稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第14話 コラボ(明星姉妹)

『やめたい……』

『腹くくりな? ニコさんにもきてもらったんだから、やっぱやめますはなしじゃん?』

「俺のことならお気になさらず。誘っていただけるというだけでも光栄なことですから」

「《ゲームの中だけど、私のお仲間にも会えるしねー》」

 

むしろ、明星姉妹に挟まれてる現状が一番怖そう

羨ましいがすぎる

めっちゃきょろきょろしてる

姉御がにやついてるから、多分姉御の仕業だ

 

 翌日、翌日だった。せめて一週間くらい先だったらもっと準備できたのに。帝斗に「年下の女の子とホラゲーするときの必勝法を教えてくれ!」って頼んだら、「なんでもかんでも必勝法あるわけねぇだろ。ライアーゲームかよ」と言われてしまった。ゲームが関わってるから必勝法があると思ったのに……。

 

 ただ、透華からはありがたいアドバイスをもらった。それは、「明さんって結構面倒見よさそうっスし、適当に話振ってくれそうなんで、合わせることに集中すりゃいいんじゃないスか」というものだ。

 

 一ノ瀬(いちのせ)(あかり)。一ノ瀬さん……一ノ瀬星菜さんとともにデビューした、一ノ瀬星菜さんの姉。妹さんは清純っぽい見た目だが、お姉さんはプリン頭のショート、胸元が見えるほど前が開いたジャージ。目元にはうっすら隈があり、純粋な男子高校生が出会ったら性癖を狂わされそうな見た目をしている。

 

『やっぱり、普段幽霊見えてると怖くないもん?』

「んー、どうですかね。シチュエーションによるとは思いますが、いるだろうなというところは大体わかります。ので、あまり怖くはないですね」

『……ニコさん、なんで普通に喋ってるんですか。私の時、びくびくしてたのに』

『溢れ出る包容力ってやつじゃない?』

『私もあるもん!』

 

 それは、お姉さんから事前に、妹が急に誘って申し訳ない、配信面白くていつも見ている、何か変なこと起きたとしても何とかするから気負う必要はない、といったような連絡があったからだ。そして緊張しないように配慮してくれたのか数分だけ話をする時間を設けてくれて、気づいたら俺がべらべらと自分のことを喋ってしまっていた。

 

 圧倒的に転がし慣れている。危なかった。一つ間違えたら俺のお姉ちゃんになってもらうところだった。

 

『ま、許してあげな。ニコさんくらいの年齢になると、途端に年下の女の子が怖くなるもんだよ』

「いえ、俺は全人類が怖いです」

「《コミュニケーション的な意味でね》」

『じゃあじゃあ、私のことは怖いですか?』

「妹さんは怖くないですよ。配信を見ても思いましたけど、昨日のコラボでいい子だと確信しましたから」

『ふふーん』

『や、私にどや顔されてもねぇ』

 

ニコ、懐かれる

そりゃあんだけ全肯定されたらなぁ

まぁ星菜ちゃん大体の人にこんな感じだし

一体どれだけの男を勘違いさせてきたんだ……

 

 勘違いさせていたとしても、その度にお姉さんがフォローに入っているような気がする。俺に連絡をくれたように、見えないところでも妹の力になってくれるいいお姉さんだ。

 そのあまりの姉力からか、視聴者からは『姉御』と呼ばれていたりする。デビュー順で言えば二番目に新しいのに、よっぽどお姉さんなんだろう。

 

『んん……』

『どしたん? 星菜』

『妹さんってなんかなぁ。私たちどっちも一ノ瀬なので、名前で呼んでくれませんか?』

 

今すごい物音聞こえたぞ

ニコのお家芸

動揺し、椅子から崩れ落ちる

名前で呼んでって言われただけで?

 

 な、名前で呼ぶ、だと……!? 名前で呼んだことがあるのは、帝斗と透華と満だけだぞ!? アザミさんは、ほら。日本名じゃないから意識的に名前っていう感じがしないし。それなのに、女性二人に対して名前呼び!? ホラーゲームより怖い。俺が名前で呼んだ瞬間「やっぱりキモいのでなしで!」って言われたら立ち直れない自信がある。

 

『こら、迷惑かけないの。ニコさんの配信見てたんなら、すさまじい童貞だってわかってんでしょ?』

『? 今まですごい苦労してきたの?』

『ダメだ箱入り過ぎた。えっとねぇ、女の子と喋るのに慣れてないから、恥ずかしいってこと』

「くっ、認めたくないですが、その通りです。それに、同期である月宮さんを差し置いて先に呼ぶというのは道理に反しますから、遠慮させてください」

 

そういうところだぞ、ニコ

こういうところが好きで、昨日のコラボでニコのファンになった

優姫ちゃん、「当たり前よ」とか言いながら内心喜んでそう

 

 そう、当たり前だ。俺のことを気にかけて仲良くしてくれているのに、昨日コラボしたばかりの相手を先に名前呼びするなど言語道断。今まで経験がないから感情としてはよくわかってはいないが、物事には順序というものがあり、人間関係にもそれは適用される。少し順序を間違えただけで関係に亀裂が入るのはあり得ない話ではない。

 

 俺に亀裂の走る関係なんてないが。

 

「それより、ゲームを始めましょう。タイトル画面でずっと止まってしまっています」

『うー、じゃあ月宮さんの後で呼んでくださいね?』

『あのねぇ、仲良くなりたいのはいいことだけどやめな? ニコさん優しいから呼んでくれるだろうけど、無理強いはよくないよ』

「《あ、気にしなくていいですよ。むしろそれくらいガンガン来てくれた方がいいです!》」

 

姉御、そろそろ星菜ちゃんに男女というものを教えてあげてください

甘やかしすぎたからだな

相手がニコじゃなきゃ炎上してたぞ

 

 俺でも炎上する。妹さん距離を詰めすぎだ。アイドル売りをしているのなら、その境界線はしっかりと守るべきだろう。夢中になって応援しているアイドルが別の誰かに夢中なんて、応援してくれている人はいい気がしない。アイドルを詳しく知らないが、それくらいはわかる。

 

『じゃあ……ねー、ほんとにやだぁ。お姉ちゃん代わりにやって』

『罰ゲームの意味ないでしょ。ニコさん見習いな』

「罰ゲームは完遂してこそですよ、妹さん」

「《変なことばっかり得意になっちゃって……》」

 

 親みたいなこと言うな。

 

 今日やるゲームは、なんとうちの事務所に所属するライバー朝凪(あさなぎ)真理(まり)さんが作ったゲームらしい。朝凪さんは薄い緑のロングヘアに赤いバラの髪飾りをつけた巫女装束の女性。『真』の『理』。いい名だ……。

 

『せっかく真理さんが作ってくれたんだから』

『……わかった』

 

 タイトルは『奇紀(きき)怪解(かいかい)』。タイトルだけ見ると、和風テイストのホラーゲームに見える。

 

『じゃあ、はじめます!』

 

 気合いの入った声と、低い鐘のような音とともに画面が暗くなる。

 次に映し出されたのは、事務所に見えた。二面の壁は本棚が敷き詰められており、所長机の背にある壁は一面が窓になっている。広さはそれほどではないが、来客用に備え付けられているのであろうソファは黒の革でできていたりと、どことなくこだわりが見えた。

 

 ……なんか俺の事務所に似ていないか? 気のせいか?

 

ここは『オフィス獄楽園』。閑古鳥が皆勤賞を獲得してしまうほど依頼がない、オカルト専門の事務所。

今日も今日とて閑古鳥が鳴いていて、所長であるミッドナイト・サイコナイトはため息とともに紫煙を吐き出した。

 

 

「俺!?」

『ニコさんだ!』

『丁寧に立ち絵まで入れてるし……』

「《あれ、お二人も知らなかった感じですか?》」

 

 満が聞くと、肯定の意が返ってくる。どういうことだ……?

 

それじゃあ、ニコとコラボしなかったら……

危うくコラボしたことがない相手が主役のゲームをすることになってたな

マリーはなぜニコを主役に……?

オカルト関連でゲーム作るなら、これ以上いないとは思う

 

 俺、朝凪さんと会ったことないよな……? 別に勝手に主役にされたとかは思っていない。ただ普通に怖い。主役にされたのはいい。むしろしていただいてありがたいとすら思っている。怖いのは、俺が今いる事務所とゲームの中の事務所がかなり似ていること。そして、俺はタバコを吸っていると言ったことがないのに、ゲームの中の俺はタバコを吸っていること。

 タバコを吸っていた時期は、ある。タバコミュニケーションというやつの存在を知ったことと、タバコってカッコいいよなという浅ましい考えで吸い始め、結果しばらく健康を害しただけ。今でも時々吸うが、常備しているほどでもないレベルだ。

 

ミッドナイト・サイコナイト

「依頼は重ならず、重なるのは灰皿の吸い殻のみ。なぁ満、どうすれば依頼がくると思う?」

「信頼」

少女、満。数年前、ひょんな出来事からミッドナイト・サイコナイトに憑りついている幽霊だ。

 

 

『あっ、満ちゃんだ! 可愛い!』

『満ちゃんのビジュって出てたっけ?』

「いや、出てない、ですね……」

 

 満が絶句している。そりゃそうだ、容姿について少し言ったことはある。でもそれだけでこうも完璧な立ち絵は用意できないはずだ。

 ゲームに表示された満の立ち絵は、満そっくりだった。褐色肌のポニーテール、薄い青の生地に黄色のラインが入ったジャージ。容姿だけではなく着ているものまで完璧に再現されている。

 

 え、ホラゲーこわ。

 

ミッドナイト・サイコナイト

「ハァ……依頼ボックスでも見るか」

「気合い入れて造ったけど、あれもうただの固い箱だよ」

 

 

『ニコさんと満ちゃんが主人公なら怖くないかも』

『だねぇ。なんかコメディ調になりそう』

「あはは」

「《あはは》」

 

なんか笑い乾いてないか?

本当に事務所そっくりとか?

ないだろ

本当にそうだったら、マリーがなんで知ってるんだって話になるしな

 

 本当にそうなんだよ!! 依頼ボックスのことは配信でも言ってないし!

 依頼ボックス。事務所立ち上げの時に作った俺の力作。真っ黒でドクロの装飾が施されたカッコいい逸品だ。

 

『わ、依頼ボックスすご!』

『こりゃあくる依頼もこないね』

 

 画面に表示されたのは、やはりというべきか実際の依頼ボックスと同じ見た目のもの。そして一ノ瀬姉妹からは低評価。

 

俺は泣いた。

 

ミッドナイト・サイコナイトは特に期待もせずに依頼ボックスを開く。やはりそこに依頼はなく、期待していなかったつもりのミッドナイト・サイコナイトは無意識に肩を落とした。

 

 

『かわいそう……』

『ニコさん、今度ご飯いこっか』

「ゲームに感情動かされて、施しを与えようとしないでください」

 

 なんだ、なんでこうもリアルなんだ? まるで俺の日常を覗いているみたいじゃないか。

 もしかして、ストーカーか? いや、会ったこともない人を犯罪者呼ばわりするのはよくない。想像力が豊かで、少ないヒントでここまで具体的に作り上げたんだろう。思えば、アザミさんも満の声を一発で作ったんだ、ない話じゃない。

 

???

「あの……」

ミッドナイト・サイコナイト

「!!!!????」

そんな彼に、声がかけられる。振り向けば、可愛らしい女子高生がいた。不安そうにミッドナイト・サイコナイトを見つめる彼女に、ミッドナイト・サイコナイトは動揺を隠して背筋を伸ばす。

 

 

『私だ!』

『へぇー。可愛く作ってもらってるじゃん』

「やった! 満、依頼だぞ! 多分依頼だ!」

「《落ち着いて! ゲームだから!》」

 

普段どんだけ依頼ないんだよ

ゲームで依頼がきただけでこの喜びよう

しかもまだ確定じゃない

しかしゲームでも星菜ちゃんかわいいな

 

 俺に声をかけたのは妹さんだった。わかっている。このパターンは依頼だ。依頼ボックスを見て依頼がなく落胆しているときに依頼がくる。下げて上げるのはよくある手法だからな。

 

女子高生

「ここって、オフィス獄楽園で合ってますか?」

ミッドナイト・サイコナイト

「いかにも。俺はオフィス獄楽園の所長、ミッドナイト・サイコナイトだ」

女子高生

「あっ、私、一ノ瀬星菜って言います。それで、依頼なんですけど……」

 

 

「いいなぁ、ゲームの中の俺……」

『じゃあこういうのはどうですか? 仲良くなってくださいっていう依頼!』

『ていうか、これ結構長編物?』

 

 そのように見える。妹さんのセリフが終わると同時、ゆっくりと画面が暗くなっていき、ぼんやりと現れた画面には、

 

第一怪 誰かが見ている

 

一人暮らしをしている彼女の姉は、定期的に実家へ帰ってくるらしいが、

ここ数か月帰ってきていないようだ。

連絡はあるため、そこまで心配しなくていいかと思ったが、

妙な胸騒ぎがして、依頼にきたらしい。

依頼を受けたミッドナイト・サイコナイトは、都内外れにあるマンションへ訪れていた。

 

《/font》《/color》

 

 不安を煽るBGMとともに、真っ黒な背景に文字が躍る。

 

『……あれ、ちゃんとホラー?』

『……かもね』

「いいなぁ、依頼」

「《ニコさん、空気読んで》」

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part4

 

834:このライバーがすごい! ID:200ChPPI1

普通に怖かったんだけど?

 

835:このライバーがすごい! ID:70tebUojl

ニコが主役だからって安心してた

舐めてた

 

836:このライバーがすごい! ID:tIehp62be

姉御もちょっと余裕なくしてたから、実はホラー弱い?

 

837:このライバーがすごい! ID:4K7hVcYgS

ニコは流石だったな

 

838:このライバーがすごい! ID:Tej+rZMpZ

ニコ「このタイプの霊障ならまず会話はだめですね。こちらが怪しんでいると気づかれてもいけません。やり過ごして原因を特定し、元を絶つ必要があります」

数分後、ゲーム内のニコも同様の発言

 

839:このライバーがすごい! ID:UpHe2YTzU

マリーのニコの解像度が高い

 

840:このライバーがすごい! ID: Te1t0kuSIO

>>839

実際これが一番怖いんじゃね?

 

841:このライバーがすごい! ID:++eObIAHC

今日予定あって、マンション行ってから配信見れなかったんだよなぁ

そんな怖かった?

 

842:このライバーがすごい! ID:FrY7Q4+p6

>>841

概要だけ伝えると、

・マンションの敷地内に入ると、全員がじっと見つめてくる

・姉の部屋を訪れると、来訪者が着てチャイムとノックを繰り返し、「回覧板です」と連呼(ボイス付き)(マリーの声)(怖かったけど可愛かった)

・窓の外に誰もいないのに、窓を叩く音が聞こえる

・ベランダに出ると、隣の人が身を乗り出してこちらを見ていた

 

843:このライバーがすごい! ID:Ol5xPAQML

もうきょうおしっこいけない……

 

844:このライバーがすごい! ID:NfpODNd9R

もうケツから血しかでない……

 

845:このライバーがすごい! ID:c0t8Z/hb8

>>844

病院行け

 

846:このライバーがすごい! ID:oT6VUSFZ/

あのゲーム、シンプル選択肢とアクション要素と、話自体の面白さ

ホラーをニコという面白要素で緩和するセンス、脱帽した

 

847:このライバーがすごい! ID:qOWQyZ6JJ

今日やってたゲーム、プロエジェの公式ページでダウンロードできるらしい

 

848:このライバーがすごい! ID:jTG1TTgRA

体験版で、完成品はまた別で配るらしい

 

849:このライバーがすごい! ID:poZ+2h1rU

>>847

>>848

どっかでそんな情報出てた?

 

850:このライバーがすごい! ID:0LloCfuCI

>>849

マリーの配信で言ってたぞ

マリー「そういえば、せなちーに渡したゲーム、公式ページでダウンロードできるよ。まだ途中だから、ニコちーにテスト頼んで、出来上がったら配り方は考えるけど、みんなもできるようにする」

 

851:このライバーがすごい! ID:2Mb5BvzoC

拙者、マリーの「〇〇ちー」という呼び方大好き侍

 

852:このライバーがすごい! ID:LPaG3WWry

拙者、侍

 

853:このライバーがすごい! ID:DJGtZSQzs

>>852

侍はこちらで会えましたか……

 

854:このライバーがすごい! ID:r6dXyx9Or

配るとかで思い出したけど、そろそろボイス発売?

 

855:このライバーがすごい! ID:w6ctYS7pe

ニッコリ探偵団は初のコンセプトボイスか

 

856:このライバーがすごい! ID:aCY0JQPMe

ニコ台本の仕上がりが楽しみだ

 

857:このライバーがすごい! ID:p6NWEoPL/

販促の意味もあるのか、優姫ちゃんとアザミん、台本に言及してたな

 

858:このライバーがすごい! ID:BtThTuu4o

>>857

優姫ちゃん「いいんだけど、キモい」

アザミん「私には書けないな。その……恥ずかしい」

 

859:このライバーがすごい! ID:G8MMy/hgY

期待、大

 

860:このライバーがすごい! ID:pzLP5spbU

優姫ちゃんのキモいは俺たちに刺さるシチュってことだろ

 

861:このライバーがすごい! ID:cz/40sr2h

アザミんが恥ずかしいって、まさかトワイライト・プリンセス!?

 

862:このライバーがすごい! ID:13ogoRafG

>>861

もしこれだったらニコを生かしちゃおけない

 

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