稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第174話 考えたところで無駄な話

「さて、こうして集まったわけだが、俺は透華との距離をどう縮めればいいかで悩んでいる」

「私はシゲキが出た一転攻勢に戸惑っている。更に、よく考えれば優姫は恋愛関係がとんでもなく苦手であり、ニコは言わずもがな。唯一頼れるであろう相手が満一人という体たらくだ」

「勝手にやっときなさい、唐変木ども」

 

 アザミから大至急という連絡があり、透華とのデート中だったがまた倒れているのかもしれんと思って謝り倒してからアザミの家にきてみたら、どうやらアザミはシゲキから交際? を申し込まれ……いや、強制されたらしい。俺が背中を押されて透華と距離を縮めようとしている間に急接近するとは、やはり侮れんな……。

 相談を持ち掛けたのにも関わらずアザミから役立たずの烙印を押された月宮さんは、俺たちを一睨みしてから部屋を出て行こうとした。すかさず満が止めに入り、「まーまー、ぽんこつの話を聞いてあげようよ」とフォローを一発。ポンコツというのに異論はない。アザミの言った通り、ニッコリ探偵団においてこういう恋愛関係で戦力になりそうなのは満しかいないからな。改めて情けない。

 

「……そうね。いつまでも恋愛が苦手なんて言ってられないし、実体験を聞いて糧にするわ」

「私たちはこんなに悩んでいるというのに、糧とはひどい言い草だな」

「月宮さん。人の気持ちにもっと寄り添った方がいいぞ」

「この前、透華から『先輩と会う時に連絡くれなくてもいいよ。先輩はちゃんと伝えてくれるし、あと、その……嫉妬、しちゃうから』って言われたんだけど、これでもあんたが人の気持ちに寄り添えてるって言うんなら謝ってあげる」

「本当に申し訳ない」

「ごめんね、月宮さん。透華がかわいくて」

「あと満ちゃんが透華のこと大好きすぎるのもどうにかしなさい。無意識に煽ってきてるから」

「重ねて申し訳ない」

 

 深く頭を下げる。俺がちゃんと透華との時間を取っていればそんなことにはならなかった。いつも月宮さんには苦労をかけてばかりだな……。『project:conflict』の最後の場面、月宮さんと俺があの趣味の悪いコードで繋がれたときも、帝斗はキャッチボールの準備をしていたようだし、本格的にマズいかもしれん。マズくなってから動くようでは男として失格だ。今日も途中で抜けてきてしまった。いつまでも透華の優しさに甘えていてはダメだ。

 月宮さんはため息を吐いて、「ま、私も透華の気持ち考えずに『そうするべき』ってだけでやっちゃったからお相子ね。こっちもごめんなさい」と人間の出来を存分にアピールした。

 

「で、正直ニコは問題ないと思ってるのよね。大問題だったら西園寺さんがどうにかするでしょうし。どっちかっていうと問題はアザミよ」

「確かにそうだな。アザミ、もう一度確認するが、本当にシゲキから交際を強制されたのか?」

「強制はいつものことだから別に驚かんが、まさか交際だとはな……」

「ねーねーアザミさん。シゲキさんからなんて言われたの?」

「『テメェに拒否権はねェ。俺のモンになれ、アザミ』と言われた」

「わー! 大胆!」

「ムカつく言い方するわね」

 

 きゃー! と喜ぶ満と、眉間に皺を寄せる月宮さん。どちらの反応も正しいと思う。少女漫画に出てくる俺様系のようなセリフだが、それが好みという人と受け付けないという人はどちらもいて然るべきだからな。とはいえ、なんとなく月宮さんは『そういうのが受け付けないから』というわけではなく、『ムカつくからムカつく』と感じているように思えるが。

 だが確かに、俺様系のようなセリフでも、『シゲキが言った』という枕詞がつけば印象が変わってくる。自分を中心に世界が回っていると思うのではなく、自分を中心に世界を回すような男だ。恐らく、何かを理解しようとして、その過程に男女関係というのがちょうどいいから交際を強制しにきたのだろう。あくまでシゲキの外側を見ただけの考えだから、実際はもっと違うのかもしれんが。

 

「そもそも、アザミはどうなのよ。シゲキさんのことは好きなの?」

「嫌いではない。が、大前提男女関係というものがわからん」

「俺を今まであれだけからかっておいて……?」

「お前のような絵に描いて誇張をしたような童貞をからかうことなど造作もないだろう」

「佐藤さん……」

「やめろ満。慰めようとするな」

「恥ずかしくないの?」

「追い打ちはもっとするな」

 

 戒める意味を込めてぐちゃぐちゃに撫でると、「きゃー!」と言って大はしゃぎ。可愛すぎる。絶対に嫁にはやらん。シゲキに頼んで、『満に近づく男を撃退するシステム』を作ってもらおう。もちろん俺と帝斗と親族の方は対象外だ。いや、それだと帝斗が……流石に帝斗はないと信じたいが、何が起こるかがわからないのが人生だ。シゲキがアザミに交際を強制したこと然り。

 

 まず問題なのが、アザミが男女関係を理解していないということだろう。この場において、経験という意味では俺が一番豊富……まぁ、あるかないかの違いだけだが、豊富であることは間違いない。ただ、恋愛というものは個人の感覚によるもので、『こういうものだ』という答えを出すのは極めて難しい。なんとなく、それに近いものであるのだろうということは察してはいるが、他人がそう思っていようと、結局本人が納得しなければ意味がない。

 

「アザミさんは、シゲキさんとそういうことやってる自分を想像できる? デートしたりとか」

「無理だな。あいつはデートは時間の無駄だと思うタイプだろうしな」

「シゲキとの交際は、一般的に想像するソレとは異なるだろうな。とはいえ、それが男女の関係であることに変わりはないだろうが……」

「あんまり難しく考える必要もないんじゃない? シゲキさんのことだから、興味の一環でそういうこと言ってきたんだろうし」

「……それで、私ばかり振り回されたらばかみたいじゃないか」

 

 満と月宮さんと視線を交わす。そして頷いた。どうやら、満と月宮さんもアザミがかわいいと思ったらしい。

 正直、アザミは恋する乙女そのものだ。今までそういうことをやってこなくて、そういう感情がわからないものの、外から見ればちゃんと好意を抱いていることがわかる。抱いた感情に名前が付けられていないという状態。

 

 ……であれば、関係を持ってみる、というのも一つの手だとは思う。シゲキは人でなしで自己至上主義なところはあるが、アザミに対してはそうでもないような気がする。それに、アザミには俺たちがついている。もしシゲキに何かされたとしても、すぐに立ち上がると約束できる。が、これは俺の理屈だしなぁ。

 

「試しに付き合ってみたら? そうすれば理解できるかもしれないし」

「いや、だって……」

「ねぇアザミさん。正直めちゃくちゃかわいいからアザミさんはシゲキさんのこと好きなんだと思うよ」

「私がシゲキのことが好き? そもそもあいつから私をこの世界に引っ張ってきておいて、一度私を手放したあいつのことが? 今のあいつは嫌いではないが、だからといってすぐに好きになるような尻軽になった覚えはない。自分勝手すぎないか? 確かに和解はしたが、すぐに交際を申し込むだと? それならもっと早くに謝罪をするべきだろう。というかどう考えてもシゲキが私のことが好きなんじゃないか? そうだろう」

「あーはいはい落ち着いて」

 

 満に自分の気持ちを言い当てられ……言い当てられてはいないな。気持ちに触れられたことがトリガーとなったのか、時々見るマシンガンモードに突入してしまった。落ち着かせるために月宮さんが後ろから抱いて、頭をぽんぽんしている。なんだあの可愛い光景は。ファンが見たら歓喜のあまりにのたうち回って、死に至るほどの破壊力がある。

 やはり、戸惑いというのが大きそうだ。これはアザミというよりも、シゲキにペースを調整するよう言った方がいいだろう。言って聞くかは別として。

 

「佐藤さん。エミさんに聞いてみるのはどう? そっちの世界ではどうなのーって」

「ん? 向こうの世界ではありえんと思うが、聞くだけタダか」

 

 そういえばそうか。向こうの世界は俺と透華が結婚している。もしかしたら、それ以外も進んでいる可能性があるかもしれん。向こうの世界のアザミはこの世界のアザミよりも数段冷徹な気がしたが、可能性がゼロだと断定できるほど付き合いがあるわけでもないしな。

 

《エミ、少しいいか?》

《どうした。シゲキの報復に晒されでもしたか?》

《そうなった時はそうなった時でまた相談する。シゲキとアザミのことなんだが》

《あぁ》

《そっちの世界では付き合っていたりするのか?》

《すまん、この会話を傍受したアザミが怒り狂い、俺の命の危機が訪れた。二度と俺の命を脅かすな》

《本当にすまん》

 

 どうやらありえないらしい。今度からエミに何かを聞く時は気を付けよう。なぜ世界をまたいで意思疎通ができているかもわかっていないのに、それを傍受できるテクノロジーを持ったアザミを敵に回したくはない。

 

「どうだった?」

「エミに命の危機が訪れた」

「なんで……?」

 

 向こうのアザミはエミのことを研究対象だとしか思っていないようだ。次、エミに話しかけた時に返事があることを祈っておこう。

 

 ……これ以上悩んだところで、結論が出そうにないな。アザミ自身が結論を出す準備ができていない。はじめてのことを受け入れるのに戸惑っているのだろう。アザミは理屈で物事を考えるクセがある。どちらかと言うと理屈よりも感情の割合が大きい恋愛に関しては不得手なようだ。俺が言えたことではないが。

 

「答えが出せそうにないなら、シゲキともう一度話し合ってみたらどうだ? 不安なら俺たちもついている。もちろんルイスとイベリスがそんな現場を放置するわけがないから、あいつらもいるだろう」

「そうね。なぁなぁにしたくないなら、ちゃんと話し合って納得して、それから考えましょ」

「……そう、だな。すまん。よく考えなくとも、最初からそうるべきだった。無駄な時間を使わせた」

「私の時間の使い方は私が決める。あんたが使わせたんじゃなくて、私があんたに使いたかったから使ったの」

「優姫、なぜ彼氏がいないんだ?」

「月宮さんが男前すぎるからじゃない?」

「満ちゃん、覚悟はできてるわね?」

 

 ……満が余計な一言を言うようになったのは俺のせいだろうか。満が月宮さんにこちょこちょされているかわいい光景を見ながら首を傾げた。

 




現在、書籍予約受付いただいています。
GAMERS様の特典は優姫のアクリルスタンドがついてきます。予約いただけると喜びすぎます。
詳しくはリンクを貼るので、その先のページでご確認ください。
僕はいつの間にか予約していました。

あと、店舗ごとに特典とかもつくらしいです。
続報は私のX、オーバーラップ様の公式Xなどで発信されるかと思うので、もしよければ見に来てください。
特典としては、書下ろしペーパーなどがあります。書下ろしペーパーは、特定キャラのボイスを書きました。購入先によってキャラが変わるはずですので、それもわかれば追ってお伝えします。

■予約ページ
オーバーラップノベルス様

GAMERS様
特典:優姫のアクリルスタンド


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