稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第165話 project:excite (4)

 目の前にはミッドナイト・サイコナイトといつの間にか本体で現れやがった安倍聖麗。各地にいるシゲキ的野郎どももいつ俺に攻撃してくるかわかんねぇ。

 が、『想像したことが現実になる空間』において警戒するべきなのは、目の前のこの二人と芥川愛人、リニス・ディバルディア、物部語、ザミリエル、ルーシィか。芥川愛人はルイスでも思考を読めねぇほどの気分屋、ワリィ言い方をすれば破綻者。この空間においては一番自由度が高ェと思っていい。リニス・ディバルディアと物部語は、『物質』じゃなく『世界』そのものを塗り替える可能性がある。元々世界観を作るのに長けたやつらだ、想像するのが物質じゃなく、空間、世界そのものだとしても不思議じゃねぇ。

 

 ンで、ザミリエルとルーシィ。こいつらは目の前の二人とは別ベクトルのオカルトの力を持ってやがる。霊的なエネルギーの解析は進んではいるが、そっちはまだ未解明、っつーかそもそもこの地球上じゃ観測する方法がねェ力。あいつらもあいつらで天敵だ。

 

「この空間じゃなけりゃあな!!!!」

 

 イメージするのは殺戮兵器。形状は人型、探査範囲は全方位。武器は俺が持つシゲキ的兵器と同程度。ここに時間使ってる場合じゃねぇ。雑兵掃除ならこの程度で十分だ。

 シゲキ的な色のポリゴンが歪んで渦を巻き、段々とその輪郭が現れる。やがて形となったそれの数は十。殲滅しきるには足りねェか? これで十分じゃねェうちの事務所がシゲキ的すぎんな。

 

「シゲキ、なんだそいつらは!」

「シゲキ的殺戮兵器!!!! 戦闘能力は俺と同程度!! テメェらの相手をしてる間に、こいつらに掃除させようと思ってよォ!!!!」

「おや、意外ですねぇ。こんな時にボランティアを?」

「なにっ! 見上げた奉仕精神だ……!!」

「殺戮っつったのが聞こえなかったのかテメェら!!!! 行ってこい!!!!」

 

 シゲキ的殺戮兵器が飛び上がるのを待たず、更にイメージする。先にシゲキ的緊急バリアの復活。次に解析機能。オカルトはまだ未知だ。あいつらの力を受けて、解析回して新しい理論、数式を組み上げる必要がある。後手に回んのはシゲキ的じゃねぇが仕方ねェ。それに、『想像』っつー世界なら、ミッドナイト・サイコナイトが恐らくこの中じゃ一番強ェ。自分の中に確固とした概念がねェからこそ、シゲキ的に想像の自由がある。

 

「せ、聖麗!! どうする!! 清掃ボランティアではなく殺戮に行ってしまったぞ!!」

「どうするも何も、ワタシたちが承ったのはシゲキさんの打倒ですから、それをまっとうするまで。というわけでシゲキさん。現代最高峰改メ歴代最高峰の陰陽師の力。お見せいたしましょう」

 

 安倍聖麗が懐から十二枚の札を取り出す。灰色のそれは、安倍聖麗が掲げた瞬間、藍色の鈍い光を帯びた。あれの一枚一枚に、シゲキ的なオカルトのエネルギーが内包されてんのが理解できる。なんかの媒介か?

 

「安倍としては式神を使役することが望ましいらしいですが、そういうのはしゃらくさいので。いただきます」

「なにっ!? 札を食っただと!?」

 

 それは俺のリアクションだろうが、っつーのは飲み込んで、安倍聖麗の変化に解析をかける。十二枚の札を飲み込んだ安倍聖麗の輪郭が歪んで、朧げになった。髪と肌、服、安倍聖麗を構成する要素すべてが絵具を滲ませるみてェに、徐々に白く染まっていく。

 それと同時に、オカルトのエネルギーがシゲキ的に増加していく。発生源は安倍聖麗、その内側。力を取り込んだ? あの札に内包されてたのはなんだ。数は十二、姓は安倍、十二神将か? あいつの使うオカルトは、伝承もしくは歴史に準えたモンか。取り込んだのは数式、環境変数みてェなもんか? 安倍聖麗から生体反応が消えた……消えたわけじゃねェな、生物としての格が上がった。恐らく生物っつー表現もシゲキ的に正しくねェ。アレに当てはめるとすんなら、事象か。

 

「ふぅ……キンモチィ……」

 

 シゲキ的にキメェ。

 

「なるほどな。テメェのオカルトは伝承、歴史。そういう概念に形を与えるモンか。出力は格に左右されんのか? いや、ちげェな。テメェが『安倍』だからその出力になってんのか」

「ほォらだから言ったじゃないですか。アナタは一度見れば正解に近い仮説を打ち出せる。だから見せたくなかったんですよ」

「おい、なんの話をしている! というかカッコいいなそれ、なんだそれは聖麗! 俺もできるのか!?」

「ワタシじゃなきゃぐちゃぐちゃのミンチになりますが、やってみます?」

「よし、行くぞ聖麗! 俺とお前でシゲキを打ち倒す!」

「心配すんな、俺がシゲキ的にミンチにしてやるよ!!!!」

 

 ミッドナイト・サイコナイトの鎧と剣がどういうもんなのかはわかってねェ。ただ、得体の知れねぇ何かだってことはわかる。そんなもんには触れねぇのが一番だが、理解において触れねぇことはシゲキ的にありえねぇ。それは、安倍聖麗も同じだ。

 

 真正面からくるバカどもに対し、シゲキ的バリアを十層展開する。エネルギーの出力的に恐らく越えられるが、これくらいがやつらの威力を見るのにちょうどいい。

 

 いや、バカか俺はテメェの常識で考えてんじゃねェ!!!!

 

「こんにちは♡」

「やっぱそうかテメェ!!!!」

 

 シゲキ的バリアをすり抜けてきた安倍聖麗の手が、俺の胸に触れる。それと同時に放たれるシゲキ的な白い光に吹き飛ばされた。

シゲキ的なことがありすぎて冷静じゃねェ。さっき自分で『格が上がった』って理解したばっかだろ。物理的な現象で干渉できねぇなんてことは予想できたはずだ。シゲキ的に死ね俺!!!!

 

ただ、シゲキ的緊急バリアは機能してる。少なくとも、事象丸ごと無視するわけじゃねぇな。物理干渉無効……ってよりは、干渉するかしねぇかを安倍聖麗自身が選べるってところか。

 

「闇より生まれし漆黒。今ここに顕現し、裁きをくだせ! くらえ! シゲキ!」

 

 運動能力が低いからか、吹き飛ばされた俺に追い付けず、離れた位置でミッドナイト・サイコナイトが剣を振り上げた。あの位置から? ンであのクソダセェ詠唱みてェのはなんだ。斬撃を飛ばすみてェなことが……いや、シゲキ的にクソ厨二病だったアイツのことだ、その程度で収まるはずがねェ。既に俺の思考で完結できる世界じゃねェんだ。シゲキ的に想定外を想定しろ!!!!

 

 ミッドナイト・サイコナイトが剣を振り下ろすと、ドス黒い衝撃波が放たれた。ここまでは想定内。問題は、あの衝撃波にどういう概念が乗っかってるかってことだ。今の俺にとっての想定外は、シゲキ的緊急バリアが機能しねェこと。安倍聖麗が貫けなかったものを絶対だと思い込んだらその時点でシゲキ的に負けだ。

 なら、とるべき行動は回避。シゲキ的バリアを展開して、シゲキ的兵器からエネルギーを放出して空に逃げる。生身で触れなくても、ある程度は解析を回せる。実体験に勝る経験はねェが、この場合は仕方ねェ。

 

 んで、その判断はシゲキ的に正解だった。衝撃波に触れたシゲキ的バリアが、焦げた紙屑みてェにボロボロ崩れ去る。触れたモンを崩壊させる、とかか? だとしたら、物理的な攻撃に対する防御手段のシゲキ的緊急バリアとは相性最悪だな。

 

「流石シゲキ、俺の魔剣サイコブレードの力に気づいたか!」

「ンだそのシゲキ的にクソダセェ名前は!!!! お遊戯会なら別でやれ!!!!」

「えっ!!? カッコいいだろう!! 魔剣サイコブレード!」

「いえ、剣の名前もダサいですし詠唱? でいいんですか? 剣を振るときのアレも恥ずかしくて聞いていられませんでした」

「このカッコよさがわからんとは……かわいそうなやつらめ」

 

 あいつもあいつでハイになってやがんな。が、それでいい。シゲキ的なやつは、自分を持ってねェと話にならねェ。この空間じゃあ自分を表現できる、自分のエゴを好き勝手にぶつけることができるやつが一番強ェ。

 シゲキ的サイコブレードの力は常にあるわけじゃねェ。そんなもんを筋力がまったくねぇミッドナイト・サイコナイトが持つのは自殺行為だ。だとするとトリガーになんのは詠唱。エネルギーはオカルト、だが安倍聖麗のものとは質が違う。安倍聖麗は生命に近ェエネルギーを感じるが、ミッドナイト・サイコナイトは芯から意味不明だ。禍々しさ、冒涜的な力を感じる。新しく生み出した、定義づけのできねぇエネルギーだ。あの力の定義はあいつの中にしかねェ。

 

 が、理解した。エネルギーが未知でも、そこにあるなら問題ねェ。科学の先を想像しろ。テメェの常識全部バラして、あいつらの常識を取り込んで再構築しろ!!!!

 科学は、進む時代に適応するためにある。時代を進めるためにある。チンタラ生きてるだけのゴミどもを置き去りにするためにある!!!!

 

「ワタシ飛べますが、ニコさんは飛べます?」

「バカにするな! 空を飛ぶ想像など、男なら一度はやったことがあるだろう!」

 

 適応しろ。その先に進め。俺だけの常識、世界を創って有象無象を置き去りにしろ!!!!

 

「──無謬(むびゅう)の円環。鉄は血を呑み、歯車は命を挽く」

「なっ、詠唱だと!? マズいぞ聖麗!!」

「シゲキさんの頭がですか!?」

「何を言っている!! シゲキはいたって正常だ!!」

 

 新たな概念を生み出すなら、同じ手法を取ったミッドナイト・サイコナイトのやり方が最高率。アレは言葉に意味を乗せ、役割を与えて、イメージを形にする力がある。

 

「眠りし螺旋、裂けよ。歪みし世界に律を刻め」

「クッ、なんてカッコいいんだ……!!」

「言ってる場合じゃないですね。攻撃しますか」

 

 安倍聖麗が腕を振るう。放たれた白いエネルギーは、俺の手前で停止して、粒子となった。

 

「……アレ? 本気でマズいのでは?」

「だから言っただろう!! クッ、どうすれば……!!」

「光輪の中枢。静止の殻。無限の論理」

 

 シゲキ的兵器が崩れ去る。俺の中枢が生まれ変わる。

 

「断罪の冠。整合の咆哮。廃都の指。審判の眼」

「ニコさんのソレならどうにかできるのでは?」

「魔剣サイコブレードだ!! というか正気か!? 詠唱中だぞ!!」

 

 目に映るものすべての情報が脳に流れ込む。そのすべてが理解できる。俺にとっての非常識が、すべて常識になる。

 

「この世のすべては、シゲキ的か、シゲキ的じゃねェかだ!!!!!」

「ウワー!! 最悪だ!! カッコよく詠唱をしめてくれー!!」

「……まァ、アレに近づかないのは正解ですかね」

 

 解析、再構築、適応。起きた事象すべてに対してシゲキ的に高速でそれらを実行する。未知の事象に対しても、新たな数式を創り出す。科学の到達点。俺のイメージするシゲキ的未来。

 

「最高にシゲキ的だ。テメェらも今すぐシゲキ的にしてやるよ」

「一つ質問ですが、ワタシの攻撃がシゲキさんの前で停止し、崩れ去ったのは?」

「簡単だ。シゲキ的じゃねェからだ」

「なるほどな。シゲキにとってシゲキ的でないもの、つまりシゲキにとっての『常識』が無効化されるということか」

「せェかい。やっぱシゲキ的だなァ、ミッドナイト・サイコナイト!!!!」

 

 どうせその過程は理解してねェだろうがな。だが、俺の今の答えで一瞬でそこまで導きだせるってことは、ミッドナイト・サイコナイトにとって()()()()()モンだったってことだ。

 俺に対する信頼か、あいつの想像する世界がデケェのか。どっちでもいいが、現時点で俺に届く可能性があんのはあいつだけだ。

 

「っつーわけだ。付き合えよ、シゲキ的試運転!!!!」

 

 ってわけにもいかねぇか。どうやら、また邪魔が入ってくるみてェだな。

 

 最初に情報をキャッチしたのは聴覚。バイクのエンジン音が二つ。それは俺とミッドナイト・サイコナイト、安倍聖麗の間で停止した。

 

「Ladies & Gentlemen!! これより、『project:eden』二大エンターテイメントスターが、世界を熱狂の渦に巻き込むショーをみなさまに御覧に入れましょう!!」

「エンターテイメントワールド、『top of entertainment』!!」

 

 リニス・ディバルディア、物部語。警戒していた『世界』を創るシゲキ的野郎ども。リニス・ディバルディアが天高く腕を突き上げると、空間が変わった。見た目に変化はねェが……。

 

「この空間は」

「想像したエンターテイメント空間を作り上げ、そのルールに則ってエンターテイメントバトルを行う。なるほどなァ? 正面からの戦闘じゃ勝てねェから、そっちのルールに引きずり込んだってわけか。それに俺が付き合う義理もねェが、テメェらのシゲキに乗って、テメェらのルールで打ち負かすのも悪くねェ」

「ふっ、流石はシゲキだ。貴様ほどのエンターテイナーであれば説明は不要だったな! ニコ、聖麗! 俺たちが作り上げるエンターテイメントに参加したい気持ちは重々承知しているが、今は大人しくしておけ!」

「今の主役は俺たちだ!! 『エンターテイメントワールド:ロマンティック・サーカス』!!」

 

 空間が塗り替えられる。街中からサーカスへ。サーカスって聞きゃあ想像できる空中ブランコ、火の輪、ジャグリング。サーカスには俺とリニス・ディバルディア、物部語しかいねェ。あの二人を切り離したか。

 

「さぁ始めようぜエンターテイメント!!」

「見せてみろ、貴様がエンターテイナーたる所以を!!」

 

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