稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

178 / 226
第176話 30万人記念配信 (2)

「やっぱり一度オシャレにする必要があるわね!!」

「上等だ!! まだ共同開発の途中だが、シゲキ的新兵器の力見せてやるよ!!」

「お前ら、クールになれ」

 

 一期生の大喧嘩が始まった。

 

 事の経緯は、ミハイルさんがスタジオに現れたことを知ったシゲキが「テメェ!! やっとウチに来る気になったか!!!!」と乱入し、イベリスがグランフェッテ・アン・トゥールナンをしながら「待ちなさい!! 邪魔をするのはオシャレじゃないわ!!」と乱入し、ルイスが「今日の主役はニコだぞ。騒ぐのはクールじゃないな」と応戦した。いつものことながらやかましすぎる。

 

「すみません、騒がしくて」

「楽しくていいじゃないですか。ところで法律には目を瞑った方が?」

 

 シゲキが振り回す明らかな兵器を指して首を傾げるミハイルさんに、「あいつのみ治外法権です」と答える。実際のところ、法律の網を掻い潜っているだろうしな。シゲキが法律に邪魔をされるなんていうつまらないミスをするわけがない。

 それより、気になることがある。元ヴァールハイトと言っていたのもそうで、シゲキが「やっとウチに来る気になったか」と言っていたのもそうだ。これらから察するに、ヴァールハイトとして『project:eden』に勧誘を受けていたが、それを断って『Arcadia』に入った、といったところだろうか。触れづらいが、この流れで触れないと逆にいらない憶測が飛び交ってしまう。少し触れてみて、嫌がっていそうならやめておくか……?

 

「実は、元々『project:eden』にヴァールハイトとして勧誘を受けていまして」

 

 向こうから言ってきてくれた。そして正解だった。俺の推理力も捨てたものじゃないな……。

 

「ヴァールハイトって傭兵組織でしたっけ?」

「そう。で……あー、その前に、確か27歳でしたよね? 同い年なので、敬語はやめませんか。難しければ大丈夫ですと言いたいところですが、ニコさんとは個人的に仲良くなりたいので」

「どうぞ!」

「勝手に許可を出すな満。わかりました、努力します」

「では、徐々にということで」

 

ニコが初対面の人と仲良くなりそうだと!?

夢を見ているのか?

夢みたいなことが近くで起きてそうではある

日常的に一期生がドンパチする事務所、嫌すぎる

 

 ミハイルさんが目を細めて微笑んだ。何か、違和感というか、別に悪い意味ではない。ただ、はじめて会ったのに既に心の内側にいるような居心地のよさを感じる。距離を詰めるのがうまい? 人当たりがいいからか? いや、違う。確信はないが、俺の感覚がこれが何か特別なものだと訴えかけてくる。ヴァールハイト自体が傭兵組織であり、何かしらの力を持っていても不思議ではない。サラさんが『波』を知覚するように、ミハイルさんにも何かがあるのだろう。

 とはいえ、ここが戦場でもあるまいし、警戒するのは失礼というものだ。仲良くなって悪いことがあるわけでもない。リラックスしよう。

 

「それで、先ほど言ったようにヴァールハイトとして『project:eden』に入る予定だったんです。ボス、サラ、イレイナ、イオス、グレイヴィー、エルロイ、リックと」

「そこまで聞いていいのかはアレなんですが、なぜ『Arcadia』に?」

「未来が見えたんです」

「未来?」

 

同類か?

ニコも厨二病卒業したかと思ったのにアレだったしな

だから仲良くなりたいのか

27歳で厨二病はあんまり仲間いないもんな

 

「みんな、あんまりミハイルさんに失礼なこと言っちゃだめだよ」

「俺は?」

 

 視聴者を注意する満に聞いてみれば、首を傾げられた。視聴者に雑な扱いを受けるのはいつものことだから別にいいが、それを際立たせられるとなると話は別なんだぞ?

 

 俺がオウム返しをしたからか、それとも満が視聴者を注意したことでコメントが目に入ったのか、ミハイルさんは「あぁ、予知とかそういう意味で未来が見えたわけではないです」と否定した。

 

「なんといいますか、『project:eden』がこの業界で頂点に立つだろうな、と」

「……? なぜそれで『Arcadia』に? そう思ったのであれば、『project:eden』に所属するように思えますが」

「強すぎるな、と思ったんです。『project:eden』は失礼ながら色物のような扱いをされていますが、それはあくまでこの業界においての話。外から見た時に広く受け入れられやすい、あるいは親しみを持たれやすいのは『project:eden』になる。やっていること、やろうとしていることが圧倒的に面白いですからね」

「あ、ありがとうございます。ありがとうございますですが、その、大丈夫なんですか? 事務所的に」

「他事務所を褒めてはならないなんて言われてませんし、問題ないです」

 

なんだ、いい人か

アイドルの方がウケいいと思うけどなぁ

まぁどうしてもオタクは悪し! みたいな層はいるし……

制限のない度を超えたバラエティ枠の方が受け入れられやすいのか?

 

 度を超えたバラエティも昨今では忌避される傾向にあるとは思うが、ミハイルさんの言うことも一理ある。他のVTuberの事務所はアイドル業に力を入れているが、『project:eden』は所属ライバーに好きなことを思いきりさせている。人材の宝庫と言い換えてもいい。それこそ星菜さんのようにアイドル活動をしているライバーもいれば、あそこで大喧嘩をしている一期生のように、破天荒が代名詞となるライバーもいる。あらゆる状況に対応するのであれば『project:eden』の方が向いていると言える。

 だからといって、それだけで頂点に立つとは言い切れない。まぁ、これは個々人の感覚の話で、ミハイルさんはそう感じたというだけの話だ。素直に評価してもらえて嬉しい、と思えばいい。

 

「で、どうせなら『project:eden』の敵になった方が何が起こるかわからなさそうだな、と。今のところ蹂躙される未来しか見えませんが」

「流石に物理的な蹂躙はしないと思いますが……」

「言い切れないのが辛いところだよね」

 

 原因はあそこでドンパチしている三人、もっというとシゲキだ。さっき『共同開発』と言っていたし、アザミとは仲良くしていると思いたい。しているのなら、アザミがなんとかシゲキをコントロールできる可能性がある。シゲキをコントロールなんて夢のまた夢の話だが、夢を見るのは自由だ。

 

 それにしても……ヴァールハイトは向こうの世界で存在していたのか? 俺の記憶の限りでは関わりがなかったが、恐らく俺の記憶はプレイしたことのある奇紀怪解の範囲まで。それ以降でヴァールハイトと出会っていたのであれば、俺の記憶には存在しないということになる。ヴァールハイトのような組織であれば、向こうの俺なら関わりがありそうだ。

 

《エミ、ヴァールハイトという組織を知っているか?》

《あぁ。命を狙われたことがある。お前も狙われたのか?》

《いや、そういうわけじゃない。一応聞いておきたかっただけだ》

《なるほど。まぁもし命のやり取りをすることがあれば気をつけろ。多少の情はあれど、仕事であれば仲間でも殺すような連中だ》

 

 ……もしかして、向こうの世界ではヴァールハイト同士の殺し合いがあったのか? それとも組織の特徴として言っただけか? どちらにせよ、これ以上は聞かない方がよさそうだ。これ以上聞いてしまうと変なフィルターを通してヴァールハイトの人たちを見てしまう。俺がこんなことを考えていると悟られないために、適当な話題を出して茶を濁すか。

 

「そういえば、珍しいですね」

「何がです?」

「シゲキが『やっとウチに来る気になったのか』と言っていたので。あいつが誰かを欲しがることなど、アザミ以外にいなかったのに」

「確かに! っていうことは、ミハイルさんってめちゃくちゃすごい人?」

 

シゲキがアザミんを欲しがっている!?

ちょっと体調悪くなってきたかも

どうした? 顔が悪いぞ

顔色って言え

 

 適当な話題とは思いつつも、気になったことを聞いてみる。シゲキは多方面に興味があるが、なんでもかんでもというわけではなく、シゲキが『シゲキ的』だと思ったものに対してのみに興味の矛先が向く。そこから判断すると、ミハイルさんはシゲキ的ということだろう。つまり、何かしら特別な力を持っている。シゲキが欲しがるということは、並外れた何かがあることの証明だからな。

 

「あぁ。『project:eden』の敵になると決めたその瞬間に、トップに見えたルイスさんを襲撃しまして。挨拶も兼ねたじゃれ合いだったのですが、そこに目をつけられたのでしょう」

「今日、よくここにこられましたね」

「その件についてはその時にすべて清算しましたから」

 

清算……?

臓器はちゃんと全部あるか?

シゲキの研究の礎に?

やっとウチに来る気になったか!(不足している研究パーツとして)

 

 どういう風にとは聞かない方がよさそうだが、命は取られていないから比較的穏便に済んだのだろう。つくづく『project:eden』が普通のVTuber事務所ではないんじゃないかと思ってしまう。いや、普通ではないのは確かだが。

 これ以上踏み込むべきか踏み込まないべきか。微笑むミハイルさんを見て悩んでいると、ミハイルさんの隣にシゲキがどかっと深く座り、気づけば俺の隣にはルイスが、天井から吊り下げられた豪華絢爛な椅子にイベリスが座っていた。何がどうなってそうなった?

 

「さっきからへらへらと気色ワリィ。テメェの素がシゲキ的だっつってんだ。これ以上メスしか釣れねぇようなド下手なツラ晒しやがったらシゲキ的にすんぞテメェ」

「クールになれシゲキ。事務所の方針というのもあるだろう」

「そうよ! それに、今が素じゃないとしてもどの姿のミハイルもミハイルであることに変わりはないわ! だってこんなにもオシャレだもの!」

「マズいな、一期生がフリーになった」

「別にいつもフリーだと思う」

 

記念配信が乗っ取られるぞ!

っていうか素ってなんだ?

もしかしてもっとワイルドとか?

アタシ、ワイルドな男、好きよ

 

「……まぁ、いいか」

 

 シゲキの挑発を受け取ったのか、ミハイルさんの纏う空気が変わった。先ほどまでは柔らかで親しみやすい印象だったが、まるで鋭利なナイフのような、冷たさと鋭さ、そして荒々しさを纏い始める。違和感はこれだったのか。というかこの雰囲気、シゲキに似てないか?

 

「俺ァ今、『project:eden』に邪魔してる形だからな。流儀に従うのが礼儀ってモンか」

「キャー!! オシャレ!!」

「ふっ、クールだな」

「シゲキ的じゃねぇか!!!! よし、ウチに入れ!!!!」

「やだよ。せっかく最近調子乗ってっから鼻っ柱の折り時だってのに。そろそろどっちが上か、白黒はっきりつけようぜ?」

「なにっ、まさかクールで勝負とは……クールな男だ」

「オシャレ勝負ね。望むところよ!!」

「シゲキ的にバトルってわけか!! 上等ォ、シゲキ的にしてやるよ!!!!」

「ニコ、あっちで話そうぜ」

「あぁ」

「いつも思うけど、何してるの? この人たち」

 

 それがわかれば、今頃『project:eden』はVTuber事務所のトップを張っているだろうな。喧嘩を売ったのはミハイルさんなのに、なぜかまた三人で喧嘩し始めた一期生を見て、あとちょっとしたら出て行ってもらおうと固く誓った。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part36

 

722:このライバーがすごい!

ミハイル・ラスカリス

男性VTuberアイドル事務所『Arcadia』所属

登録者70万人

視聴者の男女比率は3:7で女性の方が多い

溶けちゃうくらい声が素敵

顔もいい

沼にはまらせるのがうまい

ドSボイスで何人かが帰らぬ人となった

ヴァールハイト←New!

素は粗暴←New!

牛←乳!

 

723:このライバーがすごい!

>>722

……すぞ

 

724:このライバーがすごい!

>>722

帰らぬ人にされてぇのか?

 

725:このライバーがすごい!

>>722

ストレートにおもんないのはやめてくれ

 

726:このライバーがすごい!

粗暴っていっても、ちょうどキュンとくるレベルの粗暴だったな

 

727:このライバーがすごい!

他者で凸待ちでアポもないからか、3Dで並べてないのが惜しい

 

728:このライバーがすごい!

ニコは普通に見た目いいから、並んだらホストクラブと勘違いしちまう

 

729:このライバーがすごい!

なお、ミハイルがニコの配信に現れたことを知り、イレ姉が向かっている模様

 

730:このライバーがすごい!

イレ姉が向かっていることを知ったイオスが、爆速で事務所に向かってるらしい

 

731:このライバーがすごい!

喧嘩別れみたいな感じなのか?

 

732:このライバーがすごい!

>>731

ボスが前配信で、

「私に対して○すと言ったことがあるのは、生涯一人だけだな」

って言ってたけど、まさか……

 

733:このライバーがすごい!

そもそもヴァールハイトってなんなんだ?

配信で聞いた感じ、実際にある組織?

 

734:このライバーがすごい!

単純にユニット名じゃね

 

735:このライバーがすごい!

傭兵組織っていう設定のな

 

736:このライバーがすごい!

 

737:このライバーがすごい!

うおおおおおおおおお

 

738:このライバーがすごい!

【速報】イレ姉、乱入

 

739:このライバーがすごい!

イレ姉「よォミハイル、会いたかったぜクソ野郎!! ボスはアンタを許したけど、個人的にアンタが嫌いでねぇ!! 喜べよ、テメェみたいなカスでも土の肥料ぐらいにはなれんだからなぁ!!」

ミハイル「マジィ!! 助けてくれニコ!!」

ニコ「待ってくださいイレイナさん!! 少し落ち着いて!!」

イレイナ「ニコ、そういやアンタにも借りがあったんだ。安心しな。同じ土に撒いてやるよ」

満ちゃん「終わった……」

 

740:このライバーがすごい!

30万人記念配信で肥料にされる男

 

741:このライバーがすごい!

イレ姉が入ってきた瞬間ものすごい破壊音聞こえたけど、あれなに?

 

742:このライバーがすごい!

イレ姉なら壁くらいぶち破るだろ

 

743:このライバーがすごい!

この状況でもスタッフの悲鳴一つ聞こえないの、流石プロエジェ

 

744:このライバーがすごい!

訓練されすぎている

 

745:このライバーがすごい!

【速報】イオス、到着

 

746:このライバーがすごい!

イオス「イレ姉!! ニコさんの配信で暴れ回んのマズいですって!!」

イレ姉「じゃあイオスで我慢するか」

イオス「すみませんニコさん。土じゃなくて海がいいとかなら融通利きますんで」

ニコ「もっと手前で融通を利かせてくれないか?」

満ちゃん「ちなみにミハイルさんは逃げちゃったよ」

イレ姉「可愛いとこあんじゃねぇか。鬼ごっこがお好みってか?」

イオス「イレ姉ってイノシシすぎて周り全然見えてないですよね」

直後、イオス沈黙

 

747:このライバーがすごい!

黙ったのか、黙らされたのか

 

748:このライバーがすごい!

何かを引きずっていく音は聞こえた

 

749:このライバーがすごい!

イレ姉は言葉は強いというか暴虐というかなんかもうアレだけど

ちょっとじゃれ合って終わるくらいだから安心できる

 

750:このライバーがすごい!

イレ姉はって、じゃれ合いじゃすまないやつがいるみたいな言い方だな

 

751:このライバーがすごい!

いまくるだろ

 

752:このライバーがすごい!

ニコ「喧嘩凸とはこういうものなのか……」

満ちゃん「うーん、違うと思う」

 

753:このライバーがすごい!

凸(体の形を変えられることの暗示)

 

754:このライバーがすごい!

すごいなニコ、配信初めて数十分で六人も凸きたぞ

 

755:このライバーがすごい!

ニコがすごいのか、プロエジェがおかしいのか

 

756:このライバーがすごい!

心配なのは、ミハイルのファン

 

757:このライバーがすごい!

ニコが燃やされやしないか心配だ

 

758:このライバーがすごい!

一期生は荒らしに行っても無駄っていうのが通説だから、ニコに矛先が向く可能性はある

 

759:このライバーがすごい!

ルイス⇒いつの間にかクールにされる

イベリス⇒いつの間にかオシャレにされる

シゲキ⇒いつの間にかシゲキ的にされる

そう考えると、配信者としての力はあるのか……?

 

760:このライバーがすごい!

一期生のことを考えるのはやめよう

 

761:このライバーがすごい!

優姫ちゃんとアザミんはいつくるんだ?

 

762:このライバーがすごい!

ニッコリ探偵団の絡み見たすぎる

 

763:このライバーがすごい!

いつも見てるのにいつでも見たい

 




現在、書籍予約受付いただいています。
GAMERS様の特典は優姫のアクリルスタンドがついてきます。予約いただけると喜びすぎます。
詳しくはリンクを貼るので、その先のページでご確認ください。
僕はいつの間にか予約していました。

あと、店舗ごとに特典とかもつくらしいです。
続報は私のX、オーバーラップ様の公式Xなどで発信されるかと思うので、もしよければ見に来てください。
特典としては、書下ろしペーパーなどがあります。書下ろしペーパーは、特定キャラのボイスを書きました。購入先によってキャラが変わるはずですので、それもわかれば追ってお伝えします。

■予約ページ
オーバーラップノベルス様

GAMERS様
特典:優姫のアクリルスタンド
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。