稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第191話 神乃村 (1)

「ロケ?」

「ですか?」

「はい。夏に向けて一足早く恐怖を教えてもらおう、ということで」

 

 『EDEN’s School』の収録を終え、帰ろうとしていたところをプロデューサーさんに呼び止められた。そういえば、今までずっとスタジオでロケに行ったことはなかったな。恐怖を教えてもらおう、とはいっても俺は知り尽くしていると言っても過言ではないが……。別世界にも行っているし、幽霊も見えるしな。俺からしてみれば人間の方が怖い。もしかしてそういう話か?

 

「『FAKE LAND』が激コワホラーハウスを今夏にオープンするらしく、宣伝も含めてその体験に、というお話がきまして」

「おぉ、『FAKE LAND』からですか」

「ニコさんは案件もしていましたね」

 

 初案件だったからもちろん覚えている。今回も案件っぽいが、マリーと聖麗は参加しないのか……。いや、そういえば昨日マリーから「一緒に行けなくなった。ごめん」とDMがきていたな。存在しない俺との予定を立てていたのだろうと思って気にしていなかったが、もしかしてこれのことか? となると、元々はびっくり調査団で行く予定だったのか。

 しかし、ホラーハウス……。正直俺は適任だとは思えん。そういう系統は怖くないし、期待してもらっているようなリアクションは取れない。満も同様だ。びっくりさせてくる系統のものはびっくりするが、ホラーハウスだと雰囲気とかリアル方面の怖さだろうしな。これでもオカルト探偵事務所の所長だ。人並み以上に耐性はある。

 

「いやです!!」

 

 ただ、星菜さんは別だろうなぁ……。『奇紀怪解』でも怖がっていたし、無理もない。

 

「行きたくないです!! 怖いのやだ!! 私何も悪いことしてないです!!」

「そこをなんとか!」

「うぅ……他の人じゃだめなんですか?」

「『EDEN’s School』にきた話ですから……。どうしてもというのであれば、ニコさんと別の誰か、になりますかね」

 

 星菜さんがちら、と俺を見る。なんとなく気まずくなって満を見れば、呆れたように俺を見ていた。しっ、仕方がないだろう! 父さんから「大人になったら、学生にむやみやたらに視線を向けるな」と教えられたんだ! 不審者と間違われるからな。でもよく考えれば事務所内で不審者と間違われるわけがないか? いや、現代であればどこにいようと常に注意をしておかなければ。何がきっかけで相手に精神的苦痛を与えているかわからない。

 ……視線を逸らしたとはいえ、ホラーが苦手な星菜さんを無理やり連れて行くのはよくないだろう。『FAKE LAND』が俺と星菜さんに、と言ってくれた手前申し訳ないが、仕方がない。俺からもプロデューサーさんに言うか。

 

「すみません、星菜さんも嫌がっているようですし。苦手な子に強制するのはよくない。別の人を探しましょう」

「……なんかそれもいやです」

「え?」

「怖いのは嫌ですけど、ニコさんと満ちゃんと一緒に遊びに行けるって考えたら、頑張れる……」

「うーん、愛しくてたまらない」

「満。言おうかどうか迷っていたが、最近おっさんくさくなっているぞ」

「うそ!?」

 

 嘘じゃない。というより俺に似てきているのか……? もうすぐ三十歳だし、おっさんだしな、俺。年上の方から見ればまだまだ若いのだろうが、若者の部類ではないことは確かだ。

 満はおっさんくさいと言われたことがショックだったのか、「成長するようになったから……?」とぼそぼそ呟いている。これで成長を止めてくれと言われたらどうしよう。大体のことは満の望むことであれば叶えてやりたいが、それだけは……。満が結婚するまで死なないと決めているからな。満が結婚!? 許せん!!

 

 今そのことは一旦置いておこう。

 

「大丈夫か星菜さん。無理はするなよ」

「だい、じょばないですけど。ニコさんと満ちゃんがいるなら大丈夫! です!」

「それでは受けていただけるということで」

「はい!」

「はい。満もいいよな?」

「あ、うん。はい!」

「よかった! ちなみにロケは明日で、予定も抑えてありますのでよろしくお願いします!」

「え……」

 

 やはり『project:eden』だったか……。すべて根回しを終えていたのだろう。爽やかな笑顔を浮かべたプロデューサーさんは、「では、よろしくお願いしますね」と言って頭を下げ、スキップしながら去っていった。もしかして性根がねじ曲がっているのか?

 星菜さんは大丈夫だろうか、と思って星菜さんを見ると、目に涙を浮かべてこちらを見ていた。なっ、泣くな!! 俺のような男が泣いている女の子を慰められると思うか!?

 

「うぅ……明日死んじゃうかも……」

「大丈夫だよ星菜ちゃん。ちょっとやそっとじゃ人間死なないから! 説得力ないだろうけど」

「満ちゃん、ずっと手つないでてもいい?」

「もちろん!」

「ありがと……」

 

 雰囲気的に口に出しては言わないが、そういうのは普通入る直前か入った直後に言うものじゃないか?

 

 

 

 

 

「『EDEN’s School』初の外ロケ! 夏を先取りし、恐怖を教えてもらいに『FAKE LAND』にきたぞ!」

「わー!」

「……」

 

うおおおおおおおおおおお

FAKE LAND!?

貸し切りか

星菜ちゃん元気ない……

 

 ロケ当日。ロケバスに乗っている間も星菜さんは元気がなく、俺と満で元気を出してもらおうと奮闘しても結果は振るわず、唯一星菜さんが笑顔になってくれたのが「ほら、最近のニコさんの配信!」と言って満が俺の配信を見せた時だった。目の前に本物の俺がいるのに配信で笑顔になるとは、嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちだ。星菜さんが笑顔になるならそれでいいが。

 

「『FAKE LAND』が本物の幽霊に協力してもらったホラーハウスを作っているようでな。今年の夏に公開されるらしいそれを、一足早く体験しようというのが今回のロケの主旨だ!」

「なんかシナリオ? みたいなのがあるみたいだね」

「あぁ。さっき概要が書かれた紙をもらったから読んでみるか。……満、星菜さんの手を握っておいてやれ」

「合点!」

 

 大丈夫? と言いながら星菜さんの手を握りに行った満は、無言で星菜さんに抱きしめられた。その姿勢のまま星菜さんの頭をぽんぽん撫でる光景がかわいらしくて仕方がないが、今は視聴者に情報を届けるのが先だろう。クソッ、映像無しで音声のみの収録なのが悔やまれる!! 事故を無くすために仕方がないことだが……!

 ちなみに、外観を付けて音声を編集して後日動画にするらしい。配信ではホラーハウスの全編を音声で知ることができて、動画ではネタバレ防止である程度カットするようだ。こういう系で全編配信OKは珍しいと思ったが、製作途中らしいから世間の反応を知りたい、というのもあるのだろう。

 

「というか、ホラーハウスという感じでもないんだよな……。見えていないだろうから簡単に見える景色を説明するが、逆さまになった鳥居と、その先に森があり、恐らく村……? のようなものが見える」

 

すげぇ大がかり

もう入り口から怖そうじゃん

星菜ちゃんが怖がるのも無理はない

あの、もう怖くなってきたんですけど……

 

「ホラーが苦手な人は適当なところで配信を閉じてくれ。宣伝という意味では聴いていてくれた方がいいのだろうが、体調に影響があるのは本意ではない。では、概要だけ……『山奥にひっそりと存在した村「神乃村(かみのむら)」。日が沈む直前、“黄昏”の時刻にのみ行われる奇怪な祭「黄昏の祀」。それは「見てはいけない神」を封じ続けるための、最後の儀式だった。ある年、村人たちは“その神”を目にしてしまった。以来、村は封鎖され、地図からも消された。だが今、迷い込んだあなたの前に、その村が現れる──』といった内容で、それ以外は書かれていない。事前説明がほとんどないのは、『迷い込んだ』という演出を強めるためのものだろうな。……ん?」

 

ど、どうした

やめてくれよ

お前、オカルトに関しては本物だから怖いんだよ

何かあったら先に何かあったことを伝えてくれ

 

 シナリオ概要の隅に、小さく文字が書かれている。よく見ると、『シナリオ製作:朝凪真理』、『協力:安倍聖麗』と書かれていた。

 星菜さんを見る。……伝えない方がいいか。ガチ側の二人が関わっていると知れば、より恐怖を煽ることになるかもしれん。今は満をぎゅってするのに夢中になっているから、今のうちに視聴者だけには伝えておくか。

 

「いや、シナリオ製作がマリーで、聖麗も協力しているようでな。思ったよりもガチなのかもしれん」

 

知ってた

知ってた

知ってた

知ってた

 

「なぜだ!?」

 

 なぜ視聴者が知っていて俺が知らないんだ!? もしかしてもうホラーの演出が始まっている……? やるな、『FAKE LAND』。幽霊に耐性はあるが、こういう奇妙というか、不可解な事象に対する恐怖耐性はそこまでない。なるほど、オカルトに関しては百戦錬磨である俺が怖がっている音声を届けることで、このホラーハウス……いや、ホラーフィールドがガチであるということを宣伝するというわけか。あっぱれだ。

 

「さて、準備ができたら入っていいと言われたが……星菜さん、大丈夫そうか?」

「まだむりです」

「まだむりだって」

「まだ無理なら仕方がないな」

 

星菜ちゃんに甘すぎる

心の準備は必要だろうから……

正直ありがたい

視聴者にも準備はいるからな

 

「そうだな。星菜さんの気持ちと視聴者の気持ちが落ち着くまでここにいよう」

「すみません……」

「謝らなくていいよ! 怖がってる星菜ちゃんかわいいし」

「ありがと」

 

 ロケバスからずっとだからなぁ……。よっぽど怖いのが苦手なのだろう。もしかしたら、『奇紀怪解』の時も相当無理していたのかもしれない。あの時は明さんもいたからなんとかなっただけで、今は明さんがいないからずっと怖いのかもしれんな。身内が側にいるときの安心感は、満が隣にいるから身に染みている。

 ついてきているディレクターさんにアイコンタクト。このままでは鞭だけになるので、飴は用意できませんか? という俺の意思を正しく受け取ったのか、カンペを書いて俺に見せてきた。おぉ、太っ腹だな。

 

「星菜さん。ちゃんと体験し終えたら、星菜さんの要望を一つだけ応えてくれるらしい」

「ニコさんが?」

「ん?」

「じゃあ一緒に遊びたいです。いっぱい」

「いや」

「それなら頑張れます」

「その」

 

 満が俺を睨んでいる。ディレクターさんを見るとディレクターさんも俺を睨んでいる。コメント欄を見ると「何が嫌なんだ?」「ふざけるなよ、テメェ」「断ったらどうなるかわかってんのか?」「いやん! 羨ましいワン!」と俺に圧をかけてきている。化け物も混じっているな……。

 

「……わかった。今度遊びに行こう」

「やった! じゃあ行きましょう!」

 

 俺が答えた瞬間、星菜さんは笑顔で鳥居に突入していった。待て、もしかして怖がっていたのは演技だったのか!?

 

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