稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「ところで、ヴァールハイトって本当にどういう組織何ですか? 俗にいうVTuberの設定のような気がしないんですが……」
「前にニコも言ってただろ? 傭兵だよ、傭兵」
酒の勢いで聞いてみたら、本当に傭兵だった。
イベリスがカラオケを手配してくれて、なぜか手配した日に全員予定が空いていて、集まることができた。お店はミハイルさんが手配してくれたお店で、都会街中、その地下にある隠れ家的な個室居酒屋。店員さんが黒のスーツにサングラスと、殺し屋のパブリックイメージのような恰好をしているのが気になるが、ご飯はおいしいし酒もおいしい。大人なら、こういうお店の一つや二つ知っておくべきだな。帝斗に教えてもらおう。
「つか、敬語もういいだろ。タメなんだし気安くいこうぜ」
「あ、あぁ、すまん。あまり絡んだことのない相手には、クセで敬語を遣ってしまうんだ。気を付ける」
「じゃあついでに俺もタメ口でいいですよ! 年下なんで!」
「俺も別に構わねぇぞ? 口の利き方の一つや二つで目くじら立てねぇさ」
「なら、ミハイルにイオスと呼ぼう。グレイヴィーさんは敬語です」
「つれねぇなぁ。満ちゃんからも何か言ってやってくれよ」
「うーん、言っても聞かないと思います。尊敬できる年上の人に対してタメ口なんて、ニコさんには無理なので」
満の言葉を聞いてご満悦になったグレイヴィーさんは、酒を一気飲みしてグラスを空にした。ちなみにもう20杯目だが、一向に酔った気配を見せない。もしかして、常時酔っぱらっているから酔っぱらったように見えないだけなのか……?
他の事務所はどうかはわからないが、『project:eden』は先輩後輩で壁がなく、全体的に気安い関係だと言える。厳密にいえば爆弾が転がっているが、本人たちは隔てるつもりは一切ない。初対面でいきなりタメ口を利かれても、それが失礼でなければ笑って許してくれる人がほとんどだ。
だから、俺も求められればタメ口にするようにしているが、尊敬できる年上の人には敬語を遣うべきだと思ってタメ口では話せない。もちろんルイスやイベリス、シゲキも尊敬はしているが、なんかこう、キャラ的にな。あとイベリスに至っては歳がわからん。公式プロフィールには『年齢:オシャレ』と書かれている。
「それで、なぜ傭兵が日本に? 見たところ、ヴァールハイトの人はみんな日本生まれじゃないだろう?」
「俺がロシアで、エルロイもそうだな。ボスがイギリス、グレイヴィーとイオスがドイツ、イレイナがアメリカで、サラとリックがフランスだったか」
「へー! すごい多国籍!」
「それがなんでまたVTuberに……」
「経緯は伏せるが、色々あってな。悪いが秘密にさせてくれ。ミステリアスな方がグルーヴィーだからな」
気になりすぎる……。なんか、傭兵ってカッコいいじゃないか。持っている力的に危ないことをしていたような気はするから、隠した方がいいということだとは思うが……。イレイナさんなんかどう考えても馬力が人間の出力じゃないしな。
でも、きっと色んなストーリーがあったんだろう。シェリーさんがボスだというくらいだ、シェリーさんが各国から才能を集めて傭兵組織を立ち上げ、各国で活躍していたに違いない。今は戦場を離れて、平和を謳歌しようというところだろう。であれば、変につつくのもよくないか。
「ではこれ以上は聞かないようにします」
「そんなら俺聞きたいことあるんすよ! ニコさんに!」
俺の左隣に座っているイオスさんが、身を乗り出して興奮気味に言ってきた勢いに思わず「な、なんだ?」と言うと、「その……」と小さく呟いて勢いを落とした。
「婚約相手のどこが好きなんですか?」
「ケハッ、テメェ乙女かよ!」
「別にいーじゃないすかミハイルさん! 人の幸せな話聞くと幸せな気持ちになれるんですから!」
「別にワリィとは言ってねぇよ。相変わらずケツが青いみてぇで安心したぜ」
「そう言ってやるな。実のところ、俺も気になってるんだ。ニコほどの男を射止めたレディのことがな」
「そ、そういう話題は、苦手というかだな……満! 助けてくれ!」
「ちょっとまって。おいしそうなデザート見つけて悩んでるところだから」
「俺の危機より重要か!?」
「そんなに危機でもないと思うけど……」
クッ、透華の好きなところだと!? 思い浮かばないというわけではない。ただ言うのが恥ずかしい! そもそも気になるか? 透華のことを知っているならまだしも、知らない人の好きなところを言われてもピンとこなくないか!?
いや、聞きたいと言ってくれているなら答えるべきか……? できるだけ透華に失礼にならないようにしなければ。いつか言ってしまったように、腰つきとか言ってしまって、もしそれを透華に知られたらとんでもないことになる。別に腰つきが好きとかそういうことを言っているわけではないがな!! だから俺から距離を取るな満!! あと俺の思考を読むなら節度をもって読んでくれ!!
「……というかそもそもよく考えたら全部好きだな。好きにならない要素が一切ない」
「マジ!? いいなぁ。俺もそんな人と結婚してぇなぁ」
「ヴァールハイトの人はどうなんだ?」
「ボスは恐れ多いし、イレ姉はまぁ、その、アレだし、サラはコエーしエルロイはガキ。ねぇっすね。向こうから願い下げでしょうけど」
「あぁ、そういえば聞いたぞ? イレイナがニコの親友にご執心だってな」
まさかイレイナさんが帝斗を捕食対象にしていることを言いふらしたのかとイオスを見ると、「イレ姉です」と短く答えてくれた。まぁ、あの人なら「いい男がいたんだよ!!」と言って、嬉しそうに周りの人に言ってそうだ。快活で気持ちのいい人だが隠し事はできないタイプかもしれない。別に、隠さなくても帝斗は気にしないとは思うが、一応一般人だからな。そういうところは配慮して損はない。
「それ俺聞いてねぇぞ」
「そりゃあそうだろう。殺したい相手に言うようなことじゃねぇからな」
「概要だけ伝えると、俺の親友がイレイナさんをナンパから助けたらしくて。それでロックオン……というと言い方が悪いですね。好きになっていただいたようで」
「へぇ、イレイナをナンパか。命知らずだな」
「イレイナさん綺麗だからおかしくないと思いますけど!」
むっとした満に、ミハイルさんは「でも命知らずだと思わねぇか?」とひるまず返し、満をひるませた。そうだな。綺麗だからおかしくはないが、それはそれとして命知らずではある。女性に対する表現ではないが、ほぼ重戦車だからな。イレイナさんが通った道がすべて平らになっていても不思議ではない。
あまり親友のそういうのを聞くのもなんだかなと思って進展は聞いていないが、ちょくちょく会ってはいるようだ。帝斗は賢いが感覚で動くことも多いから、理屈も何もなく引っ張ってくれる人と相性がいいのかもしれない。暴力性はともかく、イレイナさんはめちゃくちゃ気がよくていい人だしな。
「そうか、あのイレイナがなぁ。迷惑かけてねぇか?」
「初めは、その、申し訳ないが迷惑に近かった。今はそんなことないと思うぞ」
「その節はほんとすみません……」
「何かあったのか?」
「俺の事務所がイレイナさんに襲撃されました」
「しかも旅行から帰って、事務所についたらだったもんね。ニコさん、イレイナさんに体当たりして思いきり弾かれてたよね」
「見るからに貧弱だもんなぁ、ニコ」
「ほっとけ!!」
怒りを誤魔化すように酒を一気に飲もう、としてやめた。満がいるならバカみたいな飲み方をしてはいけない。酒は人並みに飲めるが、バカみたいに強いわけじゃないんだ。ペースを保って、潰れないように飲まなければ。この後カラオケ配信もあるしな。
しかし、やはり俺は貧弱らしい。運動もしていないし事務所にこもりきりだから筋肉がつくわけがない。運動をしようしようとは思っても体が動かない。今まで運動する習慣をつけたことがないから、動きづらいというのもある。あまり運動が得意ではないから、やらない理由を探してしまっているというのも大いにある。
「うーん、やはり運動はするべきか……」
「それなら一緒にやるか? ジムってより、アスレチックとかボルダリングとか、遊びながら運動できるとこ知ってるぜ」
「え! 行きたい! 行きたいです!」
「ハハ、満ちゃんはやる気みたいだぜ?」
「それならお願いしていいか?」
「そんなら俺も参加します!」
「ここで乗らなきゃグルーヴィーじゃねぇな。俺も行こう」
「やった!」
体を動かすことが大好きな満が、ガッツポーズをして喜んでいる。かわいい。あとすまん、俺が全然運動しなくて。時々帝斗か透華と運動をしに外へ行っているのを見て、いっぱい運動させてやりたいなぁと思ってはいたんだ。いつまでも俺が苦手だといってその機会を逃すわけにはいかん。
……このメンツだと、俺が死にかけになってみんながピンピンしていそうだな。どのメンツでもそうなる未来しか見えんが。アザミも連れていくか? アザミも出不精だから俺と同じくらいだろう。多分。
「……いや、ダメか」
「何がだ?」
「あぁ、アザミも連れて行こうかと思ったが、配信のネタにするなら女性は避けた方がいいかと思ってな」
「あー、あの可愛い子? ぜひお近づきになりてぇけど、シゲキに殺されたくねぇしな。つーかそれならフレイルちゃん呼んでくれよ。いや、俺が呼ぶわ!」
「だ、大丈夫なのか?」
「あー? 女の子と会ったぐれぇでガチャガチャ言うようなコはうちの視聴者にいねーよ。ンな窮屈な世界作るわけねぇだろ」
言うが早いか、ミハイルがスマホを取り出して操作し始めた。恐らくフレイルさんを誘っているのだろう。
……なんかカッコいいな。サラっと自分の視聴者に対する信頼を口にできるの。俺も今度やってみよう。俺の視聴者も俺に対する攻撃が目立つが、ちゃんと線引きはできているし、ノリもよくて、いざという時は全力で俺の味方をしてくれる。それでいて俺が悪ければ俺が悪いとちゃんと言ってくれる。こうして並べると本当に問題だな、俺に対する攻撃が目立つの。
「あ、それならニコさん、女の子紹介してくれません? この機会に彼女ほしいっす!」
「そういうのは遠慮させてくれ。あと、フレイルさんも女性だ。その言い方だと対象じゃないようで失礼だろう」
「ミハイルさんが気に入ってるんで無理っす。普通に殺される」
身内に普通に殺されるヴァールハイトの方が問題かもしれん。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part37
866:このライバーがすごい! ID:K9Tm9sGsj
カラオケ配信うおおおおおお!!!
867:このライバーがすごい! ID:YaLY3Qcnl
ニコの歌だ!!
868:このライバーがすごい! ID:FhwXiB48w
開始早々、挨拶なしに一番槍のニコ!?
869:このライバーがすごい! ID:+VsocuKsa
あのポンコツからなんでこんな美声が出るんだよ
870:このライバーがすごい! ID:ScQoEaibm
満ちゃんが大盛り上がりしててかわいい
871:このライバーがすごい! ID:GFyA39EDR
満ちゃん「ニコさんカッコいい!!」
なぁ、満ちゃんがニコをカッコいいって言ったのはじめてじゃないか?
872:このライバーがすごい! ID:zEAVTxJpU
そんなことはないだろ
多分
873:このライバーがすごい! ID:cbI7PRiHs
本当にカッコいい
874:このライバーがすごい! ID:AWrENIZv7
次は満ちゃんだと!?
875:このライバーがすごい! ID:+OYbzUcyA
元気いっぱいでかわいい
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なんだこの、心の奥底を刺激されて楽しくなるような感覚……!!
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シゲキ!?
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星菜ちゃんと歌ってみた出してくれ!!
879:このライバーがすごい! ID:iZV16h9Gb
アイドルの才能がある
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ニコの合いの手完璧すぎる
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リズム感普通にあるんだよな
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実は基本スペックが高い男、ニコ
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ミハイルあっっっっっっま
884:このライバーがすごい! ID:Q/mAN1AwX
男が妊娠する世界を創り出した男
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何この甘カッコいい歌声
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惚れた
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あの、正直キュイン! です
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>>887
大当たりかよ
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イオスもいいぞ!
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めっちゃうまくね?
891:このライバーがすごい! ID:JHAVDJBSb
爽やかでカッコいい歌声
892:このライバーがすごい! ID:iKGIvyPiw
なお、途中でミハイルにくすぐられて変な声を出し、お姉さま方を喜ばせた模様
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グレイヴィーしっっっっっっぶ
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腹の底に響く
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色気ありすぎだろ
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おちゃらけ酒カスおじさんじゃなかったのか!?
897:このライバーがすごい! ID:aFQolnWa/
ニコ「グルーヴィー!!」
満ちゃん「グルーヴィー!!」
かわいい
898:このライバーがすごい! ID:saVCPiT5m
唐突に冷静になったニコ
ニコ「あれだけ飲んでいたのに、なんでまったくふらついていないんだ……?」
899:このライバーがすごい! ID:RAsQCua/l
グレイヴィーはおかしいからな
900:このライバーがすごい! ID:1khQ+c215
一本の綱の上を普通の道のように歩く男
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ミハイルがきゃっきゃしてる……
902:このライバーがすごい! ID:8U/vmT9Hb
ミハイルの視聴者も見てます
903:このライバーがすごい! ID:+X0l1IsO/
正直ファンになった
904:このライバーがすごい! ID:GzGMtWWVa
ニコが楽しそうにしてるからいいやつだ
905:このライバーがすごい! ID:CNUdvFGE0
歌声に惚れたわけじゃない
906:このライバーがすごい! ID:HWhvh8zTF
うん
907:このライバーがすごい! ID:PYfP2N+JA
まぁな
908:このライバーがすごい! ID:piYoFPwsx
あぁ
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いらないハーレム作っちゃいましたね……
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オーバーラップノベルス様
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■特典情報
シチュエーションボイス書きました。キャラとシチュエーションの概要は以下です。
・アザミ・フレンジー シチュエーションボイス:アザミのダウジング
・朝凪真理 シチュエーションボイス:喫煙所の気になるあの人
・ミッドナイト・サイコナイト シチュエーションボイス:友だちとゲーム
・一ノ瀬星菜 シチュエーションボイス:夏の日、雨、バス停
・月宮優姫 シチュエーションボイス:放課後から始まる交友
・一ノ瀬明 シチュエーションボイス:買い物中ばったり会ったバイト先の先輩
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