稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「おかしいと思わないか?」
「いつの間に隣に来てんだテメェ」
「お前の隣に立ちたくて、いてもたってもいられなくなった」
「ミッドナイト・サイコナイトに対するソレが俺に効くと思ってんのか」
「思わんな。私も反吐が出そうで後悔しているところだ」
音もなく、アザミが俺の隣に現れる。バカ二人はバカみてぇに何かを言い合って、戦おうって空気でもねェ。手を組むどうこうっつってたが、芥川愛人と組むなんざ、一時的に味方ってだけでいつ殺されるかわかんねぇ不確定要素を抱えるようなもんだ。思いついた面白いことを迷わずやるシゲキ的なやつだからな。
ンで、おかしいと思わないかってのは、アザミが言っていた『理不尽の正体』に対するものだろう。おかしいとは思ってるが、そもそもあいつらはおかしいのが普通みてぇなモンだ。俺の理解の外にあるからシゲキ的で面白れぇ。あいつらの傷が治ったのも、無意識に無事な姿を想像したとかそんくらいのモンだろ。逆を言えば、無事な姿を想像できねぇくらいぐちゃぐちゃにしちまえばそれで終わりだ。
「残念だが、それは違う」
「もったいぶんな。バカに見えんぞ」
「ふふ、すまんな。お前より理解しているものがあることに、少し浮ついているのかもしれん」
「ンなみみっちいやつだったか?」
「お前がそうさせたんだろう。あるいはニコと満と優姫か」
最近は、喧嘩を売るぐれぇしかしてなかったが、こいつこんなんだったか? VTuberとして活動して何かが変わったのか。だとしたら、アザミが『理不尽の正体』を理解できてんのは、その変わった何かが理由ってことか。
アザミが変わったことと言えば、感情がわかりやすくなった、ってとこか。俺と一緒にいた頃は感情の起伏がほとんどなかったが、今は違ェ。今だって俺相手にかわいらしく笑う始末だ。もっとも、さっきのは俺に対する優越感で笑ってただけで、世間一般で言うかわいらしいとはかけ離れてる。
「さて、理不尽の正体についてだが」
「結論だけ言え」
「早漏か? 待つ甲斐性というのも必要だぞ」
「俺が早漏かどうかも覚えてねェ。そういう行為自体くだらねぇからな。テメェで試してやってもいいんだぜ?」
「私とお前の子なら、産まれた瞬間に歩いて喋りそうだな。興味はあるが、遠慮しておく」
……俺たちのガキなら、かなりシゲキ的だろうな。数年で今の俺の位置にまで届くかも知れねェ。ムカつくことにフラれたが、納得させてガキだけ作るか? 興味はあるっつったんだからナシではねぇってことだ。番にすんならアザミ以外いねぇしな。
「で?」
「何か恐ろしいことを考えていたような気もするが……まぁ、それはいい。結論を言えば、ギャグ補正だ」
「ギャグ補正?」
「あぁ。試しにあいつらをぺしゃんこにしてみるか」
アザミが指を鳴らすと、上空に千手観音が現れて、足であいつらを踏み潰した。そんだけ手あんなら手ェ使え。
「あいつらはどうなると思う?」
「ア? 普通なら弾け飛んでシゲキ的な血だまりになってんだろうが、あいつらなら何かしら対処してんだろ」
「そうか。ならよく見てみろ」
アザミが指をもう一度鳴らすと、千手観音が消え失せた。かと思えばいきなり地面から巻き上げるような風が吹いて、二つの影が空に舞い上がる。
それは、紙みてェにペラペラになったバカ二人だった。臓器も何も入らねぇ薄さのはずなのに、「よくもやりおったな!!」「マズい!! 風で運ばれる!!」と言語を発してやがる。紙みてぇになる想像? だとしても踏み潰された衝撃は受けるはずだ。そもそも紙みてぇになったとして、人間なら紙みてぇになった時点で活動ができなくなる。あの姿で無事なのがそもそも意味不明……。
「ギャグ補正ってそういうことか?」
「あぁ。かみ砕いて言えば、どのような攻撃だろうと、どのような状態だろうと、理屈もクソもない理不尽で乗り切られる。あぁいう風にな」
「ちょうどいいところに水があってよかった。おかげで元に戻れたぞ!!」
「人間のほとんどは水分で構成されてるらしいしね」
「意味が……わからねェ……」
「行き過ぎた想像力の結果だな。『そうなった方が面白い』を無意識に想像している。更に自身ですら違和感を持つであろう想像も、その想像に適するよう無意識に認識を変えているな。先ほどは傷が治った理由に違和感を覚えていたが、今はそうじゃない。人間がペラペラになるわけがないし、水を吸って元に戻るわけがない。あいつらに勝つには、『自分たちがやられた方が面白い』と思わせるしかない」
「……まぁ、わかった」
自分の中での絶対的なルールで守られてるってことか。感覚的には『クールだから』でなんでもやりやがるルイスと、『オシャレだから』でなんでもやりやがるイベリスに近ェ。あいつらがこの空間にいねェのはシゲキ的に残念だが、今の状況を見ると好都合か。
……で、勝つためにはあいつらにどうやって自分たちがやられた方が面白いって思わせられるかを考えなきゃなんねぇってことか。他人を無視してやってきた俺の敵としては百点満点だ。人の気持ちなんてモンには滅法弱ェ。
「そちらからこないのならこちらから行くぞ!!」
「千手観音に潰されたから、随分あちらからこられてたと思うけど」
「そちらからきたからこちらも行くぞ!!」
ゆっくり考えてる暇もなさそうだ。さっきの千手観音でバカ二人がやる気になってやがる。ミッドナイト・サイコナイトが剣を振り上げて、バカみてぇに「うおおおおおおおお!!!!」っつって雄たけび上げて突っ込んできた。真正面からくるなら普通に撃ち落とせる。瞬間移動するってんなら生体反応キャッチした瞬間そこを撃ち抜けばいい……が、恐らくそれだとブチ殺すには至らねぇ。
「って、ンだ!?」
「お」
まったく理解できねぇモンをごちゃごちゃ考えてると、アザミが俺の胸の中に飛び込んできて、なぜか俺の意思とは関係なくアザミを抱きしめる。精神干渉か? ンなモンを受けるような脳にはなってねェはず。何が起こってんだ!?
「ハッハッハ!! 動揺してるみたいだね!! 男と女が並んだら、そりゃもうくっつくしかないでしょ!! さぁニコさん、僕が二人をまとめて上げたから、一気にやっちゃって!!」
「何っ!? 二人は愛し合っていたのか!? であれば俺が斬るわけには……!! おい!! ラブロマンスをするならすると言っておけ!! 危うく俺が空気を読まず力を振るう愚か者になっていたとこだっただろうが!! ……ち、ちなみに、いつから?」
「どうやら、同期である私の恋愛模様に興味津々らしい。あいつは童貞だから私たちがキスの一つでもしてみせれば恐らく蒸発するが、どうする?」
「ゲボで栄養補給してぇのか?」
「生憎そこまで金には困っていない。残念だ」
俺たちを見てもじもじしてるバカを適当にシゲキ的極太ビームを放つと、バカみてぇな悲鳴と一緒に爆発が起きた。爆発が起きるようなモンでもねぇのに起きたのもギャグ補正ってやつか?
それより、厄介なのは芥川愛人だ。あいつが『そういうもの』だと思い込んだら、例え他人でも操ることができる。一番精神干渉がしにくいはずの俺を操れたことがその証明だ。加えて他人をおちょくんのがシゲキ的に好きなあいつがそれをできるってのがクソ厄介。何をやらされるかわかったモンじゃねェ。つかまだ離れられねぇし。
さっきのビームでバカが一人削れてたらまだやりやすいが、どうせ死んでねぇだろと目を向けると、煙の中からシゲキ的な装飾が施された黒い盾を構えたミッドナイト・サイコナイトが出てきた。あんな悲鳴上げてたクセに無傷で。シゲキ的に意味不明。
「ふぅ……おどかしおって……」
「よかったニコさん。無事だったんだね」
「あぁ。どうやら、決戦前に満が作ってくれたお守りが盾になってくれたらしい」
「そういうので本当に盾になることある?」
腕の中でアザミが笑う。なるほど、こういうので笑う感情を理解したから、ギャグ補正ってのにも辿り着いたのか。どこに理解のタネが転がってるかわかったモンじゃねぇな。
「それより愛人!! よく考えればアザミとシゲキが愛し合っているわけがない!! 何かしたな、貴様!!」
「お互いに好きなんだったら抱き合うのが普通じゃん。そう思っただけ」
「何っ!? そうなのか!?」
「どうなんだ、アザミ」
「好きだったら抱き合うのが普通でもないし、好き合ってもいない」
「何っ!? そうなのか!?」
「恥ずかしがってるだけだよ。それか無意識にとか?」
「何っ!? そうなのか!?」
「そろそろ遊ばれてることに気づけテメェ!!!!」
扇風機みてぇに首ぶんぶん振って俺たちと芥川愛人を交互に見やがって!! つーか一応既婚者だろうが。男女関係ならせめて俺よりは強くねェと辻褄合わねぇぞ。
それに、あいつの頭があれば少し考えりゃわかるはずだ。『好き合ってる』ってのは俺たちの主観じゃなく、芥川愛人の主観しかありえねェ。俺たちの意思を介在させんのは、自分自身の想像の範疇をシゲキ的に越えてる。俺とアザミが抱き合ってんのは、芥川愛人の主観で俺とアザミが好き合ってるように見えて、好き合ってる男女なら抱き合ってんのが普通だって想像したから今の光景が出来上がったってだけだ。俺とアザミを見て好き合ってるって思うのもイカレてやがるが、それに関しちゃ今更だな。
「何っ!? 俺は遊ばれていたのか!? おのれ愛人!!」
「ニコ。ちなみに好き合っていないとは言ったが、片想いの可能性もあるぞ」
「どっ、どっちがだ!? アザミは確かシゲキを嫌いと言っていて……いや、いやよいやよも好きのうちという言葉がある。シゲキはどうだ? シゲキはアザミとアザミ以外でテンションに差があるようにも思える。待て、どちらにせよ俺は愛が生まれる瞬間を引き裂こうとしている最低のクズ野郎なんじゃ」
「──うっさいわね、さっさと戦いなさいよ!!」
ペチャクチャ意味のねぇことをシゲキ的に吐くミッドナイト・サイコナイトの言葉が、頭を叩かれることによって強制的に止められる。頭を叩いたのは、俺が警戒してもいねェ、シゲキ的だが普通の女。
「何をする月宮さん!! いや、それより聞いてくれ、アザミの恋が始まるかもしれん!」
「だとしてもアンタが役に立つことなんてひとっつもないんだから、さっさと自分がやるべきことやって終わらせなさい!! さっきからごちゃごちゃワケわかんないこと起こして喋ってめんどくさいのよ!!」
「マズいぞ、シゲキ」
アレが一人増えたところで問題ねェ。そう思っていた俺の耳に、アザミの焦った声が届く。
「マズい? あいつがか」
「あぁ。ギャグ補正が働くあいつらにとって、ツッコミはかなり重要な存在だ」
「ア?」
「わかりやすく言うぞ」
優姫はこの空間において最強だ。それを聞いた俺は、とりあえずこれが終わったらギャグマンガを読むことにした。
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