稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第196話 受胎

《で、どこでその話を?》

《明さん本人から相談を受けてな。エミなら何か知っているかと思ってな》

 

 命の散り際になっていたエミは見事に生還を果たし、疲れているのにも関わらず相談に乗ってくれた。我ながらいいやつだな……。いや、エミの方が人生経験が豊富だから、エミがいいやつだからと言って俺がいいやつというわけではない。同じ人間でありつつ、同じ人間はないからな。

 

《明さんからか……参考程度に聞いてくれ。俺とニコの世界はかなり違うようだからな》

《もちろんそのつもりだ》

 

 奇紀怪解で描かれたエミの世界で起きた出来事は、この世界では起きていない。もしかしたら俺の知らないところで似たようなことが起きている可能性はあるが、エミに前に聞いた時は「俺の特性的にありえない」と言われたし……。その特性について詳しく聞けば、『オカルト的な事件には必ずといっていいほど巻き込まれる』という特性だった。褒められるところが主人公っぽいところくらいしかない。

 

 ちなみに、明さんは今透華と満と帝斗と楽しくお喋りしている。配信でもなんでもなく、女性ばかりの会話に普通に参加できるの、普通に尊敬する。あとなんか寂しい。同じ空間なのに放っておかれているみたいだ。

 

《さて、どこから話すか……。お前は俺だから、下手なことを教えると動揺していらんことを明さんに伝えかねん》

《伝えるべきことと伝えるべきではないことの取捨選択くらいはできるつもりだが、それができなくなるほど衝撃的な内容ということか》

《あぁ、心して聞けよ。こっちの世界での明さんは、その状態になった数日後に受胎した》

「じゅっ」

 

 慌てて口を手で押さえ、明さんを見る。よし、悟られていない。悟られていないが、俺の思考を読むことができる満も同じように口を押さえている。ただ、帝斗がうまく壁になってくれたおかげで透華と明さんは気づいていないようだ。いつも思うが、なぜそんな最適なタイミングでフォローができるんだお前は。

 もしかしたら、帝斗がオカルトすぎて他のオカルトが寄ってこないのかもしれん。あまりにもハイスペックすぎる。

 

《じゅ、受胎とはどういうことだ?》

《明さんの中にいた(あきら)さんが悪霊化してしまった形だな。生まれたかったという願いが悪霊化したことで歪んだ形で表れ、明さんを母体として生まれようとした》

《そんなことがあるのか……?》

《詳しく言えば、それが起きたのは一月。明さんの中に意識として存在していた(あきら)さんの願いを受け取った邪神が悪霊化させた》

 

 ……そういえば、エミがやっていた凸待ち配信で、星菜さんに明さんが息災かどうかを聞いていたな。あれはそういうことだったのか。『息災』というのはおかしな表現でもないし、俺が使いそうだからとまったく気にしていなかったが、既婚者であり俺より人生経験豊富で、星菜さんとも交流があるエミなら、星菜さんに対して明さんのことを聞いたら機嫌を損ねるのはわかっていたはずだ。それでも聞いた理由が、エミの世界では一月に明さんがオカルトの被害に遭っていたからだろう。

 それを俺に伝えなかったのは、俺の世界への影響を考えてか。オカルト関連なら慎重にならざるを得ないというのはわかる。実際に、俺とエミ、そして満は入れ替わってしまったことがあるくらいだからな。それ以上の何かが起きると危惧しても不思議じゃない。

 

《それで、どう解決したんだ?》

《悪霊なら、俺でも聖麗でもマリーでもアザミでも祓える。が……相手が相手だからな。悪霊になったからじゃあすぐに祓おう、というわけにもいかなかった。だから、満が俺に取り憑いているように、悪霊化している(あきら)さんを明さんに取り憑かせた》

《そんなことができるのか!?》

《俺もできるようになる才能はあるらしいが、やったのは聖麗だな。(あきら)さんが生まれる前に(あきら)さんの魂を現出させて取り憑かせた。感覚的には内蔵ディスクから外付けディスクにするようなもの、と言っていたな》

 

 ……時々忘れかけるが、やはり聖麗はすごいんだな。『project:conflict』で見せたあの力は本当に使えるらしいし、現代陰陽師の最高峰というのは嘘ではないらしい。俺に同じようなことができる才能があるというのも信じられん話だ。まぁ、満の実体化もやってみたらできたから、もしかしたら感覚的にやってしまえば可能なのかもしれんが……。

 

 エミの世界で起きたことはわかった。ただ、同じ手法がこの世界でも取れるのかがわからない。一月に起きたというのなら、初詣か何かのタイミングで(あきら)さんの願い事が邪神に歪んだ形で叶えられたのだろう。しかし今は六月。願いが叶えられたというよりは自然発生したものだ。

 それに、もう一つ。明さんが別世界の記憶を持ち始めているということ。これが(あきら)さんの件と紐づいた事象なのかも確かめる必要がある。こっちは俺と満、月宮さんが無事だから優先度的には下がるが、放っておいていいことでもない。

 

《もう一つ、明さんが別世界、恐らくエミの世界の記憶を持ち始めているんだが》

《何……? いや、ない話じゃない、か? さっきの話には続きがあってな。(あきら)さんは悪霊のまま明さんに取り憑いている。それに、悪霊化の一因は邪神にある。その力がそっちの世界に影響を与えるということも考えられん話じゃない》

《同じ理屈なら、俺と満、そして月宮さんは夢の邪神から直接的な被害を受け、なおかつあの……ジャンルで言えば聖麗のような、人を使って楽しむ性悪の邪神に気に入られているから、その力の影響で記憶が刻まれた、ということか》

《かもしれんな。何にせよ、ひとまず明さんの内に別の魂を感じ取ることができたなら、悪霊化する前に聖麗に頼んで取り憑かせるか、成仏させるかだ》

《わかった、また何かあったら相談する》

《あぁ》

 

 エミとの念話が途切れ、一息つく。頼りになりすぎるな。オカルト関連の察しは俺もいい方だが、やはり経験がものを言うのだろう。明さんの身に起きていることが何で、今どうするべきかも教えてくれるとは。あれでも事務所にはほとんど依頼がこないそうだから、世知辛い世の中だ。もっとも、エミの場合は依頼を受ける暇もなく事件に巻き込まれているらしいから、時間に余裕があれば繁盛しているのかもしれん。

 

 まぁ、事務所の繁盛どうこうは解決してから考えよう。今は明さんだ。

 

「明さん、少しいいか?」

「なーに?」

 

 優しく微笑みながらの「なーに?」だと……っ!? 俺が既婚者じゃなかったら危なかった……!! 思わず明さんの弟になった俺を幻視してしまった。あっ、ちょっと待って満、透華には言うな!!!! だからって帝斗にも言うな!!!!

 

「んんっ、いや、少し……」

「?」

 

 明さんを見て、固まる。そういえば、魂を感じ取るってどうすればできるんだ? 俺はいつもなんとなくで感じ取っていたから、いざやってみるとなるとどうすればいいかわからん。とりあえず明さんを凝視すればいいのか? いやしかし、それでできなかった場合、『霊能力があるのをいいことに、女性を不躾に凝視する変態』だと思われてしまうんじゃないか!?

 ま、まずい。こんなことならエミに魂の感じ取り方を聞いておけば……!! 今からでも間に合うか? 俺であり俺ではないとはいえ結局は俺。俺と俺との間に遠慮は不要だろう。

 

《エミ、すまん。少しいいか?》

《ん? どうした》

《魂とはどうやって感じ取るんだ?》

《え……なんかその……感覚》

 

 ダメだ、俺であり俺ではないとはいえ結局は俺だった!! なぜこうもオカルトは理論で証明できることが少ないんだ!! オカルトだからか。

 

 くっ……はっきりとした方法がわからんからといって、放置するわけにもいかん。やはり、俺が『霊能力があるのをいいことに、女性を不躾に凝視する変態』だと思われるとしても、明さんを凝視するべきか。透華がこの場にいるのが気まずくて仕方がないな。

 

「……明さん。今からあなたの中に別の魂がないかを確認します」

「へー。そんなことできるんだ」

「多分」

「オカルト探偵事務所の所長が『魂がないかを確認します』って言って、その後に『多分』ってつけたらもうおしまいだよ」

「うるさい!! 俺だって確信を持てるようになりたい……って、そういえば満。お前なら感じ取ることが可能なんじゃないか? 存在的に言えば、近しいものだろう」

 

 満は幽霊だ。そして、エミが(あきら)さんが『悪霊化した』と表現したのであれば、(あきら)さんは霊的な存在だと言える。人間が人間を『そこにいる』と感じ取れるように、幽霊が幽霊を『そこにいる』と感じ取ることができるんじゃないか?

 俺の問いに、満は「むむむ」と首を傾げた後、明さんの周りをうろちょろし始めた。透華、あとでそのこっそり回している動画を送ってくれ。正直可愛くて仕方がない。明さんもにこにこしている。お姉さんだからか、年下の子が可愛くて仕方がないのだろうな。

 

 満はしばらくうろちょろした後、また「むむむ」と首を傾げて、「自信ないけど……」ともにょ、と口を開いた。

 

「なんか、二つ? じゃない気がする。一つなんだけど、一つじゃない、みたいな?」

「というと、混ざり合っているということか?」

「それが近いかも。うーん、なんだろ……混ざり合う前の絵の具、みたいな」

「同じ器に入ってはいて、カウント自体は一つだが、完全に混ざり切ってはいない、みたいな感じか?」

「そう! そんな感じ!」

「へぇー。満ちゃんはすげぇな」

「おい帝斗。わざわざ”は”とつけたのは含みを持たせているということで間違いないか?」

 

 帝斗は親指を立てた。貴様!!!!

 

 まぁいい。よく考えれば帝斗が俺をボコボコにするのは今に始まったことじゃない。というか俺は大体の人にボコボコにされている。

 

 今大事なのは、エミの世界と違って『魂が混ざり合っている』ということだ。エミの世界では別々の魂として明さんと(あきら)さんが存在していて、だからこそ聖麗が一度引きはがして取り憑かせることができたのだろう。しかし、この世界ではそうではない。別のアプローチを考える必要があるということになる。

 ……が、思いつかん。聖麗に聞いてみるか? ふざけたやつだが、なんだかんだこういう時はちゃんとするイメージがある。何かしらアイデアをくれるかもしれん。

 

ミッドナイト・サイコナイト

すまん、混ざり合った魂を分離させることはできるか?

安倍聖麗

あ、できますよ☆

 

 クソ!! なんであいつは有能なんだ!!

 




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