稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第181話 athletic of entertainment

「よう」

「おいイオス。なんでその重戦車連れてきてんだ」

「テメェ、ミハイルに会いに行くんだろって締め上げられて……」

 

 運動しよう! と約束していた当日。『AOE』、略さず言えば『athletic of entertainment』という施設に訪れた。当初の予定では俺と満とグレイヴィーさん、イオス、ミハイル、フレイルさんの六人だったが、イオスさんがこないなと待っていたらイレイナさんに米俵のように担がれながら登場。にこやかなのが逆に怖い。まさか、ミハイルを殺しに来たのか?

 イレイナさんは担いでいるイオスを地面に放り投げ、うまく衝撃を殺しながら着地しようとしたところをミハイルが蹴って妨害しているのを見て笑いながら、「別に、殺しに来たわけじゃないよ」と言って手をひらひら振った。

 

「ボスを裏切ったことに対する鬱憤は前に晴らしたからねぇ。そんならあとは仲良くするだけだろ」

「おいイレイナ。ミハイルに対する鬱憤なら、なぜあの日ミハイルがボコボコにされず俺とイオスがボコボコにされたんだ。鬱憤の晴らし方に文句がある」

「そうですよ! ずるいですよミハイルさん!」

「ア? 殺されてぇのか」

「そ、sorry……」

「すみません、フレイルさん。思ったよりバイオレンスでした」

「そっか? 仲良くていーんじゃね?」

 

 ヴァールハイトがバイオレンスすぎて、『project:eden』でもかなりまともな方であるフレイルさんに申し訳なさを感じたが、やはりフレイルさんはめちゃくちゃいい人だった。

 というかイオスの扱いがひどすぎないか? もしかしてヴァールハイトの中では一番下っ端なのだろうか。俺が知らないだけで、明確な序列があるのかもしれない。いいよな、序列。カッコよくて好きだ。オフィス失楽園も序列を設けてもいいかもしれん。……いや、俺以外いないんだった。VTuberの活動は順調だが事務所があまりにもうまくいってなさすぎる。

 

「ま、仲いいのはいーけど、さっさと入ろうぜ。満もそわそわしてるし」

「し、してないこともない!」

「そういうのは普通してない! とムキになるところだろう」

「それやっちゃったらニコさんみたいだなって思って」

「そういうのは普通言わないものだろう」

 

 俺の追及に、満はわざとらしく首を傾げ、目をくりくりさせた。いつ覚えたんだそのあざとい仕草。並大抵の男ならノックアウトできるだろうが、俺はそうはいかん。だがまぁ、今日のところは許してやろう。俺と満だけならまだしも、他の人もいるしな。迷惑はかけられん。

 無駄に豪華で巨大な自動ドアの前に立つと、『Welcome!』と聞き覚えのある声とともに自動ドアがゆっくり開く。「おせぇな、ぶっ壊すか?」と肩を回すイレイナさんに冗談であることを願いながら施設に入ると、そこにはまるで絵本の世界をそのまま立体化したような空間が広がっていた。天井からはパステルカラーの風船型ライトがふわふわと吊り下がり、空間全体がほんのりと虹色に照らされている。壁や床はビビッドカラーで塗り分けられ、恐らくアスレチック本体であろう各エリアごとにテーマカラーがあり、一歩足を踏み入れただけで目がキラキラと輝きそうな景色が広がる。

 

 そして、そこに先ほど聞いた、聞き覚えのある声の持ち主がいた。

 

「Ladies and Gentlemen!! ようこそ、エンターテイメントの中のエンターテイメント、『athletic of entertainment』へ! 本日お越しいただいたエンターテイナーの案内は、この俺、物部語が承った!!」

「物部さん!? いや、いるとは思っていましたが、もしかしてここは」

「その通り! そして今日は貸し切りだ! 身バレ気にせず存分にエンターテイメントしやがれ!」

 

 名前が『EOE』に似ていたし、どうせリニスか物部さんのどちらかがいると思っていたが、ここまで予想通りだとは。というか、これだけの施設を個人が持てるとは、『project:eden』がすごいのか、リニスと物部さんがすごいのか、恐らくどちらもだろう。一期生の誰かのお眼鏡に叶えば、惜しまず出資してくれるだろうしな。考えれば考えるほどよすぎる環境だな、『project:eden』。

 なんてことを考えつつ、そういえばミハイルは物部さんとは初対面なんじゃないかと気を遣って紹介しようとすれば、ミハイルと物部さんが仲良さげにハイタッチをかましていた。

 

「ワリィな、貸し切りにしてもらってよ」

「エンターテイナーの頼みなら断らねぇさ。それよりどうだ、今日の『AOE』は!」

「今日の?」

「『AOE』は度々姿を変える! 一辺倒のエンターテイメントじゃエンターテイナーを満足させるには足らねぇからな」

 

 どれだけ金をつぎこんでいるんだ……? 妥協がないのは尊敬できるし素晴らしいと思うが、少し心配になる。俺は小心者だから、思い切った金の使い方ができん。こういうところはすべてとはいかないまでも、見習った方がいいかもしれん。

 

 入ってすぐ受けた印象は、サーカスのような遊園地のような、ポップな楽しさがあった。エンターテイメントを志すというのはリニスと物部さんで共通しているが、恐らくエンターテイメントの形が違うのだろう。リニスはどちらかと言えばカッコよさ的なエンターテイメントで、物部さんは楽しさ的なエンターテイメントか。思い返せば、サラさんとやったすごろくもそうだったと記憶している。

 

「すっごくかわいいです! 楽しそう!」

「だな。私にはあんまり似合わねーけど……」

「んなことねぇだろ。女の子にかわいいが似合わねぇなんてありえねぇ」

「だってよイオス。私に似合うと思うか?」

「え? ミハイルさんは女の子って言ったんですよ、イレ姉」

「また命が散ったか……」

 

 イオスがイレイナさんに沈められるというアクシデント……いや、いつも通りの光景が繰り広げられたものの、好印象な評価に物部さんは満足気だ。あと今のはイオスが悪い。

 

「そんじゃあ早速案内と説明をっていきたいところだが、ここで特別ゲストの登場だ!」

「特別ゲスト?」

「だーれだっ」

「うわあああああ!!???」

 

 背後から突然だーれだっ、をかまされて、腰を抜かしつくした俺は地面を転がり、ミハイルにお姫様抱っこの形で拾われることで静止する。は、はじめてやられた! まだ目に女性の手の感覚が残っている! す、すまん透華……俺が油断していたばかりに、はじめてを奪われてしまった。というか降ろしてくれミハイル。情けなくてかなわん。女性にだーれだっをされてビビり散らかした挙句、男にお姫様だっこされる成人男性を聞いたことがあるか?

 ただ、形はどうであれ受け止められて落ち着いたことは事実。俺にだーれだっ、をしたのは誰だと目を向ければ、だーれだっ、をされた時以上の驚愕に襲われた。

 

「ユースさん!!??? だっ、大丈夫ですか!?」

「大怪我でもしてるんですか? 私」

 

 俺にだーれだっ、をしたのはユースさんだった。こんなところにいるのはよくない……いや、配信などで言わなければ大丈夫だとは思うが、ユースさんが言わないとは思えない。最近の配信でも普通に俺に触れているし、なんならそれでちょくちょくユースさんの過激なファンが未だに俺の配信に現れ、俺の視聴者と一緒に俺をボコボコにしにきている。別に誰から言われるかの違いしかないからまったく気にしていないが、今回ばかりは話が違う。俺だけじゃなくて、イオスとグレイヴィーさん、物部さんもターゲットにされる可能性がある上、特にマズいのがミハイルだ。お互いの視聴者間で戦争が起きるかもしれん。

 

「へぇ、ユースちゃん……あー、『ゆーとぴあ』の!」

「はい。ミハイルさんですよね? 配信見てます!」

「くっ、どうする……!?」

「まーまー、事務所の垣根超えんのはいいことだろ」

「そうそう。グルーヴィーに行こうぜ、何事も」

 

 未来のことを考えて不安になる俺の肩を、フレイルさんとグレイヴィーさんが優しく叩く。めちゃくちゃ安心するぞなんだこれ。グレイヴィーさんが酒臭くなかったら、と一瞬思ったが、むしろ酒臭さがグレイヴィーさんであることを強調してより安心する気がしている。いつの間にか酒瓶が十本入ったビニールを手に持ってるし。

 ただ、どれだけ酔っていても適当に床に転がさないのがグレイヴィーさんのいいところだ。マナーがよくて悪酔いしない酒飲みは、ただの楽しくていい人だからな。

 

「ところでかわいこちゃん。今夜どうだ? いい酒が飲める店を知ってるんだ。いつものように一人酒で溺れるのも悪くねぇが、たまにはお嬢ちゃんみたいなかわいい女の子に溺れてぇな」

 

 いやだめだこの人女好きだった!! クソッ、フレイルさんに対して何もしないから安心していたが、イオスと同じくミハイルさんが気に入っているから何もしなかっただけだったか!!

 マズい、俺はユースさんと何もないと配信上で言っているし、事実何もないから被害が少なく済んでいるが、グレイヴィーさんがユースさんを口説いたことが公表されたら終わりだ! 瞬く間にグレイヴィーさんが業火に焼かれてしまう! ……なんとなく大丈夫な気はするが、不安要素を少なくして損はない!

 

「グレイヴィーさん、あまり初対面の女性にそういったことは」

「わ、守ってくれるんですね、ニコさん。うれしい」

「クソッ、業火に焼かれるのは俺の方だったか!!」

「ニコさん、さっきから一人で何してるの?」

「そんな気にすることかねぇ」

「イレ姉は気にされたことないですもんね」

 

 イオスが埋められすぎて見えなくなってしまった。なぜ余計なことを言ってしまうんだ……。

 

 いや、まぁ、確かに気にしすぎか? ユースさんは俺とのコラボ後に焚火ASMRをやっていたし、そういうのを面白がる対応を取り始めているが、流石にボーダーラインは見極めているだろう。自分のファン層を把握していないはずもない。あとはこちら側が口を滑らさなければいい話か。

 

「すみません、取り乱しました。余計なお世話だったかもしれません」

「ふふ、心配してくれるんですよね。大丈夫です、ちゃんとやっていいことと悪いことはわかってますから!」

「おいイオス、お前も見習えよ? 言っていいことと悪いことがあんだからな」

「イレ姉もやっていいことと悪いことがあるってのは覚えておいてほしいです……」

 

 それはそうだな……。失礼なことを言われたからといって、地面に埋めていいわけがない。それが許されるのなら、今頃そこら中で人間が地面に埋まっていて、新種の花が咲き誇っていることだろう。世界一嫌な花畑だ。

 

「よし、挨拶は済んだな? そんじゃあ行くぜ、楽しめよ『AOE』!!」

 

 拳を高く突き上げ、ノリノリで「オー!!」と言いながら、念のためユースさんとは距離を取っておこうと誓った。

 




現在、書籍予約受付いただいています。
GAMERS様の特典は優姫のアクリルスタンドがついてきます。予約いただけると喜びすぎます。
詳しくはリンクを貼るので、その先のページでご確認ください。
僕はいつの間にか予約していました。

あと、店舗ごとに特典とかもつくらしいです。
続報は私のX、オーバーラップ様の公式Xなどで発信されるかと思うので、もしよければ見に来てください。

■予約ページ
オーバーラップノベルス様

GAMERS様
特典:優姫のアクリルスタンド

■特典情報
シチュエーションボイス書きました。キャラとシチュエーションの概要は以下です。
・アザミ・フレンジー シチュエーションボイス:アザミのダウジング
・朝凪真理 シチュエーションボイス:喫煙所の気になるあの人
・ミッドナイト・サイコナイト シチュエーションボイス:友だちとゲーム
・一ノ瀬星菜 シチュエーションボイス:夏の日、雨、バス停
・月宮優姫 シチュエーションボイス:放課後から始まる交友
・一ノ瀬明 シチュエーションボイス:買い物中ばったり会ったバイト先の先輩

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