稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第175話 30万人記念配信 (1)

「さぁ、30万人記念配信で何をしたらいいかを考えよう」

「成長しないね……」

 

ニコが成長するわけがない

いつの間に越えてたんだお前!!

炎上(本人にそのつもりはない)してる時に越えてたぞ

炎上で登録者数を増やす男

 

 チャンネル登録者が30万人を突破していた。いつの間に……?

 

 しかし、30万人か。今がVTuber全盛期と言って差支えがないほど勢いがあるとはいえ、順調にもほどがある。俺のような人間のチャンネルを30万人が登録してくれているというのは、粉骨砕身してより頑張ろうという気持ちにさせてくれる。

 ちなみに、月宮さんもアザミも30万人を突破していた。横並びで順調にいっているようで大変嬉しい。『project:eden』の箱全体でも登録者数は増加傾向にあり、恐らく運営の売り出し方がいいのだろう。裏工作とはいかないまでも、完全な正攻法で増やしているかと聞かれると自信がないのが辛いところだが。

 

「10万人の時は逆凸、20万人の時はTRPGか。今回も普段やらないようなことをやってもいいかもしれんな」

「それか、普段やってることのバージョンアップとか?」

 

運動

堂々とした振る舞い

大人としての自覚

スマートな対応

 

「俺に攻撃してどうする! 意見が欲しいと言ったんだ!」

 

 それはそれとして身に付けなけらばならないものだと思っている。俺の視聴者ははっきり言う上に核心に触れるからタチが悪い。

 満の言った、普段やっていることのバージョンアップというのはいいかもしれんな。俺が普段やっていることはゲームか雑談。どちらかと言えば雑談の割合が多い。暇だから配信を始めて、視聴者と雑談するというのが日課になっているし、それをバージョンアップさせるか? 雑談のバージョンアップといえば、何か話題を募集して……とかがすぐに思いつくが、それだけなら普段の雑談でできることだ。もう少し別の要素が必要だろう。

 

「うーん、どうするべきか……」

「ねぇニコさん。私も言ってなかったから同罪だけど、なんでこうなる前から考えておかないんだろうね」

「一瞬一瞬を必死に生きているからな。今の俺に未来のことを考える余裕はない」

 

婚約してるのにそれはどうかと思うぞ

本当に心にくるようなことを言うのはやめてやれ

いつも通り言い訳しただけだから、そっちのことはちゃんと考えてるだろ

考えてると言ってくれ、ニコ

 

「もちろんちゃんと考えている。あと別に心にくるようなことを言われても気にせんぞ。一意見として受け止め、その通りだと納得するかどうかは俺が決めることだからな」

「メンタル強いからねー。だからって何言ってもいいってわけでもないけど、基本何言ってもいいと思うよ」

 

 俺の視聴者は、普段俺を攻撃し続けるが、本当に俺が傷つきそうだとか、本当に危険に晒されるだとか、そういう目に遭いそうになると途端に味方になってくれる。いい視聴者に恵まれたなとは思うが、できれば普段からもう少し優しくしてほしい。この前、俺の配信をちょくちょく見てくれるようになったユースさんから「すみません、ニコさんってドMなのでしょうか?」って聞かれたからな。どうやら、俺の配信のコメント欄を見て様子がおかしいと思ったらしい。もちろんドMではないと答えておいた。数日後のユースさんの配信で「ニコさんはドMじゃないんだって」と言ったことで少しボヤ騒ぎがあったが、それも俺の視聴者の炎が強すぎて取り込まれた。

 そういうこともあって最近思ったが、俺は炎上に強いような気がする。普段の配信で攻撃されているし、俺の視聴者は本当に俺が悪いことをしていなければ、炎上を祭りと捉えて盛り上げてくれる。俺がそれを『裏切られた』と思わないという信頼があるからやっていることなのだろう。だからといって頻繁に炎上したいわけではないが。

 

「すまんが、いいアイデアをくれないか。実行が難しそうでも、ひとまず言ってみてほしい」

「お願いします!」

 

もう一回TRPG見たい気もする

親和性高かったしな

流石に20万人でやったから、また別の機会でいいんじゃね

本当に凸待ちするとかは?

 

「本当に凸待ち?」

「武装して待機するってこと?」

「満、少し落ち着いてここは現代日本であることを思い出せ」

 

 最近武装が当たり前だったから、満の思考が少しバイオレンス寄りになってしまっている。注意すれば満ははっとなって、「相手はシゲキさんじゃないもんね」と呟いた。相手がシゲキだったら、ここは現代日本ではあるが武装の必要はあるかもしれん。

 

事務所で待機して、誰かくるのを待ち続けるとか

それだけだと弱くね? 普通の凸待ちと差異ないし

3Dにしよう

24時間にしよう

 

「なるほど。24時間リアル凸待ち、ということか」

「スタッフさんを24時間拘束するのは申し訳ないなー」

「俺も同じことを思っていたが、イベリスから『準備はもう終わったわ』と連絡がきた」

「許可とかじゃなくてもう終わってるんだ……」

 

 イベリスが既に何かを終わらせていることなど驚くほどのことでもない。俺も最初の頃は驚いていたが、もうそういう概念だということで納得することにした。

 リアル凸待ち、か。『project:eden』のライバーなら結構きてくれる気もする。一つ不安なのが、俺が眠たくなった時にきてくれたライバーに失礼じゃないかということだ。もし実行するとなったら、前日にたっぷり寝て備えることにしよう。寝だめは効果がないとも聞いたことがあるが、プラシーボ効果的な感じでまったくないというわけでもない、と思う。

 

「凸してくれるまではいつものように雑談か?」

「もうちょっとなんかほしい気もする……」

 

むしろリアル感あっていい

誰かきてくれた時は、その人と雑談しつつ視聴者からリアルタイムでお題もらうとか?

マカロンみたいな感じか

そういえば相手は初対面の可能性があるしな

ニコなら何も話せないまま、24時間経過する可能性がある

 

「バカにするな! 最近の俺ならお題がなくとも話せる! が、あると嬉しいな。そうしよう」

「もし相手が『ゆーとぴあ』のユースさん以外でも?」

「ハハハ。流石にないだろう。……ないよな?」

 

期待

期待

期待

期待

カメレオン

それは擬態

 

 ……ユースさんにやめてくださいと先んじて言っておくか。

 

 

 

 

 

「というわけで、30万人記念! 本当に凸待ち配信だ!!」

「いえーい!!」

「まさか本当に準備が終わっているとはな」

 

早すぎる

イベリスがすごいのか、ニコがわかりやすすぎてやることがわかってるから準備できるのか

イベリス様がオシャレなんだろ

考えるまでもない

 

 事務所のスタジオ。ソファやテーブルが並べられ、リビングのような空間が作られたそこで、30万人記念配信が始まった。『project:eden』はやりたいことをやらせてくれるいい事務所だが、やりたいことをすぐに実行でき過ぎて怖くもある。もしかして脳に機械を埋め込まれていて、思考を把握されているのか? 向こうの世界のテクノロジーを考えたらできなくもない気がする。

 一応、凸待ちと言っておいて誰もこないのは悲しいから、わざとらしくdicecodeの全体チャットで『30万人記念で本当に凸待ち配信をやります。お暇があればぜひ』と全員にメンションで送っておいた。何人かはリアクションをくれたが、果たしてきてくれるかどうか……。

 

「さて、誰かがきてくれるまで雑談といくか。何か聞きたいことはないか?」

 

それより、ニコの話を聞かせておくれ

おばあちゃんみたいなこと言うな

一人目の予想とか?

アリ

 

「一人目か……。満は誰がきてくれると思う?」

「うーん……そこに既にいるルイスさんはノーカウント?」

「あぁ、俺のことはクールに気にするな。ちょうどクールに休めそうな場所があったから使わせてもらっているだけだ」

「人の記念配信を休憩場所に使わないでもらいたいが……まぁ、ノーカウントでいいだろう」

 

なんかいて草

ここまでルイスにノータッチだったのか

ニコもプロエジェに慣れてきたな

一期生はどこにでも現れるからな

 

 俺も最初は驚いた。準備ができたとスタッフさんに呼ばれてスタジオにきてみれば、ルイスが脚を組んでコーヒーを飲んでいたからな。まさか何かの企画が始まるのかと思えば、「今日もクールだな」と言っただけ。本当にここで休憩しているだけらしい。

 が、そういうのもありかもしれない。肩肘張らず、ただだらだらと集まって、好きに帰る。ゲストを呼んで行うトークとは違った良さもある。

 

「せっかくだからルイスも考えてみてくれ」

「誰がくるか、か。ニコはクールに人気者だからな。誰もがありえるだろう」

「ふふふー。ですよね!」

 

 俺が人気者であるとルイスに言われたのが嬉しかったのか、満がニコニコして宙に浮いた。なんて愛らしいんだ。一人目に誰がくるなんてどうでもよくなった。そもそも、誰がきてくれたとしても嬉しいことに変わりはない。変に誰がくるかと予想して、入り辛い空気を作るのは招く側としてやってはいけない行為だ。多分『project:eden』のメンバーなら誰も気にせんが、気にする気にしないの話ではない。

 ……もしかして、ルイスはそう思って「誰もがありえる」という言い方をしたのか? 一期生はめちゃくちゃな印象だが、やはり創設時からこの世界を生きてきただけはある。こういうところは素直に尊敬できるな。

 

「というよりも、一人目は既に待機しているようだ」

「なにっ!? なぜ知っているんだ?」

「そこにカンペが出ているからな」

「俺も当然気づいていた。今のは試したんだ。やるな、ルイス」

「ふっ、クールな俺には造作もないことだ」

「日本の識字率なら大体造作もないと思う」

 

ニコは造作もないことなかったけどな

ニコが文字を読めないとでも!?

相手がルイスだからか、ルイスの目を見て喋ってたから気づかなかったんだろ

ルイスが人の目を見て喋らないとでも!?

あぁいえばこう言う……

あぁいえばこう言うと、forever for youって似てね?

 

 確かに、とコメントを見て頷いていると、ふわりと清潔感のある香りが鼻を擽った。

 スタジオに入ってきたのは、赤みがかった金の波打つセミロング、アイスブルーの瞳。瞳の色は冷たいが、柔らかな笑みを浮かべている高身長のカッコいい男性。エンジ色のスーツを身にまとい、高そうな腕時計をつけている。

 

 ……知らない人だ。知らない人だよな? 一度会ったことがあったらどうしよう。そうだった場合、はじめましてと言った瞬間に終わりだ。考えろ俺、この場をスマートに切り抜ける方法を!

 

「はじめまして」

「あ、はじめまして」

「はじめまして!」

 

 切り抜けられた。どうやらはじめましてだったらしい。よかった、ファーストコンタクトは成功だ。これで成功だと胸を張ってしまう自分のコミュニケーション能力の低さに絶望するが、できたと思ったことはできたと胸を張らなければ自信など身に付くはずもない。

 

「えぇっと……」

「急にきてしまってすみません。フレイルさんにお世話になった時にニコさんのお話をされていたので、一度話してみたいなと思いまして」

「フレイルさん?」

 

 フレイルさん……。あ!!

 確か、フレイルさんは俺がユースさんとコラボしたのと同じ理由で、『Arcadia』のライバーと動画撮影をしたはずだ。そういえばフレイルさんにその時の話を聞いて、「いいやつだったぜ。なんか芯が見えなくてこえー感じはしたけど」と言っていた。名前は……。

 

「『Arcadia』所属、ミハイル・ラスカリスです」

「そう! ミハイルさんだ! 俺はミッドナイト・サイコナイト、ニコと呼んでもらっています」

「あと、元はヴァールハイト所属です」

「え!?」

 

ミハイル!?

ヴァールハイト!?

なんだ、身内か

じゃあニコもまだちゃんと話せるな

 

 いやまて、元はヴァールハイトとはどういう……おい満! 男とむやみやたらに握手するな!!

 




現在、書籍予約受付いただいています。
GAMERS様の特典は優姫のアクリルスタンドがついてきます。予約いただけると喜びすぎます。
詳しくはリンクを貼るので、その先のページでご確認ください。
僕はいつの間にか予約していました。

あと、店舗ごとに特典とかもつくらしいです。
続報は私のX、オーバーラップ様の公式Xなどで発信されるかと思うので、もしよければ見に来てください。
特典としては、書下ろしペーパーなどがあります。書下ろしペーパーは、特定キャラのボイスを書きました。購入先によってキャラが変わるはずですので、それもわかれば追ってお伝えします。

■予約ページ
オーバーラップノベルス様

GAMERS様
特典:優姫のアクリルスタンド
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