稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第162話 excite:recollection

 小せぇ頃の俺の隣人は『退屈』だった。やる意味も分からねぇお遊戯をやらされるクソ幼稚園、一瞬で理解できる内容を聞かなきゃいけねぇクソ学校。『社会』なんつー下らねぇ枠組みに俺を当てはめて、他と違うことをしちゃいけねぇってキレられて。お利口な理屈で言えば俺がおかしいってのは理解はできるが、納得はまったくできねぇ。そんなクソシステムじゃ、能動的に行動できねぇやつは、例え知能が高くても他と同じ形になって埋もれてく。協調性っていうと聞こえはいいが、同じ形のピースしかねぇジグソーパズルなんざ面白くもねぇし、それで出来上がる社会は容易に想像がつく。

 だから早々に見限って一人になった。元々両親は俺に興味の欠片もなかったし、そもそも両親なんて存在がいたかどうかすら今となっては定かじゃねぇ。なんせ、顔すらまともに見たことがねぇからだ。俺がまだ言語すらまともに吐けねぇほどガキだったころに、円錐体のクソキメェ化け物を連れてきて、目の前で脳を取り出して俺に植え付けたその時が両親を見た最後の記憶だ。その場面で両親だって断定できる材料は一般常識に当てはめりゃまったくねぇが、俺の脳が両親だと理解した。

 

 家を出るとなった時、俺の口座にぶち込まれた金を使って、とりあえず大学に行くことにした。何をするにもまず金がいる。俺の頭ん中を実現するための研究費だ。適当にカスどもが喜びそうな研究を片手間でやって、適当に金をもらえばいい。回り道は死ぬほど嫌いだが、俺がやりたい研究を口にしても、既存の枠組みにはまって、そん中で上に立つことに満足したゴミどもから嘲笑されるだけだ。他人への期待は、俺からもっとも遠い概念だった。

 

「想像したことをそのまま現実にする空間か」

 

 研究室でどうせ誰も理解できねぇからと俺の研究内容をそのままPCに表示して飯を食っていた時、後ろから髪をボサつかせて、深ぇ隈を蓄えた女が俺のPCを覗き込んで、眠そうな声で呟いた。名前は覚えてねぇ。顔も覚えてねぇ。そもそも今までいたかどうかすらもわからねぇ。だが、その一言で俺は人生で初めて他人に興味が沸いた。この女がPCを覗き込んだのは一瞬。その一瞬で研究内容を理解したように聞こえたからだ。少なくともクソ知能のカスどもが俺の研究内容を見たら、一言目は「何これ?」っつークソくだらねぇゴミみてぇな言葉しか吐かねぇ。

 

「今、この世界で確認されているエネルギーだけでは実現は不可能だな。近いところで言えば霊体か? 魂のみとなった存在が実体に触れられるという現象は、曖昧な存在に実体を持たせるということに近しい。そしてそれを信じて研究費を出すような夢想家は、今の日本にはいないだろうな。なるほど、それでお前は金を稼ぐ機械になっていたのか」

 

 俺にへばりついていた退屈が揺れる音がした。こいつ、本気で言ってやがる。んで、そのエネルギーがあれば実現可能だって理解してやがる。今まで見てきたやつと知能のレベルが違う。俺に近い次元で脳を回してやがる。

 

「シゲキ的だな」

「は?」

「そうか、これがシゲキか……!!」

「……天才と変態は紙一重と言うが、お前は後者だったか」

「ちげェな。俺が天才であることは否定しねぇが、俺はシゲキ的だ!! 今俺がそう決めた!!!!」

 

 喉が掠れた。思えば、声を出すこと自体ほとんどなかった。話すだけ無駄だって切り捨てて。

 それがシゲキ的に愚かなことだと今この瞬間気が付いた。既存の枠組みを嫌っていた俺が、勝手にテメェの尺度で枠組みを作って他のやつらを当てはめて、勝手に退屈になってただけだった。もし俺が他人に対する興味を持っていれば、このシゲキ的な女はもっと早くに見つかっていたはずだ。

 

「オイ、俺と一緒にこい。シゲキ的な世界を見せてやるよ!!!!」

「悪いが、プロポーズなら受け付けていない。私の見た目を見ればわかるだろう」

「シゲキ的にバカ言うんじゃねぇよ。テメェほど魅力的な女なんざいねぇだろ!!!!」

「あっ、おい! 離せ!」

 

 女の手を掴んで、PCからデータだけ抜き取ってぶち壊し、研究室を出る。女の抵抗は抵抗って呼べねぇほど弱弱しい。どうせ抵抗したってシゲキ的に無駄だと理解してっからだ。

 

「で、どこに行くんだ?」

「金だ!! シゲキ的に金を生み出せるやつを探しに行く。テメェの存在で、まだ世界にシゲキ的なやつがいる可能性があることをシゲキ的に理解した!! それがわかってあのゴミ箱にいる理由がねぇ!!!!」

「無意味に叫ぶな。私の都合は無視か?」

「シゲキより優先する都合なんざねぇよ!!!!」

「それはお前の理屈で……まぁ、いい。それなら私の名前くらいは知っておけ。私は白菊百合香だ」

「俺は茂樹シゲキだ」

「は? いや、お前は確か……」

「今俺がそう決めた!!!」

 

 女……白菊がため息を吐いて、「わかった。よろしく、茂樹」と諦めたように呟いた。

 気づけば俺は笑っていた。いつからだ? 表情筋がここまで動いたのは久しぶりだ。

 

 こいつがついてくるってんなら、まずは俺のシゲキ的バイクで俺んちに行って、そっからシゲキ的なやつらを探し出す。どこにいるかはわからねぇが、シゲキを与えりゃ出てくるはずだ。表にいないからいねぇんじゃねぇ、埋もれてるから見えてねぇだけだ。シゲキ的なやつらは必ずいる。

 

「そうなると思ってきたが、クールに正解だったようだな」

「あらやだホント。相変わらずあなたのオシャレ推理は予知レベルね」

 

 頭回してこれからの計画を組み立てて、大学の敷地を出てすぐ、そいつらはいた。男とオカマ。男の方は西洋人。オカマの話じゃ俺たちがここにくるってのをこの男が予知したってことか?

 

 ンだそりゃ……!! 随分シゲキ的なことしてくれんじゃねぇか……!!

 

「茂樹、知り合いか?」

「これからもっと深ェ関係になる」

「話が早くて助かる。俺はシェリアーク・ルイス。クールについてこい」

「私はイベリスよ。オシャレについてきなさい!!」

「指図すんな。俺たちはシゲキ的についていく!!!!」

「理由は聞かなくていいのか? と言っても、お前はシゲキ的に無意味だと言うんだろうな」

 

 シゲキ的なやつらが探さなくても見つかった。今日の俺はシゲキ的についてやがる。

 

「ンで、どこで俺に目を付けた?」

「俺たちが立ち上げようとしている事務所。俺のクールな推理が正しければ、霊関係の力を持った者、異次元の力を持つ者が事務所に入る。そいつらを観察する場をクールに提供する代わりに、お前の力を貸してくれ」

「私たちはね。オシャレな人材を埋もれさせることなく、自由にさせたいの。最高にオシャレに自分を表現する場所。そこからどんどん範囲を広げて、世界中をオシャレにするのよ!!!」

「おい、今の話本当か?」

「クールに本当だ。俺にはその道筋が見えている」

「ちなみに、私はオシャレ金持ちよ。研究費なら惜しまないわ!!」

 

 シゲキ的に頬が歪む。さっき揺れた退屈に、シゲキ的に罅が入る音がした。

 

 

 

 

 

「ア? 白菊が倒れた?」

「えぇ。オシャレじゃないわ」

 

 俺たちにとっての楽園を作る計画、『project:eden』の準備段階。全世界のシゲキ的なやつらのリサーチと、この先数十年単位の計画、カスどもを置き去りにするシステムの構築。それを初めてちょうど一年くれぇの時だった。

 白菊は俺と一緒にシステム構築をやっていた。互いがシステムを組んで攻撃して、耐久性を死ぬほど上げて、シゲキ的な回り道をしていた。だってのに、倒れただァ?

 

「あいつ家にいんのか? シゲキ的に連れてきてやる!!!!」

「おい待て、シゲキ」

 

 それがなぜかムカついて、あいつの家に乗り込もうとした俺をルイスが止める。

 

「ンだ」

「さっき言ったことが聞こえなかったか? 百合香が倒れた、と」

「だから連れてこようとしてんだろうが」

「前々から言おうと思っていたが、百合香はシゲキではない」

 

 何当たり前のこと言ってんだ、と開こうとした口が、なぜか開かねぇ。

 

「ちょっと、ルイス」

「止めるな。シゲキ、友人として言うが」

「黙れ」

「シゲキ」

「黙れってんだよ。わかった。理解した。シゲキ的じゃねぇがな」

 

 白菊はシゲキ的だった。恐らく世界で俺の頭脳に一番近ぇのはあいつだ。俺の隣に立つならあいつしかいねぇ。

 

 でも、あいつはシゲキ的である前に普通だった。そんだけの、シゲキ的じゃねぇ話だ。

 

 

 

 

 

「今なんと言った」

「だから、今日から別チームで頭張って動け。俺は俺で勝手にやる」

「システムの運用保守は私たち以外に預け、シゲキ的リアルVR……私はこの名前にまだ納得していないが、それの研究を私たちで進めるはずだっただろう」

 

 白菊が復帰して、システムの構築が終わって。俺がシゲキ的に弾き出したシゲキ的じゃねぇ結論をぶつけると、白菊が反発してきやがった。

 白菊はシゲキ的だが、普通だ。放っておいても真にシゲキ的になるポテンシャルはシゲキ的にある。だから、俺がやるべきなのはそれまでこいつを潰さねぇことだ。

 

 俺の退屈を壊しにきたやつが、一番の退屈を持ってきやがった。

 

「それは俺一人で進める。だから」

「何を言っているんだ、シゲキ」

「……俺が言いてぇことがわからねぇお前じゃねぇだろ」

「わからなかったから聞いている」

 

 気づけば、白菊が目の前にいた。そうか、俺はらしくもなく目ぇ逸らしてたのか。

 

「邪魔だっつってんだよ。俺のシゲキ的速度にテメェが合わねぇ。そんだけだ」

「……そうか」

 

 白菊が一瞬目を見開いて、俺から目を逸らした。

 

「そう、か」

 

 白菊が、俺に背を向ける。

 

「……わかってはいた。私はお前には何をしても敵わない。それでも食らいつこうと必死になった。思えば、必死になったのは初めてだった。お前が必死をくれたんだ」

 

 白菊の肩が震えていた。今度は、目を逸らさなかった。なぜか、目を逸らしちゃいけねぇと思ったからだ。

 

「お前と出会って!! 今、まで……そうだな、お前の言葉を借りるなら」

 

 白菊が俺に背を向けたまま歩いて、ドアの前に立って、少しだけ俺を見た。

 

「シゲキ的だった」

 

 ドアの向こうに消えていく白菊を見送って、その場に座り込む。もっとうまい言い方はあった。まだレベルが足りねぇからとか、正直に言ってもよかった。でもそれを言えば、シゲキ的なあいつならまた食らいついてくる。思いきり切り離すくれぇのことをしねぇと、あいつは納得しねぇ。

 

「……アー」

 

 俺はこの時、クソだと罵った教育機関の存在する意味を理解した。こういうときの、こうならねぇようにする術を知るためか。

 

 形がわからねぇと、ジグソーパズルは完成しねぇから。

 

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