稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

18 / 227
第16話 突然の来訪者

 結局、朝凪さんがパラレルワールドを観測できるというのは、帝斗と透華にも伝えた。隠したところで変な心配を与えるだけだ。

 二人は俺がそう伝えると、一瞬疑いの目を向けてきたが、帝斗は「まぁ、佐藤だったらそういうこともあるか」と納得し、透華は「変なのに引っかかったとかじゃなきゃいいっスけど」と引き下がってくれた。すまん、変なのには引っかかっている。

 

 そんなこんなで、ひとまずは丸く収まった……と言っていいのかはわからないが、なんとかはなった。最初は納得いっていなかった満も、俺を介さずに話せる朝凪さんに懐いたようで、《事務所きてもらおうよ!》と元気いっぱいだ。それでいいのか、満。

 

「しかし、どうするか」

《何が?》

 

 配信をせず、帝斗と透華もいない平日昼間。PCには俺のチャンネルが表示されており、登録者を見れば10万人を超えていた。

 

 そう、ありがたいことにチャンネル登録者数10万人を突破させていただいたのだ。事務所の力が強いというのもあるが、やはり俺の溢れんばかりの才能……ではなく、同期の月宮さんとアザミさん、直近でコラボいただいた明星姉妹、そして他でもない帝斗と透華、満のおかげだろう。

 

 別に、突破したからといって何かをやらなければいけないというわけでもないが、そういう風習はあるのに間違いはない。俺より先に突破した月宮さんは、視聴者からの要望が多かった恋愛ゲームを、アザミさんは興味がないからか何もやっていない。だから、俺もやらなくてもいいんじゃないかと思っている。決して何も思いつかないとか、改めて突破記念という形で何かをやるのが恥ずかしいというわけではなく、自由意志の尊重を表したいというかそういうことだ。

 

《あー、10万人突破記念? 何するの?》

「いやぁ……別にやらなくてもいいんじゃないか?」

「それはないだろうミッドナイト・サイコナイト。ニコと呼べばいいか? ニコの注目度は高く、こういった記念ものの配信は更に注目を集めやすい。集客にはうってつけと言えるだろう。もっとも、ニコ。お前にその力がなく、また自信もないというのなら話は別だ」

「そうは言うが……?」

 

 あれ? 俺、誰と会話しようとしていたんだ? はっきり長尺で俺と満以外の声が聞こえたぞ?

 

 声の方に目を向ければ、ソファに足を組んで座っている暗い金髪の男がいた。目は切れ長で鼻が高くガタイもいい。俺を射抜く瞳は碧で、少なくとも日本人には見えなかった。

 

「……不法侵入!?」

「何を言っているんだ。さっき事務所のドアをノックして、ニコが開けてくれたんじゃないか。お前ほど優秀な頭脳をもってして、それを忘れたと言うつもりか?」

「いや、そうだった。悪いな、犯罪者扱いして」

《へなちょこすぎるよ佐藤さん! 私にそんな記憶ないから! 不法侵入だよその人、不審者!》

「あぁ悪かった、さっきのは嘘だ。鍵が開いていたんだ。どうせ入れることになるんだ、声をかけるという工程が面倒になって、そのまま入ってきてしまった。謝るよ」

「……!! 満の声が聞こえるのか!?」

「聞こえない。だが推測することは可能だ。ニコの配信を見て、二人のやり取りを聞けばそれくらいはできる」

 

 なんだ、この男……!? あとなんで朝凪さんの件と立て続けでこんなおかしいやつが俺のところにくるんだ……!? 

 !! もしや、朝凪さんは秘密組織に狙われていて、俺がパラレルワールドのことを知ってしまったから、消しにきたのか!? そうに違いない。そうでなければ、鍵が開いていたとはいえ、家主に確認もとらずソファに座るようなやつがいるわけがない。ところでなんで俺と満は声をかけられるまで気づかなかったんだ。警戒心がザルすぎる。

 

「お前、何者だ……?」

「俺は『project:eden』の一期生、シェリアーク・ルイスだ。親しい者からはアークと呼ばれている。だからできればそう呼んでほしい」

「先輩でしたか……」

 

 先輩だった。秘密組織じゃなかった。うちの組織だった。

 

《いや、先輩を騙ってるかもしれないよ!》

「俺のチャンネルだ」

 

 目の前でWeTubeのアカウントにログインされた。本物じゃないか。

 

 いや、本物だとしても、いきなり俺の事務所にくる意味がわからない。というかそもそもなんで俺の事務所の住所がわかったんだ? 俺のプライバシーはどうなってるんだ! 朝凪さんも知ってるし!

 

「ここの住所をどこで知ったんですか!」

「いや、知らなかった。散歩していたらクールな場所だと思って、入らせてもらったんだ。いいところだな。落ち着きがあってクールだ」

「なんだ、そういうことですか。ゆっくりしていってください」

《佐藤さんってチョロいよね》

「目の前でルイスさんだということを証明してくれたんだ。俺を騙して変なことをするのはリスクが高すぎる。それに、『project:eden』はそういうところだしな」

 

 特に一期生は。

 

 『project:eden』。大手VTuber事務所であり、他の事務所と比べてバラエティ要素が強い。即に一期生は行動原理がわからない。本人たちによれば『クール』『オシャレ』『シゲキ』を行動原理としているらしいが、主観的な感覚すぎて誰も理解できない。

 一期生は気まぐれに箱内企画を立ち上げたり、視聴者向けイベントを開催したり、それぞれの意見がかちあって大喧嘩したりする問題児だと聞く。

 

 今、俺の目の前にいるルイスさんは、何の因果か探偵らしい。もっとも、本職はそうかはわからないが。

 

「ところで、ここはもしかして広く開放されているフリースペースなどではないのか?」

「普通に俺の事務所ですが」

「すまない。鍵が開いていて、ここに入ってもニコが何も言ってこないから、フリースペースなのかと思っていた。えらく充実しているなとは思っていたんだが」

《佐藤さん。もしかして『project:eden』っておかしい人ばっかり集まるところなの?》

「あと、ちょうどいい場所を見つけたことに喜んで、部下を呼んでしまった。だが安心してくれ。優秀な部下だ」

「あぁ、いいですよ。普段はただの事務所ですから、きていただくことには何も不都合ありませんし」

《あぁ、そういえば佐藤さんもおかしいんだった》

 

 何を言うんだ。俺が言ったことは至極まっとうなことだろう。むしろ、これが何かの縁につながって、依頼がくるようになれば万々歳だ。もしかしたら奇紀怪解の配信を見て、オカルト関連の依頼をしてみようと思ってくれる人もいるかもしれないし。

 

 俺がまだ見ぬ依頼に胸を躍らせていると、事務所のドアがノックされた。規則正しく等間隔に四回。なぜかルイスさんが「入っていいぞ」と答えると、ドアがゆっくり開かれた。

 

「あの、ここって多分フリースペースじゃ……って、ニコ! あんたなんで……あぁ、そういうこと」

「月宮さん!?」

 

 事務所に入ってきたのは、月宮さんだった。いつも冷静な月宮さんも流石に動揺し、目を丸くして俺を見ている。

 月宮さんの言葉から推測するに、ルイスさんの部下というのは月宮さんのことだろう。月宮さんはリアルでも探偵と言っていたから、ルイスさんもリアルで探偵なのか? 自分を偽るような人には見えなかったからそこまで驚きはないが、まさか同じ探偵事務所に『project:eden』のライバーが二人も所属しているとは。

 

「きたか、優姫」

「きたか、じゃないですよ。ここ、ニコの事務所でしょ? クールなフリースペースを見つけたとか言った時点で悪い予感はしてましたけど……ごめんね、ニコ。この人、優秀な頭脳を持った代わりに常識と遠慮を失ってるから、迷惑かけたでしょ?」

「いえ。迷惑をかけてくれる相手も今までいなかったので、新鮮でした」

「あんた、どこに地雷埋まってるのかわかりにくいのよ」

 

 本当に気にしなくても大丈夫だ。直近で朝凪さんのことがあったから、ちょっとやそっとじゃ動じない。ルイスさんは不思議な力があるわけではないし、ちょっと常識が欠けていて不法侵入をしてしまっただけだ。それも勘違いによるものらしいから、目くじらを立てることじゃない。

 

「さて、本当に偶然でここに辿り着いてしまったが、ちょうどいい。二人にあの話でもしておこう」

「あの話?」

「『project:SP』。『project:eden』は、公式番組を一つ増やそうとしている。その企画をライバー自身が提案し、見事選ばれた企画三つを、月曜日、水曜日、金曜日に分けて一か月間実施する。その中で、視聴者から選ばれた一つの番組が、晴れて公式番組となる。それが、『project:SP』だ」

「キャスティングも番組内容もすべてですか?」

「あぁ、すべてだ」

 

 月宮さんと目を合わせる。「この人、いつも唐突だとか言われていないか?」というアイコンタクトに、「見ればわかるでしょ?」というアイコンタクトが返ってきた。だよな。

 

 『project:SP』。Special Program で『特番』と言ったところか。ライバーに企画させ、視聴者に選ばせる。公式番組を発足する上で失敗しにくそうな形式だが、それ以上にお金がかかりそうな企画だ。付き合いは長くないが得意気に語っているルイスさんを見るに、『project:SP』自体はルイスさん発案の企画だろう。

 

「デビュー一か月と少しで3人ともに10万人を突破。優秀なお前たちには期待している。詳細は後日連絡しよう。さぁ、行くぞ優姫!」

「私がここに呼ばれた意味わかんないんだけど……」

 

 ルイスさんがクールに去っていった。本当に何しに来たんだあの人。嵐よりも嵐だ。

 

 月宮さんもため息を吐いて、俺に背を向けて事務所を出ようと、したところで振り返った。

 

「あ、そうだ。『project:SP』のことだけど、勝負しましょ」

「勝負?」

「そ。誰の企画が採用されるか。全員採用される可能性もあるし、されない可能性もあるけど……そうね、採用されなかった人は、採用された人の言うことをなんでも一つだけ聞く、みたいなのにしましょうか」

 

 例えば、朝凪さんとの関係を教えてもらったりとかね。そう言い残し、月宮さんは事務所を去っていった。

 

 ……あぁ、そうか。月宮さんが配信を見てくれていたのだとしたら、この事務所にきて違和感を覚えないわけがない。俺と朝凪さんに何かつながりがあることくらいは、容易に想像できるだろう。

 

「満。どうしよう」

《今のは無理やりには聞かないってことだろうし、採用されるしかないよ》

 

 俺と満の声は震えていた。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part5

 

229:このライバーがすごい! ID:TrGykTcEy

『project:SP』、始動

 

230:このライバーがすごい! ID:rblY10NmZ

プロエジェはお祭りが好きなイメージある

 

231:このライバーがすごい! ID:ZJnmWCEwz

ニッコリ探偵団もSPにかこつけて、企画採用されなかった人は採用された人の言うことをなんでも一つ聞く、みたいな遊びやり始めた

 

232:このライバーがすごい! ID:UoUkSlVdF

男女間で”なんでも”ってあんまりでないけど、ニコだしな

 

233:このライバーがすごい! ID:WzEkH8bjd

キャスティングもって、ニコは大丈夫か?

これに関しては優姫ちゃんもアザミんもそうだけど、人脈まだないだろ

 

234:このライバーがすごい! ID:/xHEfR0xP

自分を出演者として入れることがルールになってるし

 

235:このライバーがすごい! ID:7dM/YE3cI

ニコの企画の出演者が自ずと決まったな

 

236:このライバーがすごい! ID:OQcCNZHad

初対面の相手と番組やるような度胸、ニコにはないからな

 

237:このライバーがすごい! ID:Irlbrff6a

は?

 

238:このライバーがすごい! ID:e6yy7f9pK

え?

 

239:このライバーがすごい! ID:Xh/yXt1pQ

うそ、だろ

 

240:このライバーがすごい! ID:raZLrehTd

【乱心】ニコ、10万人記念配信で、10人に逆凸するまで終われない配信を告知

 

241:このライバーがすごい! ID:JSujkCt76

どういうことだ!?

 

242:このライバーがすごい! ID:nBzZK16qO

変な薬飲んだだろ!

 

243:このライバーがすごい! ID:Bt81biNQE

体が縮んでしまった!?

 

244:このライバーがすごい! ID:et8SuAAJU

もしかして、人脈を広げようと……?

 

245:このライバーがすごい! ID:AT8KsJ3jg

そんな、ニコが能動的に人と関わりにいくなんて……

 

246:このライバーがすごい! ID:D1miEw8WO

そんなに言うことを聞かせたいのか……

 

247:このライバーがすごい! ID:ibcjop0DW

ニコも男の子だったんだな

 

248:このライバーがすごい! ID:Ya6rl7l8O

>>247

そんなわけないだろ

 

249:このライバーがすごい! ID:bFvgm3zkW

>>248

そんなわけないことないだろ

一応生物学的には男だぞ

 

250:このライバーがすごい! ID:QZxffjxB0

でもこれ、実質ニコからのスカウトみたいなもんだよな

 

251:このライバーがすごい! ID:9FRkpcXYt

誰に逆凸すんだろ

 

252:このライバーがすごい! ID:ZiDsHBUi7

やっぱやめたって言われても驚かないぞ

 

253:このライバーがすごい! ID:8mrSgEwbA

優姫ちゃん、アザミん、イベリス様、明星姉妹、あとは奇紀怪解繋がりでマリー

どう頑張っても四人は初対面になる

 

254:このライバーがすごい! ID:BIk2hVKun

命日は決まったな

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。