稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第166話 project:excite (5)

『シゲキのアレは、目の前の現象を瞬時に解析し、即時に適応するものだな』

「なんとかできそうか?」

『なんとかするが、現状なんとかできるとすれば初見殺し以外ない。ニコか芥川愛人くらいか。安倍聖麗はもう力を見せてしまっているからな』

「ということは、ワタシはそこら中にいるシゲキさんの生み出した殺戮兵器狩りに回った方がよさそうですねェ」

 

 目の前に虹色で配色されたドームテントが突然現れ、そこからはじき出された俺たちは、作戦会議を行っていた。もちろんシゲキについてだ。

 シゲキが詠唱を始め、背にあった六本の腕が無くなった。見た目ではあまり変化がわからなかったが、目に幾何学模様が浮かんでいた、くらいか。それ以外はいつものシゲキだった。

 

 だからこそ厄介だ。『想像したことが現実になる』この空間で、『科学の到達点』をイメージした結果が自分自身。これ以上ないほどブレないものだと言っていい。『想像』を根幹としているのであれば、何よりもブレない想像が一番強い。

 

『そうだな。アレが相手では、牽制もすべて無意味。起きた事象に対して一つ一つ丁寧に対処するのではなく、オートで対処されるだろう。シゲキにとっての『常識』に当てはまらないものであっても同じだ』

「ただ、シゲキにとっての『常識』に当てはまらなければまだ可能性はある」

『あぁ。既存の解法のどれを使っても解析できないものであれば、当然新たな解法を作り出す必要がある。そのタイムラグが有効打を与えられるチャンスになる』

 

 ということは、魔剣サイコブレード以上のものが必要ということか……。シゲキにもカッコいい詠唱を見せてもらったし、俺もお返しするべきなのかもしれない。あんなにカッコいい詠唱の末に生まれたものなのであれば、あれ以上にカッコいいことでお返しせねば失礼というものだ。

 つまり何をするか。詠唱だけでは足りん。シゲキの上に行くには、儀式が必要だ。

 

「よし、これより儀式を開始する」

「その間に殺されたら面白いですねェ」

『まぁ、もうそろそろ時間稼ぎが到着する頃だ。リニス・ディバルディアと物部語以外のな』

「儀式に必要なのは黒いチョークと紅のろうそく、更に契約の書、魂の触媒……」

 

楽しそうなところすまん、キツイ

かゆい

満ちゃんが近くにいなくてよかった

ニコが楽しいならそれでいいよ

甘やかすな

ニコがずっとこのままになったらどう責任取るんだ?

 

 フフフ……。どうやら、天邪鬼な俺の視聴者が、俺の儀式を楽しみにしているようだな……。

 

 が、儀式を完遂しないに越したことはない。リニスと物部さんがシゲキを打倒する可能性だってないわけじゃないからな。

 

 

 

 

 

「『エンターテイメントワールド:ロマンティック・サーカス』!! こいつは」

「説明はシゲキ的に必要ねェ。見りゃ理解できる」

「フン、いいや、貴様はわかっていない!! 貴様が理解していて何の意味がある!! エンターテイメントとは俺たちだけで完成するものではない!!」

「そうだぜビギナーエンターテイナーシゲキ! 言ったろ? 世界を熱狂の渦に巻き込むってな!! エンターテイメントは、俺たちと、オーディエンスの熱で作り上げられる最高のショーだ!! 独りよがりのエンターテイメントはエンターテイメントじゃねぇよ!!」

 

 物部が指を鳴らすと、俺の服装が一瞬で変わる。イベリスが着てる騎士服みてぇなやつだ。屈辱的だぜ。俺が解析できてねぇだけで、本来の効力は精神攻撃か?

 

「さぁみなさんお耳をちょうだいたします! これよりご覧いただくのは、数々の試練を乗り越えて、姫のもとへ向かう騎士の物語! ジャグリングによるナイフの嵐、迫りくる大小形状様々な炎の輪!! そして、姫の待つバルコニーへ飛び移る空中ブランコ!」

 

 物部語の説明とともに、景色が変わる。目の前には上と左右から、物理法則を無視して回転しながら乱れ飛ぶナイフの嵐。その奥には数十を超える炎の輪。更に奥には星の装飾が散りばめられた空中ブランコ。最奥には真っ白な白と、そのバルコニー。

 

「って、おや? バルコニーに姫がいない? なーんてご安心ください! 我々がいるこの空間は、想像したことが現実になる空間! であればもうご理解いただけたかと思います! バルコニーで騎士を待つ姫は、騎士にしかわからない! 騎士が想像する、最も大切な女性! さぁみなさんバルコニーにご注目! 姫のご登場です!」

 

 この空間に連れてこられた瞬間、無駄だと思った。このルールが俺には無意味だからだ。最も大切な女性、ンで姫。そんなもんに当てはまるやつは俺にはいねェ。そもそも該当者がいねェなら成立しねェ。

 で、この空間はエンターテイメントに反した行為にはペナルティが課される。俺はそれ自体を無効化できるが、あいつらはそうじゃねェ。『オーディエンスへの説明と異なる』ってのは立派なエンターテイメントに反した行為だろ。早速自分で自分の首絞めやがったな。

 

「ハ?」

「現れたのは、純白のドレスを身にまとったアザミ・フレンジー!!」

「クッ、エンターテイメントすぎる!! やはり見上げたエンターテイナーだな、シゲキ!!」

 

 と、思ってた。なのに、バルコニーにはらしくもねぇドレスを着たアザミがいる。アレが、俺の想像? ちげぇだろ、なに髪ふわつかせてんだテメェ!!!! 俺が観測してねェ範囲で何かやられたか!? 認識操作か? 精神攻撃ってのは間違いじゃなかったか!!!!

 ……いや、落ち着け。俺の中で『最も大切な女性』を定義すんなら、アザミ以外いねェだろ。そんだけの単純な話だ。浮ついたことなんざ一切ねェ。

 

「シゲキ!! 貴様の最も大切な女性、いや、姫をその手で掴め!! 貴様のその手は破壊するためにあるのではない。姫の手を掴むためにある!!」

「シゲキ的にやかましいんだよ!!!! 瞬き一つするんじゃねェぞ!!!!」

 

 俺の科学の到達点、シゲキEXはすべてを解析、掌握する。エネルギーの操作はもちろん、受けた事象をちょうど破壊するエネルギーの放出も可能だ。

 故に、俺に触れたものはシゲキ的に崩壊する。

 

「シゲキ、光の線となって爆走!! シゲキに触れたナイフがすべて崩れ去った!!」

「地上を奔る流れ星か。姫の願いを叶える騎士らしい、エンターテイナーに相応しい姿だ」

 

 炎の輪。これを破壊するとペナルティがある。それは無効にできるが、あいつらの舞台で、正面から打ち破るっつったからには真正面からやるしかねェ。

 安倍聖麗のオカルトは科学で証明できた。同程度の出力とはいかねェが、似たようなことなら再現可能だ。

 

「なにっ、地上を奔る流れ星ではなくなっただと!?」

「空飛びやがったぜあいつ!! 炎の輪も難なく通り抜けやがった!!」

 

 最後は空中ブランコ。このままバルコニーに行ってもいいが、使わねェとアウトだ。ンで、空中ブランコを掴んで飛んで、宙に浮かぶ一瞬。そこのパフォーマンスも必要。なるほどな、そもそも運動能力が低い相手をこの空間に引きずり込めば楽に勝てるってことか。『世界』を創り出す『想像』の強ェところだな。シゲキ的でいいじゃねぇか!!!!

 

「シゲキが空中ブランコを掴んで、飛んだ!!」

「光を纏ったシゲキが空中で回転することで、行く層もの光の円が……!! フッ、やはりエンターテイナーか、貴様!!」

 

 勝手に盛り上がってやがるあいつらの声を背にして、バルコニーに着地する。目の前には、やっぱ似合わねぇカッコしたアザミ。興味がなさそうにしてンのはらしいが、所詮俺の想像が作り出したモンだ。本物には敵わねェ。

 

「最後は姫による騎士の姿が何点だったか!! その点数によってはご褒美がもらえるぜ!! 騎士と姫と言えば、口づけってのがテッパンか?」

「そしてオーディエンスには申し訳ないが、そうなった場合はカーテンで区切らせてもらおう!! それは二人だけのエンターテイメントだからな!!」

 

 クソやかましい。この空間から出たら真っ先にシゲキ的にしてやる。男女のキスごときでぎゃーぎゃー騒いでんじゃねぇよ中学生かテメェら。

 

「シゲキ」

 

 俺の想像が作り出したアザミが口を開く。俺の足元からゆっくりと目線を上げて、俺の目を見て一言。

 

「らしくない。0点だ」

「0点だー!!! エンターテイメント的にはおいしいぜ!!」

「気を落とすなシゲキ!! 貴様はエンターテイナーとして誇りを持ってエンターテイメントをしたまでだ!!」

「勝手に慰めてんじゃねぇよテメェら!! さっさとこの悪趣味な空間解きやがれ!!」

「そう慌てんなよ。一つ目の舞台は大失敗!! じゃあ次は俺たちと一緒にやろうぜ!! 『エンターテイメントワールド:魔王の降臨』!!」

 

 物部が指を鳴らすと、俺の服装が元に戻って、空間が変わる。

 黒い階段が赤ェ絨毯に覆われ、中央へと導かれるように伸びている。その先には、シゲキ的な玉座。王座の背後には満月が浮かんでやがる。

 玉座の両脇にはシゲキ的に紫に輝く球体が浮遊し、心臓みてェに脈動している。

 

 その玉座。そこにいんのは、上半身裸で、体色が薄い紫。髪は肩まで届く銀。頭には一対の禍々しく赤黒い角が生えて、目には満月と似たような光があった。そいつの手前には、そいつまでの道を塞ぐように、真っ白な翼を背から生やしたガキがいる。

 

「そして、ここで特別ゲストのご登場、いや、降臨だ!!」

「よくきたな、勇者シゲキ……いや、勇者と呼ぶにはあまりに矮小な存在だ。ここは塵芥と呼んでやろう」

「ハハ。久しぶりに元の姿に戻れたからってバカみたいにイキってて恥ずかしいね」

「なにおう!?」

 

 ザミリエル、ルーシィ。こいつらも警戒していた相手だ。まだ俺が観測してねェ力を使う。シゲキEXは万能だが、未知すぎる力が相手だと効力が弱まる。大したことがねぇモンなら問題ねェが……。

 

「『エンターテイメントワールド:魔王の降臨』は、その名の通り!! 現れた魔王を打倒する!! さぁ、俺たちと力を合わせて魔王を討つぞ、シゲキ!!」

「いいのか? 味方だろ」

「味方? ハッハッハ!! 我輩と貴様らのような人間が? 笑わせるな!! 我輩にとって人間は家畜も同然!! 少しでも生を永らえたければ跪け!! そうでなければ、我輩の手で塵にしてやろう!! うおおおおおおおおお!!!」

「あ、魔王様。僕が先にやる流れ……まぁいいや」

 

 さて……ちょうどいい。もらってくか、シゲキ的知識を。

 

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