稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第160話 いますぐきて

「ん?」

「どうしたの? 佐藤さん」

 

 昼。『project:conflict』のサーバが開くのは大体夕方頃であるため、何もすることがなく配信でもしようかなと思っていた時、アザミから電話がかかってきた。一年前の俺であれば驚愕のあまり床の埃をすべて吸着する勢いで転がりつくしていただろうが、今の俺は違う。「アザミからだ」と冷静に答えてみせて、通話ボタンをタップする。

 

『ニコ、いますぐきてほしい』

「なっ、はっ、あっ、えっ!?」

「透華に言わなきゃ」

「ちょっ、まっ、あっ! 切れた!」

 

 あまりの動揺に床を転げ回っていると、すぐに電話が切れた。今すぐきてほしいだと!? アザミのことだからそういう意味はまったくないとわかっているが、何かいつもより弱っていたような気が……。

 とにかく、透華にあることないことを伝えようとしている満を捕まえて、すぐにアザミのところへ向かおう。

 

「満! 言っておくがアザミはそういう意味で俺にきてほしいと言ったのではなく」

「わかってるけど、いくらアザミさんが相手でも女の人のところにいくならちゃんと言っておかなきゃだめじゃん」

「はい……」

 

 俺が言い負かされたのが面白かったのか、帝斗が転げ回って笑っていた。貴様!! 床掃除は俺の仕事だぞ!!

 

 

 

 

 

 よく考えれば床掃除は俺の仕事でもないな、と思いながらアザミの家に到着した。思えばここにくるのも久しぶりな気がする。というか今すぐきてほしいと言われたが、アザミの家でよかったのか? これでもしアザミがいなかったら、「一年も同期をやっていて私がいる場所を予測できないのか? だからいつまで経っても依頼がないんだろうな。親しい者の居場所もわからない無能探偵に依頼したい事件など一つもない」と言われるかもしれない。けちょんけちょんに言われてはいるが、『親しい』と言ってもらえているからプラスマイナスゼロ、むしろちょっとプラスかもしれん。

 

「妄想でプラスマイナスの勘定するのキモいよ」

「妄想ぐらい好きにしたっていいだろうが! 俺の妄想に入り込んでくるのはやめろ!」

「うんうん。じゃあインターホン鳴らすね」

「面倒くさいなら面倒くさいとはっきり言ったらどうだ」

「面倒くさい」

「あまりはっきり言うな! 傷つくだろう!」

「一体どうしてほしいの……?」

 

 あまり俺の脳内を覗かないでくれると助かる、と伝えれば、「だって、意識してなくてもなんか流れ込んでくるんだもん。相性いいのかな?」と可愛いことを言ってくれたから許してやることにした。相性がいいのであれば仕方がない。

 

 俺が気分をよくしているのをよそに、満がインターホンを鳴らす。が、いつまで経っても出てこない。もしかして、もう入っていいということか? しかし、これで鍵が開いていなかったとしたら、アザミのことなら侵入者撃退システムを組んでいてもおかしくない。俺が蜂の巣にされれば、『女性の家に侵入しようとして撃退された男』として、不名誉な形で有名になることだろう。どうする、俺。今この瞬間の選択で、俺の未来が決まる。

 

「あれ、開いてる!」

「なっ、バカ満!! お前が有名になってどうする!!」

「開いてたから有名にはならないでしょ。開いてなくても有名にならないし。でも、なんで開いてるんだろ……?」

「アザミのことだから、インターホンが鳴った瞬間相手を確認し、遠隔で鍵を開けることなど造作もないだろうが……少し気になるな」

 

 アザミの声も弱弱しく聞こえた。まさか、鍵が開いているのは不審者に入られたからか!? それだとマズい!! 満に入らせるわけにはいかん!!

 

「満、下がれ!! 俺が前に出る!!」

「私、死んでるから大丈夫だよ?」

「だからといって実体があれば痛いものは痛いだろう! 俺の背中に隠れていろ」

「……ふふ、そうだね。ありがと。でも私が前にいた方が安全だと思う」

「確かにそうだろうが、俺がそうしたいからそうしてくれ」

 

 にこにこと上機嫌で俺の背中に隠れた満を連れて、アザミの家に入る。確かに運動能力で言えば満の方が断然上で、俺が後ろにいた方が安全ではあるが、まさか危ないかもしれないと思っているのに満に前を歩かせるわけにはいかない。考えてもみろ、大事にしてもらっていることに対してこんなにもにこにこと可愛らしく笑っているんだぞ? 命に代えても守る以外の選択肢がない。それに、俺にはまだ覚醒が残されている可能性がある。もし窮地に立たされれば俺の秘められし力が覚醒し、窮地を脱することができるかもしれない。

 

 いや、そんないつもする妄想はどうでもいい。今はアザミの安否確認が先だ。

 

「アザミ! いるか! いるなら返事をしてくれ!」

『なんだ?』

「うわぁ!? 急に声を出すな! びっくりするだろう!」

『返事をしろと言ったのはお前だろう』

「それはそうだ、すまん。……ん? アザミ、どこにいる?」

「声だけ聞こえるけど……」

 

 満と一緒にきょろきょろ周りを見るが、アザミの姿はない。俺だけ聞こえていたのなら俺の妄想が作り出した幻聴の説もあったが、満も聞こえていたのならそうではないのだろう。

 

 その答えは、すぐにアザミの口、いや、音声から語られた。

 

『これはニコ、満の声に反応するように作った自動音声だ』

「なにっ!? ならなぜさっき『返事をしろと言ったのはお前だろう』と俺が言ったことに対してのアンサーがあったんだ!」

『お前が言いそうなことは大体わかる。あらかじめ数パターン予測し、適切なものを返すようプログラムしただけだ』

「なんか、俺のことを知ってくれているようで嬉しいな」

「喜んでるところ悪いけど、結局アザミさん本人はどこにいるの?」

「あっ、そうだ! アザミ、どこにいる!」

『自室にいる。すさまじい童貞であるお前が動揺するようなものは置いていない。安心して入ってくるといい』

「この際童貞に形容詞をつけたことには目を瞑ってやる。自室だな?」

 

 アザミめ、自動音声であっても童貞に形容詞をつけるとは……!! というか、俺は婚約したんだ。今にすさまじい童貞と呼べなくしてやる……いやまて、そうじゃない! すさまじい童貞と呼ばれたくないがためにそういうことをするのではなく、ちゃんと愛を行為で証明するためにするべきものだ。それに婚約したとはいえそうなるのにはまだ早いだろう。焦るな、俺。そもそもこの前、「わかってたっスけど、配信ばっかりでちょっと、さ、さみしい、というか……」ともじもじ文句を言われたばかりだろう。落ち着いて二人のペースで歩んでいけばいい。

 

「ドアノブに手をかけた状態で延々と考えるのやめてくれない?」

「すまん。開けるぞ!」

 

 透華との時間もちゃんと取らないとな、と思考に結論をつけて、ドアを開けると、アザミがいた。ただ、寝ている。ベッドの上で。しかも月宮さんに抱き着く形で。え……?

 

「ニコ、満ちゃん。二人もきたのね」

「月宮さん、これはどういう状況だ……?」

「アザミに抱き枕にされてる」

「それは見ればわかる。あと満、なにか見てはいけない気がするから俺の目を潰してくれ」

「閉じなよ」

 

 満の鋭い指摘に大きく頷き、目を閉じる。いや、そういうのではないとわかってはいても、ベッドの上にいる女性二人を見るのはダメだろう。俺の倫理観がそう言っている。おい満! 「アザミさん、寝顔かわいい……」とか言うな! 人の寝顔を俺に報告するのはやめろ! 違う世界の話だが、月宮さんのときもそれをやったの覚えてるからな!

 

「で、どういう状況か、よね。アザミからはなにも?」

「あぁ。今すぐきて、とだけ連絡がきた」

「私もよ。で、きてみたら『ゆうひー』ってへにょへにょしながら抱き着いてきて、とりあえず背中ぽんぽん叩いたら寝ちゃった」

「流石に可愛すぎるか……」

「めちゃくちゃキメ顔で言うことじゃないでしょ」

 

 だが可愛すぎるだろう。尊いと言ってもいい。イベリスがこの場にいたら、オシャレすぎて膝をつき、涙で池を作り上げていたに違いない。ファンが見たら尊さのあまり命を落とすことだろう。普段冷静で淡々としているアザミが、月宮さんにへにょへにょしながら抱き着いた? 何も言わずに背中をぽんぽん叩く月宮さんもカッコよすぎる。やはり目を閉じていてよかった。それを聞いた後に改めてベッドの上の二人を見たら、あまりの尊さに腰を抜かしていたかもしれん。

 

「原因は……シゲキか」

「ほとんど寝ずに五日も相手にしてたら、そりゃアザミでもこうなるわよね」

『あぁ、正解だ。現在私はシゲキとの戦いにより疲弊している』

「また自動音声か!」

「二人も自動音声でここまできたの? そんなの作る暇あったら休みなさいよね」

『ごめん、みんなのこと考えてたら楽しくて……』

「許してやれ、月宮さん」

「自動音声でもあざといのやってくるのね……」

 

 案外、あざといというだけではないような気もする。アザミは基本的に興味のないことはやらないし、不要なこともやらない。本当に俺たちの反応を考えて自動音声を作り上げるのが楽しくて、なおかつ俺たちを見た瞬間に安心してすぐに寝てしまい、事情を説明できない可能性も考えてのことなのだろう。実際、月宮さんと会った瞬間に寝てしまったようだしな。

 

『さて、まずは謝罪をさせてくれ。シゲキとの戦いで疲弊したがあまり、安心感を求めてしまった。恐らく、私は優姫を抱き枕にして寝ていることだろう』

「正解よ」

『もしかしたら、安眠するには優しく撫でてもらわなければならないかもしれん。更に、「よしよし」と言ってもらえるとありがたい』

「あんた、どっかで録音してるでしょ。『聞け、優姫のよしよしボイスだ』ってリスナーにバラまくつもりよね?」

『優姫、よしよししてくれないの……?』

「おい、よしよししてやれ、月宮さん」

「面白いくらい思い通りで恥ずかしくないの?」

 

 満の一言があまりにも効きすぎて膝をついた。そ、そこまで言わなくても……。ただ、俺はアザミが安心できるなら言う通りにしてあげてくれと言いたいだけなんだ。決してアザミの声が可愛かったから味方したんじゃないんだ。さっきの今で説得力は皆無だろうが、信じてくれ!

 

「……よしよしは言わないわよ」

 

 何……? もしかして、今よしよししているのか!? クソッ、自分で目を閉じてしまったことが悔やまれる! 満、どうなっているか教えてくれ! 何? キモいのが見えるだと? お前、二人に対してなんてことを……!! ん? もしかして俺のことを見てそう言っているのか? ならいい。

 

『時間を使わせて悪いが、しばらく側にいてくれると助かる。今日もシゲキの襲撃に備える必要があるからな。16時前には起こしてくれ』

 

 それだけ言うと、自動音声が途切れた。言うべきことは言った、ということなのだろう。

 

 ……。

 

「月宮さん」

「仲間を集めるなら今のうちね」

「……何も言っていないのに、流石だな」

「当然。シゲキさんを倒すんでしょ? アザミをこのままにはできないもの」

 

 アザミは、きっと『project:conflict』の期間中はシゲキの相手をずっとさせられる。そしてなんとかこなしてしまう。そう、なんとかだ。アザミは超人と言っていいほど能力が高いが、シゲキはその上を行く。あいつはもう色々おかしい。人間じゃないと言ってもいい。体力は無尽蔵で、行動力が誰よりもあって、ブレーキもない。そんなやつの相手をずっとするのは、いくらなんとかこなせるとは言ってもストレスが半端じゃない。

 それなら、俺たちでシゲキの相手をする。今までアザミに任せてしまっていた分を、俺たちで返す。

 

「私は他の人に声かけるわ。ちょうど、『project:conflict』でもシゲキさんを倒したいって人は多いでしょうし」

「なら、俺はエミにシゲキの対策でも聞いておこう」

 

 正直、シゲキを倒すなど無茶どころの騒ぎじゃない。が、俺よりも様々なことを経験しているエミなら、確実に倒せる方法まではいかなくとも、対策くらいなら知っているはず。

 

《エミ。シゲキを倒すにはどうすればいい?》

《何か辛いことがあったのか? 話してみろ》

《自殺をするわけじゃない!》

《だろうな。そういうことだ》

 

 ……本当に俺か? 言い回しがクールでオシャレすぎるだろ。

 

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