稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第161話 project:excite (1)

 失楽園で一番高いビル、その屋上。後ろを向けば、俺が立っている場所を見下ろすほどのビルが立ち並ぶ、楽園都市がある。ここに立っていて、あいつが注目しないはずがない。

 視線を前に戻し、失楽園を見下ろす。視界の端にあるドローンが誰のものかなど、考えるまでもない。あいつなら、俺が意味もなくこんな場所に立つわけがないと考える。どんなシゲキ的なことをやってくれるのかと期待して見に来ることはわかっていた。

 

『警察署署長、ミッドナイト・サイコナイトだ。シゲキ、聞いているか!!』

 

ニコ!?

何をしてるんだニコ!!

マズい、シゲキ的にされる!!

このチャンネル終わった……

 

 街中の拡声器から俺の声が発せられる。アザミの手によって、街中に声を届けられるよう、全員が拡声器を使用できるようにしてもらった。シゲキが好きそうだからだ。

 

『シゲキ。お前はこの数日、アザミとやり合っていたな? 確かに、能力で言えばお前と釣り合いが取れるのはアザミだろう。だが、これ以上うちの署員であるアザミにだけお前を任せるわけにはいかん。だから、今ここで!! お前に宣戦布告する!!』

 

 その言葉を待っていたかのように、失楽園各地で爆発が起きた。シゲキが仕掛けたものではない。今爆発したのは、シゲキが各地で作りまくっていた研究施設。この数日、息を潜めていた聖麗と、シゲキを脅威としてマークしていたヴァールハイトが見つけ出したもの。爆発を起こした兵器は、芥川想さんが提供してくれたものだ。

 そして、その爆発を合図に数十の戦闘機が空に現れる。芥川想さん提供、そして戦闘機に乗り込むのは、魔王軍のNPCだ。普段は言うことを聞かなかったらしいが、「我輩が天に立つ時がきた!」と言えば、全員が従ったらしい。魔王様のカリスマが留まるところを知らない。

 

 更に地上にも変化が訪れる。統率の取れた動きで街中を駆けるバイク。街の東西南北にそれぞれ塊となって動くその集団の先頭には、ルイス、イレイナさん、リニス、物部さん。そして、それぞれに医者も追従している。

 

 つまり。俺の『シゲキを打倒する』という計画に、警察、医者、ギャングのすべてが参加しているということだ。

 

『陸と空は抑えた!! シゲキ!! これを見せられて、引きこもるお前ではないだろう!! アザミとの勝負はシゲキ的だろう。だが、安心しろシゲキ!! それ以上のシゲキをお前に見せてやる!! 俺たちが、お前をシゲキ的にしてやる!!』

『だとしたら、クソNPCに戦闘機任せたのはシゲキ的に悪手だなァ!!!!!』

 

ニコ、考え直せ

それが覚悟を決めた男にかける言葉か?

やるんだな、ニコ

既にやられてますが……

 

 シゲキの声が聞こえた瞬間、空に無数の光線が走る。ただの光ではなく、ピンクや黄色、銀色や金色などの目に痛い色の光線が、NPCが乗る戦闘機の悉くを撃ち抜いて、空が爆発で埋め尽くされた。

 爆発によって生まれた煙が徐々に晴れていく。無事な戦闘機は一つもない。その代わりに、空中へ浮かぶ人影が一つ。その背からは銀色の近未来的な機械の腕が六本伸びている。

 

『目論見通りシゲキ的に出てきてやったぜ? ンで、どんなシゲキを見せてくれるってんだテメェらは!!!! 想像しなかったのかテメェ、空を俺にシゲキ的に取られた今、撃ちおろせばシゲキ的に終わりだ!!! 虫みてぇに地を這ってご苦労なこった。今すぐシゲキ的に掃除してやるよ!!!!』

『想像ならしましたよ!』

 

 六本の腕が光り、光線が放たれようとした瞬間、シゲキの体が見えない何かに弾き飛ばされた。

 

『シゲキさんでも油断することあるんですね! 想像しなかったんですか? 優位に立っていた自分が、僕に弾き飛ばされる姿を! 想像力が足りないみたいですね!』

 

 シゲキを弾き飛ばしたのは、機体丸々姿を消すことができる、光化学ステルス迷彩を搭載した戦闘機に乗っている芥川想さんだ。

 シゲキがまず空を取りに来ることは想像できた。こっちはシゲキの武装を正確に把握できていない。そして、シゲキの武装が理解の範囲外であることは間違いない。だから、初動はまず負けることを前提とした。

 

 シゲキが空を取れば、次はすぐに地上を蹂躙する。そこを狙う。いくらシゲキと言えど人間だ。自身の攻撃によって空を支配し、地上にわかりやすい敵がいれば、そちらに目を向けるだろうと考えたが、まさかここまでうまくいくとは。

 

 そんな俺の思考をあざ笑うかのように、遠くから伸びた光線が空を薙ぐ。芥川想さんが乗った戦闘機が撃ち抜かれたことは、空が爆発したことで理解できた。

 

『想さん!!』

『いっつも思うんだがよォ。想像できることが実現する? ンな当然のことをアイデンティティにしてる時点で、シゲキ的に程度が知れてんだよ!!!!!』

『シゲキ、なぜ生きている!!』

『むしろなんでこの程度で俺を殺せると思ったんだ? シゲキ的に知能が足りねぇ!!!!』

 

シゲキに常識は通用しない

ままま、まずい

もうおしまいだ……

ニコ、謝らないか?

謝った方がひどい目に遭うぞ

 

 なんとなく無事な気はしていたが、本当に無事だとは……!! もう人としてダメだろうそれは!! 恐らくシゲキの背にある六本の腕が何かをしているはず。そして、その何かは俺の想像の範疇に収まらない。シゲキならばゲームシステムやプログラムなどを駆使して、通常ではありえない挙動を起こさせることもお手のものだろう。

 だが、最低限の目的は達成することができた。

 

『んじゃまァ、またシゲキ的邪魔が入る前に、地上のゴミどもを……ア?』

 

 光線を使用しようとしたシゲキが、珍しく間抜けな声を出す。フフ、シゲキ相手に作戦通りに行くと気持ちがいい。俺がすごいわけではないが。

 

『んだァ? どんなシゲキ的なことしてくれたんだオイ!!』

『お前の搭載しそうな兵器は察しがついたからな。芥川想との接触時にジャミングを仕掛けさせてもらった』

『その声……アザミか!!!!』

『自慢の兵器が使えなくなった気分はどうだ? もっとも、別の意味不明な機能が搭載されているだろうから、あまり意味はないだろうが』

『ハッ、シゲキ的だなァ!!!! シゲキ的遠隔攻撃が可能だったのはさっきのシゲキ的レーザーだけだ。虫を直接ぶっ潰しに行かなきゃなんねぇじゃねぇか手間増やしやがって!!! つーかテメェ、この五日間でのお遊び程度で一回くたばりやがって、ンなタマじゃねぇだろテメェ!!!!』

『私にも事情がある』

 

 アザミは五日間、シゲキの相手をしつつ、シゲキへの対抗策を用意していた。「あいつが生み出す結果は意味不明だが、その結果を生み出す邪魔ができるくらいには付き合いがある」とアザミが言っていたのは嘘ではなかったようだ。よかった。これが通じなかったら今頃シゲキ的レーザーにより蹂躙され、『project:conflict』が終わっていたことだろう。

 もっとも、ここまではなんとなく成功すると思っていた。それは、逢生さんがそれを確約していたから。『誰がどこで出会うか』がわかるというのは、未来がわかるということと近い。そして、逢生さんのそれは時系列まではっきりとわかる。それならば、ビルの屋上にいる俺とシゲキが出会うことが確約されていればシゲキは空に現れるということであり、地上にいる誰かとシゲキが出会うことが確約されれば、シゲキは飛行能力を失うか、空にいても意味がない状況になるかのどちらかになる。考えれば考えるほどとんでもないな。

 

『とりあえず想さんの治療を! やられた位置を送るから、近くにいる医者は急行してくれ!』

『そりゃあシゲキ的に無意味だぜ!!!!! テメェら、シゲキ的に空を見ろ!!!!』

 

 言われるがままに空を見上げると、徐々にそれが浮かび上がってきた。それは、『project:eden』に所属するライバーの姿。しかし、想さんは赤い光で覆われて、大きく×印がつけられている。これは、なんだ!?

 

『本来なら最終日にシゲキ的にお披露目する予定だったが、テメェらがこんなシゲキ的お祭りを開催してくれたんなら、今ここで、『project:excite』を開始する!!!! ゲームシステム的には死んでもリスポーン可能だが、それが不可能になる!!!! つまり、死んだ時点でそいつのデータごと吹き飛ばして、この世界から消えるってことだ!!!!』

『な、なにっ!!??? それではもう想さんは……!!』

『この世にゃいねェよ!!!! 俺をシゲキ的にしてぇんなら命を賭けろ!!!! 俺が珍しく大人しくしてたってのに、引っ張り出したのはテメェらだ!!!! テメェらのシゲキを俺に見せてみろ、俺を退屈にさせんなよ!!!!』

 

とんでもないトリガーひいちゃった……

初回で本来とは違う遊び方始まるの、プロエジェくらいだろ

ニコ、逃げろ!!!

シゲキの武装の機能一つを無効化するのに命一つ必要なのか……

むしろ軽いくらいだろ

軽い命なんてねぇだろ!!!

 

 これは、予想外だ。非常にマズい。俺たちが勝つにせよ、シゲキが勝つにせよ、恐らく今日が『project:conflict』の最終日だ。誰かが参加ができなくなった箱イベントは意味がない。だからといってデータを復元して復活というのも、ここまで舞台を作り上げられてしまえば無粋になってしまう。

 ……いや、内紛で終わるのも『project:eden』らしいか。

 

『シゲキ的ニコはメインディッシュだ。シゲキ的に仲間が蹂躙されんのをそこで見とけ!!!』

 

 言いながら、シゲキが地上に降りる。それと同時にマップを開いて、シゲキが向かった位置に誰がいるかを確認した。

 ここからは地上戦。シゲキの兵器に搭載されているのか、光線以外はわかっていない状態。最初に戦う人には無理を強いてしまうが……。

 

《そっちに行きました。お願いします、イレイナさん、イオスさん!!》

《オーライ。盾になるのは慣れてんだ、気にすんなよ》

《それよりニコさん、落下死とかやめてくださいねマジで!! ありえそうなんで!》

 

 拡声器から無線に切り替えて、シゲキが向かった先にいるイレイナさんとイオスさんに無線を飛ばせば、男前なセリフと心配のセリフが返ってきた。俺も正直めちゃくちゃ怖い。この状況で落下死とか大戦犯すぎる。

 

 ……念のため、真ん中の方に行っておくか。

 

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