稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第150話 シゲキ的プラン

 エイプリルフール。4月1日はそのように呼ばれており、嘘をついてもいい日になっている。インターネット、特にSNSの発展によって嘘は午前中までというルールが広まったが、あれはイギリスの『オークアップルデー』の習慣がエイプリルフールと混同されて午前中までとなっているだけで、別に日本では一日中嘘をついてもいいらしい。

 

「クソッ! いい嘘が思いつかん!」

「別に嘘つく必要ないんじゃない?」

 

 しかし、一日中嘘をついていいのだとしても、いい嘘がまったく思いつかん!

 

 エイプリルフールとは、さっきも説明した通り嘘をついてもいい日だ。だからこそ、VTuberとしては視聴者に楽しんでもらえるような嘘をつく必要がある。『project:eden』もエイプリルフールにはSNSで嘘をつくライバーが……まぁ、そんなにいないか。存在してるだけで嘘みたいな連中だしな。グレイヴィーさんとか『今日、しまうまのライブ行ってくるから配信なし』って適当な嘘ついてるし、マリーは『今日街歩いてたら、サイがギター弾いてた』って同じく適当な嘘ついてるし。だから多分、しまうまのライブではサイがギターを担当しているのだろう。

 

「そうは言うが、こういうちょっとしたイベントで視聴者が楽しんでくれるのであればそれに越したことはない。そうだ! 婚約した、とあえて本当のことを言ってみるというのはどうだ?」

「エイプリルフールにそんなこと言って、もしそれを透華が見たらどう思う? 佐藤さんのことわかってくれてるから結果的には大丈夫だと思うけど、プロポーズが嘘だったのかなって一瞬でも悲しんじゃうじゃん。本当によくないよ、そういうの」

「すまん」

 

 めちゃくちゃ落ち込んだ。確かにダメだ。俺はミジンコ以下のド低能だ。満が隣にいてくれてよかった。でなければ、俺はいつか致命的な失敗をして、一生孤独になっていたことだろう。

 それにしても、本当に何も思いつかない。なんならエミと入れ替わるというエイプリルフールっぽいネタ(真実)を直近でやったところだから、何をやったとしてもインパクトが薄い。もう『キリンがキーボード弾いてた』とかどうでもいい嘘つくか? そうすれば草食動物バンドが結成されて、グレイヴィーさんとマリーの嘘も本当っぽくなるだろう。だからなんだという話だが、エイプリルフール自体だからなんだというイベントだしな。

 

「もう適当に配信でもするか。何も思いつかんし」

「うん。そっちの方がみんな喜んでくれると思うよ」

「本当にいいやつだな、満」

「ふふん」

 

 胸を張ってどや顔したのが更に可愛かったから思わず撫でてしまった。俺のような男に撫でられているのにも関わらず目を細めてにこにこしてくれるなんて、天性の甘やかされの才能があるとしか思えない。よく透華に膝枕してもらったり、帝斗の肩に顎を乗せて体重を預けたりと甘えている姿を見るし……俺としては帝斗とは少し距離を離してほしいが。帝斗なら満に手を出すという心配はないとは思うが、その、満も成長するようになったわけだし、そろそろ女性としての振る舞いというか、男性にそう易々と近づいていいものではないと教える必要があるというか。

 くっ、平日昼間にいないのは仕方がないことだが、帝斗がこの場にいれば満との距離について小一時間説教していたところなのに。ん? 帝斗から連絡……『満ちゃんは俺とお前以外にあんなことしねぇだろ』だと? そろそろ本当に怖いぞお前。何だお前は。「あー、佐藤がそろそろ満ちゃんと俺の距離について説教しようとか考えてそうだなー」とか思ったのか? その察しの良さは人の領域から外れているぞ。

 

「配信しないの?」

「あぁ、いや、する。うん、少しぼーっとしていた」

 

 まぁ、帝斗の察しの良さ……という言葉で片づけていいかは微妙だが、それは今に始まったことではない。一応帰ってきてからなぜあんな連絡をしてきたのかは聞くとして、いつも通り配信をしよう。今日は視聴者も嘘ありということにして、嘘まみれのぐちゃぐちゃな配信にするか。

 

「シゲキ的に邪魔するぜ!!!!!!!!」

 

 なんて、エイプリルフール特有の配信をしようとしたら、一番嘘みたいなやつが事務所のドアを破壊しながら突入してきた。弁償しろよ貴様!!

 

「シゲキ!! ドアを破壊するな!!」

「アァ? どうせ後でルイスかイベリスが直すからシゲキ的にどうでもいいだろ!!!! ンなことよりシゲキ的ニコ、今日は真面目な話がある。ワリィが、シゲキ的に座らせてもらうぜ」

 

 そう言って、シゲキはソファの上に立った。座れよ。あと靴脱げ。

 

「真面目な話? そういうのはそれこそルイスかイベリスの役割じゃないのか」

「今回の主導はシゲキ的に俺だからな」

 

 それはまた珍しい……こともないのだろうが、シゲキが主導で、誰かに話をするのが珍しいといったところか。シゲキ主導であれば、誰の意見も聞かず勝手に突っ走るイメージだったが、それをしないということはシゲキが言ったように真面目な話なのだろう。真面目な話をしたい相手のドアを蹴破るのは真面目だとは思えないが。

 

「シゲキさん、何飲む?」

「シゲキ的ドリンク」

「そんなものないけど……」

 

 やっぱり真面目じゃないんじゃないか? どう考えても言動がおかしい。いや、いつものことだが。

 

 シゲキ的ドリンクはないものの、なんか好きそうだからと満がシゲキにコーラを渡すとそれを一気飲み。こいつ、炭酸飲料だったら『シゲキ的だから』っていう理由で全部一気飲みしそうだな。

 

「真面目な話っつぅのは、シゲキ的ニコがクソ『ゆーとぴあ』のユース・セレーリアとコラボするってのとシゲキ的に関わりがある」

「他事務所の頭に『クソ』をつけるな」

「ルイスから聞いてるかはシゲキ的に知らねぇが、ユース……都優里奈はルイスの事務所に所属してる、所謂シゲキ的顔見知りってやつだ。だから他事務所に所属してるやつの中では使いやすい。他事務所巻き込んで何かやる前に、外の反応見るにはシゲキ的に最適だ」

 

 ……シゲキが、騒がしくない!? なんか、普段騒がしいから落ち着いて喋ってるだけでカッコよく見えてくるな……。なんというやつだ。得するギャップを持っていて羨ましい。ん? 得はしていないのか? 普段が普段だし。

 というか、色々意外だ。都さんがうちと元々関わりがあるというのは、アザミが『都優里奈』という活動名ではなく本名で呼んでいたことからなんとなく察していたが、まさかシゲキが「外の反応を見る」なんてことをするとは。

 

「別に、関係なくシゲキ的にぶち壊してやってもいいんだが。その準備として必要なんだよ。シゲキ的にめんどくせぇ」

「なにかやりたいことがあって、俺と都さんのコラボがその前段階、ということか」

「シゲキ的に話が早ェな。俺がやりてぇのは、『project:conflict』を使った、配信者同士の抗争だ!!!!」

 

 意外だと思った意外でもなかった。こいつ、準備期間に見合うようなシゲキを求めてるだけだ。

 

「『project:conflict』?」

「俺とアザミ、んで朝凪真理が主となって開発したゲームだ。シゲキ的ギャングになって犯罪行為上等のオープンワールド!! まァ、サツとかその他のシゲキ的じゃねぇ職業にもなれるが、んなもん全員ブチ殺しゃいいからな」

 

 マズい、こいつ炎上を恐れなさすぎる。配信者同士っていうことは、『project:eden』に限らず他の事務所、それと個人で配信を行っている人も参加させるということだろう。だというのに「全員ブチ殺す」というのはめちゃくちゃすぎる。大した理由もなくやりそうだから、多分というか絶対炎上するな……。恐怖による支配が成功していたら別だが。

 

「だが、俺と都さんのコラボが前段階になり得るのか?」

「十分じゃねぇが、ポーズにはなる。『project:eden』と『ゆーとぴあ』は、外から見りゃあシゲキ的に相容れねぇ事務所同士だ。そこのオスとメスがシゲキ的にコラボして、外がどういう反応をするか。それを他のクソ事務所、クソ個人配信者に把握させる。その後、『project:eden』から『project:conflict』を使って、配信者のみが参加できるサーバを期間を設けて開催するとシゲキ的に発表する」

「それは……あまり参加しないんじゃないか?」

「配信の動きで見れば、コラボ、人との関わりがメインコンテンツになりつつある。大人数と関わりを持てる場に参加しねぇってのはクソ憶病者のやることだな。まァ、目的はそういう『大人数と関わりを持てる場を用意する』っつぅコンテンツを『project:eden』のものにすることだが」

 

 なるほど……。そのコンテンツを独占、というよりは『project:eden』の代名詞とするために、ある程度発表までのスピード感が欲しいということか。今まで『project:eden』は外とほとんど関わりを持っていなかったが、それであるのに配信業界の最前線にいる。そことのつながりを求めて参加しにくるというのはない話じゃない。むしろ、参加してこない者たちを置いていくための動きでもあると言えるのか。

 

「だが、ゲーム自体の面白さがなければ引きはない。全員初心者になるだろう? ある程度ぐだるような気もするが」

「個人的に使える奴隷がいる。そいつら全員プロ級だ。操作マニュアルも用意してある。外に発表する前に、『project:conflict』を普通にゲームとして一般公開もする。そこもシゲキ的に勝負っちゃ勝負だな」

 

 そうか、それも強いのか。『project:conflict』は『project:eden』で開発したものだから、権利は『project:eden』にある。最初に通常のゲームとして公開して、配信者を参加させるサーバを公開すれば宣伝効果にもなるか。シゲキにしては外れた考えじゃないな。恐らくアザミとマリーの考えもいくらか入っているんだろう。でなければ、「脅して無理やりサーバにぶち込んでシゲキ的にぐちゃぐちゃにしてやりゃいいだろ!!!!」って強行しそうだしな。

 

「わかった。ある程度、俺と都さんのコラボは重要ということだな」

「シゲキ的にワリィ印象は持たれねぇようにしろよ。微妙な差だが初動に関わる。シゲキ的ニコなら問題ねぇだろうが」

「あぁ、任せろ。どちらにせよ重要な役割であることには変わりないからな。覚悟はできている」

「それでいい。楽しみだぜ、事務所関係なく全員シゲキ的にできる日がよォ!!!!!!!!」

 

 待て、俺今悪の組織の一部みたいになっていないか?

 

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