな。それに、アザミは運営にも関わっているから、知っていたとしてもおかしくない。月宮さんに関しては「へぇ、『ゆーとぴあ』と」って今知ったような反応をしているから、今回はアザミが運営に関わっているから知っていた、といったところだろう。

 

「とはいっても、コラボの時期がまだ確定していないからな。今、帝斗が色々調整してくれているが」

「流石にもう初対面の女性相手に童貞丸出しなことはないでしょうし、心配はしてないけど。何かあったら相談乗るから」

「では、優姫に対するニコ大好きいじりは、ニコが婚約するとなるとよりタチが悪くなる。続けるべきかやめるべきか」

「私はずっとやめてほしいと思ってたけど……」

「すまん。あまりにもウケがよくて」

「でも、もう不倫みたいな感じになっちゃうもんね。透華はいいって言うだろうけど」

「透華がいいと言うのと、やっていいかはまた別の話だからな。本来であればあまり好ましい話ではない」

 

 それはそれとして、マリーは別れ際に「まぁ婚約するとか結婚するとか関係なく大好きだから、普通に続けるね。透華には許可取ってるから」とピースしながら言ってきたが……。ただ、マリーは『激重』という一種のネタとして扱われているから大丈夫だとは思うが、月宮さんとなると……その、俺自身が触れたくはないが、一部そういう創作……そういう、というのは、えっと、つまりだな。

 

「だが惜しいな。ニコと優姫のカップリングは人気だったからな……」

「ほんと、物好きよね。正直キモすぎて存在は知ってても見たことはないけど」

「本当に正直だな」

「まぁ仕方ないよ」

「おい、どういう意味だ満」

 

 キモすぎるということに同意した満は、「好きでもない人とカップリングさせられて、それで盛り上がられてるんだよ?」と正論で返してきた。なんだ、そっちか。俺がキモすぎるという話かと思った。

 そう、カップリング。VTuberとは二次元的なキャラクター。だからこそアニメや漫画などのキャラのように、VTuber同士のカップリングで盛り上がる界隈が存在する。その中で、どうやら俺と月宮さんのカップリングが人気らしく……。アザミが言っているのは、その層を手放すのは惜しい、ということだろう。実際はアザミが普通にいじり続けたいだけだろうが。というかアザミが生み出したといっても過言ではないし。

 

「まぁ確かに、倫理的に問題だというのはわかる。今までのようないじりをするのはやめておこう」

「あんたどうせ、ニコの結婚とか奥さんとかそういう話題が出たら、『優姫、大丈夫か?』とか言うつもりでしょ」

「うん!」

「元気に返事してんじゃないわよ。あんたのせいで私の配信のコメント欄にあんたみたいなのが何人かいるんだからね? 『昨日、ニコが配信で優姫ちゃんの話を何回かしてたが、つまりそういうことか?』とか。スルーしたら『スルーするっていうことは、つまりそういうことか?』って言ってくるし! どんだけつまりそういうことにしたいのよあいつら!」

「ニコ、どうなんだ」

「俺に男としての責任を問うような聞き方をしているが、完全にアザミのまいた種だからな? とはいえ、月宮さんが絶対に嫌というのならなんとかしたいが」

「別に、絶対に嫌ってわけじゃないけど」

「絶対に嫌じゃないということは、つまりそういうことか?」

「ぶっ飛ばすわよあんた」

 

 アザミが舌をちろりと出して「ごめんなさーい」。かわいい。

 

 月宮さんの配信にそういう輩がいるのは事実だ。一度、俺の配信で「そういうコメントを月宮さんの配信でやっているやつがいるのなら、ほどほどにしておけよ」と釘を刺しておいたが……。だって申し訳ないだろう。俺のようなやつのことが好きだといじられるなど、不名誉以外の何者でも……ない、というのは透華とマリーに失礼か。好きでもないのに俺のようなやつのことが好きだといじられるなど、と言い換えよう。

 とはいえ、月宮さんは優しい。基本的にはどのようなコメントをしようと思想は自由だからと許してくれる。流石に倫理から大きく外れていれば注意はするだろうが、今回の場合はそんなでもないということだろう。あとはある程度打算的なところもあるから、本気で注意するとそういう層が離れていくと理解しているから、とかか。

 

「あ、そういえば相談があったんだ」

「なに?」

「帝斗が友人代表挨拶を今から考え始めていて、更にずっと嬉しそうで調子が狂う。どうしたらいい?」

「なんか、西園寺さんって友だちっていうよりもうニコの親みたいなマインドじゃない?」

「私はかわいいから別にいいんじゃない? って思うんだけど……」

「なんか、こう、居心地が悪いだろう。昨日の今日なのに結婚雑誌を山ほど買ってきたんだぞ?」

 

 満が言うようなかわいいという感覚もわからん。帝斗が浮かれすぎて逆に俺が落ち着いてしまっている。なのに帝斗と透華と満が盛り上がっている。婚約したのに早くも置いてかれている。寂しい。喜んでくれるのは素直に嬉しいが、喜びすぎだろうとも思う。もし俺に娘が生まれたら初恋泥棒になりそうで嫌だし。絶対死ぬほど可愛がってくれるからな、あいつ。間違えて俺ではなく帝斗がパパと呼ばれそうでもある。そうなったら号泣する。

 

「いい友だちだと思うわよ。どうこうする必要ないわよ」

「やはりそうか……。いやしかし」

「それこそエミに聞いてみればいいだろう。確か話せるんだったか」

「ん? 確かにそうか」

 

 エミと話せることを言ったっけ、と思ったが、俺が無意識のうちに伝えていたか、「佐藤がぼーっとしてたらエミと話してるから気にしないでください」みたいな感じで帝斗が伝えたかのどちらかだろう。俺が言っていないことが知られているのは大体それのどちらかか、不思議すぎるパワーでなぜか知られているかのどれかだ。

 

《エミ、少しいいか?》

《どうした?》

《透華へのプロポーズが成功したんだが、帝斗のテンションがおかしくなった。どうすればいい?》

《諦めろ》

 

 諦めろ。

 

《ずっと苦労をかけていたんだ。こういう時くらいの大はしゃぎは許してやれ》

《それもそうか……》

《ちなみに、結婚式とか子どもができた時とか、大体あいつが既に準備を終わらせている。気をつけろ》

《有能すぎるのも考え物だな》

《あぁ。自分の意思をしっかり持て。でなければ堕落したゴミになる》

《肝に銘じる。助かった》

 

 どうやら、エミも同じだったらしい。それに、結婚式も子どもができたときも、帝斗が準備を終わらせてしまうのか……。張り切りすぎだろうあいつ。大体、そういうのは自分でやるべきだと言ってアドバイスで収めるのに、どうやら行動を抑えられなかったらしい。嬉しいようなやめてくれと言いたいような……。念のため帰ったらちょっとだけ釘を刺しておくか。結婚雑誌を買ってくるといった片鱗もあることだしな。

 

「諦めろ、と言われた」

「経験者が言うならそうなんでしょ。幸せ者ね、あんた」

「感謝してもしきれんな。もちろん二人に対してもそうだが」

「であれば、一周年のコラボについて話し合おう。一緒に配信したい」

「アザミさんかわいい」

「別に、一周年という節目であるのに同期で配信しないというのは不自然だという理由で配信したいと言っただけであって、私個人として配信したいと言ったわけではない」

「そういう言い訳するの、ニコと似てるわね」

「訂正しよう。私がお前たちと配信したいからだ」

「それは、俺と似ているというのが嫌だという意味で受け取っていいか?」

「もちろんだ」

 

 こ、こいつ……!!

 

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