稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
小さい頃の私の隣人は『退屈』だった。しかし私はロマン派だった。音楽関係のそれではなく、ロマンを追及するのが好きだった。ただ、私の周りにそのロマンが転がっていなかっただけで、結果的に退屈ばかりが転がっていた、というだけの話だ。
その退屈を壊したのは、同じ研究室にいた一人ぼっちの天才。一目見た瞬間に敗北を感じ、それを認めたくなくて関わらないようにしていた。追い求めていたロマンが目の前に現れたというのに、それに手を伸ばさないのは滑稽だな。
だが、向こうから手を伸ばしてきた。正確には手を取るか取らないかの選択肢もなく、無理やり連れていかれた形にはなったが、確かにその先で待っていた日々は私が追い求めていたものそのものだった。
私は、自分で言うのもなんだが天才だ。いや、訂正しよう。事実を事実だと認めるのは何も悪いことではない。
見たものが何であろうと、既存の法則がそこにあるのなら大抵のものは理解できる。答えまでの解法を感覚で理解し、理論で証明できる。だからこそ『理解』を『退屈』だと定義してしまった。だからこそ、私の理解の外にある日々が鮮烈で、刺激的だった。
なのに、あいつは自分勝手に私を手放した。
「別に私は気にしていない。そもそもあいつに人の感情を期待したのが間違いだった。シゲキ的なことにしか興味のない人として致命的な欠陥のある大バカ野郎に手放されたところで私の価値に傷がつくわけでもない。らしくもなく人として振舞おうとしている姿はいっそ滑稽だったな。それでイベリス、私に忌々しい記憶を思い出させた理由を聞かせてもらおうか。ことと次第によっては私にも考えがある」
「オシャレすぎるわね……ゾクゾクしちゃう」
変態にまともな回答を期待したのも間違いだったらしい。わざわざ家を訪ねてきたから何かと思えば、ただ変態が変態しにきただけだった。
まぁ、そういうわけではないだろう。私にシゲキの話題を出せば不機嫌になることはわかっているはずだ。ただ自分の欲を満たすためだけに人を不快にさせるのは、イベリスの言うところのオシャレには当てはまらない。それはそれとして不快なことに変わりはないから、気まぐれで出してやった紅茶にエナジードリンクをぶち込んでおいた。
「あら、ありがとう」
優雅に飲んでいるだと……? 私が驚愕しているのに気づいたのか、イベリスは「あなたが淹れてくれたものだもの。飲まないなんてオシャレじゃないわ」と言ってウィンクしてきた。結構エグイものを飲んだはずだが、表情が一切崩れていないのは流石と言ったところか。
「本題を急ぐのはオシャレじゃないとお前は言うだろうが、本題を話せ」
「人それぞれオシャレがあるからオシャレなの。別に、オシャレじゃないなんて思わないわ」
「聞こえなかったか? さっさと本題を話せ」
「まったく、オシャレじゃないわねぇ」
鳥頭でも三歩歩くまでは物事を忘れないというのに、どうやらイベリスは一歩も動かず直前の自分の発言を忘れるらしい。やはりこいつのオシャレの定義はよくわからん。こんなにコロコロオシャレの定義が変わるのに、なぜこいつの信念は揺るがないんだ。
「それで、本題ね。実は、面白い子が面接にきたのよね」
「佐藤たけしか。私も見たぞ。ビルのデバッグをしようとしているような動きをしていたから、面白いと思っていた」
「えぇ。それで、ルイスが言っていた霊関係の力を持った者。それの大当たりがその子よ」
「……何?」
思い出したくもないが、シゲキに連れ出された日のことを思い出す。シゲキの思い描く世界に足りなかったのは、まだ定義できていないオカルト関連のエネルギー。それに必要なパーツが『project:eden』に集まると、ルイスは言っていた。そのパーツがやっと現れた、ということか?
「シゲキはなんて言ってたんだ」
「あら、嫌いじゃなかったの?」
「……嫌いだが、それがなんだ」
「失礼、今のはオシャレじゃなかったわね。シゲキは大喜びしてたわよ。シゲキ的だって」
「わかった。私もライバーになる」
「あら?」
シゲキなら、自分に必要な才能が現れたとわかったら、周りの都合など一切考えず、佐藤たけしを捕獲して研究するだろう。とはいえ、ルイスとイベリスがいるから現実にそれは起きない。であれば、私が佐藤たけしの同期になって、そのオカルトを研究する。あいつにない知識を私が得る。佐藤たけしに近づこうとするなら徹底的に邪魔をしてやる。私を手放したあいつが悪い。
それに、個人的にも興味がある。私が見た時は、腰を抜かす動作のみで移動し、虚空に向かって喋り続けていた。アレが演技だったのならあっぱれだが、なぜか私にはアレは演技ではないという確信がある。
私の突然の発言に、イベリスは意味深な笑みを浮かべて脚を七回組み直した。
「どっちも素直じゃないわねぇ。それもまたオシャレだけど」
「放っておけ。人と触れ合う機会自体そこまでなかったんだ」
「それなら、いい機会になるわね。シゲキに対するかわいい嫌がらせ以上の意味があると思うわ」
シゲキに対する嫌がらせで佐藤たけしの同期になろうとしているというのは口に出さなかったのに、イベリスにはお見通しだったらしい。ルイスは様々な要素から論理的に人の思考を読んでくるが、イベリスは感覚で思考を暴いてくる。やりにくいことこの上ない。人の心に土足で上がり込んでくるのはオシャレなのか?
「それじゃあ、活動名はどうする? すぐに決めなくてもいいけど」
「アザミ・フレンジー」
「あなた、かわいいところあるわよねぇ」
「何が」
「なんでも?」
うふふ、と笑うイベリスにムカついて紅茶をぶっかけてやると、「アツゥイ!!」と言って跳ね上がり、その勢いのまま部屋から出て行った。なんだあの化け物。
「オイなんだテメェなんの冗談だ白菊!!!!」
「アザミと呼べ」
「それだよ!!!! ンでテメェがシゲキ的ライバーになってやがる!!!!」
初配信後。あまりにも簡単に転がせる視聴者に想像通りだと落胆していた時、シゲキが襲来した。なぜ私の家はこうも容易く侵入を許してしまうんだ? セキュリティの面で言えばかなり強固……いや、私の家に訪れる者からすれば、セキュリティなどあってないようなものだろう。いっそのことドアを無くしてしまってもいいかもしれない。ドアを無くせば移動の際のタイムロスも軽減される。
「なんで、と言われてもな。興味があったからだ」
「シゲキ的ミッドナイト・サイコナイトか? 俺が先に目ェつけた!!!!」
「だと思ってあいつの同期になったんだ。悔しいか?」
「クソ!!!! シゲキ的に悔しい!!!!」
素直過ぎる。こいつ、人と関わってこなさ過ぎて精神年齢が成長しきっていないのか? だから私にあんなことをしたんだろうな。一生恨む。私の人生を変えた罪は重い。
……あと、寂しそうな顔をしているのも気に食わん。なんだ? 私がお前以外に興味の対象を見つけたことがそんなに嫌か? こいつ、自分では寂しいなんて思ってなさそうなのがムカつくんだ。他人の感情を理解できないばかりか、自分の感情すら理解できていない。私も感情には鈍い方だが、流石にここまでではないな。
「俺を破壊するんじゃねェのかよ」
「するさ。そもそも、お前を破壊すると言っているのに、お前にわかるような手法で破壊するわけがないだろう」
「ハッ、俺に届かねぇクセに口だけは立派だなァ?」
「……」
なる、ほど? 素直じゃないというのはこういうことか? 私自身のことはわからないが、シゲキを見るとよくわかる。クソガキが。いつか必ず捻り潰し、粉々にして花壇に撒いて、生えてきた新種の花に『吐しゃ物フラワー』という名前をつけてやる。私の人生を狂わせたというのに新種の花になることを許してやるんだ、ありがたく思え。
「チッ、ぶっ潰してやる」
「こっちのセリフだ。早く出て行け」
「指図すんな!!!! 俺が出て行きたいから出て行く!!!!」
癇癪を起こしたシゲキは私の椅子を蹴ってから出て行った。小学生かあいつは。あぁいう態度を取られると、シゲキを嫌っている私の器まで疑われるからやめてほしい。天才なら天才らしく振舞えないものか。
やはり、シゲキには報いを受けさせるべきだ。となると、シゲキに一番効果的なものは何かを考える必要がある。私が与えたいのは徹底的な敗北。あいつが思い描く世界を私がいち早く完成させ、その世界の中で完膚なきまでに叩き潰す。それが一番だ。
あいつが弱いジャンルといえば、人の感情だろう。一生理解することはないだろうな。であれば、私も人の感情について理解する必要がある。初配信を見る限り、私の同期はどちらも感情を研究するには適しているように見えた。特に佐藤たけし……いや、ミッドナイト・サイコナイトはいい。あれほど滑稽なおもちゃは見たことがない。
誰に言い訳するわけでもないが、意地になっているわけではない。あいつが私を待っていることなんてわかっている。待っているクセに、私を手放したことに腹を立てているだけだ。勝手に自分の物差しで私を測って、ついてこられないと切り捨てたシゲキらしくもないくだらない思考。天才が聞いて呆れる。お前が求めていたのは私だろう。
私が、お前を求めていたように。
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