稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「うーん、やはり明さんはさっぱりとしていて、距離感も心地よく、時々いたずらっぽいところがぐっとくるな」
「どうしたの? キモいけど」
「心配するのか罵倒するのかどちらかにしてもらえるか?」
3Dライブにてぶっ通しで喋り続けたからと、今日は配信を休んで他ライバーの配信を見て勉強をしている。せっかく配信を休んだから透華とどこかへ行こうと思ったが、俺がやりたいことを一緒にやりたいとかわいいことを言ってくれたから、一緒に配信を見ている。だから俺は今自らの失言を自覚したところだ。妻の前で他の女性に対してぐっとくるなど言語道断。ちらりと透華を見れば、かわいい笑顔で俺を見て首を傾げている。マズい、これは気に入らないと思っている時の透華だ。帝斗に視線で助けを求めたが、既にキャッチボールの道具を取りに行っている。こういう時は本当に役に立たないなあいつ!
「透華、その、だな」
「なに?」
「……満。今から透華のぐっとくるところを言うから、少し離れていてくれ」
「気まずいどころの騒ぎじゃないでしょ。それ聞かされて後で戻ってこられると思う?」
「満、行かないで。多分私耐えられないから」
「めんどくさいなこの二人……」
帝斗がキャッチボールの道具を取りに行くのをやめた。よし、乗り切った!
透華に対して失礼なことをしてしまったものの、明さんの配信を見て抱いた感想は嘘じゃない。いつか抱いた『男子高校生の性癖を狂わせそうな見た目』も相まって、かなり沼だ。実際に接していても包容力の塊だし、かといって若年層だけにウケるかと言えばそうでもなく、年上の方々にも好評だ。星菜さんが孫や娘のように可愛がられる方向でウケているのに対して、明さんは気安い年齢が離れた友人のようなウケ方。更に同性にもウケている。俺も見習うべきところだな。俺は男性視聴者の比率が高く、若者の比率が高い。そう考えると、老若男女に受け入れられている明さんはかなりすごいな。今度コツでも聞いてみるか?
「それにしても、配信お休みなのに配信のこと考えてるなんて、よっぽど好きなんだね」
「今のところ俺の生命線だからな。何事も本気で取り組むに越したことはない」
最近タメ口を使ってくれるようになった透華にトキメキつつ、それを隠しながらカッコつけて答える。「探偵事務所の方は本気にならなくていいの?」と思考を飛ばしてくる満に「二兎を追う者は一兎をも得ず、だ」と返し、勝利の余韻に浸っていると、後ろから肩を叩かれた。事務所には俺と満と透華と帝斗しかおらず、俺の隣にいるのは満と透華。肩を叩いたのは帝斗しかありえないが、声をかけずに肩を叩くのは珍しいなと思いながら振り向くと、明さんがいた。もちろん俺はびっくりして飛び上がりかけたが、それを察知した満と透華に抑えてもらって事なきを得た。
「あっ、明さん!?」
「やほ。あたしの配信見てくれてんだ。透華さんはお久しぶりです」
「久しぶり。どうしたの?」
「やー、ちょっと……」
気まずそうに頬を指でかいて視線を彷徨わせる。明さんが言い淀むとは珍しい。ま、まさか、今日の俺がどこか変とかか!? それを伝えようとしたものの、あまりにも言いづらくて言い淀んているのか!? おい満、いつも変だよみたいな目で俺を見るのはやめろ!! あれ、というか仲がよさげだが、透華と明さんは会ったことがあるのか? なんか俺が知らないところで仲良くなっているのは嬉しいが、ちょっと寂しいな……。
視線を彷徨わせていた明さんはやがて俺を見て、彷徨わせるのをやめた。
「ニコさん、今日って暇?」
「あぁ、暇だが……」
「じゃあ、お願いしてもいい? 依頼、なんだけど」
「帝斗、依頼人だ! お茶を用意しろ!」
「もうしてあるからこちらへどうぞ」
「流石帝斗だ」
所長机から事務所の中央にあるテーブルへ移動し、ソファに座る。お茶どころかケーキも置いてあった。しかもこの味、手作り……!?
「うめぇだろ?」
「うまい! 天才だな。店を開けるぞ」
「ねぇ満。身近にいるライバルが強すぎるんだけど」
「もう婚約したから大丈夫だと思いたいけど……」
「ややこしそうな身内の恋愛事情はあとでやってもらっていい?」
「あぁ、すまん。ぜひ食べてくれ」
あまりにもうますぎるから明さんにも食べてほしいと思って促すと、明さんはケーキを一口食べて「……おいしすぎる。ニコさんが羨ましい」と呟いた。そうだろうそうだろう。帝斗のような頭がよくてカッコよくて運動もできてどんな時でも助けてくれる親友を持てて幸せ者だ。だから早く帝斗にも俺の隣にいること以外の幸せを見つけてほしい。多分このままだと死ぬ間際に「俺といて、幸せだったか……?」と不器用な父親のようなセリフを帝斗に向かって吐いてしまう。
「さて、依頼と言っていたな。俺のところにきてくれたということはオカルト関連だとは思うが、一体どんな?」
「んーと、なんかうまく戻れなくなっちゃって」
「戻れなくなった?」
家に帰れなくなった、というわけではないだろうし……。オカルト関連で戻れなくなった、というと別世界からきた、とかか? であればマリーが何かしら掴んでいそうな気はする。もしそうであればマリーにも伝えるか。それ以外で俺の手に負えなさそうなら聖麗に……ん? もしかして俺っていらなくないか? 俺に解決できることならマリーでも聖麗でも解決できるんじゃないか?
いや、そんなことを考えるのはやめよう。明さんは俺を頼ってくれたんだ。俺が責任を持って堂々としていないでどうする。いつも助けてくれている明さんに恩返しをするチャンスだしな。
「えーっと、あんまり重く受け止めないでほしいんだけどさ。バニシングツインって知ってる?」
「バニシングツイン? 必殺技か?」
「妊娠中の双子のうちの一人が消えちゃうことのことだよ」
恥ずかしい。穴があったら入りたい。透華に教えてもらったのも更に気まずい。まるで俺だけが妊娠とかそういうことをまったく考えていないバカ野郎みたいでめちゃくちゃ恥ずかしい。恥ずかしがっている場合ではないことはわかっている。
……あとでそっちの勉強もするか。もう他人事ではないしな。
「あたし、多分バニシングツインだったんだ。パ……お父さんとお母さんは知らないから、本当に多分」
「ごめん明さん。パパって呼んでるの?」
「満。俺も気になったが言い直したんだからスルーしてやれ」
別に両親のことをどう呼んでいようと個人の自由だとは思うが、呼び方を人に知られるのが恥ずかしいと思う人もいるんだ。わざわざ言い直したということは、明さんもそのうちの一人なんだろう。
「……別にいいじゃん。どう呼んでたって」
「ふふ。明かわいい」
「そう呼ぶと喜ぶから! ちっちゃな親孝行! そんだけ!」
明さんの珍しい姿が見られたな。いつも落ち着いていて、誰かのサポートをしている明さんの可愛らしい姿など、ファンが見たら狂喜乱舞して炎の周りでリンボーダンスをすることだろう。
今思えば、明さんの両親はいい方たちなのだろうな。星菜さんと明さんのような娘さんを育てているんだ。きっと度を超えた人格者に違いない。俺の両親も負けていないがな! 子どものスペックが雲泥の差というだけだ!
悲しいことを考えるのはやめよう。
バニシングツイン、だったか。妊娠中の双子の片方が消えてしまう。そのことを知っているのは明さんのみ。胎児の状態であるのに知っているというのは妙な話だ。『多分』とついているのは、その時の記憶のようなものがあるからか、もしくは。
「消えたであろう双子の片割れの魂が明さんに宿っている?」
「……びっくりした。ほんとにオカルト強いんだ。や、疑ってたわけじゃないけど」
「すごいでしょ! オカルトに関しては天才なんだよ!」
俺が褒めてもらえるとすぐに誇らしくなってくれるの可愛すぎる。あとでいっぱい遊ぼう。
「戻れなくなった、というのは今までもその魂が明さんに何かしらの影響を与えることはあったのか?」
「うん。とはいっても双子だし、特に影響はないんだけど……なんだろう。自分なんだけど自分じゃないような感覚があるっていうか、違う記憶? みたいなのもあるような気がして」
「違う記憶……」
と聞くと、嫌でも別世界のことが思い浮かぶ。俺と満、そして月宮さんに起きた事象と似ている。別世界の記憶が混在したあの事象。もしかして、明さんにも同じことが起きているのか? だとしたら、またややこしいことになるな……。
「違う記憶、というのは具体的にどんなものだ?」
「うーん、ベースは変わんないんだけど、奇紀怪解のアレとか? マンションのやつ。アレがリアルな記憶みたいな感じであるような、ないような……。前まではそんな感覚なかったんだけど、最近になってどんどん強くなってきて、戻れなくなった、みたいな感じ」
自分の頬がひくひくしているのを感じる。一体何がきっかけでそうなったんだ? 俺が持っている別世界の記憶は奇紀怪解の範疇のみ。だから俺は奇紀怪解がきっかけで別世界の記憶を持ったのだろうと推測できる。なら明さんは? オカルトとは無縁のはずだから、何もきっかけがないはずだ。
考えられるとすれば、俺とエミが入れ替わったことで何かしら影響が出ている? その他に考えられることは何かないか?
「あ、それと名前」
「名前?」
「うん。ほら、
「あぁ」
「でも、あたしは
「……?」
ニュアンスが違う、というのは伝わった。恐らく、いつも表面化しているのが『私』である『
いや、待て、バニシングツイン?
《エミ、少しいいか。
《ちょっと待っててくれ! そのことについては俺の命があったら後で教える!》
何かわかりそうだが、エミの命の散り際かもしれないこともわかった。もしかしたら迷宮入りするかもしれない。
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