稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
次に入った家では、精巧に作られた老婆がいた。そして家の中を探索すれば五寸釘と木槌とお札。そして、『日が暮れる前に』というキーワード。そこでは特に何も現れなかったが、家に入った瞬間目に入った老婆に星菜さんが失神しかけた。まぁ、俺も相手が幽霊じゃなかったからびっくりしたし、無理もない。
その次に入った家では、歩くたび壁に手形が現れ、更に竈から常に何かの息遣いが聞こえてきていた。地面には散らばった髪と、何かを引きずったような跡。よく見れば人と同じような大きさの跡に見えたが、手形で死ぬほど怯えている星菜さんを怖がらせてはいけないからと黙っておいた。この家では『神社であの女を封印した』という記述と、封印の手順が記された日記があった。どうやら、神社にある蔵に何かを封印していて、それが解けてしまっているようで、日が暮れる前に再度封印しにいかなければならない、ということらしい。
というわけで、俺たちは神社に向かっていた。神社は木々に囲まれた狭い山道を通る必要があり、もちろん光はあまりなく薄暗い。とはいっても影が見える程度には明かりはある。
「……」
が、星菜さんがダメそうだ。ぷるぷる震えて満の腕にしがみついてかわいそうなことになっている。個人的には途中リタイアをさせてあげてもいいんじゃないかと思うが、俺と満だけだと全然怖がらないから配信的になぁ……。いや、配信よりも星菜さんの心を優先するべきか。
「星菜さん。怖いならここでやめておくか?」
「え、いいんですか?」
「何かの罰ゲームでもないし、無理をする必要もない。むしろ怖くて途中リタイアするというのは、ある程度の販促にはなるだろうしな」
無理はよくない
あと配信も切っていいよ
配信は個人的に聴くのやめれるだろ
なんか見ちゃうのはわかるけど、それはそれとして怖くて聴きたくない
「視聴者もこう言っていることだし、ちょうどここからオチだろうしな。この辺で……ディレクターさん、マイクをオフにしてください」
「え、ニコさんどうしたんですか。何かあるってことですか? 何もないって言ってください。ねぇ!!」
「ちょっと待っててね星菜ちゃん」
俺と満で星菜さんを背に庇い、周りに注意を向ける。満も感じ取ったということは、俺が感じたこれも気のせいではないのだろう。困惑する星菜さんも俺と満の真剣さをくみ取ったのか、俺の裾を握って静かになった。ディレクターさんもOKサインを出し、カンペで「よくわかりませんが、演出ということにします」と伝えてくれた。有能すぎる。
違和感。幽霊とは明らかに質が異なる気配。体の内側を得体の知れない何かが這いずり回るような奇妙な感覚。この気配は一度感じたことがある。忘れもしない、俺がエミと入れ替わった時に現れた、あの恐竜のもの。
そして、それが姿を現した。
「バァ!!」
いつも通り人の神経を逆なでするような笑顔を浮かべた聖麗が、人の神経を逆なでするポーズで木々をかき分けて俺たちの前に降り立ち、一言。
「びっくりしました? いやァ、よかったです。ニコさんと満さんを怖がらせるには、あぁいう存在の気配を模倣するほかないですからねぇ」
「あれ、聖麗さんだ! こんにちは!」
「はいこんにちは。ちなみにワタシの声は配信に乗っているので説明しますが、ここからラストなので配信は終了します! あとはみなさんがご自分の目で確かめてください!」
「……人に対して殺意が沸いたのは初めてだ」
「ダメだよニコさん。負けるから」
「勝てるならワタシに殺意を抱くことが正常だということですか? ありがとうございます」
ディレクターさんを見ると、「すみません、どうやってとは言えませんが脅されて……」とカンペで伝えてくれる。なるほど、ディレクターさんも聖麗がここで現れるのは知っていたのか。あとどうやってとは言えませんがって言うのやめてください。それおぞましい方法だっていうことが確定するようなものなので。
あの気配は既に消えていて、本当に聖麗が何らかの方法で模倣したものらしい。もしかしたら星菜さんを危険な目に遭わせるかもしれないと思っていたから一安心だ。安心の次に趣味の悪いことをしてきた聖麗への殺意。こいつ、いつかぎゃふんと言わしてやる。
「まぁ、いい。それで、ここから先は行かなくていいのか?」
「星菜さんも限界のようですし、ここまでで構いませんよ。行きたいのであれば別ですが……」
「さぁ遊びに行きましょう!」
「ということですから」
「そうか、わかった」
「この先の音声は動画にしますね」とカンペで伝えてくれたディレクターさんに待ったをかけて、満に目配せする。その意図を理解した満が、星菜さんを引っ張って先に行ってくれた。ディレクターさんも未成年を放ってはおけないのか、俺と聖麗を一瞥したあと満と星菜さんを追って俺たちから離れていく。
「あら、ワタシと蜜月を……?」
「気色の悪いことを言うな。どうやって模倣したんだ?」
そう、一刻も早くそのことを聞きたかったからだ。模倣したにしても、どうやって模倣したかが問題だ。あちらの世界では邪神や得体の知れない生物が出てくることがあるというのは知っているが、こっちの世界では見たことがない。なのに、聖麗はあの恐竜と似た気配を模倣してみせた。ということは、そういう存在がこっちの世界にも存在することの証明にもなり得てしまう。
あちらの世界の記憶から言えば、そういう存在はいない方がいい。倫理など通じない、冒涜的で残虐な存在。それがこっちの世界にも存在するなら、一刻も早く手を打つべきだ。
「うぅん……これは朝凪さんから口止めされていたのですが……」
「マリーから?」
「えぇ。知らない方がいいから、と」
聖麗は一度そこで言葉を止めて、いつもの笑顔を消した。
「流れ込んできているんです。ニコさんが帰ってきたあの日から」
「は……?」
「今まではニコさんに気づかれないよう滅してきたのですが、今日も現れまして。これでも急いで助けにきたんですよ。なので、模倣というのは嘘です。実際にさっきまでいたんですよ」
「なっ、なぜもっと早く俺に教えなかった!」
「さっきの話がぜーんぶ嘘だからです」
「貴様!!! 今日という今日は許さんぞ!!!」
「オッホー!! 三十六計逃げるに如かず!!」
全力疾走で追いかけたのにまったく追いつけず、肩で息をしていたら「ざぁこざぁこ♡」と聖麗に煽られた。キショすぎて突然現れたマリーにみぞおちをぶん殴られていた。ざまーみろ!!
「で、どうだった? 怖かったっしょ」
「怖かったです!!!」
「俺と満は慣れているから大丈夫だったが、そうでなければ十分怖いだろうな」
「うん。雰囲気すごかったし、本物の幽霊がやってるだけあるーって感じだった」
マイクをオンにし、テラスで園内マップを広げ、何に乗ろうかという相談ついでに、動画用に神乃村の感想をマリーに伝える。ちなみに、聖麗はマリーにみぞおちをぶん殴られた時に「オッホォ……。キクゥ」と天地を揺るがすほど気色の悪い反応をしたため、園内の花壇の空きスペースに植えられた。唯一褒めるとすれば、星菜さんには聞こえないような声量だったことだろう。あいつでも聞かせるべきではない相手はわかっているらしい。
俺たちの感想を聞いて、マリーは胸を張って「でしょ。雰囲気はこだわったんだ」と満足気。かわいい。いや満、違うんだ。かわいい人にかわいいと思うのは悪いことじゃないだろう? 何? 真理さん相手だと話が違う? 気を付けよう。
「そういえば気になったんだが、声とか音とかはどうやっているんだ? 都度実体化しているのか?」
「そこらへんは聖麗が。元々聖麗は幽霊を使役できるから、ちゃんと育てたら幽霊も力が強くなって、物理的に干渉ができるようになるの。ちょーきょーずみってわけ」
「……ねー満ちゃん。もしかして、私さっきまで本物の幽霊さんに囲まれてたの?」
「うん」
「今日寝れない……」
「一応だけど、私も幽霊だよ」
「満ちゃんはかわいいもん。怖くないもん」
「ふふん」
なぜか満が俺に勝ち誇ってきた。俺が星菜さんにかわいいと思ってもらいたいと思っているなら勝ち誇ってくるのはわかるが、なぜだ?
にしても、聖麗はやはりすごいんだな……。普段の言動行動がアレだから忘れかけてしまうが、オカルト面に関して俺よりも格上なんだ。なんだ幽霊を使役できるって。満が俺の言うことを聞くことなんてほとんどない……こともないが、使役なんてできる気もしないぞ。やる気もないが。
待てよ、俺もやろうと思えばできるのか? 満以外の幽霊も実体化できるし、できるけどやろうとしていないことも結構あるかもしれない。それによって事務所への依頼が増え、億万長者になってしまうかもしれない!
「ふふふ……」
「ふふふ……」
「星菜ちゃん、ニコさんの真似しちゃだめだよ」
「なんか楽しそうだったから真似しちゃった」
「私もニコちーと一つになりたいから真似しようかな」
「星菜ちゃんの純粋なかわいさと真理さんのドロドロした独占欲を一緒にしないで」
「言ってくれるじゃん?」
満がマリーに捕まってほっぺをむにむにぐにぐにいじられ始めた。かわいすぎる。星菜さんも一緒の感想を抱いたようで、にこにこしてマリーにいじられている満を見ている。ディレクターさんは「これ映像に残せないのってもう罪ですよね」とカンペで伝えてきた。言うタイミング逃しましたけど喋ってもいいと思いますよ?
「ニコさんニコさん。今のうちに乗るアトラクション決めましょ!」
「そうだな。星菜さんは何に乗りたい?」
「ニコさんは苦手な乗り物ありますか?」
「特にないな。好きなものでいい」
「やった! じゃあどうしよっかなー」
「うーん、悩みますねェ」
当たり前のように復活して話に参加し始めた聖麗は敢えてスルーした。スルーしたら「やりますね……」と気持ちよさそうにしていた。こいつ、不浄の存在だろ。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part40
4:このライバーがすごい! ID:ICyJ33l8z
ぼくこわかった……なでなでちて……
5:このライバーがすごい! ID:lcLIlTJso
>>4
消えろ! 化け物!
6:このライバーがすごい! ID:+QauRh64B
>>4
親に申し訳ないと思わないのか?
7:このライバーがすごい! ID:07f5f8jVA
>>4
ぼきもこわかったゆ……
8:このライバーがすごい! ID:pfJJqKZC2
最悪のスレ
9:このライバーがすごい! ID:VwJVsAqxr
日本の教育の敗北
10:このライバーがすごい! ID:JDM0jS9BK
優姫ちゃんかアザミんの配信で同じ感じでコメントしてボコボコにされてほしい
11:このライバーがすごい! ID:pVx+i5vYO
>>10
ご褒美
12:このライバーがすごい! ID:KS0ahCHSB
>>10
いただきに参ります
13:このライバーがすごい! ID:BwCKQeTRB
優姫ちゃんとアザミん同時視聴してたけど、全然怖がってなかったな
14:このライバーがすごい! ID:GsGK81IIC
ホラーに強いニッコリ探偵団
15:このライバーがすごい! ID:4PUCt+4DP
まぁ聞いてるだけなら怖くないだろ
16:このライバーがすごい! ID:wRPTs6XEK
つっても結構雰囲気あったしなぁ
17:このライバーがすごい! ID:WKG68TTTm
よく聞いてたらちょくちょくニコでも満ちゃんでも星菜ちゃんでもない声聞こえたぞ
18:このライバーがすごい! ID:jhBKpRqnO
わかる
19:このライバーがすごい! ID:WS/Nrx7J1
ニコがそれに言及しなかったのは、ルールだからなのか、それとも……
20:このライバーがすごい! ID:pucmU0GvD
ニコが知覚できない幽霊がいるわけない
21:このライバーがすごい! ID:uw8VeOspo
怖いことを考えるのはやめよう
22:このライバーがすごい! ID:C2Cia2AJF
楽しい話しようぜ
23:このライバーがすごい! ID:nAMlg+Ze2
そういえば聖麗が言ってたあぁいう存在って何?
24:このライバーがすごい! ID:/Sv4Kruw1
>>23
楽しい話しようぜっつってんだろ!!
現在、書籍販売中です!! あと二巻も今月25日発売です!!
書籍をご購入いただいた方は、ぜひXで書籍名を入れて感想投稿お願いします。僕が喜んでいいねしてリポストして返信します!! ハッシュタグは「#オカルトV」です。
GAMERS様の特典は優姫のアクリルスタンドがついてきます。
また、店舗ごとに特典SSがついてきます。
■販売ページ
オーバーラップノベルス様
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■第一巻特典情報
シチュエーションボイス書きました。キャラは以下です。
・アザミ・フレンジー シチュエーションボイス:アザミのダウジング
・朝凪真理 シチュエーションボイス:喫煙所の気になるあの人
・ミッドナイト・サイコナイト シチュエーションボイス:友だちとゲーム
・一ノ瀬星菜 シチュエーションボイス:夏の日、雨、バス停
・月宮優姫 シチュエーションボイス:放課後から始まる交友
・一ノ瀬明 シチュエーションボイス:買い物中ばったり会ったバイト先の先輩
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特典情報
■第二巻特典情報
満と各キャラの会話を書きました。キャラは以下です。
・帝斗
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・イベリス
・シゲキ
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